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*13*
〈朔side〉
今日は土曜日なので、俺―百木朔は朝から自室にこもっている。
下の階ではママのすすり泣く声が聞こえる。
愛する息子を失った悲しみを、ママはずっと引きずっている。
そんなママの背中を、パパがさっき優しくさすっているのを見かけた。
俺の勉強机の上には、写真立てが三つほど置かれてある。
一番小さいやつには、赤ちゃんの頃のチカとの写真。
中くらいのやつには、七五三の時神社で撮ったチカとの写真。
一番大きいやつには、小学校の卒業式の日、友達数人とチカと撮った写真。
小学校卒業後、頭が良かった彼は近所の公立中学じゃなくて、中学受験して私立の中学へ進学した。
俺もその中学の入試を受けたけれど、あっさりと落ちた。
チカと一緒の中学じゃなくても、実際上手くやっていけている。
それでも、もう少し兄弟で過ごす時間を、満喫したかった。
チカが幽霊だと知った時、会いにいけることが嬉しかったけど、パパやママはチカにもう一生会えないことに、少なからず胸が痛んだ。
俺だけ、いいのかな。
『ねーねーチカ! これ、聞いてみて!』
『それ、またデスメタルでしょ。最近の流行りの曲とか、興味ないの?』
『俺の中ではこれが流行りなの! ほらほらー。再生するから感想ちょうだい!』
こんなふうに、兄が参考書とノートを読み比べながら勉強していた時、俺はぐいぐい身を乗り出して、半ば強引におススメの曲を進めることがあった。
でもチカは失礼な弟を怒ったりせずに、まぁ少し迷惑そうではあったけれど、それでも優しく俺の話を聞いてくれたっけ。
これは、チャンスかもしれない。
今までチカには沢山世話になったから、こんどは俺の番だ。
ここからが、朔ofストーリーだ。ここが、リスタート地点なんだ。
黒札だろうが、流行に疎い性格だろうが知ったことか。
俺は俺のやり方で、チカに会いに行くよ。
「というわけで……シアちゃんから盗んできたiPadでチカを探したいんだけど…これ、どうやって使うんだろう……?」
シアのiPad(悪魔が最新機器を持ってるのもおかしな話だけど)は、可愛い紫色。
人間が使うものと同じようなつくりだ。
ホームボタンがあって、長押しすればsiriもとい、『ari』が「コンニチハ」。
……天界のグローバル化ってすごい。
「Hey ari。iPadの使い方を教えて」
≪はい。まずは、両足がちゃんと地面を踏みしめているか、確認しましょう≫
……………んん?
何か今、変じゃなかったか?
「うん、ちゃんと地面を踏みしめてるけど……」
≪ちゃんと、指はついていますか? 脚は切断されてありませんか?≫
「怖いんだけど!??」
流石、悪魔のiPad。AIも中々のサイコパス脳だ。
初めてだよ、四肢が両断されている前提でAIに話しかけられるの。
万が一そんな状態で、多分操作できるだけの力なんかないよ?
「あ、じゃあさ、チカの居場所を教えて」
≪地下駐車場の、web検索結果はこちらです≫
あ、そーゆーところは同じなんだね。
滑舌が悪いと、siriがちょくちょく聞き取りをミスるやつ。
「百木周の居場所を教えて」
≪かったりーな≫
…………………んん?
今、聞き間違いじゃなければ「かったりーな」と聞こえたんですが……。
おーい電気屋さん、今すぐ返品してもいいですか? 電話の子機はどこ行った?
≪百木周は、身長158㎝、貴方の方が若干小さいですねアハハハハ≫
「二択だ選べ。お風呂に沈められるのがいいか、マンションの48階から落とされるのがいいか」
≪お風呂は38℃設定でお願いします。マンションの階段を登るときは、人にすれ違ったら挨拶を≫
ああ、もうコイツはダメだ。
シアちゃん、こんなAIをよく相手出来るなぁ。俺は開始3分でガチギレしたよ。
こんな調子で、本当にチカに会えるのかなぁ?