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*20*
〈こいとside〉
「なんで、きみが?」
宇月サンは目を見開いた。
数秒前まで士気に燃えていた双眸も、わたしが茂みから顔を出したとたん輝きを失う。
武器を持ったままなのは、わたしが自分に危害を与えると思っているからだろうか。
「桃根ちゃん、なんでここに居るん? コマリちゃんと美祢は? なんで……」
次から次へと投げかけられる質問も、(きっと問い詰められるだろうなぁ)と頭の中で想定していた内容だった。
あらかじめシミュレーションしていて良かった。
アレコレ考えるのが好きなタイプじゃないから、回答をするのにも多少時間がいる。
わたしは結んだ髪の先っぽをいじりながら、薄く微笑んだ。
「遊びに行くって伝えてます。まあ、嘘なんですけどね。さっきも言った通り、わたしはあなたと話したいんです。だから来たんです」
なぜ宇月サンに近づこうと思ったのか。なぜ、コマリさんや美祢さんには相談できないのか。
色々理由はある。でも一番は、目的達成のために彼の存在が必要だったからなんだ。
この前散々悪口を言われたので、言い返してやろうかと燃えていたってのもあるけどね。
ただ、これを言っちゃうと、美祢さんが「俺も一言言ってやらないと気が済まない」と椅子から腰を浮かせるかもしれない。
なるべく一人で、宇月サンの元を訪れたかったのだ。
「はあ? なんで? 桃根ちゃんは、コマリちゃんのサポートをやっとったやん。あの子の側にいるのが筋やろ」
宇月サンは身振り手振りを駆使して話し出す。
わたしを責めていると言うよりも、自分に言い聞かせているような、そんな口ぶりだった。
術でやっと動きを封じたのにも関わらず、敵を仕留めることも忘れて彼は喋り続ける。
「なあ、詳しく説明し……うわっ」
「ガァァァァ!」
有刺鉄線で縛られていた悪霊が、最後の力を振り絞って抵抗してきた。
なんとか縄の間を抜けた腕が、宇月サンの首根っこを掴む。五十キロはあるだろう彼の身体が、猫のように軽々と持ち上げられた。
「……っ! 離っ……! 今、いいとこ、やね……! ぐ……!」
宇月サンがバタバタと両足を振っても、がたいのいい腕はびくともしない。
右手の指に挟んでいた護符が、ふわりとアスファルトの地面に落ちた。
「くっそ、お前どんだけ諦め悪いねん! ……っ、あかん、力が入ら、な……」
ゼエハァと肩で息をする霊能力者の男の子。
その呼吸のリズムも、だんだんゆっくりになっていく。
だ、ダメだ。このままだと、あの人が死んじゃう!
聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあるのに。
ここであなたの命を奪わせるわけにはいかない。
……覚悟を決めろ、桃根こいと。今ここで、わたしがやらなきゃ。
もう他人の死を見るのはうんざりだ!
「宇月サン伏せて!」
「……な、に……」
「必殺!!」
技名を唱え、わたしは目をつぶる。右手を天に突き出し、深呼吸。
人間がまとっている運気のエネルギーは、集めると規格外の威力を持つ。
このチカラは、自分の恋愛運をエネルギーの球に変える!
「恋魂球(ラブコンボール)―――――――――――――っ!!!」
集まった霊気の球がピンク色に光りだしたのと同時に、わたしは右腕を力いっぱい振り下ろす。
恋愛運で作られたボールはジリリリリ……と音を立てたのち、一気に爆発し、ゴキブリのような()怪物を数メートル先までぶっ飛ばしたのだった。