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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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10~ 20~ 30~

*9*

Episode8【文化祭】


 「――今日は高校の文化祭だっけ。」
「あ、そこ知ってる!凄く綺麗な人が居るんだよね~。」
「名前は……確か、高嶺 千雪だっけ。」
 文化祭ですっ!うちのクラスはメイド喫茶をやることになりました。
それと――後夜祭の前には綾瀬君や藍君などが出てバンドライブをするというスペシャルイベントがあって私はすごく楽しみ。
驚いたことが2人とも楽器が弾けること――。
「あ、居た!噂の高嶺の花!!高嶺 千雪。綺麗だな~。」
お客さんが私を指差し言う。
それを見た通りかかりの人もどれどれと言い立ち止まって私に注目する。
 恥ずかしいなぁ……でも、お店なんだから接客しなくちゃっ!!
「い、いらっしゃいませっ!ご注文は何ですか?」
そう言うとお客さんは少し考えてから言う。
「――ブレンドコーヒーとパンケーキでお願いします!!高嶺ちゃん。」
 高嶺ちゃんって……。
それから噂は広まり、私は“高嶺ちゃん”と呼ばれるようになった。
「高嶺ちゃんって綺麗だよね。シフト終わったら、一緒に回ろよ。」
 私なんか、誘われてる……?
「あ、嫌。あのすみ――。」
「断らないでよ、お願い。」
お客さんに手を掴まれて戸惑っている私を皆が注目して見る。
「――お客様、ここはナンパというものをやる場所ではございませんよ。他のお客様に貴方がナンパしているところを見られたいですか。」
助けてくれたのは綾瀬君だった、そのまま私の腕を掴み準備室に向かう。
「高嶺……大丈夫?シフト変わったあげるから回ってきなよ。」
そう言うとまたお店に戻っていく。
 綾瀬君――。
「千雪っ!前に笠寺君が居るよ、千雪を呼んでる。」
――急いで私は着替えてお店を出ると藍君が居た。
「千雪!一緒に回ろうよ。」
女の子以外に呼び捨てに呼ばれていないので未だにドキっとしてしまう。
回る人いないし……藍君と回ったら楽しそうだから一緒に回ろうかな。
「勿論。藍君が良かったら。」
笑顔で言うとそっけなく返事をして手を握られる。

 手――。

お化け屋敷、カフェ、楽しい……!!
「次はどこ行く?」
「えっと。」
悩んでいるときに藍君の名前を呼ぶ声が響いた。
「藍っ!!」
驚いて同時に振り向くと男の子が立っていた。
「……なんだ、翔平か。で、何??」
怪訝な顔をして問いかける藍君に翔平と呼ばれている男の子は笑いながら言う。
「バンドライブするだろ?それの最終確認だってさ。迎えに来てやったぞ!」
「メールしてくれれば行ったのに……。千雪、ごめん誘ったのに。」
藍君が謝ってくれる。
「そんなことないよ、私もライブ楽しみにしているから苺香ちゃんと見に行くね。」
「うん――ありがとう。じゃあ、またあとで。」
そう微笑んで、藍君は体育館に翔平君と向かう。
……凄い、笑顔眩しかったな。

俺は、翔平と並んで体育館に向かう。
「なぁ、お前が女子と一緒になって笑ったり、文化祭に誘ったりするなんて珍しいよな。」
「だから、千雪と俺が何?」
俺が苛立ったように問いかけると翔平はニヤニヤしながら言う。
「千雪?へぇ、初めてだよな女子の事を呼び捨てで呼ぶのって。何、遂に藍も初恋ですか~?」
挑発するように笑いかけられる。
――千雪はそんな関係の人じゃない。
「千雪には、もう……。」
千雪には似合う人がいる、付き合うべき人がいる。
――千雪は泰陽だ。
「……藍、なんか怒ってる?」
怒ってる――?不機嫌にはなっていないはずだ、なのに千雪と泰陽が並んでいる姿を想像するとモヤモヤする。
「別に。」
「そっけね、ってか高嶺ちゃんと何で仲がいいの?」
「趣味が合うから、話しやすいから。」
「話しやすい趣味が合う女子なんていくらでもいるよ。話しやすくて趣味が合うとかじゃなくて藍自身が壁を作ってるからそう感じるんじゃねーの?」
……それは、そうかもしれない。
図星を当てられ俺が俯くとニヤッと笑い翔平は続けて話す。
「気づいたら、もう好きだったとかあるんじゃね?ほら、よくあるじゃん少女漫画で。」
好き――違う、千雪にはもう似合う人がいる、付き合うべき人が居るんだ。
この気持ちに気づいちゃいけない、そう本能が言っているのに。
なのに――どの本を読んでいてもどんなことをしていても千雪がよぎる、千雪の事を考えてしまう。

駄目だ、気づいてしまった。
どの本の中のヒロインとヒーローの友達はヒロインに恋していったって結末は決まっている。
――ヒロインとの恋は叶わずヒーローと結ばれる姿を見ているという事になる。
じゃあ、今までにない物語を自分で創れば?どんな駄作でも、もういいじゃないか。
君に似合う人じゃなくても君は俺に恋してくれるのか?

