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第三章*鬼灯*
「アイビー、鬼灯を用意して頂戴」
私はアイビーを呼び付け、命令した。
「鬼灯、ですか。しかし、何にお使いになられるのですか?」
疑問符を頭に浮かべ、アイビーが尋ねる。
「飾るのよ。可愛い実でしょう?分かったら大至急、お願いね」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
アイビーはそれ以上追求せず、そう言って去って行った。
ほおずきの花言葉は「不思議」「疑心暗鬼」「自然美」など。
「あなたの寂しさを癒します」__、そんな言葉なんて、簡単に信じられない。だって、相手に得がないから。だから私は鬼灯を選んだ。そんな気持ちを伝えるために、「疑心暗鬼」という花言葉を持つほおずきを。
そもそも、会ったことがないのに何故、「あなたの寂しさを癒します」なんだろう。悪戯だろうか。
もしそうじゃなくて、本気でその人が思っているんだとしたら__、物語によく出て来る、「一目惚れ」ってやつだろうか。……それは絶対にないだろう。
でも、もしそうだったら、と私は少し、想像してみた。
誰か、王子様みたいな人がこの花を置いていて、私のことを、この部屋から連れ出してくれたら__。
それこそお伽話であり得ないけれど。
もし、もしも。そうだったら、私の願いが一度に一気に叶うのに。
外に出て、愛する人と、広い広い海や高い高い空を見たい。それが決して叶わない、ささやかな私の願いだ。
もちろん、この部屋が嫌いな訳じゃない。むしろ居心地はよくて好きだ。
でも、怖い。すごく怖い。まるで時間が進んでいないかのような日々が続くのだ。延々と、多分私が老いて死ぬまで、ずっと。温かくて居心地がいいけど、変化が無さ過ぎて。そのまま腐って、腐って、腐り落ちてしまいそうなのだ。
一種の呪いだ、これは。それか、拷問だ。
何も変わらない、何も生み出さない、非生産的な日常。それが続いて、続いて、惰性のみで日々を生きる。
「何のために生きればいい」なんて青臭い自分への問いかけの答えも、一生出せない。「お金を無駄遣いするばかりで、何も生み出さない、私の存在意義は何だろう」なんて一生苦しみながら、腐り落ちて死ぬんだ。
多分、そんな人生なんだろう。
そうなる前に。外へ出たい。外へ出て、大きすぎる空や海を見てみたい。そして、自分の悩みのちっぽけさを笑い飛ばしたい。
でもそれは叶わない。それが何故なのかすら、知るのを許されない。生きる意味が無いなら、いっそ死んでしまいたい。しかし、死ぬことすら出来ない。
あぁ、生き地獄じゃないか。何も考えずに生きられたら。じゃないと、答えの出る訳がない問いかけに一生苦しんで、そのまま狂って壊れてしまいそうだ。
「………う様、……嬢様、お嬢様ッ!」