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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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*10*

Episode9【それぞれの想い】


「――千雪、次移動だよ?どしたの、ここ最近ボーっとしてるけどさ。」
苺香ちゃんの声で私は図星をつかれて焦る。
「やだなー何でもないよ!あ、待って、まだ準備してなかったんだ。」
焦って取り出した教科書が床に落ちる。
「ねぇ、やっぱり千雪変だよ。何があったの?」
あんなこと、言えるはずがない。

『――お前を迎えに来た、千雪。この地獄のような生活から俺と抜け出そう。』

私はお兄ちゃんの言葉を思い出し俯くと苺香ちゃんが心配そうに私を見つめる。
「本当に大丈夫だよ。」
私が誤魔化そうとしても苺香ちゃんは首を振って言う。
「ねぇ千雪。嘘つかないで、あたしには判る。嘘ついてる事ぐらい、だから、言ってお願い。」
――でも、こんなこと言ったって逆に苺香ちゃんを心配させる。
それに、家族の問題だし……。
「あたしは少しでも千雪の力になりたい……!!」
苺香ちゃんは大きな目から大粒の涙をボロボロと流して言う。
……苺香ちゃん。
「分かった、言うからそんな悲しそうな顔をしないで、ね?」
涙をハンカチで拭き取ると苺香ちゃんはこくんと頷く。

「――本当なの?お兄さんの話。」
苺香ちゃんに全てを話し終わると苺香ちゃんは今にも泣き出しそうに眉が下がった心配げな顔になって私を見つめる。
「うん。そうみたい、でも、私はお兄ちゃんとは暮らさないって言う。」
私がはっきり言うと苺香ちゃんは安心した顔になって微笑む。
「良かった、でも、無理しないでね。」
苺香ちゃんのその言葉が私の心の中にあった迷いを打ち消してくれる。
「ありがとう、心配してくれて。」
苺香ちゃんと私はニコッと歯を見せて笑い合い手を繋いだ。

「え、あの男の人!誰待ち?」
「超かっこいい~?」
ふと気づくとざわざわと集まっている人が見えた。
 何だろう?
「何だろうね?千雪、見に行く?」
隣からのんきな声が聞こえる。
――気になるけど見に行けない。今日こそお兄ちゃんに伝える。
「気になるけど見に行かない。」
「――じゃあ、あたしも行ーかないっ。」
苺香ちゃん――。
「い、苺香ちゃん、僕達も一緒に帰っていいですか!」
息を切らし真っ赤な顔をした奏君と隣に――綾瀬君が居る。
……気まずいなぁ、いつもだったら一緒に帰れて嬉しいはずなのに胸がチクチクと痛む。
「も、もちろんだよっっ!!一緒に帰れて嬉しい……あたしったら何言ってんだろ、アハハ、ハハ!」
真っ赤な顔して返事をする苺香ちゃん、奏君が突然現れて焦っているのは解るけど本音出すぎだよ。
「ぼ、僕も……。」
耳を触りながらそっけなく目線を逸らして返事をする奏君。
 えっ……まさか奏君って。
そんな気持ちになって私はニヤニヤしながら二人を見る。
「桜太も……?そ、そっか。」

 か、か、可愛い!!!

なんかいいな、あんな風に。楽しそうでいいな。
そう思い、綾瀬君を見つめる。

「――千雪。」

私の名前を大切に優しく呼ぶ声が響く。
えっ……?お兄ちゃんの声だ。しかも、優しさの中にも怒りが混ざっているような感じがした。
私は苺香ちゃん達の話の輪から抜け出し、声のする方へ恐る恐る向かう。
お兄ちゃんは家で私を待っているはず、なのにどうして――?
きっと何か用事があるんだ、私も今、言おう。

