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*29*
「お嬢様、一つお嬢様に黙っていたことがあるのですが」
「何?」
アイビーが神妙な顔でそう言うので、私も顔を引き締めて問うた。
「……窓際に置かれていた、花のことなのですが」
その切り出しで私は全て悟った。
____「彼」はアイビーだと。
その事実は驚くほどすっと納得できた。
考えてみれば、一番最初にその可能性を思いつくべきだった。だって、私に友人はおろか、知り合いすらいないのだから。
それを黙っていたことは一向構わない。でも一つ疑問があった。
「そう、アイビーだったの、『彼』は。____一つ聞いてもいいかしら?」
「はい、何でしょうか」
「彼」がアイビーだったのは構わない。むしろ謎が解けて嬉しいくらいだ。騙していた、とも思わない。私のためにしてくれたことなんだろうから。
けれど……、
「勿忘草、あったわよね。あれの花言葉って『真実の愛』、でしょう?……どういう意味でアイビーはそれを置いたの?それと、あれはアイビーとして置いたの?それとも、『名も知らない彼』として置いたの?」
そう、それが唯一気になることだ。だって私はアイビーのこと____。
「後者の問いの答えは、どちらも、でございます。最初は『彼』として置いているつもりでしたが、恐らく自分の想いも込もっていたと、そう思います。
前者の問いの答えは、そのままの意味でございます」
どういうこと、と聞き返す間も無くアイビーはベッドに座っていた私に傅き私の手を包み込んだ。
「エリカお嬢様、僕は貴女を心から愛しております」
____信じられなかった。だって、私なんかが何故____。
そこで思い出す。アイビーが言ってくれた言葉を。「貴女がいたから今の僕がある」という言葉を。あれはそういう意味だったんだろう。
馬鹿だ。私は本当に馬鹿だ。こんな近くにいた人の気持ちも分からず、勝手に片思いだと思い込んで。
____そうだ、今言うべき言葉は「何で」じゃない、今言うべきなのは、
「……私も、愛してるわ。アイビー」