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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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*11*

Episode10【恋心、藍の想い。】

全然、眠れなかった。
俺は布団から顔を出して思い出す。

『私は、綾瀬君が好きです……!ごめんなさい、友達ままの方がいいですよね。』

高嶺は俺に気を使ってなかったことにしてくれた。
早く返事をすればよかった、そうすれば今頃――。
好き――夢のような話だな。
「好きか……はぁ。」
高嶺が俺の事が好きで俺も好きだから両想いなのにすれ違ってしまう。
「難しいな。恋って上手くいかない――。」
あの高嶺が好きと言ってくれた瞬間、俺の心を弾んだ。
 嬉しくてくすぐったくて。
こんなことになるなんて、今日からどう接すればいいんだが――。


***

全然、眠れなかった――。だって昨日、私……。

『私は、綾瀬君が好きです……!』

うぅ私ったら何を言ったんだ、あの前に誤魔化しとけばよかったのに!!
私の馬鹿、綾瀬君と会うの気まずいなぁ。
私は布団から起き上がりゆっくりと学校に行く準備をする。
さて、髪の毛、制服、スカートばっちり。
学校に行こう。
 ガチャ。
「――行ってきます。」
一人呟き玄関を出る。
「千雪っおはよ~。」
後ろを振り返ると髪の毛を高く二つに結ったツインテールの髪型と
くりくりの二重おめめ、そして鞄には手繋ぎしているクマとウサギの可愛いマスコット。
可愛くてスポーツが得意なことで有名な苺香ちゃんだ。
そして私の親友でもあり幼馴染。
「一緒に学校に行こ。」
「勿論。」
私達は小中と同じだったけど仲は良くはなかった。
けど、9年にも及ぶわだかまりを解いてくれたのが私の好きな人――綾瀬 泰陽君だ。
太陽のような温かい性格の人でクラスの人気者。
「あ、今。泰陽の事考えてたでしょ~?」
ニヤニヤして問いかけてくる。
「もうっ!苺香ちゃん、からかわないでよっ!」
「お、これは図星だな~。このこの~!」
図星をつかれたため声が大きくなる。
苺香ちゃんってこんなにも鋭かったっけ?
なんでお兄ちゃんにも言ってもないのに解ってしまわれるんだろう……。
しかも、
昨日なんて告白しちゃったし……。
「……はぁ。」
「朝からため息?東京に行かなくて嬉しかったんじゃないの?千雪。」
凛とした、いや、穏やかな声が後ろから聞こえた。
私の事を呼び捨てで呼ぶ男の子は一人しかいない――藍君だ。
振り向くと色素の薄い風になびく短い髪、目がきりっとしていてモデルみたいな高身長な男の子。
本を持って私に穏やかに微笑む。
「おはよう、一緒に学校に行ってもいい?」
「勿論。」
二人で歩いているといつの間にか苺香ちゃんと奏君が並んで歩いていた。
「――あの二人、付き合ったら楽しそうですよね。」
私と……藍君が?
「うん、だけど、千雪にはねぇ~?」
と苺香ちゃんが振り向き、ニヤっと笑いかけられる。
 ドキッ!
もう、苺香ちゃんったらこんな時までからかって……。
 ブーっ、ブーっ。
藍君の携帯電話が鳴る。
「何?」
なんか怒ってる?怪訝な顔をして舌打ちをしながら電話に出る。
こんな藍君、初めて見た。 
 誰?
「いい、大丈夫だから。本当に要らない、お節介。」
 ピッ!
「……大丈夫?」
私が聞くといつもの顔に戻る。
「大丈夫、兄だから。」
 へぇ……朝早くから電話する仲なんだぁ。仲いいなぁ。
「どんな人?」
「――うるさくてお節介な人。」
……あ、また怒った顔になった。
「千雪は?昨日、喧嘩みたいなのしてた。」
「うーん、大丈夫かなぁ。優しいしお兄ちゃん。」
そう答えると藍君は悲しそうに微笑んで仲いいねと言う。
 どうしたんだろう、藍君……?
「そうかな、藍君は仲いい?」
そう返事をするとまた怪訝な顔に戻る。
「……特には。」
TOKUNIWA?「特には。」って何?
私が解らなそうにしていると藍君は苦笑する。
「――男同士だから色々上手くいかないんだよ。兄弟なんて選べないんだからなぁ。」
不満そうに呟く。
 仲、悪っ……。
「はぁ……こんな事話すだけで気分が悪くなるからやめよう。」
藍君、本当に嫌いなんだなぁ。
「――で、千雪は好きな人とかいるの?」
 えっ。
「……私はえっと……藍君は?」
「俺?いるよ。」
「ど、どんな人っ?!」
藍君は私が興奮して問いかけると真っ赤な顔して俯いてから言う。
「真面目で優しくて、時々寂しそうな顔をするけど笑顔がとっても似合う子で礼儀正しくて純粋。」
 そんな完璧な人いるんだな、藍君とっても幸せそうな顔してる。
「――泰陽、おっはよ~!!」
「おはようございます、泰陽君。」
苺香ちゃんと奏君の声が聞こえる。
 泰陽って綾瀬君が居るのっ!?
私は、緊張のあまり髪を自分で梳く。
「――高、み、ね!!お、おはようっ!!」
「あ、綾瀬君。お、おは、おはようございますっっ!!」
……あぁ、つい声が大きくなっちゃったよ。
皆が私たちの方を見る。
 恥ずかしいなぁ……。
チラッと綾瀬君を見ると綾瀬君と目が合う。
 バチッッ。
私は急いで目線を逸らす。
「―――俺の好きな人には好きな人がいるみたいだ。」
突然、聞いたこともない藍君の悲しげな声が耳元に聞こえた。
「藍君?――大丈夫だよ、まだ付き合っていないんでしょう、ね?」
逆転のチャンスは十分にあるよっとこっそり藍君に耳打ちをする。
すると、藍君はうんっと目を瞑るくらい眩しく微笑む。
こんな綺麗な笑顔をする人の事が好きじゃないって一体どんな人が好きなんだろう?


