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【完結】「秘密」〜奔走注意報!となりの生徒会!〜
作者: すずの  (総ページ数: 39ページ)
関連タグ: 推理 恋愛 生徒会 
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10~ 20~ 30~

*9*

 部室棟から離れてグラウンドに行くフェンスの扉を開ける。
 グラウンドに入るとすぐ横にベンチがあり、一人の部員が一生懸命、書きものをしていた。
 鋭い眼光で選手の姿をじっと見つめるその姿は、正直、一つだけ年上だなんて思えない。良く言えば風格がある、悪く言えば老けて見える。
 私達がゆっくり、歩み寄るとようやく視線を選手達からそらし、目が合った。
「すいません、橘涼さんですか? 僕達、生徒会の猫又と」
「同じく来部です」
「サッカー部の予選結果の報告書を受け取りにきたのですが、よろしいですか?」
「僕が橘涼って知っているということは、美桜や俊にもう聞いたんですね。生徒会がわざわざ来るなんて、急ぎの用でも?」
「いえ、そうではありません。ただ、サッカー部にたまたま訪れたので、ついでに」
 橘さんは、「そうですか……」と適当に相づちを打ちながら、クリアファイルからお目当ての書類を探っている。
 しかし、いっこうに出てこないのを見るとどうやら今、手元にはないらしい。
「すいません。たぶん部室にあると思います。すぐに提出出来るので、移動しましょう」
 そう言うや否や、すくっと立ち上がり、返事を待たずに颯爽と私達の目の前を通り過ぎようとする。
「え、いいんですか? 今、ここで何か一生懸命書きものを――」
 惣志郎が橘さんを引きとめると、立ち止まってゆっくりと振り返った。
「書きものなんてしていません。ただ、考え事をしていただけです」
 そう言ってふっと笑みをこぼすと、また背中を向け、歩き出す。
 でも、明らかにペンとノートを開いていたのに……なんだか不思議な人だな。
 惣志郎は肩をすくめる動作をして先に進む。どうやら思っていることは惣志郎も同じのようである。
 私もその後を追い、部室の前に到着するといきなり扉が勢いよく開け放たれた。中から瀬戸さんが現れ、石段に足を掛ける。
「あら丁度いいところに! 生徒会のあなた達にお礼をしなくてはいけないわ!」
 お礼という唐突な言葉に私達は、口を閉じるのも忘れて首をひねる。
 橘さんは、いきなりの発言に怪訝な表情を浮かべている。
「わざわざサッカー部に報告書を取りに来てくれたお礼よ! 本当にありがとう!」
 なんだ、そのとってつけたような理由は。なんか胡散臭い。
 惣志郎も感じとったのか、眉をしかめる。
 私達のリアクションなど無視するように、目を輝かせる瀬戸さん。
 すると、中から押田さんが瀬戸さんの肩越しに顔を出し、私達に哀れむような目を向けた。
「まあ、食べさせるにはいいと思うが――こいつらだって、仕事があるだろう?」
 た、食べさせる!? い、一体何を!? 
 私と惣志郎は顔を見合わせ、狼狽の色を隠せない。何かとんでもないものを食べさせられるのではないか!? 別に彼らを信用していないわけではないが、もしものこともある。
 私達が慌てふためいている隣で、橘さんは二人を見つめ軽くため息をついた。どうやら、橘さんは何を食べさせるかわかったらしい。
「さっさと食べてさっさと帰ればいい話よ! 友美に遅いって怒られたら、私の所為にしていいし!」
「だけどな――」
 瀬戸さんと押田さんが言い合っているのを横目に、橘さんがすっと彼らを通り抜けて部室の中へ入っていった。
 惣志郎がみかねて、「あの」という言葉で遮る。
「全く話しが見えないんですけど」
 瀬戸さんは片方の口角を上げニヤリと笑うと、想像もつかないような一言が飛び出してきた。
「あなた達、マンゴスチンって知ってる?」
 意味が分からない私を尻目に、惣志郎は顔がパッと華やかになり、急に目が輝きだす。
「いいですねえ! マンゴスチン! 僕、ずっと食べてみたかったんですよ! 食べさせて貰えるんですか?」
「もちろんよ! だから、さあ入って頂戴!」
「お邪魔しまーす!」

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