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花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
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*25*

strawberryflower4、【イメチェン&大学デビュー。】


 授業終了のチャイムが鳴って女子が一心不乱にある男の周りに駆けていく。
そのある男というのは……。
「奏君、奏君っ!!テニスサークルって興味ない?」
「とりあえず、合コンいかない??」
「付き合ってくれませんか!好きです、これでもう11回目ですよっ!!OKしてくれませんか??」
「桜太君。あの将棋サークル一緒に入らない?」
「今日、時間ある?」
「あのさ!太田さんと付き合ってるってホントなの?」

続々と私の彼氏――――奏 桜太に女子達が群がる。
何故、こんなにモテるようになったかというと……。
モテモテになった理由その1。
桜太は何より癒し系男子で皆に気遣いが配れてレディーファーストなもんでその自然な紳士な振る舞いに心を掴まれている。

モテモテになった理由その2。
桜太は大学入学前、私と付き合うから不釣り合いで居たたまれないっと言って美容室にて。
髪も切りチャームポイントの一つの黒縁眼鏡をやめてコンタクトレンズにした事、これが最大の原因だ。
とっても、カッコよくなった。
か弱い女の子みたいじゃなくてしっかりとした癒し系男子!!男の人になった。
私自身は眼鏡をしてる方が好きだった、桜太のくりくりな大きな目が引き立つからだ。
髪もふわふわの何もしていない方が好きだった。伸ばしている方が好きだった。
……まぁ、今も好きなんだけど。
ってか、私と付き合っているって知ってるはずなのに皆ギラギラして狙ってるの??
ムカつく。
「桜太、帰るよ。―――どいて。」
苛立ちながら堂々としている私がギンッと睨み付けると女子たちはビクッと肩を揃いもそろって揺らす。
桜太のいつの間にか硬くなって男の人の手になった腕を乱暴に掴むと私は大学を出て人がいない場所で立ち止まる。

「……なんで、なんで桜太は否定しないのよ。私と付き合ってるからごめんって言えばいいじゃないっ!!」

「あの、、苺香ちゃん?」
心底解らないようなおっとりとした優しい声が胸をさらにえぐる。
様々な記憶が同時によみがえっていく。
 痛い。
胸がカッと熱くなりながら痛くなる。
何もしていない桜太まで嫌になっていく。
「どうしてよ、どうして……ッ!!!私と最近帰ってくれないのよ、ヘラヘラ笑っているのよ。なんで桜太がそういう風に寂しそうな顔をするのよっ!!」
自分がもう何を言っているのかも解らなくなってきた。
胸が苦しい、締め付けられるようで―――。
冷静にならなくちゃ、頑張らなきゃ。
そう、自分に言い聞かせながら声を絞り出す。
「―――……ごめん。苛立ってた、怒鳴っちゃって怖がらせた。」
「いえ……。」
戸惑った、震えた声が聞こえてくる。
何、怖がらせてるんだろう……?
知ってたはずだ。
誰よりも優しく、自分の事より人の事ばかり考えているって知ってた。
そんな桜太が断ることも出来ず肯定も否定も出来ず頷いて笑っているしか出来ないって。
本当は解ってたんだ。

「連れ出しちゃってごめんね。これから仕事があるからまた、あとでね。」

突き放すように放ったこの言葉は酷く深く桜太の胸をえぐり、頭を悩ませるだろう。
もっと、明るい感じで話したいのに。笑顔で。
上手くいかない。
なんで?
いきなり、哀しさがこみあげてきた。
涙を呑み込んでこの場から逃げようとすると手を掴まれた。
「苺香ちゃん、、、あの。」
私に何を言うのか解らないが、迷っているようなそんな顔をしていた。
「そんな、ヤキモチを妬かれても困ります。」
ヤキモチ……??
頬が熱くなる気がした。
今、私の顔は唐辛子のように真っ赤になっている事だろう。
桜太も真っ赤になりながらも私に近づいてくる。


「―――――――僕は苺香ちゃんだけです。苺香ちゃんだけしか見えていません、安心してください。傍にいますから、ね。」


そう言った瞬間。
手を、腕を優しく掬い取るように掴み取られた。
何だか一瞬、凄く恐かった。
これまで私は、普通に握手したり、友達を抱きしめ合って拳を突き合せたりしてきた。
けれど今、桜太が伸ばした手は、それらとは決定的に違うものだった。
いつものするような手の繋ぎ方でも、抱きしめ方でもない。
男の人、、、だった。
スラリとした綺麗な指だったけれど、そこから私の知らないものが伝わってきた。
身体を強張らせていると、桜太はちょっと笑い、すぐに手を離した。
「恐いんですか、僕の事?」
私は答えられず、ただ、黙って桜太を見た。
桜太は何かを察したように、大きな溜め息を吐く。

