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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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10~ 20~ 30~

*10*

 明るく手を上げ、サッカー部の部室に駆け寄るや否や、ぐっと手首を掴み、よろめいたところにさっと腕を回し、彼らに背中を向ける。口に手を当て、惣志郎の耳元で囁いた。
「ちょっとどういうつもり!? そんな得体の知れないもの食べてどうするのよ。それに、生徒会のみんなが待っているんだから、こんなところで道草――」
「だから、そのことは瀬戸さんの所為にしていいからって――」
「そんなこと、私がさせるわけないでしょ! ばか!」
 惣志郎の耳をつねると、痛い! と顔をしかめる惣志郎。
 瀬戸さんがあらあら、痴話喧嘩? というようにニヤリと笑ったのが想像出来る。
 惣志郎は、「わかってないなあ!」と大きな声で言うと、私の腕からすり抜ける。
「愛華ちゃん、マンゴスチン食べたことないでしょ?」
 食べたことないけど、それが何か!?
「東南アジアのフルーツで、花粉を持たない花を咲かせて実を付け、雌だけで繁殖することが出来る単為生殖。果実の女王と呼ばれ、味は甘い匂いと柔らかな果肉が特徴的。日本では、冷凍で出回ることが多いけれど、生は冷凍よりおいしいと言われる」
 惣志郎がスラスラとマンゴスチンの知識を披露し、瀬戸さんが目を丸くする。
「他にも、サイトモ科のテンナンショウ属は栄養状態によって性転換する。若くて小さい内は雄で、ある程度の大きさになると雌になるとか。知っていたかい? 愛華ちゃん」
「そんなことも知らないの?」という目線を送ってくる惣志郎の顔にケーキをぶつけたい衝動に駆られたが、そんなものどこにも見当たらない。
「選手記録ばっかりつけてると思ったら、そんなこと考えてるんだから、困ったものよね」
「……惣志郎の話だと、そのマンゴスチンっていうのは珍しいんですよね? だったら、どうして高校のサッカー部にそんなものがあるんですか?」
「私のおばが取り寄せたのよ。物凄い高いけど、でも味は絶品だから騙されたと思って食べてみろ! って、物凄い量を送ってきたのよ!? こんなの、家族だけで食べられる訳がないから部員のみんなに手伝って貰おうと思ってね。それでもまだ余ってたから、困ってたのよ」
「そんな時に、お前達が現れたもんだから、わざわざ書類を取りに来てもらったお礼とかなんとか言って押し付けるっていうみえみえな魂胆だな」
 押田さんの一言に、瀬戸さんがむっと顔をしかめる。
「そんなことないわよ! ちゃんとお礼の意味のほうが強いに決まってるじゃない」
 瀬戸さんは、押田さんにふくれっ面で「失礼しちゃうわ」と、捨て台詞を吐き、手招きをした。
「さあ、どうぞ中に入って」
 どうやら、この美人はどうしても私達にそのマンゴスチンっていうのを食べさせたいらしい。
 だけど、どうであれ生徒会室に会長と副会長と紗綾香ちゃんを待たせている身の私達が、そう簡単に彼らの誘いに乗るなんてこと――。 
「まあ、いいじゃないか。今更、マンゴスチンを食べない訳にもいかないし。それに、ほら。瀬戸さんが責任を負ってくれるってことだし」
 茶目っけたっぷりの笑顔で、私の腕をとると「遠慮なく、いただきます!」とさっきよりも元気な声で扉の向こうに引っ張られてしまった。
 私は盛大なため息。どうなっても知らないぞ、このやろう。

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