「あ、泰陽っ!!遅くなってごめん。藍迎えに行ってたら遅くなった。」
――泰陽。
目が合い、思わず逸らす。
逸らしてしまったのはお前にとって後ろめたい気持ちがあるから。

――本当にごめん、俺はお前の気持ちに気づいてるはずなのに千雪に恋してしまった。
いつから好きになったんだろう、泰陽の好きな人に――。
初めて会った時?お互いを呼び捨てで呼ぶようになった時?
「藍。」
泰陽が真剣な目で俺の名前を呼ぶ。
「何?」
いつもは俺に話しかけようともしない泰陽が2人で話そうって言ってくる。
―何だろう、あの事かな?
日光に照らされながら泰陽は恥ずかしそうに、いや、真剣な顔で言う。
「……あのさ、俺。高嶺の事が好きなんだ。」
あぁ、やっぱりそうか。
「知ってた。」
短く返事をすると泰陽は目を見開く。
「俺と泰陽が何年の付き合いだと思ってんだよ、幼稚園からずっと一緒だった幼馴染のことぐらい分かってるよ。」
ほっとしたように顔の緊張を緩め言う。
「そっか、バレてたか……。」
「応援してるよ、千雪と泰陽の事お似合いだし。」
――嘘だ、俺は言えない。知ってたのにお前の好きな人に恋してるだなんて。
「俺も。」だなんて口が裂けても言えない。
俺は、泰陽に嘘をついた。ライバルで幼馴染の綾瀬 泰陽に一番泰陽の事分かってるのに……。
そんな複雑な気持ちを隠して笑い合った。

――体育館。

体育館は思い出場所、9年ぶりに苺香ちゃんと笑い合った大切な場所。
私達が体育館に入ると体育館がライブ会場のように熱気に包まれていた。
綾瀬君達の登場を待ちわびている掛け声も聞こえる。
――やっぱり凄いなぁ、綾瀬君達は。
「いやぁ~楽しみだね、千雪!」
「うん。」
「……とか言って本当は奏君がお目当てのくせに!」
一緒に来たクラスの女の子たちが苺香ちゃんをからかう。
苺香ちゃんは真っ赤になって必死に否定しているけど図星だったみたい。  
 そんな苺香ちゃんが面白くてつられて私もクスクスと笑ってしまう。
皆と笑いあっていたその時――辺りが暗くなる。

「そろそろ始まるね。楽しみ~。」

とクラスの女の子たちがヒソヒソと話し始める。
 
もう少し……私が演奏するわけでもないのにドキドキしてしまう。
 パッ!!
突然、明るくなってギターの音が体育館を響き渡る。
「~♪」
わぁ……凄いな、綾瀬君カッコいいな。
――こんな凄い人の事を私好きになったんだな
キャ~キャ~藍君頑張って!!とか泰陽カッコいい~!とか桜太くんいつもと違う!!とか
女の子たちの黄色い歓声が聞こえた。
隣を見ると苺香ちゃんが不機嫌そうにジッと奏君のいるステージを見つめていた。
私がどうしたの?と訊ねると苺香ちゃんは言う。
「なんか、いつも隣に居て笑い合ってたのに手の届かないところにいて寂しいっていうか……モヤモヤしてさ。」
――苺香ちゃん。
苺香ちゃんも同じなんだ。
世界が違う、私には似合わない、きっと振り向いてもらえない。
私は綾瀬君を見て考える。
――綾瀬君の隣には私じゃない人が居て並んで歩いたり笑いあったりして……。
 ズキン、ズキン。
そんなことを考えると胸が痛くなり涙が出てきそうになって顔を抑える。
「ありがとうございました!この後は後夜祭です、後夜祭はグランドでやるので集合してくださいっ!」
――もう、終わったんだ。
「ちゆは後夜祭、誰と過ごす?」
苺香ちゃんに聞かれて私は戸惑う。
「……いない。」
そう答えると苺香ちゃんが焦って言う。
「今は居なくても、泰陽から誘われるかもよ!?おめかししとこうよねぇ!」
話を聞いていたクラスの女の子全員が同時に頷く。
「じゃあ、いこっか!」

