完結小説図書館
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*40*
禍「どうもーっ! 暗黒の禍神(ヴァイオレンス・ゴッド)、もとい禍津日神ことマガっちでーす!
今日はついについに、猿田彦が人間の由比くんとこいとちゃんを助けに行くよっ。あ、時間軸は
メインストーリーの一年前だから、よろしくねーっ。ということで本編……ってなんだこの台本はああ!」
むう「すごいマガっち。ちゃんとキャピキャピできてる」
禍「やめろっ! 『この時期テストでみんな疲れてると思うから、悪役ボケで読者の疲れを癒そう』など、おかしなことを言いおって貴様! 作者だからって何でも許されると思うな。いいか、今度舐めた真似をしたらお前の魂をあの世に送るからな(胸倉をつかんで)」
むう「トゥンク」
禍「なぜときめく」
むう「最近の子って、ギャップに萌えるのよ。一見ツンツンしてる子が時折見せるデレに、キュンってするもんなのよ」
禍「ほう。そうか。つまりこの小説の読者は我を前に恋に落ちると……。ふ、貴様は馬鹿か? 神が両手ピースで目をキュルキュルさせる世界線がどこにある」
むう「HERE(ここ)」
禍「………………よし、今すぐあの世に送ってやる」
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〈由比side〉
僕は屋上のフェンスから身を投げて、空を飛んだ。
やっとこれで解放される。やっとこれで楽になれる。
痛いこともつらいことも苦しいことも、もう終わりだ。
やり残したこともない。僕は充分頑張ったよ。
お母さんの前ではいい子を演じて。友だちの前ではのんびり屋さんを演じて。
塾では、流石に嘘はつけなかったけど、それでも毎日足を引きずりながら生きたよ。
そうだ、生き切ったんだ。だから何も悲しくなんてないんだよ。
つらくない、苦しくもない、痛くもかゆくもない。
この命がこぼれたとしても、それは自然の摂理で。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、いとちゃん、いとちゃんいとちゃんいとちゃんっ………」
…………どうしようもないくらい、最期まで僕は馬鹿だった。
僕は、震える足を必死に動かしながら、ほふく前進で彼女の元へ行く。
自分の横、中庭の地面に仰向けで倒れているひとりの女の子の元へ。
砂利を濡らしているのは、自分のあごから滴る汗と、額から流れる大量の血と、そして友だちの生きた証である、赤い、赤い何か。
全身が鉛のように重い。体温が徐々に下がって行く。それでも僕は視界を使って、なんとか、なんとか前へ進む。
よし、もうちょっと。あと少し。……ついた。
僕は涙でぐしょぐしょに濡れた顔を、堂々と相手に見せつけてしまった。
「………ゆ、い…………あはは、だい、じょう、ぶ?」
いとちゃんは掠れる声でそう呟き、右手をそっと上げる。日々の運動で、ほどよく日焼けしていた肌は、枯葉のような真っ青な色へ変わっていた。
爪の中に血の塊が入っていて、ううん、セーラー服の襟元もスカートも、赤一色で。
きみの身体は、比喩でも何でもなく、黒々とした赤に染まっていて。
「い、いと、いとちゃ………っ」
僕はそのあと、何も言えなくなってしまった。
何を叫んでも、すべて言い訳になりそうで。何を伝えても、すべて無意味になりそうで。
だから、だから僕は、最期の力を振り絞って、いとちゃんの指に自分の指を重ねた。
目と目を合わせて、体と体をぴったり寄せ合って、お互い弱くなる心拍数を、合わせた。
「…………ゆいの、せいだ。ゆいが、……『死にたい』なんて思わなければ、うちも、飛ばなかった」
「…………っ」
いとちゃんの言葉をかみしめる。
そうだ、その通りだ。今の現状に終止符を打とうしたから、いとちゃんは僕を止めようとしてくれたのだ。僕が何も言わなかったから、僕が何も話さなかったから、彼女は『一緒に飛ぶ』ことを選んでしまったのだ。
飛んで何が変わったか。
明るい未来が待っていたか? 痛い思いをしなくて済むようになったか? 解放されたか? 楽になれたか? 苦しくなくなったか?
