完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

君を想い出すその時には君の事を――。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 23ページ)
関連タグ:
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~

*17*

第2章 第9話;「自分の運命を決める闘い。」 【記憶。】

『九条 総司か日野西 穂高か。恋する者をはっきり選べ。』

そうすれば全てが知れる。
その時、突然―――………二人の言葉が頭に蘇ってきた。

『元気出せよ、藤花。』
穂高の声。
『君を護る。』
九条君の声。
選ぶなんて、こんなにも想ってくれる人を天秤に掛けられないよ。

カキィン。

夕暮れになっても二人の戦いは決着がつかなかった。

「次の一撃に残るセグレード能力全てを込める!」
「俺もそう考えてた。おまえに俺の全てをぶつけるっ!」

本気の勝負をしてる。やっぱり、天秤にかけられないよ。

『どちらを選ぶか決まったかい?』

二人を見つめる私に化身が問いかける。
決めなくて恋は成立せず、全てを知れないと。
その時、穂高と総司が叫ぶ。

「「藤花と戦うのはこの僕(俺)だー!!」」

ぶつかりあった二人が光に包まれた―――……。

***

気が付いた時、日野西と僕は共にベッドの上だった。

「「試合はどうなったんだ!?」」

そう様子を見に来た司会に訊ねると、良いですか?と聞かれる。
「試合は引き分けで~す!!残念でしたッ!」
そう告げられて、マジかよっと顔を見合わせた。
「ボスへの挑戦権はお嬢が貰いました。今も闘っていて…………。」
その言葉を聞き、僕達は会場へと走った。

激しい父娘の戦い。
「やぁああ!!」
私は足蹴りをするが、かわされてしまう。

「強くなければ優しくなれない。優しくなれなければ、組織ー全員に分け隔てない愛情を注ぐ事など出来はしない、今よりもっと強くなれ!」

ボスとしての心構えを込めた拳が休みなく私へとぶつけられる。
「お父様…………私!」
そしてお父様の言葉にようやく私も答えを導き出した。
穂高の優しい想いと九条君の強い想いを天秤にかけていた自分―――……それは間違ってる。
私は目から溢れる涙を止められなかった。
「ごめんなさい、父様………。」
お父様が望んでいたのは打算で愛するような人間じゃない!
「何を謝って動きを止めているんだッ、藤花!!」
と拳を当てられそうになったその時、不思議な声が聞こえる。

『欲していたもの………それは誰かの思いに正面から答えられる強く優しい心。』

一番願わなくてはならない事に気付いた。
『難問を突き付けてしまったことはすまないと思っている。約束通り、全てを見せよう。』
意識が遠くなって急に眠たくなってしまった。

***
「「倒れた!?」」
僕達は顔を見合わせる。
姐様は困ったように
「えぇ、、大丈夫かしら。」
と言う。
その時―――……日高さんの自室で看病していたメイドが叫ぶ。
「大変です!!お嬢様がッ!?」
その表情に自室へと向かった。
「藤花ちゃん?大丈夫なの?」
倒れて二日も寝ていた藤花はやっと起きたと知らされて姐様は何度も話しかけるが、言葉を発しなかった、目も虚ろになって表情もなかった。
「………。」
「大丈夫なのでしょうか、奥様。」
「大丈夫よ、きっと―――……。」
僕達は姐様の心配そうな横顔をただ見ているしか出来なかった。

***
何もない世界―――……ただ存在しているのは私と能力の化身だった。
最初は獣の姿をしていたけれど、若い女性の姿に変身して
『それでは、話そうか。』
と言った。
『じゃあ、君の父親に封印される前日の話をしよう。』
冷や汗が噴き出してきた。
『……九条 総司が主の元婚約者で従兄だという事は知っているな?』
「えぇ。」
返事を素早く返すと、満足気に笑う。
『九条 総司の両親は主の父親を暗殺し自分達が組織を乗っ取ることを計画していた。九条 総司を主の婚約者にして―――……。』
話しと共に映像が流される。
そこには九条君に似ている顔立ちをした男女がコソコソと何かを話し合っていた。
『その事を知った当時、五歳だった九条 総司は何とかして止めようとした。何度、説得してみても話を聞かず私欲を満たそうとしている両親に腹が立った九条 総司は暗殺当日、両親を力を使って永い眠りにつかせてしまった。』
九条君が…………私達家族の為に……!
自らの手で自分の親を―――?
『九条 総司は自我を失っていた、気が付いたら両親が倒れていたという事だった。元々、賢かった九条 総司は自分がやったのだと確信した。その罪から主の両親に告げ、主から離れようとした。』
だから―――。
『それでも主は納得しなかった。九条 総司は告げたら嫌われる、と思い口をなかなか割らなかった。理由を知りたくて知りたくてたまらなかった主は能力を初めて使った。全てを知った主はこれまでの記憶を失ってしまった、これが真実だ―――……。』
「記憶が失うって?何で力を使っただけで記憶を失うの?」
と訊ねてみると驚いたように目を見開いてすぐさまフッと笑う。
『主は昔、代償として記憶を失くしても知りたいと言った。どの力にも代償は伴う。小倉 瑠璃なら力を得るが食欲が満たされない。主の猫月 成清は飛ぶという力を得ることが出来るが寿命が力を使うごとに削られてしまう。それだけ猫月 成清は他者よりも危険を伴っている。………それぞれ代償を払わなければ力は使えない。その代償が偶然、主は記憶だっただけだ。』
猫月さんの代償は―――……“寿命”!?
『それを受け入れて彼は力を使いこなしている。』
私が絶句していると、誰かが呼ぶ声が聞こえる。
とても私の事を想っていて、、、温かい声。どこか懐かしくて。

「―――……ん…………目を覚ま…………れ。」

誰だろう…………その声に集中していると次第にはっきりと聞こえてくる。
 
「―――お願いだから。日高さん、目を覚ましてくれっ。」

この声は―――……九条君だ。
『そろそろ、お別れだな…………主を呼ぶ声が聞こえるな。主の事を想っている人間の元へ、帰るがいい。』
と言われ、また意識が遠くなっていく。
『必ずまた会おう。―――……我が宿り主よ。』
頷いたその時、視界が暗くなる。

16 < 17 > 18