「僕も、、、恐いですよ。」

両手を上げ、今度は頭の後ろで組んで綺麗な青空を見ながら歩きだした。
「僕、今まで失いたくない人全部失くしてきたんです。実は僕の本当の両親は小学生の頃に亡くなっているんです、、本当の事を伝えられたのは中3の頃です。」
儚げに青空を見上げる桜太の横顔は、胸が痛くなるほど綺麗だった。
「たらい回しに家を転々として姉と一緒にさまよってたんです。そんな時に今の両親に手を差し伸べられて、小2でした。」
たったの小2で……?そんなことが。
小さいはずなのに大人になっちゃったんだ。
私はそう思うと自分がそうなったら、と考えたらとんでもなく哀しくなった。
穏やかで大人な感じがしても、どこか寂しそうで迷子のように見えたさっきの桜太を私は自然と思い出す。
海のように広い不安の中を漂っていた。
「――――苺香ちゃんも離れて行ってしまうのかなって、そうなのかなって想うと凄く恐いんです。」
私の方を少しも見ずにそう言って、哀しそうにまた黙り込む。
私、そんなことも知らないで。
ずっと、傍にいるよ。
どこにも行かないから安心して。
そう言えなかったのは、さっき生まれた恐さのせいだった。
これって何だろう?
なんで、こんな風に感じるんだろう。
桜太の事が苦しくなるくらい、大好きなのに。
戸惑いながら私は黙って歩き、やがてバス停に着いた。

「――――――じゃあ、帰ってくるのを待っていますね。」

帰っていこうとする桜太を、慌てて私は呼び止める。
「今日はありがとう。安心させてくれたり辛い事を私に話してくれて送ってくれたり。」
「青空を見ていると本当の気持ちを打ち明けたくなるんです。」
わずかに微笑んで私の髪を優しく梳いた。
「誰にも話したくなかった事を話せたって事は、僕、苺香ちゃんの事をとても好きなんですね。」
まるで宝物を発見した子供のように、顔を輝かせる。
「多分。―――自分自身より、ずっと好きで大切なんですよ。」
一途な感じのするその見つめる眼差しが、とても可愛らしかった。
私の中で、恐さがすうっとしぼんでいった。

***

 楽屋に入ると私は撮影の準備をする為、机に座った。
服を着させてもらいながら考える。
あの時。何で、あんなに恐かったんだろう?
それは、多分……。
自分の心の中を手探りし、その答えを見つけ出す。
それは多分、あの手から指先から桜太の世界が流れ込んでくるような気がしたからだと思う。
私の知らない桜太の世界。
男の人の桜太の世界、辛い記憶の世界。
それが突然、押し寄せてきて、いつもと違う桜太がどこかに居て。
自分の世界と混じり合ってしまいそうだったから。
付き合うって互いの世界を混ざり合わせながら、そこに2人だけの新しい世界を創り出していくって事だと思う。
今の自分の世界を護りたいとか、このままで言い、変わりたいとか思ているんだ。
きっと。
私は、ブルッと首を横に振った。
こんなんじゃ、とても付き合えないし。桜太に哀しい想いをさせてしまうんじゃないかって。
好きな人の影響を受けて自分が変わっていくのが楽しいとか、そうなりたいとか思えるようになって初めて、付き合いや結婚というステージに踏み出せるんだ。
私はまだ、自分の世界を大切にしていきたいんだ。
それを守って、自分の力で幅を広げたり奥行きをつけたりし、これが自分なんだと確かめたり、さらに深く追求してたりしてみたりしてみたい。
それが、何よりも楽しいことに思える。
私は、まだ付き合いや結婚をする時期じゃない。
そう思いながら、迷い子のようだった桜太の顔を思い出した。
見ているのが辛くなるほどの孤独の中に立っていた。
失いたくない人を全部失ったという桜太を、支えたい。
でもそれには、一緒に新しい世界を創っていくしかないんだ。
その間に、私は自分の世界を変えてもいいと思えるようになるんだろうか?