…………何も変わらなかった。だって、飛んだのは自分ひとりじゃなかったから、
横にきみがいたから。きみが横にいてくれたから、僕は飛ぶことを躊躇してしまったんだ。
そして今、きみの命がこぼれていくのを理解して、苦しくてたまらない。
「でもね、ゆい……。自分を責めないで……。ゆいは、何も、なにも、悪くないんだから……」
「ちが……。ちが――っ。ゴホッ。ゴホッゴホ」
喉の奥からせりあがった血で窒息しそうになる。
僕らに遺された時間は、あとどれくらいだろうか。
「わかってるよ、ホントは、ホントは、とっても生きたかったんだよね……」
いとちゃんは、薄く笑う。そして、横に倒れている僕の髪を、空いている左手でそっと撫でた。教室で同じように髪をいじられたことがあったが、今回は状況が違う。いとちゃんの右手は、ぶらんぶらんしていて、ちょっと力を抜いたらすぐに崩れそうなくらい、動作が危なかっかしくて。
「いき、たかった……?」
「そうだよ。いきたかった、でしょ? ほんと、は。いきたい、から、しのうと……したんでしょ」
お母さんに干渉されることなく、日々を過ごしたい。そう思っていた。
お母さんなんか大きらいだ。お母さんのせいで僕の世界はこうなった。
ずっとそう感じていた。
でも、心の中では……いや、昔から僕は、お母さんのことが好きで。
感謝の気持ちは本物で。母親と息子の愛は本物だと思っていて。
そうだ、僕が求めていたのは、「死」ではない。
僕は、生きたかった。この世界を、もっともっと楽しみたかった。
成績とか頭のよさとかキャリアとか、そんなものではなく、もっと、もっと単純に、自分を認めてほしかった。それさえクリアできれば、後は自力で乗り越えられる気がしていた。
それだけでよかった。シンプルで複雑な、愛情ってもんが、ただただ欲しかった。
無理だった、けど。
「いき、たかった……」
「うん、わかってる」
視界が暗くなる。
「あいされたかった。……あい、したかった」
「うん、そうだ、よね。わかってる。だから、……最期まで、うちはゆいの……そばに……る」
全身の力が抜ける。
「ぶんかさい、いちばんまえ……で……みたかった」
「うちも、みて……もらいたかった」
確か演目は『バラとイバラ』。
どんな内容なのかわからないけど、いとちゃんがやるなら、絶対神作品。
「ら――せは、いっしょに、……みに……いこう」
「うん、ぜ、ったいね」
痛みが、消えていく。
あ、ダメだ。右耳が聞こえなくなってきた。
「ねえ、さいご……言いた………ことがあったんだ」
「………き……よ」
自分の声もなかなか聞こえない。
いとちゃんの声も、あんまり聞こえない。
唇の動きで、なんとか推測できる。
さっき言ったのは多分、「遅いよ」とかかな。
「………ぼ……は」
ああ、無理だ。左耳も機能しなくなるなんて。
血がどんどん外に流れていく。
言わなきゃ、さいごに……さい、ごに、これ………け…………は。
「……………だい、すき」
――――――――あ。死んだ。
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「うわ、血生臭ッ。こいつらまさかあの高さから飛んだのか? 嘘だろ。……魂と体の分離が始まってんな。さて、どうしたものか。自ら死を望んだものに介入するのはご法度だ。……どうする、偶然の再会その2」
猿田彦は、由比とこいとが通う中学校の上空に浮いていた。
目線を前に向けたまま、後ろにいる相手に呼びかける。
「――なんじゃその変な呼び名は」と、相手は渋い顔。
「おい、睨むんじゃねえ。わかった、言い換える、言い換えるから!大国主(オオクニヌシ)、な」
「ふん。それで良い」
答えたのは、長い黒髪の女性だった。若葉色の着物を着て、白い帯を締めている。
縁結びで知られる、日本の有名な神様であり、猿田彦の古い知り合いである。
…………さきほど偶然出会った。
「なにやら慌てておるが、どうしたんじゃ」
「おう。つまりだな。『道開きの神、ラスボス退けて人間救助! ~旧友と再会したんで協力たのんでなんとかします!~』って流れだ」
「なぜ、ライトノベルのタイトル的にまとめるんじゃ。緊迫感に欠ける」
「なにって、ライトノベルにおいて神の存在は不可欠だろ」
長年人の世にいたせいで、猿田彦も大国主命も、人間に関する知識がかなり豊富だ。
その気になればパソコンだって使いこなせる。ネ○フリだってみようと覚えば見れる。
取り憑く相手が子供なので、彼らに影響されたのだろう。
「はあ。まあいい。状況は自力で理解する」
「かなり複雑だが大丈夫か」
「………大丈夫じゃ、なんとかなる。さて、なるべく早急に済ませるぞ。奴が来る前に」
※次回に続く!