『私はお兄ちゃんとは暮らさない』って――。

「えっと、お兄ちゃん。どうしたの?」
お兄ちゃんに問いかける。
「千雪!良かった、お前に言うことがあってきたんだ。いや、それよりもあの女が来月戻ってく……。」
「えっ……!!」
そのときだ。
お母さんが戻ってくる、一緒に暮らすことになる――また、あの生活が戻ってくる。
そう思ったら、突然、震えが止まらなくなって足がガクッとして地面に座り込んでしまった。
「……あっ……あぁ……。」
頭がキーンッと痛くなって抑える。
そしてお兄ちゃんは私を悲しそうに眉を曲げ見下ろし続けて話す。
「お前、そんなに死にたかったのか。」
私が日記、自分の気持ちを書いた中学時代のノートを見せる。
なんでそのノートをしまっておいたのに……そんな気持ちを抑えてお兄ちゃんに言う。
「お兄ちゃん。そ、れは……。」
違うよ――。
そう言おうとしたら、記憶がよみがえる。

中学の頃、一人で皆に良い高校に入れるとか求められて居場所がなくて孤独を感じた時それが中学時代。
でも――こんなに暗い中学の私にも光が太陽が手を差し伸べてくれた。
命を捨てようとしたとき、助けてくれた。
中学3年生の冬、そして、高校1年生の春。綾瀬君に2回も救われた。

「千雪、もう苦しまなくていいよ。やっぱり、俺と暮らそう。東京でな。」
ごめんなさい、お兄ちゃん、やっぱり、私はここにのこ……。
その時、体が軽くなるような気がした、視界がぼやけて見えて――。
 あれ、私――。
苺香ちゃんや綾瀬君、皆の叫び声。お兄ちゃんがぼろぼろと大粒の涙を流して叫んでいる。
 まだ、まだ言わなきゃならないことがあるのにごめん、ごめんなさい――。

「――千雪っ!!千雪大丈夫っ!?。」
目を覚ますと目の周りが真っ赤に腫れている苺香ちゃんに心配そうな顔の綾瀬君、奏君が居た。
先生を呼ぶ声が聞こえる。

「――倒れた原因は熱、そしてストレスかな。高嶺さんが体調管理が出来ていなかったって珍しいわね。大丈夫?」
ストレスか――気が付かなかった、熱があることも目の前のお兄ちゃんやお母さんの事でいっぱいで。
「あれほど、無理しないでねって言ったのに!」
「外は大騒ぎでしたよ!大丈夫ですか、本当に。」
「お、お兄ちゃんは……?」
さっきからお兄ちゃんが見当たらない。
――どうしたんだろう?
「途中までは一緒だったんですけど。」
「気が付かなかった、千雪に夢中で……。」
「高嶺が倒れた時、見たけど、なんか思い詰めたような怒ってる顔だった。」
怒っている顔――どうしようっ!お兄ちゃんが怒っている状態のままだったら物凄く大変なことになる。
「ごめん、もう行かなきゃ!!」
私はバサッと布団を上げて学校を出る。

――どこに行ったか行き先が分からない。
お兄ちゃんが行く場所、よくお母さんやお父さんに対して怒っていた時によく行っていた場所……。
 あそこだっっ!!
私は走って、走って走りまくった。
「はぁっはぁ……!!」
足が呼吸がきつい、だけど、諦めたくない。
ちゃんと、お兄ちゃんに伝えたい。

「どうしたんですか、高嶺さん?あんなに走って行って。」
「苺香、お前さ。高嶺の事知ってんだろ。」
言いたい――桜太や泰陽に言いたい、だけど、千雪は心配を掛けたくないって顔してた。
そんな千雪の堅い気持ちを簡単に言えない。
「――言えない。」
私が俯き答えると桜太が声を荒げる。
「言えないじゃありませんっ!!今更そんなこと言わないでくださいっ関わってしまったんですよ!!」
桜太、ごめん。
「僕達は貴方の苺香ちゃんの力になりたいんです!」

