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*22*
あのあと、朔がどういう経緯があって八雲家に来たのか教えてくれた。
なんでも、黒札がホッペについちゃって、それを狙う悪魔を撃退し、別の悪魔の協力を得て今に至
るらしい。
文章化すれば何かのゲームかなと思う事もないが、そこに「悪魔の体液を飲んで命を救った」と付け加えた時点で一気に違うものになる恐怖。年齢制限なしがR-15くらいになるので注意しよう皆。
「んで、そっちが朔の言ってた協力者?」
「はーい、ユルミス・ローズベリでーす!」
喜色満面で右手を上げ、名乗り上げる悪魔ちゃん。
先輩であるクコに愚痴ったり、急に口調が偉そうになったり、かと思えば女の子らしい表情をしたり。演技力の豊富な悪魔だな。
「えっと、君が朔を守ってくれたんだね。ありがとう」
「いやぁユルにお礼言わなくてもいいし、ユルはパイセンと会えるならそれでよかったし……」
この子、本当にうちの天使の後輩なんだよな。
股を開いたり鼻をほじったり、いつも僕をからかっては笑い声をあげてるクコがなぜか、ユルミスの登場で一気に大人びて見えるから不思議だ。
「あ、あのう、話がぶっ飛んでてよくわからんけど、みんなジュース飲まん?」
「さっすがアルジ様!! あ、俺はコーヒーミルクたっぷり、砂糖5つでお願いします☆」
「注文多すぎるで図々しい」
と、機転を利かせた八雲がお盆を持って立ちあがる。
意外と甘党な紗明の言葉をサラッと受け流し、一階へと消えていく。
それにしても、この部屋にいる人外の数多すぎだよ。
死神に天使に悪魔にって……天国と地獄が共存してるじゃんよ。
えーっと、僕は何をしてるところだったんだっけ?
ああそうそう、札狩(ふだがり)について、八雲のお兄さんであるバキュン先輩から講義を聞いてたところに朔とユルミスが割り込んできたのか。
「んーでも、色々あったけど会えて嬉しいよ、チカ!」
「そんなに喜んでもらえると、さっくんを護ったユル偉いって思う! ですよね紗明パイセン!」
「はい、いつも人の為に頑張っているユルミスは凄いと思いますよ」
「……………ふぁ、はい……///」
朝モード(超絶爽やかフェイス)の紗明の言葉に、ユルミスは途端に赤面して黙り込む。
あれ、もしかしてユルミスって、紗明のこと……。
好……。
「あ、俺分かった! ロリちゃんって紗明のこと好きなんだね!」
「っっ?????」
朔ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!??
素直すぎるのは逆にアクシデントを生むこともある。今がそう。
あっさりと秘密をばらされて、殊勝だったユルミスは更に黙り込んでしまった。
「……あの、いや……別にユルはそのようなことなど……」
「ええやん隠さんくても、『天使学科』と『悪魔学科』のみんなにはバレとるんやし」
「え、ええマジですか!?」
「うんうん」
天使学科と悪魔学科??
天国に学校があるのも変だけど学科まであるの!?
優しすぎない?
うーん世界は広いねぇ。
でも、札狩という悪霊退治に、ユルミスと朔という助っ人が来てくれたなら結構有利なんじゃ?
「ところでパイセン。これ、ユルからのお土産です!」
「うわ、『片思いクッキー』! これ食べると必ず片思いになれるやつや」
……結ばれないと意味ないのでは。
と僕が怪訝な顔をしていると、クッキーの箱の包装紙をビリビリビリビリと破ったクコがこっちを見て、ニヤリと笑った。
(ヒッ!?)
なにを考えてんだこの天使。
今明らかに「百木くんをああしてこうしてやろー」って思っただろ!
ぼぼぼ、僕なんも悪いことしてないんですけど。
「まー百木くんも恋愛には疎いみたいだし。この機に、ほいっ」
「グェッッ なんだ、いきなり口にクッキーが……」
超高速で『片思いクッキー』を詰め込まれ、僕はゴホゴホとせき込む。
この後僕がどうなるのかは、ジュースとお菓子を食べた後で伝えようと思う。
みんなもくれぐれも、黒札には気を付けて。ではまた次回。