コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Enjoy Club  =第1章完結=
日時: 2013/06/23 07:18
名前: 友桃 (ID: KZXdVVzS)
参照: http://www3.plala.or.jp/banisingukyanon/

あるとき、世界に謎の薬品がばらまかれた。
数年後、不思議な能力を身につけて生まれてきた子供達。彼らは仲間を求めて、ある結社に集結した。
彼らと接触した女子高生・亜弓は、結社内の混乱に次第に巻き込まれていく——

ファンタジー&シリアス要素ありのラブコメです!




クリックありがとうございますm(__)m

はじめまして、友桃(ともも)です^^
初投稿です>< 長編になるのですが、ちょっとずつ更新していきたいと思います。

よろしければ読んでみてください^^


*参照はHP(Enjoy Club保管場所)です。このスレのものを修正したやつを、縦書き改行無しバージョンで載せていくのでよろしければのぞいてみてください。※ただいま更新止まっております


*たまに記事のNo.飛んでいるところがありますが、残りの返信数を増やすために必要ない友桃のコメントを消しただけなので気にしないでください^^



〜お客さま〜
・花見さん ・かれーらいすさん ・十六夜さん ・貴也さん 
・勿忘草さん(亮さん、扉さん) ・咲さん ・gojampさん ・詩音さん 
・セピアさん ・杏樹.さん(真白ちゃん・そふとくりーむさん) ・ハッチしゃnさん ・ARMAさん
・遮犬さん ・ひろあさん ・白桃さん ・ゆかさん
・aguさん ・皐月凪さん ・(朱雀*@).゜さん ・奈々☆さん
・ 蘭*。*さん ・山口流さん ・トレモロさん ・紅蓮の流星さん
・或さん ・ (V)・∀・(V)さん(十六夜さん) ・もちもちさん ・夜兎さん
・むーみんさん(椎奈さん) ・未来さん ・ゲコゲコさん ・てるてるさん
・こたつとみかんさん ・星ファン★さん ・そらねさん ・希蘭さん
・Eternalさん ・羅希さん ・霧雫 蝶さん ・あらびきペッパーさん
・抹茶.(小豆.)さん ・野宮詩織さん ・、璃瑚. さん ・ののさん
・友美さん ・亜美さん ・蜜姫. さん ・ネズミさん
・月読 愛さん ・紗夢羅さん ・黒揚羽さん ・優香さん
・ぱちもんさん ・Lithicsさん ・苺莢さん

読んでくださってうれしいですv ありがとうございますm(__)m



〜登場人物紹介〜

・友賀 亜弓 Tomoga Ayumi……主人公
・荒木 恵玲 Aragi Ere
・紫苑 風也 Shion Kazaya

・ウィル=ロイファー
・有希 白波 Yu-ki Shiraha
・棚妙 水希 Tanadae Mizuki

・芝崎 功 Shibasaki Kou
・月上 有衣 Tsukigami Yu-i
・三和 伸次 Miwa Shinji
・蓮田 夜ゑ Hasuda Yoe

・谷田 津波 Tanida tsunami
・沢田 美久 Sawada Miku
・幸崎 静音 Ko-saki Shizune
・町田 美沙 Machida Misa
・小松 幸道 Komatsu Yukimichi

・大崎 影晴 O-saki Kageharu
・天音 Amane
・天銀 Amagane


〔後半から登場or2章メイン登場〕

・篠原 扇 Shinohara Ougi
・安藤 園香 Andou Sonoka
・富永 春妃 Tominaga Haruhi
・神崎 迅 Kannozaki Jin

・風香 Fu-ka
・友賀 葵 Tomoga Aoi


*あだ名>>48



〜目次〜

<第1章>

プロローグ >>0

第1話『謎の闇組織E・C』
(1)>>1 (2)>>2 (3)>>3 (4)>>5 (5)>>6 (6)>>10 (7)>>11 (8)>>13

第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』
(1)>>25 (2)>>30 (3)>>40 (4)>>46 (5)>>49 (6)>>50

第3話『我ら、麗牙光陰——』
(1)>>57 (2)>>58 (3)>>64 (4)>>70 (5)>>81 (6)>>86 (7)>>88,>>89 (8)>>98 (9)>>104,>>105 (10)>>108

