完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

花と太陽  遂に完結!!長らくお世話になりました。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 33ページ)
関連タグ:
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~

*28*

ヤマザクラ1、【再会。】

 私は、大学の授業中、静かに深呼吸をする。
みんな真剣に問題や先生の話を聞いている。カリカリとシャープペンシルが紙の上を滑る音だけがする。
―――……落ち着く。
薄く笑って、それから問題を解く。

この時間は効率が良く、好きな時間だが家に早く帰って千雪と喋りたいという気持ちもある。
今日は一緒にモンブランでも食べようか?
うーん、、ショートケーキも捨てがたいなぁって……。

「………はぁ。」
集中しなくちゃ、問題解こう。


ふと、隣の席の男が使っている電子辞書が目に入る。
あ、あれ―――……私が買おうか迷った最新機種っ!!
 いいなぁ。
私が使っているのは、中学のころから使い込んでいる紙の辞書。
別に、不自由はしてはいないけれど、電子辞書は引くのが早くて羨ましい。
それに、あれ一つで国語も漢和も英和も和英も全部カバーできる。持ち歩く荷物が減る。
超高くて諦めたんだよね。
うっとり見つめていると、隣の男に気づかれた。
「何?―――……電子辞書欲しいの、桜庭サン?」
知らない男に名前を呼ばれ、私は慌てて目を逸らす。
「……いえ、別に。」
「欲しいなら、あげようか?」
「えっ!?」
思わず食いついてしまった私に、男はニヤッと笑って、自分の電子辞書を額辺りまで持ち上げた。
「はい、あげた。」
―――……小学生か、いや、幼稚園生か。
私はイラッときて舌打ちをする。
ニヤニヤ笑っている男は、高価そうな絹の洋服を着ていて腕時計も一千万は軽く超えるだろう。
……コイツ、病院のお坊ちゃんとかそういう系の男だ。
物凄くお金持ちそうだし、何より自信満々の目、高価な時計に洋服。
富裕層め、、、くそ。
悔しい気持ちを隠しながら得意げそうに机に向かう彼を横目で見る。
ノートに目を向けたら、一色 全、と名前が見えた。
あの、一色グループのお坊ちゃんか。
一色グループは世界的な大財閥、そして大学病院の家系。
普通の富裕層じゃなくて上の上。頂点ぐらいに君臨する家の子か。
―――……ますます、イラつく。悔しい。
「まだ、何か用?」
ニヤニヤ話しかけられ、私はそっぽを向く。
「いいえ。」
そうだ、を散らしている場合じゃない。
集中集中。
勉強をしに来ているんだから。


***


「―――……え、合コン?」
「そう、女子が二人、男子が一人ずつ足りなくて―――一緒に行ってもらえると助かるの!!」
「へぇ合コンねぇ。」
校門で千雪と話していたら女の子が物凄い形相で走ってきた。
「この機会潰れたら、次いつになるか分からなくてさっ!彼氏欲しいのっ!!来てくれるだけでいいから、お願いっっ。」
「あの、、、美麗さん。もしかして行きたいの?」
千雪が心配そうに見つめる。
嫌、、別に。
「私が原因?」
「違う。興味がない。」
そうこう言っていたらグイっと掴まれる。
振り向いたらそこには一色君が居た。

「桜庭サンが行くんだったら、行ってもいい。」

「ホント!?」
「うん、桜庭サンがいるんなら。」
ポンッと頭に手を置かれ、弾くように急いで手を振り払う。
皆にじっと見つめられて私は渋々口を開く。

「―――……解ったわよ。行きます、行かせてもらいますっ!!」

「いい人いるといいね。」
そんな微笑みを向けられたら頑張るしかないでしょ。

 彼氏とか出会いとか夢だし欲しいけどさ。
どうせ、簡単にはそんなの降ってこないだろうし。


「はーいっ!!じゃあ、乾杯っ!!」
皆が喋り出す。
「えー、うっそ。皆可愛い!!」
「マジ彼氏いないわけ――!?」
えー、口がうますぎ!!と嬉しそうに赤らめる。
こういう空気―――……本当は苦手なんだよなぁ。
黙って緑茶を飲んでいると話しかけられる。
「美麗ちゃん、美麗ちゃん。」
「美麗ちゃん。苗字、桜庭っていうのー?」
うるさいなぁ―――……。
「そうだけど。」
「可愛いね~!!」
つまらないなぁ―――……なぁんて思っちゃいけないよね。
本気の人だって大勢いるわけだしさ。
「君―――……君ッ!!!」
気色の悪い声が聞こえ、私は体を強張らせる。
「私っ??!」
「そう、君!!」