「あ、可愛い~!千雪は美人だから何でもに合うな~。」
「こ、これはどう?」
「いいかもっ!」
と言われ着せ替えられた私は鏡を見て目を見開く。
――私じゃないみたい。
白の純白のドレスに太陽のような色の造花とビーズが散りばめられていて
髪の毛はハーフアップにされていた。
髪留めは可愛い大きなお花で耳には雫の形のイヤリングがつけられていた。
「さぁ、グランドに行ってこい!」
 どんっ!
と背中を押されて私はグランドに行く。
色んな格好の人たちが居て私はきょろきょろと辺りを見渡す。
「学校の花――高嶺 千雪さん!一緒に過ごしていただけますか!?」
というようにその言った人の後ろには男の子が並んでいた。
「うわっ!高嶺さんに申し込んでいる男子の後ろ他校の男子とかすっごい行列!?」
「え、何人??」
「100越してるよね絶対。」
「可愛いもモテモテも大変だわ~。」
と皆が私の事を指差し言っている。
「ご、ごめんなさいっ!!」
恥ずかしくなって私が断って逃げるとみんな並んでいた人が追い駆け回してくる。
俺はいいですか!?と叫びながら。
「こ、怖い!!!」
 ドンっ!!
「ごご、ごめんなさい!!今、急いでて!!」 
「高嶺千雪~~?待って~!!」
 ゾッ。
寒気がして震え逃げようとすると引き留められる。
「は、離してくだ……。」
その時、私はぶつかった人の顔を見てびっくりする。
「俺たちの高嶺 千雪を離せ!!盗人め!いくら顔がいいからって!!」
そーだそーだというように男の子達が頷く。
「――ごめんな、こいつには先約がいるもんで。あっち行ってくれるかな?」
睨み付けてから、にやぁっと悪い笑みと向けるとブルっと震え男の子達はザっと逃げていく。
逃げて行ったのを見送るとぶつかった人は鼻で笑う。

「久しぶりだな、千雪。」

そういうとぶつかった人――私の名前を呼ぶ。
「私も会いたかった、“お兄ちゃん”に。どうして、学校なんかに来たの?いつもはメモを残して自宅に戻るのに。」
私がお兄ちゃんの顔を真剣に見つめて言うとお兄ちゃんは苦笑する。
「可愛い妹の顔を見たかっただけだよ。」
「嘘。本当は何?」
睨み付けながら問いただすとお兄ちゃんは私の質問には答えずに言う。
「なんで千雪は嘘と思うんだ?」
私はお兄ちゃんの手を指さしながら言う。
「お兄ちゃんは嘘をつくとき、腕を組むから。それで、嘘だと思った。」
私が説明するとお兄ちゃんは諦めたようにため息をついてから私を見つめる。
「やっぱり、お前には嘘をつけないな。お前がもっと馬鹿だったらつけたんだけどな。仕方ないな、言うか。」
 何を迷って早く言わなかったんだろう。
「お前を迎えに来た、千雪。この地獄のような生活から俺と抜け出そう。」
 え――。
私は驚いて目を見開くとお兄ちゃんは続けて話す。
「あの勝手な母親と父親が離婚するって聞いたか?あの母親――あの女は再婚してこっちに戻ってくるらしい。」
 嘘よ、嘘よ。
急に胸が痛くなり私は抑えて話を聞く。
「な、俺と一緒に暮らそう。お前が寂しくならないようにするし学校も大丈夫だ。転校もして良い高校に入らせるから。」
お兄ちゃんは手を差し出して微笑む。
思わず、手を掴もうとすると廊下に誰かの足音が響いた。
 ザクッ。
驚いて振り向くとそこには綾瀬君が居た――。
「あ、綾瀬君!!」
私が立ち去ろうとする綾瀬君を呼び止めると綾瀬君はぼそっと呟く。
「――盗み聞きするつもりはなかったんだ。本当にごめん、高嶺。」
 どうしよう――。
「俺と暮らすか、ここに残ってあの女と暮らすか。どっちでもいい、けど俺と暮らした方が幸せだってことは言う。選べなかったら勝手に俺が転校届出すから。」
 私は、どっちを選んだ方がいいの――?
やっとみんなと打ち解けて仲良くなった7月上旬、私は大きな選択を迫られることになった。
綾瀬君や苺香ちゃんと過ごす学校生活を選ぶかお兄ちゃんと東京で暮らすかという――。

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