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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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*18*

 その時に「橘涼の行方を探す」みたいなことを口走っていたと、それぞれの親が唯一の手掛かりとして証言したらしい。最初は意味がわからずそのままにしていたが、まさかこんなことになるなんて……あの時にもっと聞いていればよかったと全員嘆いている。
 彼らの中で家庭環境が悪い、不良、などという生徒は誰一人としておらず、本当に「橘涼の行方を探す」ためだけで動いているということになる。どうして「橘涼の行方を探す」という名目が強固な制約として彼らを結び付けているのか、誰にもわからなかった。もちろん、事の発端である、橘涼の行方不明のことも。全てが謎だらけの今、さらに追い打ちをかけるような事実が発覚した。
 彼らの共通点は、サッカー部ということで、一、二年生の部員に何か知らないかと情報提供を促したが、彼らからは何も得られなかった。もう少し詳しく言うと、彼らは、何か知っている気配があったのだが、誰一人として知らないの一点張り、そしてそれ以上のことを語られることがなかった。この一連の失踪事件についてサッカー部の一、二年生から何も情報を得られなかったのである。
 そこで、ようやく話は我が生徒会に繋がる。
 三年生失踪事件が起きた前々日、橘涼が行方をくらます前々日、私達は確かにサッカー部に訪問していた。少し早い回収だが、予選大会結果報告書(とマンゴスチン)を持って生徒会に帰っていた。その時に、何か変わったことや気付いたことはなかったかのか、と総務部の教師陣や警察からお達しが来たのである。つまりは、生徒会に所属している変わり者の二人組が、またもや事件に関わっている。ということは、もしかしたら、彼らが突破口となって事件を解決してくれるかもしれない。きっと、彼らにとって私達が純白の羽を広げた天使のように見えたに違いない。
 それで惣志郎のあの一言である。
 今や警察も出動し、もう頼みの綱は生徒会だけだといわんばかりの圧力に、惣志郎は「全くわからない」という言葉を返事にしたのだ。考えるそぶりも見せずに。あの、猫又惣志郎が。事件大好き野郎のあの猫又惣志郎が。

 会長の鷲のような鋭い視線が惣志郎を貫き、恐ろしい重圧感がこの空間を満たす。この状況下の中、涼しい顔で通常業務が出来る副会長は、本当に化け物だと思う。
「本当に何もわからないんだな?」
「はい、何もわかりません」
「考えもしないのか?」
「全くわかりません。情報が少なすぎます。一、二年生のサッカー部員でさえも何も言わないんでしょう? 僕にわかるわけないじゃないですか」
 一層、鋭くなる会長の視線。
 惣志郎が本心で言っているのかどうか、見極めようとしているらしい。正直、会長でも彼の心の奥を覗くのは難しい。
 惣志郎は、というと相変わらずへらっとした笑いを浮かべ、頭を掻く。
「それじゃあ、お前の台詞そのまま上に報告して構わんな?」
「ええ、結構ですよ」
 凄まじく迫力のある念押しをさらりとかわす惣志郎。
 会長は腕を組み、目を瞑る。数秒間の沈黙の後、顔を上げた。
「生徒会――お前達二人は、若井武の件でサッカー部に関わりを持った。若井武と失踪事件が繋がっているかわからない今、解決してほしいというのは少し酷のような気もしないわけじゃない。若井は何も証言していないし……いいだろう。上にはそう報告しておく」
「ありがとうございます」
 惣志郎は座ったまま恭しく頭を下げた。








 夜の冷たい風は、衣替えが終わった私達の体を冷やしてくれるのに十分だった。
 暗い遊歩道を、二人で自転車を押しながら無言で歩く。ぽつぽつと電灯はあるけれど、その足元だけを照らしていてすぐに元の暗闇に戻ってしまう。惣志郎は俯いて表情が見えないから、のっぺらぼうみたいだと比喩すれば、もうそれにしか見えなくなってしまうような気がして、慌てて首を振る。
 沈黙を埋めるようにカラカラと音をたてて回る車輪が、今は有難いと感じることが出来た。
 今日は若井の処分に、上への報告にてんやわんやだったので、通常業務があまり出来ていない。文化祭の準備だってある。
 どうしてこう、いつも業務が事件で潰されてしまうのだろう。一体、何回目のため息なんだと、またため息をつきたくなる。
 私は瞼の裏に焼き付いているあの時のあの現場をもう一度思い出す。
 なんとか言いくるめて会長は騙せたみたいだけど、私は絶対に騙されない。ずっと彼の事件に対する異様な執着心とか好奇心とかを間近で見ている私にとって、今回は浅薄すぎる。
 いくら惣志郎がああ言ったからといって、それが本当の彼の本心とは限らない。
 それに、私は事件が始まってから今まで、生徒会の業務が終わった後、昨日までこそこそと何かしていたのを知っているのだ。失踪事件について独自に調べているに違いない。家とは反対方向に帰ったり、新聞部員と待ち合わせをしていたりと怪しい行動が多いのだ。
 私は惣志郎の整い過ぎている横顔を盗み見た。車が一台、横を通り過ぎて行く。
 こういう時は――。
「ねえ惣志郎、何か隠してるでしょ?」

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