第4話『あなたのために……』
(1)>>111,>>112 (2)>>120,>>121 (3)>>130 (4)>>136 (5)>>147 (6)>>152 (7)>>157 (8)>>166 (9)>>172 (10)>>180 (11)>>184 (12)>>188

第5話『不確かなもの』
(1)>>212,>>213,>>214 (2)>>256 (3)>>268 (4)>>285 (5)>>291 (6)>>306 (7)>>332,>>333 (8)>>346,>>347 (9)>>357,>>358,>>359 (10)>>370,>>371

第6話『衝撃のとき
(1)>>397 (2)>>413,>>414 (3)>>425 (4)>>447,>>448 (5)>>474,>>475,>>476 (6)>>486,>>487 (7)>>518,>>519,>>520 (8)>>534 (9)>>557 (10)>>568 (11)>>576 (12)>>599 (13)>>627,>>628 (14)>>648 (15)>>696,>>697,>>698 (16)>>708,>>709,>>710

第7話『友を取り巻くモノ1』
(1)>>721 (2)>>726,>>727 (3)>>750,>>751 (4)>>784,>>785 (5)>>798 (6)>>813,>>814 (7)>>870,>>871 (8)>>>889,>>890

第8話『友を取り巻くモノ2』
(1)>>893 (2)>>901,>>902 (3)>>905,>>906 (4)>>910,>>911,>>912,>>913,>>914 (5)>>918,>>919 (6)>>923,>>924 (7)>>926,>>927 (8)>>931,>>932 (9)>>934 (10)>>936

第9話『混乱の夜明け』
(1)>>940,>>941 (2)>>945 (3)>>949 (4)>>955,>>956

エピローグ>>962

*初めて来てくださった方、できれば目次から行かないでコメも含めてよんでほしいです><
途中でキャラのプロフィールと絵がでてくるんで^^ てか某友人の書いたキャラ絵、神なんでv←



〜企画〜

≪第1回キャラ人気投票≫ 2010.8.27〜
 結果>>225

≪第1回シーン人気投票≫ 2010.923〜
 結果>>511

≪☆お客様方の小説紹介☆≫
第1弾 返信300突破記念 2010.9.25 >>304
第2弾 参照2000突破記念 2010.10.11 >>460
第3弾 参照3000突破記念 2010.11.18 >>661

≪返信400突破記念*E・Cラジオ*≫ 2010.10.6〜
NO.1 亜弓&恵玲 >>422
NO.2 恵玲&風也 >>495
NO.3 ウィル&白波 >>587
NO.4 亜弓&風也 >>676
NO.5 水希&茜 >>852

≪返信500突破記念 =キャラQ&A=≫ 2010.10.17

≪参照4000突破記念 =キャラ誕生秘話=≫ 2010.12.9
NO.1 >>743 NO.2 >>748


≪ Enjoy Club名言集*。* ≫ by杏樹.さん  2010.9.25・26・28
杏樹さんがつくってくださいましたーv
ネタばれになるんで本編一通り読んでから、ぜひご覧になってください^^♪
杏樹さん本当にありがとうございました!!!

第1弾>>317 (友桃コメ>>319
第2弾>>338  (友桃コメ>>341)
第3弾>>362 (友桃コメ>>364


≪E・C(1章)紹介文≫ by ARMA3さん 
>>992 2013.1.27


≪Christmas Short Story≫ 2010.12.19
>>773,>>774

≪Happy Birthday≫
・5月…… (朱雀*@).゜.さん
・11月17日……杏樹.さん >>654

みんなでお祝いしましょ♪


*2010年冬・小説大会 コメディ・ライト小説大賞受賞。
*2011年夏・小説大会 コメディ・ライト小説銀賞受賞
みなさま、ありがとうございましたm(__)m

*2011.5.4 第一章完結





=Enjoy Club=



第1章




—プロローグ—



——熱い


 燃えるように、煮えたぎるように身を焦がしていくモノは、先程注入した薬品か、はたまた我自身の高揚か……。体内に何か不可視の力がみなぎってくるのを、今全身で感じている。
 目の前の金属の台に置かれているのは、たいていの科学者が用いているだろう多量の実験器具。その透明なガラスには幾色もの液体が沈み、わずかな振動で波紋を描いている。その隣には、青白い液の残った注射器が無造作に転がっていた。
 興奮に身を震わせる私の隣に、線の細い少年が音もなく歩いてきて足を止めた。

