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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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Episode11【美麗の気持ち。】

「――どうなの?あのえっとあ、綾……。」
「綾瀬泰陽?」
そうっ!!と思い出したという顔で見つめてくる。
「付き合った??」
「いや、現状維持かなぁ。告白もされてないし。」
そういうと「えっ!!」と声を上げる。
なんで、なんで?と言ってくる。
「可愛くてきれいで友達思いの美麗ちゃんがなんでまだ??」
雛絵が戸惑うように頭を抱える。
これまで。
散々、可愛いだとか綺麗だとか言われてきた。
けど。
その言葉は今の私にとって意味がなくて必要のない事になった。
「可愛いとか意味がないのよ、今の私にとって。」
それよりも。
とんでもない美少女がライバルになったから。
泰陽君は私の初恋の相手でこんなに人を好きになったことのないと思う。
今まで。
色んな人とも付き合ってきたけど初恋という“恋”はしたことがなかった。
なのに、あんな子が完璧な子に勝てるわけないじゃない。

「初めて好きになった人なのに、どうして報われないんだろう……?」

思わず呟いた言葉がさらに胸をえぐる。
「―――高嶺 千雪さん。貴方の事が好きです、付き合ってください!!」
窓を見ていると中庭の方で告白されている高嶺ちゃんとしている男の子が居た。
 多分、彼女は泰陽君の事が好きなんだ。
だから、きっと。
この告白は、断る。
「私の事を好きになってくれてありがとう。――でも、ごめんなさい。」
やっぱりね。
「―――私も貴方と君と同じように想っている好きな人が居るの。本当に告白してくれてありがとう。」
それは、泰陽君の事でしょう?
優しく断る彼女を見てあの日、初めて泰陽君に出会った日の事を思い出す。
私にとって告白は失敗なんてしたこともなかった。
初めてフラれた。
男の子に見向きもされないで断られた。
彼の事を好きになった一方で私の告白を断ったことが許せなかった気持ちもあった。
「はい、好きにならせてくれてありがとうございます。貴方の事を好きになって良かった。」
もっと、告白現場は断った現場はドロドロした雰囲気なのに。
どうして。
優しく包み込むような感謝の気持ちやふわふわした空気が流れているんだろう。
「やっぱり、彼女は凄い。」
こんなにも場を穏やかに終わらせることがさり気なくできるなんて。
「行ってくるね!ごめん!!」
「えっちょっと!!美麗たん??」

 一人で走り出して人目のつかない場所で電話を掛ける。
 プルルル。
思いのほか近くで着信音が鳴り、私は驚いて辺りを見渡す。
「……俺に用って何ですか?―――大体察しはついてますけど。」
「笠寺。」
私は笠寺に向かい、ゆっくりと口を開く。
「あんた、高嶺 千雪の事好きでしょ。」
「……まぁね。フラれたけどもそれが、何か?」
笠寺は驚くこともなく私の問いかけに冷静に答えて、苦笑する。
「――――そう。なら、良かったわ。」
「は?何が良かったんですか?」
心底不思議そうな藍に向かい、私は小さく笑みを浮かべる。
「笠寺。私は泰陽君の事が好き。だから……。」
笠寺は私の顔を見ると弾けるように笑ってから、真剣な顔に、いや、殺気に満ちた顔になって言う。
「だから、先輩に協力して二人の仲を引き裂こうって?なんか勘違いしてませんか?先輩、俺はそんな考え持っていません。」
笠寺は言い終わると美麗の前に顔を近づける。
「俺は、あの二人が惹かれあい付き合うべき二人が幸せになることが望みなんです。先輩、本当は気づいていましたよね。」
「……。」
「塾友でも、知り合いでも。あの二人の仲を引き裂こうとすると、俺も黙ってないですからね。」
「………あんたはそれでいいの?幸せなの??」
笠寺の言葉がずっしりと深く胸の奥に刺さる。
「勿論です。好きな人が好きな人と幸せになった方が俺は幸せになれる、嬉しいから。」
幸せそうに、嬉しそうに穏やかに微笑む笠寺を私は間違っていることをやっているかのように言われているようで黙って睨み付けた。
立ち去る笠寺を見つめ、一人になった私は胸を抑える。
 
――――本当は解っているのに。

 釣り合わない、似合う人じゃない、付き合うべき人じゃないって。
 
 解っている。けど。

 止められない、抑えられない。

 好きになってしまったこの気持ちは無くせない。
どんどん、自分が嫌になっていく。嫌いになる。
こんな気持ちはもう、知らない方がいいかもしれないと本能が言っているのに……。
泰陽君に会うたびに、知っていく、気づいていく、膨らんでいく。
苦しいはずなのに、嬉しくて、温かくなって。
―――本当に馬鹿みたい、こんなことを思って悩んで苦しむ私も、幸せを願うお人好しな笠寺も。

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