『あたしは少しでも千雪の力になりたい……!!』

私と同じ気持ちなんだ、桜太に心配されてる。
――ねぇ、千雪ごめん。でも、許して貴方の事を大事に思っている人がこんなにいるってことだよ。
「千雪のお兄さんって昔から千雪のお母さんとかの事毛嫌いしてたの。ほら、千雪のお母さんとか皆自分勝手じゃん。」
二人は静かに頷く。
「いつも千雪は一人ぼっちでだから千雪を連れ出すためにお兄さんは東京に出たんだって。で、今になってお母さんが戻ってくるから東京に行こうって千雪の事言っているらしいの。」
――それを知っていて、あたしは千雪の傍に居てあげなかった。
居てあげたら今の千雪がもっともっと明るくなってたのかな、寂しそうな笑顔を眼を見せることはなかったのかな。
自殺しようともしなかったのかな、やっと一緒に居れるようになったのに今でも悲しそうな顔をするから――。
時々考えてしまう、そんな事。
「高嶺さんの事を僕、放っておけません。苺香ちゃんの事もありますし。」
桜太――。
「1人で苦しんでた、千雪は苦しんでお兄さんにも自分には問題ないって振舞ってつくってきた千雪が今本音を言って戦ってる。」
あたしも、あたしも
「……戦いたい一緒に戦いたい。」

“お兄ちゃんとは暮らさない”

「千雪の気持ちは一つなのに黙ってみてたくないっ!!あたし、千雪の事取り返しに行く!」
あたしは二人にそう言って保健室を出て千雪の家に向かう。
「い、苺香ちゃんっ!!待ってください僕も行きますっ。足速すぎですよ!」
桜太が苺香に続き保健室を飛び出していくのを見ると俺も立ち上がって高嶺の所に向かう。

「で、こっちはどこに行くのかしら? 」
一人、保健室の中で先生が楽しそうに呟く。



***

――思えば嘘ばかりだった。
それが全ての為になると思ってた。
何も言わない、それで私は自立してお兄ちゃんや仕事で忙しいお母さんも悲しませず、困らせずに済むって。
そう思ってた――。

「はぁ…はぁ…。」
いなかった、いつもと違う場所に居るのかな。
1回帰って家に戻って出直せば――。

私の判断は何も間違ってはいなかったと思う。
それはそれでどこかでお兄ちゃんを苦しませていたんだ。

――目の前にスラリと高い男の人が歩いていた。
そして艶やかな黒髪、いや、日光に当てられてこげ茶っぽい髪が風になびいている。
なんだ、どこかで入れ違いになっていたんだ。
今の私とお兄ちゃんみたい。

――不器用だなぁ、お互い。

あれが、あの時の昔の私の精一杯の嘘、いや、見栄だった。
でも、今。見つけたの新しい。
「お兄ちゃんっ!!」
お兄ちゃんはビクッと肩を揺らして驚いたように目を見開く。

桜太と走って千雪の家に着いた時、千雪とお兄さんが居た。
「ちゆ……。」
「――お兄ちゃん。」
あたしの声を遮るように千雪の凛とした声が響く。

――新しい正解を、居場所を見つけた。
「私ね。中学の時、いや、ずっと前から寂しかった。死にたかったんだぁ。」
目の前に居るお兄ちゃんに向かって私は笑いながら本当の事を言う。
すると、お兄ちゃんは固まって声を漏らす。
「……、……え?」
いつの間にか周りに居た奏君、苺香ちゃんがそれを聞いて目を見開いて固まる。
――泣かないって決めたのに目頭がジーンと熱くなる。
 じわっぼろ……。
「あ、あはははっ。」
悲しいはずなのに涙を見せて恥ずかしいはずなのに何故かすっきりとした気持ちになった。

