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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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10~ 20~ 30~

*2*

Episode 1
 
 もうどうでもいい、そう思ったのは何度目だろう。


「うわ~‼今日数学のテストじゃんやばい予習してないっ」

「着いたらノート見せてあげますか?」
と、学校に行く通学路で、友達同士がしゃべっている。

実は俺も予習してないから、桜太(おうた)に見せてもらおう。
そう思っていたら、風になびくつややかな長い黒髪が目を通った。

―― 高嶺の花、高嶺千雪(たかみねちゆき)だ。彼女は成績優秀、容姿端麗のハイスペック少女で普段は笑みもこぼさない無表情だった。
しかし今日は違った生きている眼をしていない、寂しそうな光を宿していた。

道路を渡ろうとしたその時___


「……!」

赤信号なのに死のうとしているように見えた。




___気づいたら、彼女のとても細い腕をつかんでいた。___



「……どう、して?止めるの……?」
私の心の中に宿った小さな疑問は、口からこぼれていた。
あぁ……、どうしよう、、、目頭がジーンと熱くなるのが分かった。
こんなところで泣くなんて恥ずかしい、そう思ってぐっとこらえた。

「…!!やべっ!」
私の瞳に涙があふれだしてきているのに気づき、焦って立ち去ろうとする彼が視界の端に見えた。

「ちょっと千雪(ちゆき)…!!どうして今にも泣きそうな顔しているのよ!?」

――心配されてる!!話しかけられる!!ど、、、どどどうしよう!!

「泣かしたんでしょ!!ちゃんと謝りなよ!!泰陽(たいよう)」
″泰陽(たいよう)〟その名前にハッとする。

「……え!!俺?……ごめん」
「ていうか急に走らないで下さい!!危ないですよ、どうして飛び出したんですか?」

どうして?その問いの答えにドキドキする。

「…高嶺が死にそうに見えた……から」
みんながこっちを見る、逃げたい、ここにいたくない。

「……し、失礼します!!!」
「え、何ですか?もっとしゃべりたかったですね~」
「千雪、どうして?」
「……高嶺」
楽しそうにしゃべる少年と泣きそうになって去った少女に問いかける少女、少女の苗字をつぶやくと黙り込む少年がいた。

 あぁ耐え切れず逃げてきてしまった……感じ悪いなぁ私
″死にそうに見れたから〟確かに死のうとした。
『ちょっとかわいくて、勉強ができるからって調子乗んなよ!!』私がいると人を不快にさせる。

…………嫌だなぁこんな私、変わりたい、強くなりたい


――1-A  
「泰陽、お前遅せぇよっ!!」
「押すなよ、超イテー!!」
綾瀬君の周りには、楽しそうに笑う人たちが囲んでいた。

 綾瀬君は、人気者だ。優しくて、気配り上手で今日普段かかわれない私と綾瀬君がかかわったこと自体が奇跡のようだなぁ……
綾瀬君がこっちを見て笑いかけていて………もしかして私?なわけないよね…首を傾げると
「そう!!!高嶺だよ!おはよ!!!」
なんで高嶺さん?、どういう事?という顔でみんな見てくる。
うぅ……恥ずかしいなぁ。
綾瀬君は、そんなこと知らん顔で、私の隣に座って紙を素早く渡してくる。

 何だろう…開けてみると″高嶺が気分悪くしたなら、ほんとごめん。あんなこと言うんじゃなかったほんとにごめんな〟

違う、綾瀬君はわるくないんだよ?むしろ逃げてきた私を気にしてくれてあやまってくれたり、挨拶してくれたことにありがとうって言いたいくらいなのに………
″私こそごめんなさい、ありがとう〟こっそり紙に書いて机に置いた。


 中学は別々だった。でも、一方的に高校入学前から知っている。
中3の冬――太陽みたいだって思った。笑顔、性格、眩しいくらいに輝いて。
 ガチャ
家のドアを開けると、まっていました!!という顔で愛猫が飛びついてくる。
「ただいま!!チャロっ!」
『んがぁ~』
少しの間、じゃれあっているとテーブルに置いてある紙を見つける。
…………!!お兄ちゃんっ!来てたんだ。

