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*19*
直球勝負が一番いい。というか、こういう時の駆け引きをあまり知らないというのが、本音である。
「うーん、聞くと思ったよ、愛華ちゃんが僕の生徒会室での言動を絶対に不思議がるって」
惣志郎がゆっくりと顔を上げた瞬間に、さっと目と鼻と口があるのを確認する。ああ、よかった。のっぺらぼうじゃなかった。私はほっと胸を撫で下ろす。
「わかってるんだったら、説明してくれるよね?」
「それとこれとは、また別だよ」
彼は私を一瞥しただけですぐに黙り込む。
「会長に何も言わないなんて、よっぽどのことじゃない限りするはずないものね。一体何を隠してるのよ」
「それじゃあ、愛華ちゃんはどうして僕が隠し事をしていると思っているの?」
「だって――私知ってるのよ、惣志郎がこそこそ何かしてるの。それに、あの時に惣志郎が何も気付いてないなんてありえないわよ。若井が不用意に入って来た時、私を止めたじゃない。それに、何も言わずにずっと黙っているなんて、何か考えがないとあんなこと出来ないわよ」
私は思いつく限りの疑問点をぶつけると、惣志郎は唇の端を持ち上げニヤリと笑ってみせた。
「まあ、愛華ちゃんもあの時僕と一緒にいた当事者だし、知る権利はある。でも、それには条件があるんだ」
条件? 謎解きをするとき、今まで惣志郎はそんなことを言ったことがあっただろうか?
「誰にもこの事実を言わないこと。これが条件だ」
「愚問ね」
「よし、それでこそ愛華ちゃんだ」
「馬鹿にしてるでしょ」
むっと眉を顰めた私に「してないよ」と小さく微笑む。
「まあいいわ。それで、本当はどれくらいわかってるの?」
会長にあれだけ「わからない」を連呼したんだからきっと五割、いや四割くらいという私の予想の遥か斜め上の答えが、彼の口から出た。
「わかってることが七割。最近、河岸から貰った情報を元にね。後の三割で決め打つ」
いやいやいや。え、それ、え。本当? 七割って、ほとんど解決したようなものじゃない。
「まだ仮説だから、解決してるとは言わないよ。後の三割で仮説か本当かどうか確かめるんじゃないか。この事件は僕達、部外者が勝手に踏み込んではいけないんだ」
「だからって会長に何もわかりませんって言うのは、ちょっと……」
天下の山野上会長にそんな大事なこと、わかりませんの一言で済ましてしまうなんてどうだろうか。今や警察組織でさえ藁にもすがる思いなのに。
彼の決断に少々、戸惑いを隠せない私を尻目に惣志郎は先ほどと変わらない調子で、淡々と答えて行く。
「会長に言ってしまうと、僕達生徒会が関わったということになってしまう。それが最もしてはならない。警察組織や教師たちが僕達生徒会に助けを求めているからこそ、してはいけないんだ。僕は彼らが抱えている秘密についてある程度、見当がついているから、わかるんだ。ここで食い止めなければ彼らを守れないって」
隠そうとしている秘密……? 私達、生徒会が一部活動の秘密を守り通さなくてはいけない? 全くわからない。彼は一体何を考えているのか。今までもずっと惣志郎の言うことは正しかった。こういう時の惣志郎はとても頼りになることも知っている。しかし、だからといって今回も彼の言う通りにしようと心の底からそうは思えなかった。人間、誰しも過ちはある。私は彼のそれを見逃してしまうのだろうか。ここで止めなければ、何か大変なことをしでかしてしまうのではないかと、内心落ちつけなかった。
心配そうな私の気持ちを察したのか、まるで幼児をなだめるような口調で言った。
「まあまあ、そんな矢継ぎ早に聞いても、僕は逃げないし、時間が早く進む事もない。大丈夫、残りの三割を回収したら、ちゃんと言うから、ね」
彼はいつも通りの口調といつも通りの笑顔のつもりらしいが、私には全くそうは見えなかった。