完結小説図書館
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*25*
Q.みんなの血液型は?
コマリ・由比「のんびりペースのO型だよ!」
美祢「Aと見せかけてのB型」
こいと「マイペースなB型……ではなく、実はA型です♪」
宇月「あんたら何なんマジで。(友達から『宇月さんは絶対AB型』と言われ続けたキャラです)」
むう「あれ、宇月AB型じゃないの?」
宇月「AB型やから複雑やねん!!」
美祢「お前もう腹グロキャラやめてネタキャラに路線変更しろよ……」
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〈再び美祢side〉
「あんのやろう……っ」
何かあったら相談しろと言っておいて、なんだあの態度!
怒りが収まらない俺―時常美祢の地団駄の音が、デパートの廊下に響いた。
確かに宇月の話は一理ある。っていうか、百パーセント向こうが正しい。
人に贈るものについて第三者がアレコレ口を出すのは失礼だ。俺がもしそれをされたら傷つく。
プレゼントは自分で選び、自分で相手に手渡すから特別なのだ。宇月は間違ったことを喋ってはいない。いないけど。
「あの、ちょっと小ばかにした言い草! 普通に話せばいいだろうに!」
「お客様、館内ではお静かにお願いします」
「あ、す、すみません」
叫び声が大きすぎて、文房具屋の女性店員にたしなめられてしまった。
同じブース内にいる他の客が、チラチラとこっちに視線を送ってくる。
出来たばっかりの心の傷が、更にえぐられるからマジで勘弁してほしい。
「とりあえず場所を変えるか……」
今いるここは二階の〈あおぞら館〉。小物を取り扱う店が多い。
本屋もあるが、アイツは漫画しか読まないし俺も本しか読まない。自力でコマリの好みの本を推理するのは難易度が高い。
「一階の服屋に行こう。アイツに似合う服があるかもしれない」
俺はくるりと踵を返し、エスカレーターがある西の方角へと歩き出した。
彼の意地悪な表情が脳裏に浮かび上がって、一向に消えてくれない。
電話するんじゃなかったと後悔するが、時すでに遅し。
宇月とはなにかとそりが合わず、昔から口喧嘩ばかりしている。
つい余計な一言を放ってしまう宇月と、ついつい反応してしまう俺。
親戚の喪中など大人数が集まる場では、睨んでは睨み返され、舌打ちをしてはし返され。
「は~……」
と肩を降ろしたその時。
「あれ、時常くん?」
すれ違ったブレザー姿の女の子が、くるりと振り返って俺の名前を呼んだ。
黒くて長い髪とブレザーの紺色が良く似合っている。肩にはスクールバッグを提げていて、クマのマスコットがワンポイントとしてつけられている。
名前を呼ばれたことと相手が女子だったことで、俺の声は上ずった。
「へっ?」
「やっぱ時常くんだ。久しぶり! あ、私のこと覚えてるかな?」
女の子は自分の着ている制服を指さす。
ブレザーの胸元の校章は、俺がたった一カ月で中退した葎院(りついん)高等学校のものだった。
ゴールデンウイーク中とはいえJKだ。きっと、部活や生徒会活動などで登校したんだろう。
「えっ……と、確か、俺の前の席だった……。ほ、星野だっけ?」
「惜しい、星原ね」
時常=た行で、星原=は行。元々出席順で並んでも、俺と彼女の席は前後だった。
入学して最初のクラス替えと、最初で最後の高校での席替えは、星原が前になるという何とも地味な形で終わってしまった。
女子高生―星原は、俺の元クラスメート。さっぱりした性格で話しやすい。
クラスメートの中で、唯一関わりのあった女子。小テスト前は頻繁に俺に教えを乞うていたっけ。
「いやあびっくり! 一カ月で退学とか信じられない。クレイジーすぎでしょ」
「あ、ま、まあ」
やめてくれ。その話だけはやめてくれ!
心の傷が凄まじいスピードで開いていく。
「数週間はみんな話題にしてたよ。面白そうなやつだったのに残念だ―ってね」
「マジかよあいつら」
「でも、元気そうで良かった。今日は買い物? その恰好めっちゃイケてるね。オシャレ好きなの?」
星原の眼が俺のパーカーに映る。これ、そんなにカッコいいのか?
あー、普通よりちょっと高い通販のやつだから、物珍しいのかもしれないな。
「好きと言うか、趣味と言うか。まあ、人並みには」
「へえ! めっちゃ良き!」
褒められると思っていなかったので、すぐに顔がほてりだす。
どこを見たらいいか分からず、とりあえず靴の先を眺めることにする。
「星原は部活帰りとか? 何部だったっけ」
「合唱部。妹に買い物を頼まれたの。帰宅してるときに連絡来ちゃってさ。めんどくさいからそのまま直でここに来たんだ」
合唱部か。よく透る声や華やかな表情は、部活で鍛えられたんだろう。
葎院高校は文化部が強い。書道部・合唱部・吹奏楽部は全国大会の出場経験があったっけ。
「でも、ちょっと意外かも。時常くんって、どっちかというとインドア派な気がしたからさ。ショッピングも苦手そうだなーって思ってたんだ。ひとりで来るとか勇気あるね」
私もちょっと委縮しちゃうなぁ。周りおしゃれな子多いし、と彼女は嘆息する。
「別に。誕プレ買いに来ただけ。そんなに驚くことか?」
高校生となれば、ひとりで買い物に行く人も増えるだろ。
インドア派は訂正しないけど、そんなふうに言うなよ。自分が超絶陰キャみたいじゃんか。
「自分では気づいてないかもしれないけど、時常くんって結構ギャップが激しいんだよ。最初私、『髪ピンクだ、こわ』って感じちゃった。でも話してみたら真面目だし、割とおとなしいし、じゃああの髪色は何故に? っびっくりしちゃって」
星原は、うつむき加減だった顔をゆっくりとこちらに向ける。
その口元はキリリと結ばれている。曇りないまなざしが何かを訴えかけているようだった。
「ねえ、時常くん。校則知らなかったって話、きっと嘘だよね。校則を理解したうえでわざと染めたんでしょ」
「……遊ぶなって言いたいわけ?」
「ううん、咎めたいわけじゃなの。遊びだとも思ってない。純粋に、聞きたかったの。なんで、またそんな大胆な行動をしたのかなって。絶対退学になるって分かってるのに、なんで敢えて先生を怒らせるようなことをしたのかなってさ」