「―――……何、向こうのテーブル。」
「合コンやってんの?」
「ぽいね。――なんか声が大きい人いるね。」
離れたところにあるテーブルで男達が見つめる。

「名前は!?」
何なの、この人。
私が戸惑っていると顔を近づけて男は圧をかけてくる。
「さ、桜庭。」
「じゃなくて、下のッ!!」
怒られ、私ははさらに慌てる。
本当になんなの、怒ったり怪しげに笑ったり、気持ちが悪い。
グルグル考えながらも私は気持ちが悪すぎて震えた口を開く。


「―――――――み、美麗。桜庭 美麗。」


その名前に反応してずっと見ていた男が振り向く。
「美麗ちゃんか~、僕占い得意なんだよねぇ。」
はぁ、占い??何コイツ、超胡散臭いんだけどっ!!
「あー、見てあげるね。」
グイっと手を触れ、私は気持ちが悪すぎて体を強張らせる。
 さわさわ。
どうしてそんなに触る必要があるのよ!
そう思ったけど口が開こうともしない。

「……………。」
男がじっと見つめているテーブルの先にはぎゃあぎゃあ騒いで合コンをしている美麗たちのテーブルがあった。
「え、そんなに気になるの?あの子たちの合コン。」
「あ、気持ちが悪いなってあの人。」
男はヘラっと笑うと怒りに塗れたような顔になる。
「もしかして、世直し??」
「いや、まだ泳がす。」
「まだ!?」


「――――……だって、ヒーローは遅れて登場するでしょ?」


「美麗ちゃん、大丈夫??」
「―――――ぁ。」
「そうだ。ほっぺ、触ってあげるよ。僕がこうすると元気出るよ~!!特別だからね、美麗ちゃん可愛いしッ!」
ほっ、ほっぺをコイツに?!
気持ちが悪い――――顔を伏せなくちゃ。
あれ、、、身体が動かない、怖い、助けて―――!!
ギュッと目を瞑っていると低音の気持ちが悪い呻きが聞こえてきた。
「ウエッっ!!離せよ!!」
そっと、目を開けるとそこには――――。

「…………久しぶり、先輩。」

優しく凛とした声、色素の薄い風になびく短い髪、繊細なきめの細かい白く私の腕を掴んだ大きな手――。
目がきりっとしていてモデルみたいな高身長。
「か、さでら―――!?」
そう呼び掛けると悪戯な笑みを浮かべる。
「悪いけど、この人帰るって。」
嘘、嘘嘘!!
なんで、笠寺がいるの??
呆然と見ているとクスッと鼻で笑い頭を触る。


「ほら。帰るんでしょ、先輩。」


手を差し伸べられて私はこぼれそうな涙をギュッと振り絞ってこぼれないようにしてフッと笑って見せる。
「何よ―――カッコつけてさ。」
「ヒーローになりたいので。」
「……あっそ。」
なんでヒーローって思ったけど何も言わなかった。
ただ私は素っ気なく相槌を打ち、掴まれた手を、彼の後姿を見つめた。
素直じゃなくてごめん。
本当はね、飛びついて泣きたいくらいに。
怖かった。
でも、見せたくないから口をキュッと噤むしかできないんだ。
素直に吐き出せないから―――……。
「―――――なんで、助けてくれたの?」
家路に着き私がそう言うと笠寺は振り向く。
眩しい微笑みを向けて、


「――――……ないしょ。」

と言った。
月光に当てられ、色素の薄い髪が瞬間、風になびく。
 ドクン。
とても綺麗で私は息を呑んだ。
鳴りやまない心臓の音、体温が急激に上昇して体が火照ってくる。
もし、この騒がしく鳴り響く心臓の音を止める事が出来る方法があったとしても私は知りたくない。
「―――合コンをするぐらいに彼氏が欲しいんだったら俺がなりますよ。俺と付き合いましょう、桜庭先輩。」
あくまで声だけが、怖さで震えているように聞こえた。
 ドクンドクン。
驚いて振り返ると満更ではないような顔で私の事を見つめ返してくる。
「嘘吐き。」
「本当、ですよ。俺は本気です。」
私はなんでこんなにも笠寺の本当だとか本気という答えが嬉しくも感じるんだろう。
「―――……おやすみなさい、桜庭先輩。」
「おやすみ、か、かさでら。」
別れを告げて、私は家に入ろうとした。
でも。
私は笠寺を呼び止めた。
「か、、笠寺!!!」
呼び止めると綺麗な髪をなびかせて振り返り私の事をじっと見つめた。
「……あの時、助けてくれてありがとッ!!」
お礼を言った瞬間、私は恥ずかしくなって逃げ出したくもなったけどもここに居たいと思った。
「こちらこそ。それじゃあ、また明日。」
この言葉が聞きたかったから。
彼の口から発する“また明日”の言葉が私の胸を躍らせた。
ボールみたいにさ。
弾んで。
――――私の世界に何の脈絡もなく現れた。
2度目のこの感情のやませ方なんて私は知りたくない。

27 < 28 > 29