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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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10~ 20~ 30~

*26*

strawberryflower5、【これからの私達、驚き。】


 ピピピ――――。
規則正しい音が部屋に響き渡る。

「くわぁ、、ぁ。」
カーテンを開け、朝日を浴びながら植物達に水を与える。
「……おはようございます。」
水やりを終えた僕はフラフラとベットを出て着替える支度をする。

「土曜日……か。」

着替えをしながら僕はカレンダーを見て溜め息を吐く。
昨日は金曜日。


 『桜太、ありがとう。』


好きな女の子と付き合って幸せだった、けど付き合えないってフラれた。
 哀しい。
昨日の事を思い出すとまだ、胸がチクチク痛む。
まるで、天国に行って幸せだったのに一気に地獄と突き落とされる気分。
「あぁ、、もう。」
声を漏らした瞬間、携帯がブブッと鳴る。
誰からだろう??と思い携帯を開くと驚く。
「うわ!!20件以上、同じ人から送られて来てる。」
身体を強張らせながらメールを開く。

[太田 苺香。]
どう接すればいい?

 ―END―

「……うわぁ、、唐突。」
で苺香ちゃんからはこの1件だけで他の19件は??
……はぁぁあ。なんだ、泰陽君達からだ。
まず、苺香ちゃんに返信を打とう。
不安で迷って今頃は起きる気力もないだろう。
そう思い、隣の部屋を見つめる。

『普通でいいよ。(^^)/』

よし、返信っと……。
次は泰陽君達。
こんな量、返信するより電話をした方が早いよね。

♪プルルルルル、、ブ―――――ッ!!

『はいっ。もしもし、こちら綾瀬の電話。』
「泰陽君ですか?あのメールの数何なんですか?」
僕が訪いかけると泰陽君が苦笑する。
 ??
『お前、中身見てないの?』
ええ、と返すと励ますように言う。
『桜太さ、苺香と別れただろ。』
 なんでその事を……。
疑問に思い考えていると長い沈黙の後、泰陽君から教えられる。
『千雪が別れたって苺香本人から聞いたって。納得すると思うけど、苺香の事が大好きだから相当な心の傷を負っているかもしれないからメールしといてって言われて。』
ご名答。
『俺。お前の気持ち、よく解る。』
は?……あの高嶺さんと仲良くやっている泰陽君が僕たちの事を??
『だって、千雪と俺。お前達みたいな事になったもん。千雪が距離を置きたいって言い出してさ、超ショックで倒れそうになってさ。』
へぇ―――……泰陽君大好きの高嶺さんが、意外だなぁ。


『きっと。苺香の心の整理がついたらもっと仲良くなれるから。まぁ、気長に待てよ。』


心の整理―――――か。
「はい。」
僕は電話を切るとベットに転がる。


「……こんな事している場合じゃない。早く学校、行かなくちゃ。」
そう思い、マンションを出ると僕は駅の近くにあるコンビニでお昼の食べ物を買って大学に向かった。
大学に向かう途中に女子高生二人とすれ違った。
「喧嘩かなぁ。」
「どうする?警察に、電話する?」
「えー、女の喧嘩なんかで警察来るの?」
女、という事だけで、苺香ちゃんの事を思い浮かべてしまうのはあまりに短絡的だろうか。
それでも、僕の心はザワザワと波立った。
「あ、あの。」
思わず声をかけた僕にすれ違った二人は振り返り、一気に頬を染める。
「喧嘩ってどこで……。」
喧嘩をしているのが苺香ちゃんとは限らないし、実際に彼女だったとしてもどうしていいか解らない。
女の子二人は不思議そうな顔をしていながらもコンビニのわき道から、駅裏を抜ける小道でもめている集団を教えてくれた。
「ツインテールでしたか?」とか、もっと具体的なことを聞けばよかったものの苺香ちゃんを探しているという事が知られるのが恥ずかしくて聞けなかった。
お礼を言って早々に立ち去りそのままコンビニの脇道に入っていくと、もめている声が聞こえてきたから喧嘩の現場はすぐに分かった。
「生意気なんだよね!!」
「桜太君に、近づくのはやめてくれないっ?!ってか別れろよ!!」
「不釣り合いすぎなんですけど~!」
怒鳴り声みたいなのが聞こえてきて驚いた。
その間も「桜太君。」という僕の名前が出てきながらも罵り合いが耳に入ってきた。
悪意と悪意のぶつかり合い。
僕が立っている場所から少し離れて、可愛いフリフリの服や派手なヒョウ柄の服を身にまとった女の子達が六、七人ほど立っているのが見えた。
その人達に対峙しているであろう喧嘩相手までは見えなかった。
「これに懲りたら近づかないでね?」
僕が来た時にはもう、勝敗はついているようだった。相手が見えないという事は、背中を見せている女の子達六、七人よりも相手の方が少人数だからだろう。
「……うるさい。」
姿は見えないけれど、聞き覚えのある可愛いらしくも熱のこもった声に僕は息を呑んだ。
声の主は――――――勿論、苺香ちゃんだった。
苺香ちゃん、やっぱり喧嘩してたんだ。