″久しぶり、調子はどう?お前と食べようと思ったんだけどいくら待っても来ないから作っといたご飯先に食べといた。一人でもおいしく食べろよ。裕樹より〟

 ――両親は小さい頃から不仲だったため、別々に海外赴任中。
そんな家が嫌で、私を連れ出すためにお兄ちゃんは早くから東京で一人暮らし中。

ずっと一人、怠慢、自己責任。だから″寂しい〟なんて口が裂けても言えない。でもこのままじゃだめだってわかってるのに思い出す度に涙が溢れてくる。

「――っ」
抑えきれない、夜は嫌、怖い。
『んがぁ~』
「!ありがとう、チャロ」

その日は、涙をこぼさずに寝れた。

 よし、今日こそ!!
「……」
気合い入れすぎた、早く来すぎた?廊下に誰もいなかった。
でも、チャンスかも?
「……お、おは、よっ」
裏返った、今度は大きな声で。
「お、おはよ」
 ガラッ!
『高嶺?』
「う。」
っ!あ、あ、綾瀬君!!!気まずそうな顔をしている綾瀬君が見える。
消えたい、ここにいたくない……(泣)
「おはよう」
「……?」
今、誰に?
「え、何?シカト?高嶺」
――――私?
「えっ!違、いますっ!あの、おは、よう」
 ふっ クスクス
なんで笑っているの?綾瀬君は?
「え」
「いいよ、シカトしたんなんて思ってないから。そんなに一生懸命に否定しなくていいよ」
「え?どうして、シカトしたなんて?」
「一生懸命に挨拶の練習しているから、ただ、からかいたくなっただけ。ごめん」
 ブーっ ブーっ
綾瀬君の携帯電話が鳴る。
「あ、俺。うん、今日、寝起きよかったから早く学校行ったんだ。ん、言わなくてごめん」

挨拶してくれた、挨拶してくれたーーー私に、綾瀬君がっ!

――1-A
「はい、綾瀬君。テスト赤点、お前補習な」
「っはぁ!?まじかよ!?」
「俺が、お前に嘘、言ってどうする?」
「どんまい!泰陽っ!」
「え、ちなみに何点?」
「見るなぁ!!!寄るなよ、おいっ!」

 綾瀬君を囲むみんなの賑やかな声につられて、私も笑ってしまう。
「そんなに、補習が嫌だったら高嶺に教われよ。高嶺は満点だぞ」
その瞬間、みんなの目がこっちを向く。先生、そんなこと言わないでください……。

「高嶺先生教えて下さいっ!」
「俺も、教えて」
「高嶺さんっ!」

「ねぇ、A組で高嶺千雪による補習勉強会が開催されてるらしいよ」
「しかも、超わかりやすいんだってっ‼」
「え、行こ!」

「――ということで補習勉強は終わりにします。」
夢中になって、話したけど大丈夫だったかな?
不安になってきた,分かりやすかったかな?
じっとみんなが見てくる、そういえば他のクラスの人も来ているんだっけ。
 怖い
「高嶺さん」
みんなが、集まってくる。何を言われるんだろう、私は体をこわばらせる。
 ドキドキ、鼓動が速くなる。
手汗がすごい、暑い。
「ありがとう、とても分かりやすかったっ!」
「数学がこんなに分かったの、小学生以来かもっ!すごいね!高嶺さんって!!」

みんなが私を褒めている……?すごい、嬉しい。
こんなにもみんなにかこまれて、褒めてもらうのはいつぶりだろう。
感謝されている。笑ってくれる。
 心がポカポカする。
「ありがとう」
瞳に涙を溜めて、言った言葉は周りを固まらせるほどの彼女の満面の笑みは花もほころぶ、とても綺麗な笑顔だった。
その日から彼女の人気は、急激に上昇したという――。


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