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*37*
ライデンside
「フフフッ、教えてあげましょうか?私のこと、ツバキちゃんのこと♪」
化け物はクルクルとその場で回る。
足が無いためにふわふわと浮かんだままだ。
「教えてあげまーす!というか私が教えたいの!知りたいでしょう?どうしてこうなっちゃったのか……ねぇ?」
一人で喋り続ける化け物は回るのをやめ、俺たちに向かって一礼する。
「改めてこんにちは!私は……そうね、ツバキちゃんの名前からとって……アヤ、とでも名乗っておこうかしら!別にそう呼んでくれなくてもいいのよ!」
笑っているような表情を浮かべる。
……俺たちの中に、声を発するものはいなかった。
今の状況を理解できていない、いや……したくないんだ。
ツバキの中に……本当の目的が潜んでいたなんて……
「さてさって、どうして私がツバキちゃんの中にいるのかなんだけど……ちゃちゃっと説明しちゃうねっ!」
化け物はそう言って、自分の経緯を語り始めた。
「私は世界樹が産み出した、食人植物製造マシンみたいなものなの!貴方達が戦っていた食人植物は全て私が産み出したものだったのよ!……多少は、あの変なやつらが改造してたけどね。」
大型機械を一瞥して、話を進める。
「ああ、私とこの組織は全く関係ないの。この人たちは自分から私を手助けする道へと進んでいたのよ。どうしてこうなっちゃったのかなぁ……みんなも嫌な思いたくさんしたよね?でもごめんね!私、こいつらを操った元凶ではないのー!」
強弱高低の激しい声色は、不気味な音だった。
「ヒートにやられちゃった世界樹から産まれた私は、実体のないただのヒートと世界樹が持っていた強大な魔力の集まりだったから、まず身体を探したのよ。するとなんと!身体に魔力を宿して、魔武器も使えるすっごい女の子がいるじゃない!でもね、完全にその子になることは無理だったの……だから、その子の影になったのよ」
その子とは……恐らく、ツバキのことだろう。
「貴方達、後で写真でも見て、この子の影を見てごらんなさい、ちゃんと私が写ってるわ!キャハハ……っと、これは置いといて……この子は、ヒートの塊である私を、自分の中で押し込んでいたの。優しい子よね、みんなに心配かけないために一人で戦ってたんだから。でもそれだと私困るから、大量の血と共に、彼女が私を押し込んでいるルーンが流れ出すのを待っていたのよ。で、今がその時ってわけなの!」
長い髪をいじりながら、俺達を挑発するような声を響かせる。
「私を再び封じるためには、私の中に流れているツバキちゃんを押し込む力、ヒートを血と共に出すことよね。でもそれはきっと貴方達には不可能……私には実は秘策があるのよ!……これも今は置いておきましょう。ともかく、私を倒さないと食人植物は止まらないし、ツバキちゃんも戻ってこないのよ!キャハハッッ!」
化け物は一通り話終えた後大きく息を吐いた。
「……ふざ、けるな……ツバキを返せッッ……!」
突然俺達の中から声が聞こえた。まだ立ち上がれてはいなかったが、セイシュンが青白い顔を化け物に向けて声を絞り出していた。
「あれ?だから私を倒せばいいのよ?まぁ、今の貴方にはむりだろうけどねー」
「……ッ」
セイシュンは操られていたせいで魔力を使いすぎている自分の身体を動かそうとしながら、悔しそうな顔をする。
「まぁとりあえず……私、めんどくさいから貴方達のこと、ここで片付けていくことにするわ」
「は……!?」
いかにもつまらなそうな顔をした化け物は、俺達を一瞥した。
「だぁって後からいろいろされてもめんどうでしょ?食人植物量産して、さっさと世界を終わらせなきゃ……」
「お前の目的は……!」
世界を終わらせることか、と言葉を繋ぐことはできなかった。
「よぉし、じゃあ……さよなら!キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
笑い声と共に化け物の身体から、巨大な蔦や木の根が建物を覆い尽くそうとばかりに出現した。
そして化け物の身体は消え、増殖する植物だけが残る。
「な……なんだこれっ!!」
「ヒートの結界で閉じ込められてるな。俺達は建物に潰されて圧死か。」
「ヤジータ!分析してる場合じゃないでしょ!?」
建物はガラガラと音を立てて崩れようとする。
間違いなく死ぬが、今は結界で外には脱出できない。
「ど、どうすればいいんだっ!?」
「……死ぬしかないっての……!?」
「……。」
ネオンは何かを考えているようだった。
「あーあ。」
レイドの声だった。
「しゃーねーなぁ……」
「え……?」
レイドは両手で魔方陣を展開した。
そして俺達の後ろに、大きな時空の歪みのようなトンネルが現れた。
「俺の中のヒートを使って結界を抉じ開けたんだ。目には目を、ヒートにはヒートをだな。お前らは外へ脱出しろ。」
「……レイド、お前はどうするんだ!?」
レイドの答えはわかっていた。だが、他の奴等も俺も、トンネルを通る気にはなれなかった。
「安心しろ、俺も後で行くよ。」
「ッッ……!!」
「ライデン、行くよ。」
ネオンが急に俺の手を引いた。
「なっ、お前……!!」
「……あの子の覚悟、無駄にしちゃダメだよ……」
「……!」
俺達が走り出したことで、まわりの奴等も次々とトンネルへ飛び込んでいった。
俺とネオンが最後にトンネルへ飛び込むとき一瞬だけ振り返ると、レイドは狂ったと思っていた目をしっかりと開いて、俺達に後を託すように笑っていた。
それが、レイドを見た最後だった。
レイドside
「……はぁ、バカなことしたなぁ。」
ガラガラと崩れていく建物の中で、自分の通るトンネルだけはヒート不足で作れなかった俺は座りこんでいた。
「……産まれたときから捨てられて、どこに行っても邪魔者扱い、強ければ必要とされると心を壊して強さを手に入れたけど、結局使われただけだったな。」
昔の走馬灯のようなものが次々と甦る。
「でも俺は……あいつらが生きることは、俺が生きた証になる。それだけで充分……俺は自分の人生を生きたんだ……」
そうだろ?神様。
迫る天井を一目見て、そっと目を閉じた。
後は頼んだぞ。
幻影の魔術師。