『最近、女の子達に絡まれるようになって――――集団で、ちょっとね。でも、大丈夫だよ。』

大丈夫じゃないじゃん。頼ってよ、僕の事。
「あんた達に決められる事じゃないでしょ?!こんな事しか出来ないってクズじゃん!!!」
久しぶりに聞く怒りに埋もれた声、この声を聴くのは2度目だ。
高校一年生の時―――――初めて聞いた苺香ちゃんの怒鳴り声。
僕の知っている、あの可愛らしい余裕のある感じはどこにもなくて、切羽詰まったような声だった。


「こんな事をする暇があって悔しかったら桜太にでもアタックしてみろよ!!」


苺香ちゃんの言葉に反応して、女の子三人が足を、胸を蹴り始めるのが分かった。
音までは聞こえなかったけど苺香ちゃんが蹴られたのは明白だったから僕はギュッと目を伏せて拳を握りしめた。
こんなことをしている間に大切な女の子が暴力を受けているのに。
僕は、どうしたらいいんだろう。
きっと泰陽君や藍君だったら、大切な女の子を護りたいと思って飛び出すだろう。
僕だって………そうなりたい。
苺香ちゃんだってもう、黙っていればいいのにさっきので喧嘩は終わりっぽい雰囲気だったのに黙らず挑発を続けていた。
一対六、七。苺香ちゃんは多分一人で劣勢。圧倒的に不利だ。
「やめろ……。」
助けたい、なんで僕は泰陽君や藍君みたいな勇気を持っていないんだろう?
なんで意気地なしで非力で無力なんだろう。
変わったのに、新しい自分になれて苺香ちゃんを守るって決めたのに。
小さく叫んだ声は届かない。
「恥ずかしい事よ!!!」
響くのは苺香ちゃんの声。
苺香ちゃんは、男よりも勇気を持っていてカッコいい。
男なのに男の出来損ないの僕は黙ってみているしかできない。
恥ずかしい、守りたいものが目の前に居るのに。
「あんた達は桜太の事を何にも知らないじゃないっ!!私は……っ!!」
その声があまりに苦しそうで僕は聞いていられなくなった。
同時に涙が溢れ出してきた。
「やめろよっ!!!」
女の子達の集団が、一斉に振り向く。もう、なりふり構っていられなくなった。
息を大きく吸い込んで、自分の出せる一番の大声を出した。
「その女の子に手を出すなっ!!苺香ちゃんの事を傷つけるんじゃないっ!!」
大声を出した僕、、ではなく僕がいることに驚いた彼女達はバタバタと僕がいる方とは、反対方向へと逃げて行った。
女の子達がいなくなると、視界が開けて座り込んでいる苺香ちゃんの姿が目に映った。
その姿を見た瞬間、弾かれたように足が動いて、僕は彼女のもとへ駆け出して行った。
「苺香ちゃんっ!!!」
「お、桜太…?」
近づくと、苺香ちゃんの姿はかなりボロボロだった。靴で蹴られたせいで可愛くお洒落な最新コーデは土がついているし、口元は切れて赤い血が滲んでいた。
慌てて鞄から、使ってない予備のタオルハンカチを取り出して、しゃがみ込むと苺香ちゃんの口元に、そっとハンカチを当てた。
「痛い。」
「え?あぁああ、、、、ごめんなさい!!」
手を引っ込めようとすると手頸をか細い震えた手で掴まれた。
「桜太、こんなところで何をやっているの?」
「え?えーと……。」
僕は迷った、苺香ちゃんが喧嘩していると思い来たなんて言ったら“気持ちが悪い”言って言われてしまうかもしれないから。
恐い。
「……。」
「まぁ、助けてくれたんでしょ?」
さっきまでの緊迫した空気が嘘のように声を出す。
怒りに燃えた顔つきではなくのんきなフワっとした顔で笑った。


「――――――ありがとね。」


「私の事、助けていたけど。すごく悩んだよね。」
「っ……。」
心配そうな綺麗な横顔だけれど、口元の赤い傷跡が白い肌が目立たせて痛々しく感じた。
「大丈夫だよ。」
僕が傷跡を気にしていたのを察して微笑む。
「だって舐めてたら自然に治るでしょ?」
そう言ってペロッと悪戯っ子のように口の横を舌で舐めた。
その仕草が、なんだか色気があって、急激に心音が騒がしくなった。
怪我をしている苺香ちゃんに、ドキドキするとか、どんだけ不謹慎なんだ。
僕は!!
恥ずかしくなって俯きしゃがみ込んでいる僕を見て、すくっと立ち上がる。
「ほら、立って。大学の時間、過ぎちゃったしご飯食べに行こう?」
買ってきちゃったんだと話すと「じゃあ、いるだけでいいよ。」と笑う。

「――――もしかしてだけど、腰抜けちゃったの?」

ギクッとしている僕に腹を抱えて笑う苺香ちゃん。
元通りだなぁ。
胸がポワンと温かくなったのは気のせいだろうか?



