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*38*
ライデンside
巨大な植物が巻き付いたまま崩れていく建物を、俺達は離れた荒野で見ていた。
誰も声を発せず、この距離では届かないか、または身体が正常に動いていないのか、崩れる建物の音も聞こえない。
嫌な静寂が辺りを包んだ。
「……ホントに、あの中に……」
「……レイドの大馬鹿ッ!!」
アイリとフィギールがやっと声を出した。
「レイドの身体にヒートがあったことは不幸と言うべきか、幸運と言うべきか……幸福という選択肢はないな。」
ミクロもやりきれないような顔をする。
「……ですが、なくしたのはレイドだけじゃありませんよ。ツバキ……あの子だって、どうなったのかすらまだ俺達にはわかっていません」
冷静に何をすべきか考えるシン。
「……なんで、こんなことになっちゃったのかなぁ」
ジンの表情からは、いつものおちゃらけた雰囲気はなかった。
「結局この組織を倒したところで何も変わらなかった。ううん……変わったけど、また新しい問題が出てきたんだね。」
ネオンも状況を確認する。
……こういうときだけ、ネオンは兵士の目をしている。
「……ともかく、セルフィンザに戻ろう。報告も兼ねて、もう一度考えないと……」
俺が立ち上がろうとしたそのときだった。
「あはっ、あはははっ」
突然辺りに響いた小さな笑い声は、あいつにそっくりな声だった。
やはり生きてた。建物を出たときにはいなかったが、あいつは自分のヒートを使って結界を開いたんだ。
「アハハハハハハハハハハハハッッ!」
狂気じみた笑い声と共に俺達の間を閃光が駆け抜ける。
「危ねっ!」
ジンが軽く声をあげたが、全員がその閃光を回避したようだ。
「やぁやぁ皆さんお久しぶりですー!ってあれ?今朝会ったっけ?会ってたね!度忘れしてたよあははっ!」
いつもと同じような笑みを浮かべてはいるが、口調が違った。声の高低の幅は激しく、このようなおちゃらけたしゃべり方をすることはほとんどない。
「イタルータ……!」
「あれあれ?あれあれあれあれ?セイシュンどうしたの?すっごく顔色悪いよぉ?風邪引いたのー?」
「ふざけんな!!お前がセイシュンを操ってたんだろ!?」
感情に任せてイタルータに怒鳴るが、イタルータは少し肩をすくめただけだった。
「えー?操る?そんなのどうやって?あーもしかして禁術としてそれが使えるの知ってたとか?そうだったんだー!もうちょっと警戒しておくべきだった?あははは!」
勝手に全部話しているが、イタルータが話していくうちにどんどん彼の笑みは歪んでいっている。
「そうだよー、俺がセイシュンを操ってたんだ……理由?理由なんて簡単さ……」
イタルータはゆっくりと目を開く。
その目は果てしなく黒い闇が何重にも重なっていて、元の赤い色が不気味に輝いていた。
「殺すためだったんだよねー!ライデンを!!」
「やっぱりお前だったのか……!」
ジンが身を乗り出してイタルータを睨みつける。
「あれ?俺の殺気に気付いてたんだねー、そんな気はしてたけどー、俺の仮面の中から感付くなんてすごいよ!誇っていいよ!」
「そんなことはどうでもいい!!何故ライデンを狙っているんだ!!」
ヤジータも声をあげる。
「理由?理由ねぇー……フフフッ、殺すことばっかりに集中してたから忘れちゃった!って信じてもらえるかなぁ……?」
「し、信じられるわけないだろ!?」
理不尽だろ、と俺も反論する。
「うーん、勝負に勝ったら教える、とかでもいいんだよー?」
「……ひとつだけ教えろ……」
セイシュンがまだ動かしにくい身体を引きずってイタルータを見上げる。
「どうしたの?動きづらくない?かなり魔力消費したから……」
「お前は……」
「どうしてイタルータなんだ……?」
「ええ?」
イタルータは目を見開く。
俺も、質問の意味がよくわからなかった。
「なにそれ?なんの話?俺はイタルータで、それ以外の何者でもないよー?」
「……違う」
セイシュンは目を伏せる。
「お前は……昔はイタルータなんかじゃなかった……
そうだろ?『アイリス』」
「あはっ……あははははははははっ!」
イタルータは再び笑い出した。