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作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 33ページ)
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*13*
Episode12【ドロドロの感情、母到来。】
自分の気持ちにちゃんと気が付くまで、色んな人が関わったと思う。
それが、いつ、だったかと聞かれると正直解らない。
初めて会って助けてもらった中3の冬の時だったかもしれないし、ビルに来てもらってりクラスに打ち解けるようになったあの時かもしれない。
どちらにしても今も、あの日も。
綾瀬君がこの世界で幸せになってほしいって思ってるから。
柔らかくてポカポカと温かいこの気持ちは、変わらないと思ってた。
そう思っていたからこそ。
だから……。
だからこそ。
あの一言で、世界が、感情が簡単に崩れ落ちて壊れてしまうだなんて。
この気持ちが苦しみに痛みになってなくなるなんて。
その時の私は思ってもみなかった―――。
眩しい朝日を浴びながら電話を持つ。
プルルル。
「――――綾瀬君?あの、おはようございます。朝早くから何で電話を……?」
私が密かにあくびをしながら電話の主―――綾瀬君に問いかける。
『……最近さ、ちゃんと話してなかったし。前にした高嶺の告白に関しての返事をしたいなって。』
忘れてくれてなかったんだ、これまでのように笑い合えなくなるのは嫌なのに。
どうしても、フラれるのは嫌だ。
「あの、綾瀬君?私……。」
『……やっぱ、さ。電話でこういうこと言うのはやだよな。よし、学校で言う。昇降口で待ってる。』
ブっ!!ツ――ツ――――。
「……何か焦ってた?あ、昇降口で待っているんだよね。早く、学校行かなくちゃ。」
ベットから抜け出して急いで洗面所に向かう。
すると。
ピンポーン、ピンポーン!!
呼び鈴が部屋に響き渡る。
急いでるのに、何で?こんな朝早くに誰だろう??
ガチャ……。
ドアに向かって歩いて開けると女性が立っていた。
「――――あぁ……!!」
その瞬間、目を見開いて肩や足、手が震える。
女性は愛らしく整った顔で微笑む。
その笑みは花も咲き誇るような美しく眩しい笑みだった。
「お、お母さん……。」
「――――千雪ちゃん、ただいま。」
この声は聞きたくない。
怖い。
汗が止まらなく震えが止まらない。
「ち、千雪っっ!!!!」
焦りが入った大声が響く。
――――あぁ、お兄ちゃんだ。
「……なぁに?兄妹揃って母さんの事、悪者扱いみたいにして。酷いじゃない、もう!」
お母さんがおどけた声で私達に笑いかける。
「当たり前だろ、普通。千雪の事も俺の事もそして、父さんの事も置いていったくせにまた、離婚する、しないを繰り返して結局さ離婚して再婚?」
お兄ちゃんが殺気に満ちた目でお母さんの事を見つめながら言う。
「どれだけ、千雪に俺に苦労をかけさせて心に傷を負ったと思ってんだよ。この家が家族がバラバラになった理由の一つはあんたの自分勝手さにあったんだよ。父さんは我慢してた、許してた。なのに、離婚?再婚?どの面さげてこの家に来たんだよ!!」
―――――お兄ちゃん。
明らかに私よりもお兄ちゃんの方が苦労して心に傷を負っていたんだと思う。お父さんもそうだ。
歳が大きいほど考えることは大きく、深く考えることになる。
我慢をしてそれでも、駄目でその繰り返しで私の事を支えて育ててくれてたんだと思う。
「帰れ、帰れよっっ!!!!」
お兄ちゃんの怒鳴り声が聞こえる。
「―――解ったわ、帰るわよ。でも、また来るから新しいお父さんを連れて。」
あ、新しいお父さん……。
要らない。
だって、お父さんがいるから。
離れていても、自分勝手で堅物で無口でもお父さんがいる。
代わりになる人はいない、世界に一人だけの私だけのお兄ちゃんだけのお父さんだから。
肉親だから、実の親だから。
「要らねぇよ。そんな奴、あんたの顔なんか見たくない。」
――――それは、お母さんも一緒なのに。
「酷い息子ねぇ。あのね、千雪ちゃん。お母さんと一緒に暮らしたいんだったらいつでも、電話かけてきて?」
お母さんが電話番号の書いた紙を渡してくる。
なんで、こんなにも。
―――――酷い事をした人なのに寂しく、悲しくて、恋しくなるんだろう?
