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*41*
ライデンside
「……何が起こったんだ」
アイリスも驚愕に目を見開く。
正直、俺も何が起こっているのかわからない。
だが身体とサーベルが異常なまでに軽く、そのサーベルが俺の元の属性である雷と混じって、青白い炎を纏っていることだけだ。
「属性の融合なんて……そんな話聞いたこと……」
ヤジータの声も聞こえる。
戦闘中は夢中になりすぎていて聞こえていなかったが、あいつらは必死に声を発しているようだ。
……このサーベルなら……
「……いける!」
「……チッ」
アイリスに向けてサーベルを振りおろす。
バックステップを踏まれ、剣先はアイリスには届かなかったが、サーベルの炎が意図的にか燃え上がり、アイリスの左手に届いた。
「めんどくせぇまねしやがって……!」
「……なんだこれ……」
まるで雷、炎、サーベルが、俺の意図と合わさって自動的に動いているような気もした。
そのままもう一歩の足を踏み切ってサーベルを突きつける。
今度こそ剣先は届き、右肩辺りをアイリスの血が走った。
「またサーベルが……!」
「ッ……この……!」
アイリスは閃光を撃ち出す。がら空きになっていた右腰を狙われる。
俺の意図に反して、サーベルを持っていた右腕がものすごいスピードで閃光を撃ち返した。
「ライデンなんであんなテニスみてぇなことしてんだ!?」
ジンの声が聞こえる。全くもってそのとおりだと思う。
でも……本当に魔武器が、俺の戦いたいように動いているようにしか見えない。
「ッッ……!」
戦いが進むにつれて、アイリスの目も表情もどんどん変わっていく。
そして閃光が乱射されるが、俺は……俺のサーベルは、次々と跳ね返していく。
「まずいな。アイリス。」
「へ?」
俺の負担が減っているからか、後ろで話している声が聞こえる。
「心壊者の目はヒートとの同化度を図るものでもある。あの目は相当同化……というより、ヒートに身体を乗っ取られつつある。」
シンの説明が、やたら頭に響くように聞こえる。
「おまけに見ろ、右腕がもう黒く染まっている。完全に黒く染まったときに、奴はヒートに生命力を吸い付くされて死ぬぞ。」
「なんだと……!」
ミクロも知らなかったようで驚愕の声をあげている。
「さて、救うにはどうしたらいいんだろうな。」
「……うあぁああぁァぁあぁあああアアあ!!」
アイリスが狂気に満ちた叫び声を上げて銃を乱射する。
そのとき、サーベルは俺に前に出るように促す。
……促す?
何故俺は、サーベルがそう言っていると確信したんだ?
考えるうちに、俺の脚は自然と前へ走り出した。
閃光をさまざまな体勢で避けて、サーベルとアイリスへ突っ込んでいく。
アイリスへと剣先を突き刺そうとするその瞬間に、俺の左肩と右足を閃光が貫いた。
不思議と痛みは感じなかったが、力が抜けるような感覚だった。
そのときサーベルは思い通りに動かない俺の身体を引っ張るように、彼の両腕、そして両膝を切り裂いた。
身体を支えられなくなったアイリスが地面へ倒れこんだとき、俺の視界も一瞬でブラックアウトした。
ヤジータside
「……勝負あり、だな。」
俺が呟くと、俺達とライデンを阻んでいた結界が一瞬にして消えた。
「アイリ、奴の心壊の治療はできるか?」
「えと……あんなに進行してたら、いくら退魔の魔術師でも……」
やってみます、とアイリはハープを取りだし、魔力を込めながら奏で始めた。
アイリスの身体を蝕んでいた黒い霞は動きを止める。
「……進行を止めることはできてるみたいですね」
「なるほど。さてどうしようか」
シンはサーベルを握ったまま倒れているライデンを移動させる。
俺はそのままアイリスの前に立った。
「ここで俺達全員を相手にするか、おとなしく降伏するか。俺達もお前の仲間だ、むやみに殺したりしない。」
シンがピクリと反応したが、仲間を信じろと鉈に言われたばかりだ。
「何故ですか?ヤジータ殿。奴はもはや人ではない。死が相応しい」
「裏切られても、奴が俺達の仲間であることに変わりはない。」
納得のいかないような顔をしたシンは刀を抜こうとするが、それをジンが制す。
「……ふふふっ」
アイリスが俯いたまま笑う。
「俺は……もう人なんて信じられないよ。どうせ殺すんだろ?」
「そんなこと、俺がさせない」
アイリスの拳銃を握る左腕が少しずつ動いているように見えた。
俺は身構える。
「人に殺されるくらいなら……自分で死ぬよ」
左腕は突然活発に動いて、彼の頭に銃口を向けた。
「……ッッ!!よせ、イタルータ!!」
彼が人差し指を動かした瞬間、俺達を眩しい光が包んだ。
「うわ眩しっ……」
「これは、どういうことだ……!?」
ミカンとフィギールが咄嗟に声を出す。
その光が収まったとき、頭を撃ち抜かれてはいなかったアイリスの左腕にはバラバラになっている拳銃が見つかった。