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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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Episode15【君の大好きな人になれない痛み。】

 竹刀の音が響き渡る。
緊迫の空気が流れる中、私は部活の終わりが近づくほどうるさくなる心臓の音を抑えながらただ、一人の男の子を見つめる。
真剣に瞬く優しそうな瞳、キュッと閉じた唇、サラサラな髪。
その姿を見続けるたびに苦しくなる。
苦しいはずなのにまだ、見たいと思う。
なのに。
「……桜庭先輩?どうしたんですか。」
いつも、しつこくつきまとっている私にでさえ笑いかけてくれる。
嬉しいはずなのに悲しくなる。
 だって。
あの子には恋をしている顔になるから。
―――あぁ、君の大好きな人になりたい。
「ちょっと時間ある?話したいことがあるの。」
「別にいいですよ。俺もちょっと……。」
帰りの支度も終え、彼の首筋には汗が伝っている。
二人っきりになった私は意識しすぎて頬が火照る。
熱い、顔の周りが熱くてたまらない。

「……あの、先輩の話って何ですか?」

“先輩”君と同じ学年が良かった。
―――君と一緒に過ごしたかった、卒業したかった。
 ただ、それだけなのに。
神様は初めて恋した本気で好きな人が出来たのに、その人にはもう好きな人がいるようにするんだろう?
「あのね、私。貴方が最初なの。」
「―――え?」
「本当は恋なんてしたことがなかった。憧れていたの、初めて本気になって恋した人が貴方なの。」
驚いた顔になって私の事を見つめる。
怖い、でも、伝えたい。
どっちかにしろ!!私っ!!
「泰陽君の事が好きです。薄々本当は気づいていた、好きな人がいるんだって。こんな悲しくて片思いで終わる恋なんかしたくない。だから……」
「……先輩。」
「だから、私の事をフッてよ?」
「先輩の言う通りです、俺には……。ごめんなさい。」
泣きそうな顔をしながら、いや、大粒の涙を流しながら俯く。
なんで、そんな顔するの?
私は貴方の事が好き。ねぇ、笑ってよ。
その優しさが胸をえぐるの。
「―――そんな顔しないでよ。綺麗さっぱりふっきれないじゃないの、新しい恋がしたいのよ!!協力してよ、そんな顔しないで笑顔でいて?」
「は、い……。」
「ねぇ。幸せになって、高嶺 千雪と。」
無理やり作った笑顔で言うとこくんと頷く。
これ以上、居られないと思い私は家に向かって走る。

…さっきのセリフ、どこかで聞いたことがあるな。
あ、笠寺だ。
もし、私がしたことが笠寺の言う一つの正解だとすれば私は前に進める。
良い事をしたって思って。
新しい恋も出来る、良かったって思っているはずなのに。
涙が止まらないのはなんでだろう?
笠寺、これをあんたもしたの?
独りでいたの?
胸がズキズキする。
 痛いよ。苦しいよ。

「……先輩。」
不意に呼ばれ、振り向くと私は驚く。
 色素の薄い風になびく短い髪、目がきりっとしていてモデルみたいな高身長。
片手には読みかけの本。そしてうちの制服――。
「……か、笠、寺??」
「―――先輩の事、俺待ってた。今日ぐらい、泣いとけばいいんじゃない?意地を張らないでさ。」
 そう、言ってくれる人を待っていた。ただ。解ってくれる人を――。


「―――泣くのは恥ずかしい事じゃないよ。泣いていいよ。」


 こんな風に、優しく受け止めてくれる人を。
「ぅうう……ぁ。」
笠寺は繊細できめの細かい白い絹のような腕で抱きしめて、私の頭を優しく撫でてくれた。
静かに泣き止まるのを待っていてくれて。

 『初恋は実らない。』

と、よく世間は言っているが、その理由は恋には慣れておらず重い女になってしまったり、気にしすぎてしまったりするからだと。
これは、私の事じゃない。
でも。
私なんだ。
―――失恋した後に、すぐ新しい恋が始まる。
っていう事をこの時の私は気づいていなかったのである。


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