 口元から自然と笑みが零れた。

「高嶺っっ!!」
優しくて温かい声が響いた。
振り向くと綾瀬君や藍君、そして翔平君などが揃って息を切らしながらお兄ちゃんの傍に寄る。
「――高嶺を東京へ連れて行かないでください……!お願いです。これを。」
あ、綾瀬君――。
そう言ってお兄ちゃんに手渡したものは書類のような分厚い紙の集まりだった。
「これは?妹と何が関係があるんだ?」
お兄ちゃんは、鋭い眼差しで綾瀬君を見つめて問いかける。
「それは、妹さんが東京に言ったら困るなどのうちの学校、いや、他校も含め全員の声です。」
私の為にこの短時間でやってくれたの?
「こんな物……俺たちの事は君たちには関係ないだろう!?妹は苦しいんだここに、この家に居てっ!」
お兄ちゃんは書類を叩きつけて涙をボロボロを流し声を荒げる。
違う、違うよ――。
「違うよっっ!!苦しくなんかない、勝手に決めないでよっ!!」
お兄ちゃん、ごめん、ごめんなさい。
私を連れ出すために東京で頑張ってくれたのに――。
「それは、私が苦しかったのは事実だけど今は違う、苺香ちゃんや色んな人が私の周りに居るから!」
昔は早くお兄ちゃんと暮らしたいって思った。なのに、私は裏切った。
今はこんなにも、こんなにもここに残りたいって言ってる。
――わがままでごめんなさい、お兄ちゃん。
「私、お兄ちゃんとは暮らせない、ここに残りたいの!皆と居たい、ごめんなさい……。」
――お兄ちゃんは悲しそうに眼を閉じて言う。
「――ごめんな、千雪。お兄ちゃんが悪かった、お前の気持ちを考えなかった。」
お兄ちゃん――。
「そんなことないよ?十分、私の事考えてくれてた。ありがとう。」
私が感謝の気持ちを伝えるとお兄ちゃんは涙を滝のように流す。
そして、涙を拭い綾瀬君をジッと見つめて言う。

「千雪の事、よろしくな。千雪がまた、寂しいって感じて泣いたら連れ戻しに行くからな。」

お兄ちゃん――ありがとう、許してくれて。
お兄ちゃんは綾瀬君に伝えると家に入り荷物を持って戻ってくる。
そして、私に近づき囁く。
「千雪が俺と一緒に行こうとしなかった理由1つ、分かった。あの男だろ。」
お兄ちゃんは綾瀬君を指差してニヤニヤ笑みを浮かべながら囁く。
 ――何でわかるのっ!?
「生きた眼をしていなかったお前を変えたのはあいつだったんだな、今度会う時、お前たちの仲が変わっているのを楽しみしてる。」
聞かなくてもわかるぞと言わんばかりの顔で図星をつかれて赤面している私の頭をポンポン撫でて車に乗る。
「じゃあな、千雪。皆さんっ!!不器用な妹ですがこれからも仲良くしてやってください。」
といつものお兄ちゃんに戻って眩しい笑顔を見せて去って行った。
「ふぅ……これで一件落着かな!!」
苺香ちゃんが終わった終わった~と腕を伸ばす。
「なんかいい話だったでしたねっ!」
「今回はありがとうございましたっ!皆、家に寄って何か食べますか?せめてものお礼で。」
私が提案すると盛り上がって皆、家に入っていく。
綾瀬君が入ろうとすると私は呼び止める。
「綾瀬君、ありがとうございます。その、綾瀬君が居なかったら説得できていませんでした。」
深々と頭を下げてお礼を言うと綾瀬君は顔を上げてと言いニコッと微笑む。
「俺にお礼を言っても意味ないよ。高嶺がどっか行ったら嫌だって言ってくれた人たちに感謝の気持ちを込めてこれからは笑って過ごさなきゃな。 」
綾瀬君、本当にいい人だ。
私はこの人を、綾瀬君の事を――。
「好きです。」
「……は?」
え、えっ!!
いや私、まさか綾瀬君に告っちゃったっ!!?
「え、いや、高嶺?」
真っ赤な顔して私の事を見つめる。
えっと、どうしようっ!?
――こうなったら仕方がないよね。
当たって砕けろだよ、えええいっ!!
「私は、綾瀬君が好きです……!あの、ごめんなさい、友達ままの方がいいですよね。」
「――高嶺、俺は……。」
「そ、それ以上、言わないで下さいっ!!」
私って勝手だ、フラれるのはやっぱり嫌だから。
皆、こんな気持ちで告白するんだ――。
自分で言ったけど、友達でこれからどうやって接すればいいの?

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