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作者: メタルメイドウィン ◆B/lbdM7F.E (総ページ数: 25ページ)
関連タグ: メイドウィン小説SEASON3 ウマ娘 たぬき要素有り オリキャラ
*20*
灰作がタキオンに指を指し、タキオンの表情が変わった。
タキオンが灰作を問い詰めるように近寄る。
だが灰作は全く怯まず、タキオンに顔を向けずに聞く。
シンボリルドルフもよく分かってないのか、たくっちスノーを見る。
「あの時…?どういうことかな、トレーナー君」
「灰作…例の薬失敗作をばらまいた時…」
「だからアレは知らなかったッて言ってるだろー」
「それもあるが、その他諸々でお前はライセンスを剥奪された」
「それなのに三日もせずに戻ってきた、一体何をしたのか……先に言うとコネとかじゃなかった」
たくっちスノーがそう言うと、タキオンの口角が上がった。
灰作が続ける。
タキオンがやったことは、かなりグレーゾーン。
普段授業をあまり受けず、危険な実験や薬品を開発しトレーナーで実験させる。
灰作はそれを受け入れた、いや、進んで行った。
……今更、離れたくなかった。
「…………俺は、勉学は昔から何をしなくても100を出せた」
「方程式も一通り年齢2桁になる前に覚えたし、よく分からない資格も取った」
「飛び級は何回もやった、でもそれが面白くなくて何回も辞めちまった」
「中学に入った時に、陸上を始めた」
「走ることに意味は無いと分かっていながらもどんどん速くなっていった」
「小学校から始めて何年も鍛えてきたプロの奴らをごぼう抜きにして、大会でも優勝した」
「俺はその時思ったんだ……普通の、所謂『人類』っていうのは所詮この程度でしか無いんだなって」
「だから俺は人類に成り済ました、奴らと同じ程度の存在に成り下がるようにして生きてきた」
「陸上の経験から中トレに所属して……」
「『平凡』という器として振舞っていた時、まぁその時……初めて会ったんだ、俺と同じに」
灰作がタキオンに目を向ける。
タキオンは微笑みながら話を聞いている。
その笑顔はいつもの作り笑いではない。
灰作がタキオンに歩み寄り、手を取る。
そしてそのまま続けた。
タキオンの顔からは笑みが消えていた。
「確かに俺はプロジェクト・シンギュラーに相応しくないのは俺自身分かる」
「俺自身がそうだったから分かる、天才が平凡というぬるま湯に浸かるとな、劣化するんだ、ガキの頃より俺のスペックは2割くらい落ちた」
「中央も俺がいた環境に比べてレベルは高いが、それでも俺がそうだったようにタキオンには及ばない」
「……アグネスタキオンを劣化させないようにするのが、トレーナーとして君の仕事じゃあ無いかね?」
「まぁ、それはそうだね」
ルドルフが灰作に聞く。
ルドルフから見ても、灰作の言葉に嘘があるとは思えない。
だが、灰作が本当に言いたいことをまだ言っていないような気がしたからだ。
灰作は少し黙った後、こう言った。
その言葉は、誰よりも真剣に見えた。
「俺がタキオンに拘る理由は俺並みの天才だからじゃない」
「見てみたいから」
「ドーピング以外の出来る全てでどこまでタキオンは速くなれるのかを」
「タキオンの走りを見て、感動して、そして……」
「あいつの限界を見たい」
「どこまで走られるか、どこまで早くなれるか、どこまで勝利できるか、そして……」
「最終的にどこまで走って、どんな風に脚が止まってしまうのか」
「その生命は有象無象の生物よりも何百倍も価値があり、何百倍も伸ばす価値がある」
「俺は、タキオンの選手生命が死ぬところを目の前で見てみたい」