「千雪。大丈夫か?今日、学校行けるか?」
……泰陽君が待ってる、行かなくちゃ。
でも。
足が手が動かない、動こうとしない。
「……。」
「千雪、本当にごめんな。会わせちゃって、会ってなかったらお前は今頃学校に行って友達と笑いあってたはずなのに。今日は休めよ。」
――ううん、きっと。
会う運命だったんだ、避けられない事だったんだ。
お兄ちゃんは、私の名前を優しく呼んで頭を撫でて帰っていった。
お母さんと何年振りかに会って何時間、経ったんだろう?
ブっ!!ブ―――っ!!
さっきから、携帯の着信音が続いて鳴り響いていて、携帯を開けば皆からのメッセージが続いて届いていて。
[太田 苺香ちゃん。]
千雪。学校来てないけど大丈夫?
具合悪いの、それとも……?
あ、ごめん!!どうしても、悪いこと考えちゃうんだ。
[奏 桜太君。]
高嶺さん。皆、貴方の事を心配しています。
具合が悪かったらお大事に。
違う事だったら手伝うことぐらいはできますので!!
[笠寺 藍君。]
千雪。学校来てなかったね。
こないだの俺がしたことが原因?
ごめん、本当に。
千雪には断られたけど、俺は千雪に友達としても好意を持っているのは事実だから。
小さなことでも心配になる。風邪だったらお見舞いに行かせてって太田さんが。
お大事にね、他の事だったら手伝わせてお願い。
[綾瀬 泰陽君。]
高嶺、俺焦った。
拒絶されたかもって風邪って聞いたけど大丈夫か?
お大事にっていうか家の事だったら俺に言えよ?
手伝えること何が何でも探す!
皆の心配の声が優しさがじんわりと心を温めてくれる。
藍君には酷いこと言ったけど、それでも私の事を心配してくれて好意を持っていることに嬉しい。
綾瀬君はこんな私をいつも助けてくれることに感謝をしているし、苺香ちゃんや奏君も受け止めてくれて支えてくれることが嬉しい。
こんなにも、皆に心配されているのに怖いからとか逃げちゃ駄目なんだ。
―――お母さんと向き合わなくちゃいけないんだ、戦わなくちゃいけないんだ。
「―――――お母さん。話があるの。」
私はお母さんの電話番号を書いた紙を握りしめ見つめ続けた。
「――――良かったわ。ちゃんと似合ってるしサイズもぴったり。さぁ、ご飯を頂きましょうか。」
お母さんが満足そうに笑みを浮かべる。
「……なんで、話すだけなのにご飯やドレスを着るの?」
私は自分の着た夜空のような深海のような色のドレスを見ながら問いかける。
「最高級のレストランでお話をするんですもの、ドレスアップは必要だわ。良いお話が聞けるとお母さんは嬉しいなぁ。」
お母さんは嬉しそうに愛らしい目を細める。
「―――あ、あのね。私は、新しいお父さんなんて要らない。私のお父さんは世界でたった一人高嶺 夏樹でその代わりになる人なんていない。そして、私のお母さんも高嶺 千早。貴方一人だけなの。」
私は勇気を振り絞って震えた口を開いた。
お母さんはただ、カタカタと震えた私の事を真剣に、いや、怒りのこもった鋭い眼差しで見つめる。
「……で?お話はそれなの??―――はぁ、貴方にはがっかりしたわ。貴方だったら千雪ちゃんなら私の事を母さんの事を解ってくれると思ってたのに。千雪ちゃん、貴方は私の娘じゃない。高嶺 夏樹、裕樹に洗礼された、ただの女の子よ。」
お母さん……。凄い、怒ってる。
このままじゃ、突き放される。
そう解ってるのに、これでいいってこのまま進めばいいって思っている自分がどこかにいる。
自分の口なのに開かない。
「――――さようなら。」
