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これからもカオ僕をよろしくお願いします!
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〈亨介side〉
黒札で悪霊をよびよせ、攻撃を仕掛けた僕は、戦闘は霊に任せその場を立ち去った。
チームのリーダーであるプリシラことシアには接触だけするようにと命令されていたし、その任務を行うのは自分ではなく御影月菜(みかげるな)だったんだけど……やっちゃったなぁ。
コンビニの方を振り返って、小さな溜め息を一つ。
百木周の弟は、どうやら悪霊にパンチを食らわそうとして小指の骨を折ったみたいだ。しばらくは痛みで動けないだろう。ただのスライムだと侮ってはいけない。シアから渡された黒札でよびよせた霊の強度は、鋼より硬いんだ。
死神やそのパートナーの子も、だいぶ苦戦しているみたい。
自分の力で戦わないのは卑怯だって、もしかして思ってるかな。痛いのが嫌なだけだよ。まともにやりあったら、運動オンチの僕はあっという間に倒れてしまうだろうからね。
「……とはいえ、やりすぎちゃったかもな」
誰に言うともなく呟く。
とりあえず、今の状況をパートナーである御影に報告しなくては。彼女は今どこにいるんだろう……? まだ学校か?
電話帳を開き、『御影月菜』の携帯へ発信する。
プルルルル……プルルルル……という呼び出し音が三回なった後、すぐに相手につながることが出来た。
「もしもし? 僕だけど」
『キョーちゃん? 珍しいじゃん、そっちからかけてくるの。何の用?』
カチャカチャと、なにかを操作している音が電話越しに流れてくる。どうやらパソコンでもいじっているようだ。と言うことはもう帰宅しているのか。
「実は………」
これまでのいきさつをかいつまんで説明すると、明るかった御影の声のトーンが次第に暗くなっていく。勝手な行動をした僕に苛立ち始めているのが分かる。顔は見えないけれど、画面の奥で眉をひそめた気がした。
『なんかいつものキョーちゃんらしくないね。感情的にならないタイプなのに。ま、シアには怒られるだろうけど』
「………はぁ……」
「御影は今何してるの? もう家なんでしょ?」
『ウチは動画編集してる。Youtubeにあげるやつ。今日の夕方にあげるから見てね』
御影月菜は、Youtubeとティックトックで美容動画をあげている。その登録者数は両方50万人を突破しているほどの人気。事務所にも入っているほどの、実力派中学生Youtuberだ。
ダイエット、メイク商品紹介などほとんどが女性向けの動画なので、視聴者は女性が多い。そんな動画を男の僕が視聴するのはおかしいし、そもそも興味がない。
「……見るわけないじゃない。男なんだから」
『ケチ。すこしはパートナーに貢献して、視聴回数伸ばしてよ』
理不尽なわがままを突きつけられるのも毎回のこと。イライラしながら電話を切り、もう一度後ろを振り返る。
………このままほっといて、死人でも出たらたまったもんじゃない。
そろそろ黒札を処理して立ち去ろうか。……でも札狩の連中にあっさり負けるのもなんだか釈然としない。
『なんでこんなことしてるの?』
百木朔がそう自分に問いかけて来たとき、内心ヒヤッとしたことを思い出す。
なぜだろう。心の中を読まれたような気がして、一瞬言葉に詰まったんだ。
本当のことを言えば、こういう理由でこんな考えで……というのを打ち明けて楽になりたかった。ヴィンテージに入るまでの経緯を説明して、同情してもらいたかった。
自分の中に変なプライドがあって、そいつが言葉を放つのを拒んでいる。話したところで、どうせ理解ってはくれないだろうという、そんな変なプライドが。
それゆえに、シアにも御影にも、自分の話は今までしてこなかったし、御影がなぜシアに協力しているのか僕は知らない。そういうもんだと思い込み、同じチームのメンバーとして表面上接している。それだけの関係。
数分間考え事をしていた僕は、ある大きな音に反射的に顔を上げた。
ウガァァァァァァァァァァァァッッ
遠くから悪霊の叫び声が聞こえ、声のした方に目をやる。
場所はあのコンビニの駐車場。死神が結界を張り、一般人が襲われるのを防いでいる。結界の中では死神とその主人の少女が、悪霊の集団と対峙していたのだが……。
死神が率先して敵を相手にしているのをいいことに、女の子を狙った一体の悪霊。鋭い爪を持つ、髪の長い女性の霊だった。
そいつは死神の隙をついて、女の子に飛び掛かったのだろう。霊の長い髪に体を縛られて、女の子が悲鳴をあげている。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっ 助けてぇぇぇぇ!!』
『アルジ様!!!』
「…………流石にこれはまずい。早く対処しに行かないと!」
やりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎた。失敗した失敗した失敗した失敗した!!
人を死なせてはいけないのにっ。僕の管理不行き届きだ。僕のせいであの子が死んだら………とりあえず早く片付けないと!!
慌ててコンビニへと走り出す。百木朔は怪我のせいで、女の子の元へ駆けつけれないようだ。死神も、他の悪霊に攻撃を防ぐのに精いっぱいだ。
敵だから見殺しにしていいわけではない。シアはすぐ、『邪魔な奴らはやっちゃいましょう』とかいうけど。そういうわけにもいかないんだ。
必死に足を動かす。身体が重い。すぐ近くに目的地があるのに、スピードがひどくゆっくりだ。今日は学校の六限に持久走があって、一時間散々走らされたから。あぁダメだ、間に合わない……!
悪霊の髪が女の子の腕や足にどんどん巻き付く。ギュウギュウに締め付けられて、ぐってりとしている。気絶してしまったのだろうか。どちらにせよやばい。やばいのに………!
『う゛……! 助けて、誰か……………!!』
絶体絶命のピンチ。見方全員、助けてくれそうな様子はなく、このまま力尽きてしまうのか。女の子がいくら叫んでも助けてくれる人はいない。
あぁ、私はこのまま死ぬんだ。とうとう諦めたのか、女の子が叫ぶのを止めた。
その時。
「八雲をぉぉぉぉぉぉぉぉぉお、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!」
ヒーローは、遅れて現れる。いつもヒロインがピンチになった時に、颯爽と現れて拳を振るう。
漫画でみんなが好きなシチュエーション。だから主人公はかっこいい。人々に勇気を与える存在に、誰もが目を輝かせる。
しかし、声の主は特殊能力が使えるわけでも、ガタイがいいわけでもないただの幽霊だった。
ただの、幽霊だと思っていた。
ズバァァァァァァァァァァァァン!!!!!
透けているはずのその腕が、長髪の悪霊その他もろもろを一瞬にして吹き飛ばすほどの右ストレートを放つまでは。