――――支えたいという気持ちは今は“恋人”としてではなく“心友”としてだと自分自身が言っている。

私は桜太が異性として恋人として好きだし、支えてあげたい。
でも。
解らない、、どうすればいいんだろう。
「――――私、桜太の事、また迷い出してる。」
私は仕事が終わって、大親友、心の友のもとに電話を掛けた。
そう言うと、戸惑ったような心配そうな声が聞こえてきた。
『えっと……奏君と付き合うのをやめるとかを迷っているの?』
私は頷きながら言う。
「……やっぱり、私には誰かと付き合うとか早い気がするんだ。でも、桜太の事が異性とか恋人として好きだし支えてあげたいの。だから、どうしていいか解らなくて。」
長い、沈黙の後に慰めるように言う。

『―――その気持ち、よく解るよ。私も泰陽君との距離感、悩んだ。恐かったんだよね、男の人って感じで知らない泰陽君が居るって。』

千雪も――――……同じなの?
『大丈夫だよ、皆悩むと思う。誰の為でもなく苺香ちゃんの為、、自分が良いと思う事を選びなよ。』
「え。」
それでいいの?
桜太は、私や皆の事を考えてくれているのに―――?
私に誠実に向き合ってくれているのに。
『だって。きっと奏君だったら解ってくれると思う、苺香ちゃんの事ばかりを考えているんだもの。』
「……。」
千雪の声が、、、不安を打ち消すように声が響いてくる。
胸がジーンとした。
『距離を置くでも頑張ってみるでもどちらも正解だと思うよ。恋人としても友達としてでも奏君の事を十分に支えられるでしょ?』
千雪はここに居ないはずなのに、頭を撫でて励ましてくれるように千雪の姿が見えた。
『離れていても、いつだって私は苺香ちゃんの味方だから。』
千雪の世界が、丁度の良い形で私の世界に寄り添ってくれているのが解ってとても安心した。
その時、はっきりと感じた。
ああやっぱり、こういう状態が今の私には似合っているって。
まだここに、留まっていたい!!
『元気を出してね。』
 ブツ―――ッ。
「お帰り。」
振り返ると、マンションの窓から穏やかに微笑みながら水銀灯の光を斜めに浴びて、桜太が手を振っていた。
久しぶりに眼鏡を掛けていた。
懐かしく感じて胸がジーンとした。

「今日は、ビーフシチューですけどいいですか?」
桜太がエプロンを着て手料理をふるってくれる。
 フワ……ッ。
ビーフシチューの美味しい匂いが香ってくる。
思わず涎が出てくる。
「フフッ。盛り付けが終わったので食べて下さい。」
 パクパク!!
お、美味しいぃい!!
なんて美味しいんだろう?
「お口に合いますか?」
「勿論だよっ!!」
そうですか、と微笑む桜太。
 あぁ幸せだなぁ。
「――――――ごちそうさまでした、美味しかった!!」
片づけに行って私は食器を洗い始める。
「良かったです。」
洗い物が終わり二人の時間に入る。
よし、、、言おう。
真剣に席に座るように言うと桜太は渋々席に着いた。
「苺香ちゃん、今日僕に言いたいことがありますよね?」
 ドキッ!
何故それを??
ってか、言う前から気付かれてる!?

「……それは、僕にとって悪いことのようですね。」

哀しそうに目を伏せる様子が痛々しかった。
毒づかれたようにピリピリと胸が痛んだ。
私はこの状況に流されまいと大慌てで深呼吸をし、背筋を伸ばして桜太を見つめ直した。
ためらいながら、、、けれども言うしかないと思い口を開いた。
何度も言おうと思い昼間から練習した言葉、ごめんなさい、お付き合いは私にとって早いものだと感じました。距離を取りたいんです、本当にごめんなさい、それを言おうとした。
でも、言えなかった。
涙が先に出てきてしまいそうだったんだ。
桜太を傷つけるのが恐くて、それが嫌だったし、失うのも悲しかった。

「ごめん、ちょっと待って。」

ようやくそう言って、自分の心を落ち着かせようとした。
桜太がちょっと息を吐く。
「本当に苺香ちゃんの顔と心は素直ですね。素直すぎても困ります、気持ち全部顔に出ていますから。」
そう言いながら身をひるがえして、ドアの方に歩く。
「解っていますから、言わなくてもいいんですよ。大体予想はついていました、距離を置きましょう。って言っても別れましょうって意味なんですけど。」
あぁ、、、言いたいことを全部言われたっと思い俯くとクスッと笑い私に片手を伸ばす。
その瞬間、私は爆発しそうになった。
ババネロみたいに真っ赤な顔になって。
桜太は大事なものを抱きしめるように私を優しく悟るように頭を撫でた。
何だかこう言われているようで泣きそうになった。
“心配はいりませんよ、苺香ちゃんの気持ちは全部、解っていますよ”って。
「離れていても、僕は苺香ちゃんの味方です。星みたいに見ています。」
綺麗に瞬きをしながら。
「桜太、ありがとう。」
 大好き。
にこっと穏やかに微笑みながら桜太は私の部屋を後にした。

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