 「――泰陽く~ん!一緒にお昼食べようよ!」
「は?嫌、え、すみませんっ!え、どいてくださいっちょ、先輩。」
桜庭先輩に真っ赤に頬を染まった綾瀬君の声が聞こえる。
抱きついたり腕を掴んだりの繰り返しが廊下で行われているのを通りかかりの人は苦笑して眺めている。

「なんか日常的出来事になっちゃったよね。」
「うん、止める気にもならないあの争い。」
「ってか、超仲いいよな。さっさと付き合えばいいのにな。泰陽、好きな奴いないんだから。」
クラスの人たちが苦笑交じりに言う。
 ズキズキズキ。
胸が締めつけられるように痛む。
「―――ちゆ、大丈夫?」
苺香ちゃんが状況を察したように震えた肩を支えてくる。
その手が温かくて優しくて。
なのに、どうして苦しいんだろう?
「何でもない、トイレ行ってくるね。」
そう、言って苺香ちゃんのもとから離れてトイレに行こうとするけど、足が震えて妙に汗が流れる。

 大丈夫、大丈夫だから。

 震えるな、怖がるな。私の足。

 落ち着いて。

ギュッと拳を握りしめるとドアを開ける。
 ガラガラ。
まっすぐ、トイレに向かおう。
「あ、高嶺ちゃん。」
じゃれあっていた桜庭先輩はふふんと声を漏らしながら話しかけてくる。
まっすぐ、まっすぐ。
「高嶺!!待って、待てよ!!」 
あぁ。
その声でその口で、その目で。
 
 私の名前を呼ばないで。

 姿を見ないで。

逆らえなくなる。嫌だ。
私が振り向くと満足そうに微笑む桜庭先輩に心配そうに眉を下げた綾瀬君が居た。
「ぁ……ぇっと。」
目が合って急に恥ずかしくなって何を言っていいか分からなくなってしまい、いたたまれない気持ちがどんどん膨らんでいく。
風船みたいに。
「高嶺……あの高、み。」
綾瀬君の言葉を聞く前に私が泣きそうになって顔を抑えたその時――。
 
 グイっ!!

「…………あぁ。」

誰かに腕を掴まれた。
「―――千雪、ちょっといい?」
「あ、藍く、ん……。」
その手が、微笑みが。
温かくて包み込むような優しさが嬉しくて安心できて。


 「―――千雪、大丈夫?」
控えめな優しい声が響く。
「……なわけないか。」
心配そうに眉を曲げた藍君が私の顔を覗き込む。
「私は大丈夫です。元気でしゅ……から。」
「顔は涙でびしょびしょだし、噛んでる。」
念を押すようにデコピンをする。
「……痛、藍君ってこういうことするんだ。」
「まぁね。」
私の涙を優しく拭き取ると悲しそうに微笑む。
「もう行くね。」
私が立ち去ろうとすると腕を掴まれる。
「まだ、ここに居て。」
「え?」
その瞬間、肩を優しく握られ頬を触られる。
藍君の顔が、唇が近づかれて頬に柔らかい感触が残る。
 キス……された?
ん??解らない。頭が回らない。
「―――藍君?」
私が頬を触りながら真っ赤に染まった藍君に問いかける。
「ごめん、本当に。俺は、千雪が好きだ。俺の好きな人は千雪なんだ。」
「ん。え、ええ??!」
解らない、藍君の言っていることが解らない。
「それ以上は言わないで。解ってる、俺の事なんか好きじゃないって。それでもいい。少しでも俺の事が意識でもしてもらえたら。」
「藍君。それは、駄目だよ。そのままにはしておけないから。」
そうはっきり言うと藍君は俯く。
「……俺だったら泣かせない。けど、それでも駄目なんだよな。」
藍君、どうして酷いことを言ったのにそんな優しい目で微笑むの?
「えっ?」
「そういう鈍感なとこも純粋で誰よりも相手の事を考えていて真面目で俺はそんなところが好き。」
「ごめん。」と言うと私の頭を撫でて立ち去る。
 ザワッ……。
きゅうっと胸を締め付けられていた。

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