「……ごめんなさいっ!!はい、、傷、ちゃんと治します。はい、2キロ痩せてきます。失礼します。」
 ピッ!
オムライスを食べながら、はぁああっと大きな溜め息を吐く苺香ちゃんに僕は聞く。
「どうしたんですか?」
「事務所の社長に顔に傷つくった事、超怒られたの。それで一か月お休みとなったの。」
はあ。
「――――苺香ちゃん、ごめんなさい。」
僕が突然謝ると、キョトンと瞬きを繰り返す。
「え?」
「喧嘩の理由、僕ですよね。」
苺香ちゃんがギクリと肩を震わせ、石像のように動きが止まる。
 やっぱり。
僕なんだ、喧嘩の理由。
「……どうして分かったの?」
「名前が喧嘩の最中に。」
なるほど、と頷きじっと僕を見つめてくる。
「別れろって言われた。――もう別れてんのに。」
“別れる”その単語を聞くと苦しくなって胸が締め付けられるように痛くなる。
「許せなかった、何も知らないあの子達に。桜太の事を言われるのが、私の事を大切にして我慢して辛いことがあるってことを知らないのにただ、、それだけ。」

それだけでこんな傷を?

それだけの為にあんなことを?

「馬鹿ッ!!!」
僕がそう叫ぶとビクッと肩を揺らす。
……僕の為に。
こんなのあんまりだ。
酷すぎる、だって知っているはずだ。
僕自身の事よりもあなたの方が好きで大切なのに。
僕の事でこんなにボロボロになって傷をつくって……そんなことより自分の事を大切にしてほしい。
「僕の事なんていいですよっ、自分の事を大切にして下さいッ!!」
「へ??」
苺香ちゃんは、心底解らないような声を漏らす。
「自分の事よりも僕は――――貴方の事が大切で好きなんです。」
「うん。」
「だから、僕の事で体を傷つけるのは苦しいんです。」
やっと解ったような顔をして、ニコッと微笑むと僕に近づく。
「私の為に悩んで、心を痛ませて心配してくれてありがとね。」
まるで小さい子をなだめるようにポンポン頭を撫でてくる。
ああ、好きだなぁ。

この温かい手も顔つきも、心も、行動も。

優しさも、この人の全てが大好きだ。

どうしてだろう、こんなにも愛おしく感じるのは―――。

「また、こうして手を繋ぎたい。恋人になりたい。」
そう発言すると極端に顔をしかめる。
「大好きです、恥ずかしいくらいに今、苺香ちゃんの事が。」
「……ッ!」
苺香ちゃんは顔を悲しそうにしながらも真っ赤にして頷く。


「いつまでも、待ちます。――――苺香ちゃんが僕と一緒に居たいと言ってくれる日まで。」

僕の真剣な想い、ちゃんと君に届いただろうか。
そう―――あの時、彼女のせいで鼓動の速くなる胸を抑えながら不安に浸った。
今では僕の良い思い出。
「パパ~!!行くよぅ!!」
「早く、早くぅ!!」
可愛い双子の声が聞こえる。
僕の可愛い娘と息子の声と次から聞こえる愛しい妻の声。
「あなた、待っているわよ!!」
「はいっ!!」
外に向かって駆け出す“僕”はあの頃の僕に向かって心の中で言う。


―――あの頃の僕は知らない事だろう。
あの時、一番に大切で愛おしく感じていた彼女と新しい命が産まれ楽しく結婚生活を送っていることも。
想像もつかない事だと思うまさか、結婚までして出産もして双子の赤ちゃんがこんなにも大きくなっているって。

さあ、あの頃の僕。諦めず、彼女の事を待つんだ。強く想いながら。
大学を卒業して僕は花屋を継ぎ彼女はトップモデル、デザイナーとして活躍する年――――12月24日、彼女は僕にお付き合いと結婚の両方と申し込んでくる。
その結婚式も終わり二人の時間もとれないまますれ違って喧嘩した日もあった四年目の春、僕らの可愛い双子の赤ちゃんができる。
子供たちは無事に生まれ、卒園、小学校に入学をした「この日。」“僕”は今、あの頃の自分に向かって言う。
「頑張れよっ!!」
と、僕は知らないまだ先の事。
彼女との恋は終わらない、赤い糸は切れない、運命という言葉の言う通り。
楽しい生活が待っている、笑顔溢れるこの結婚生活が――――。


fin

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