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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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10~ 20~ 30~

*20*

 生徒会の通常業務をさっさと終わらせた後、私達はお先に失礼します、と出来るだけ爽やかに会長と副会長に告げた。会長に訝しげな目で見られたが、あまり気にしないことにする。
 絶対に何か勘ぐられていると思いながらも二棟を出て、惣志郎の背中についていくと、思っていた通り、憩いのガーデンへと足を止めた。こういう時、惣志郎が当てにするのは絶対に河岸だと相場が決まっているからだ。
 園芸部が経営する憩いのガーデンへと足を踏み入れると、相変わらずカウンターにはグラスを磨く河岸の姿があった。
「遅いぞ、猫又。あれ? うるさい来部もいるじゃないか。お前が一人で依頼したもんだから、今回、うるさい来部は噛んでいないかと思ったよ。せっかく静かになると思ったのに」
「なによその言いぐさは。まるで私が介入して欲しくないみたいじゃない」
 むっとした顔で反論すると、くつくつといやらしく笑った。磨いていたグラスに水を淹れるともう一つにも同じものを淹れ、カウンターに置く。
「お前達の言いたいことはわかるぞ。例の失踪事件だろ?」

 久しぶりの登場で舞い上がっているのは河岸だけで、私は何も嬉しくない。いっそのこと、第二作目のままずっと登場してこなくてもよかったのに、今回ばかりはしょうがない。
 園芸部長兼憩いのガーデンオーナー、第二学年、河岸竜。
部員数は、二年生が一名、一年生が十名、三年生0名、顧問はいてもいなくても同じ。つまり、実質は河岸の独裁だ。部長というと、統率力のある良いイメージを持たれがちだが、彼の場合そうではない。いくら彼が悪政を行っていても、二年生は彼しかおらず、彼しか就くものがいなくて当然であり、したがって統率力のある良いイメージを河岸に関してだけ、今すぐ考え直して欲しい。
 しかし、まあ彼は廃部のどん底だった園芸部をたった一代で立て直し、今や生徒会から予算の格上げをしなくてはならない状況に陥らせ、我が天宮の名前を売るのにも一躍買っているという快挙をなしとげた男である。
 私達が憩いのガーデンと呼んでいるそれは、雑草が生え放題の荒れ地だった二棟と一棟の間にある小さな中庭にこしらえた円形のビニールハウスのことである。本業である花壇や植物を植えることはもちろん、生徒会からの予算以外にも副収入として、喫茶店を経営している。
 憩いのガーデンは温度と湿度がほぼ一定に保たれており、花壇と喫茶店の間には透明な壁で区切られ、虫の影響が一切ないようにしている。奥にあるカウンターでは河岸特製ブレンドであるコーヒーや紅茶を飲むことが出来、しかもかなり大人気。園芸に全く興味がなくても、彼の淹れるそれらが目当てという人も少なくはない。生徒も先生も手が出せる価格設定で、これほど味わい深いものが出せるクオリティに、一体どのようにやりくりしているのか、調べてみたくなるが、「そんな野暮なことをするのはやめろ」といつも言われてしまうので、私達は仕方なく河岸イリュージョンと呼んでいる。
 喫茶店には園芸部が丹念に育てた木々や花を眺めながら河岸の淹れる紅茶に舌鼓を打つという、ゆったりとした時間が流れている。彼の美的センスというものは、顔に似会わず類稀なるものであり、本場のカフェのような装飾、部屋全体に散らばるように置かれたテーブルのレイアウト、そして彼の淹れる紅茶やコーヒーがそれをより一層引き立たせているのだ。
 こんな素晴らしい施設を作り上げた河岸竜という男はさぞかし、イケメンで頭もよくて、みんなに好かれる友好的な人間なのだろうと思われるかもしれないが、幻想を抱いてはいけない。ここで私がはっきり明記しておこう。
 ヘビのように掴みどころのない男だ。ニヤリと笑うとその口から赤い舌がチロチロと出てきそうな、やっぱり気持ち悪い。
 そんな意地汚い河岸は、情報が集まりやすい喫茶店のオーナーという立場を活かして、生徒会に情報提供をすることが多い。お腹が満腹になり、気分がよくなると爆弾発言をしていく生徒が多く、お馴染みの「マスター、話聞いてよー」から始まる愚痴を聞かされ、情報は意外なところひょっこりやってくるそうだ。
 そもそも河岸に情報提供を促すようになったのは、河岸が日本代表として海外の園芸(いわゆる庭園の美しさを競うコンテスト)大会(出場国が五つしかないような小規模)に出場し、見事優勝トロフィーを持ち帰って来たところから由来するのだが、その話はどうでもいい。いずれまた話す時が来るだろう。

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