完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

Ghost-Soldier【完結】
作者: レンクル01  (総ページ数: 58ページ)
関連タグ: ファンタジー シリアス 血描写 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~

*29*

  ヤジータside

「うーん、まるで研究施設とは思えないなぁ」
「だな!」

隣ではミクロと三郎が辺りを見回しながら会話する。

俺達が進んでいる道は、土の地面だった。
周りは植物で埋め尽くされ、とても施設内とは思えないものだった。

「……この中では、食人植物も発見しづらいということだな」

俺が呟くと、ミクロと三郎はこちらをはっと見た。

「そうか、なかなか向こうも戦法を工夫してきたようだな」
「ミクロ!気を付けろよ!」

ガサガサと、明らかに何かが蠢く音がする。
近くに食人植物がいることは間違いないだろう。





「ミクロ、薬品準備!」
「え?……うわっと」

ミクロの後ろから食人植物が飛びかかる。

「伏せろ!」

俺は腰から鉈を抜いて、突風を巻き起こす。
相手に与えるダメージは少ないが、時間稼ぎに有効なこの技は愛用している。

「ミクロ、お前は下がってろ!」
「な、何言ってんだよ。私も……」
「平気、俺一人でなんとかなるから、安全なところにいろ」

俺はミクロの前に立ち、鉈を構える。

「傷ひとつとして付けさせない」
「ヤ、ヤジータ!何ムキになってるんだ!?」

ミクロの声が聞こえたが、それは無視した。




今なら、今この状況でミクロを守りきれたら
あのトラウマから解放されるかもしれない。

あの日、あの場所で
俺は女を一人、守れなかった。











3年前 ヤジータ回想


特に何もない日になるはずだった、曇り空の昼下がり。
俺と一人の少女は、その日も一緒にいた。

その期間は食人植物がもっとも盛んに活動しているときだった。
決して街の外に出てはいけない、というのが原則だった。

少女はある日、好奇心に耐えきれず外に出てしまった。
見放すわけにもいかず、俺もその後を追いかけた。

そして運悪く、食人植物の群れに出くわした。
そのとき魔武器を持っていなかった俺はなす術もなく、少女の手を引いて逃げ出した。

しかし、少女は魔武器を持っていた。彼女は魔武器を使える人間ではない。
『魔武器を使えない人間が強行使用した場合、体の生命力が魔力へ変換され魔武器に流れ込み、最悪の場合死に至る』。
魔武器の絶対的な原則を無視して、彼女は魔武器を使用して食人植物を吹き飛ばした。

その一撃で、彼女の生命力はほとんど吸い尽くされてしまった。

彼女の青白く冷や汗の滲む顔を思い出す度に目眩がする。
彼女はそのまま力尽きた。最後に『ごめんね』と呟いて。
起き上がる食人植物を茫然と見ながら、いつの間にか俺は彼女の手に握られていた魔武器……『風神鉈』を手に取った。

そのとき、体に電流が流れたような感覚がした。

俺と、『風神鉈』が完全にリンクした瞬間だった。
そのまま体の思うままに鉈を振り回し、気がつけばその場にいた食人植物を一掃していた。


今の俺なら、誰かを守ることだってできるはず……。

だから、ミクロで実験する。
ミクロを一人で守り抜ければ、もうあのときの青白い顔は浮かばなくなるはずだ。
守られたくない、誰かを守りたい。
その思いで今までやってきた。

守る。それだけだ。

28 < 29 > 30