冷たく言い放ったお母さんの言葉は軽くも重くもずっしりと胸に突き刺さった。
お母さん、あんなに傷付いた顔をしていた。
今すぐ、謝りたい。
会いたいという気持ちがあるのに……。
「お母さん……。」
なのに、解らない。
悲しくて、寂しいはずなのに、どこか。
落ち着いたというか安心した気持ちになった。
いつの間に感じなくなっていた。
愛、孤独、恐怖心。
慣れてしまっていたんだ。
私、お母さんと向き合うとか戦うって心に決めたくせに。
どんだけ、臆病なんだろう。
こんな覚悟で向き合おうとしていたなんて。とても可笑しいし恥ずかしい。
でも、本当は知っていた。
お母さんが好きで仕事をしているんじゃないって。お父さんと私やお兄ちゃんと一緒に居たかったって事。
時間を作ろうとして頑張っていた事、一人で苦しんで泣いていた事も全部。
その事、思い出したら。
酷い人だなんて知らないお兄ちゃんとお父さんとお母さんの事、責める事なんて出来ないよ。
視界に入る全ての人が私の事を責め立てているようで怖い。吐き気がする。
解ってる、本当は一番、自分が悪いんだって。ずるくて酷いんだって。
「―――――どうしよう。」
もう、人に会いたくない。
泰陽君にも苺香ちゃん、奏君、藍君になんか会えない。
見られたくない。
見たくない。
さっきまで当たり前のようにあった決心も宝物が、一瞬で手のひらからこぼれてしまった。
好きだっていう気持ちも周りを愛していて笑いあっていた日々の思い出も。
―――――とても自分が怖い。
「うわ……ああぁああぁぁ!!」
私はレストランを出て膝を抱えて、一人、大きな声で泣き続けた。
「――――父さん。本当にごめん。千雪の事を守れなくて。」
「お前のせいじゃない、千雪自身が俺達がこうなってしまったのは。裕樹、きっと、あの子は。自分が今頃、嫌になっているだろう。――もし、千早と会っていたら。」
父さんはそういうと悲しそうに目を瞑り、結婚指輪を握りしめる。
「……気づかなかった、俺の責任だ。もし、あの時千早の事を少しでも理解していれば千雪が闇を抱えることにはならなかった。恐怖心もな。」
「けど……!!」
俺は、チラリと周りを見渡し誰もいないことを確認する。
「なぁ、今。千早は、母さんは後悔をしている。それも重く悩んでいる。千雪と会ったのなら千雪に何かしらの事を言われたはずだ。ここは、静かに千雪と母さんの動きを待つのが賢明だよ。」
「そんな事を待っていたら、千雪の心はもっと病むことになる!!」
俺の言葉に父さんはキョトンとしてからフッと不敵な笑みを浮かべる。
「――――本当に、お前はそう思うか?千雪は高校に入学して綾瀬君という男の子のおかげで変わったんだろう?昔のような殻に閉じこもらなくなったんだろう?じゃあ――。」
「じゃあ、自分で殻を破って立ち直り、母さんを説得できるって?そう言う事か?」
俺が恐る恐る口を開き、頭に浮かんだことを言ったら父さんは満足そうに頷く。
「あぁ。千雪は俺の自慢の娘だ、そのくらい成長したならできる。」
「でも、出来なかったら。助けに入っていいか?」
俺の言葉に、大きく頷く。
「勿論だ。しかしながら、俺の推測でいくと必要ない。立ち直ることが出来る。」
父さんは腕を組んで思い描くように目を瞑ると俺の頭を優しく撫でて言う。
「―――母さんは○○○○なんかできないだろう。」
その真剣な瞳に俺はその言葉に驚き、声を上げる。
「……それ本当か?」
「確証はないが、お前の話を聞くと母さんは○○○○出来ない。」
少し寂しそうに口唇の端を上げた父さんと俺は黙ったまま、しばらく夜空を見つめた。