「……」

 台上の液体を見つめる顔は冗談でも健康的とは言えず感情も感じられないが、よく見るとまだ幼いことが分かる。眠っていないのか、黒くくすんだ眼元をごしごしとこすり、彼は黙って私に視線を向けた。

「君のお陰だ。君が手伝ってくれたお陰で、ようやく完成した……!」

 この試みを始めてから8年という時が経過していた。寝る間も食う間も惜しんで、器具と薬品と毎日、毎日にらみ合い、無数に思えるほどの液体を調合し、実験をし、数値を示して再び薬品とのにらめっこ。長い、長い時だった。しかし何の組織にも属さない、2人というごく少数の科学者が8年で実験の成果を出す、ということは、あるいは幸運なことなのかもしれない。たった8年だった、というべきなのだろうか……。
 何にせよ、実験は成功したのだ。私の努力がついに実を結んだのだ!
 現実であることを確かめるように両の拳を力強く握ると、先程まで無言だった少年が、まだ声変わりしない声で囁くように言った。

「ぼく、……少しは“かげはる”様の役に立てた……?」

 彼の至極純な気持ちが伝わってくる。はっきりと頷いてやると、少しはにこりとするかと思ったが、ごく僅かにも表情は動かない。

 ——この子は今何を感じているのだろうか

 長きにわたる研究によって身に宿った、“透視”の能力。あらゆる障害物を無にし、普通視界に入るはずの無いはるか遠くにあるものをも見ることができる能力。しかしこの能力を持ってしても、人の心は、——彼の心は覗けない。


「——天音」


 私は少年の目を覗き込んで、そう呼んだ。

「私と同じ、能力者になろう。そしていつかはこの薬を世界中にばらまいて——……」

 試験管の中の色とりどりの薬品。それぞれが異なる性質のものであり、体内に入れたときにどのような能力を発するかは、今の段階では未知である。しかし、だからこそ、私は興奮するのだ。未知のものを追いかけたくなるのだ。

 天音が一番手近にあった、桃色がかった液体を手で示す。私は満足感に笑みを浮かべた。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198



200コメ突破おめでとうございます! ( No.210 )
日時: 2010/09/15 22:52
名前: 花見 (ID: 7GPkHSud)


いやぁ・・・
一番最初から見ていましたが
やはりもう200いきましたか・・・・。
(ツーハンドレット・・・?・・・あれ?)

風也くんのイメージはツンツン髪だったんですよね〜^^
そして実物を見てみるとぉ〜・・・><///


あぁらびっくり!!
鼻血出しそうです!かっこいいです!!>∀<wwwwww

やばいです!!風也くん結婚してぇ!!
(亜弓さんと町田さんに怒られる・・・!)

Re:Enjoy Club ( No.211 )
日時: 2010/09/16 16:29
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

花見さん>

ありがとうございますっ///

そうなんですよっ、花見さんは最初のお客様なんです!!ww ここまで見てくださって本当に感謝です><!!

やっぱ金髪のヤンキーっていうとツンツン髪がうかんじゃいますよね(汗; 読み返してみたら、私やっぱりまともに風也の髪型の描写してないし……←
ショートヘアーとか言えば絵を見てない読者の方にも伝わりますかね…><?

あれっ、また結婚宣言が!!笑
そうですよーwwあーちゃんと町田っていうライバル(←)がいますからねーww笑
とりあえず気に入っていただけたようでうれしいですっ^^www




みなさま>

次の話、なんと3つに細かく分かれちゃいました∑

Enjoy Club 第5話『不確かなもの』(1) ( No.212 )
日時: 2010/09/16 16:20
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

 ジリジリと肌を焼くような日光が後ろから照りつける。それはコンクリートの地面に反射して、下からも全身を焦がして行く。動かずとも居るだけで、額から、首筋から、腕から、汗がどんどん噴きでてくる。
 学校周辺の木々からは、毎年恒例のセミの大合唱。そこかしこから聞こえてくるその統一性の無い歌が耳にじんじんと鳴り響き、それだけでも暑さが増すようだった。この声を聞くと、あぁ夏だなぁとしみじみ感じてしまう。

 衣替えでブラウスのみの着用が許可されているというのに、それでもまだ足りない。ブラウスの背中の部分が汗で滲んでいるのが分かってげんなりする。そしてそれ以上に、紺のハイソックスがこの炎天下の中気持ち悪すぎて、今すぐ脱いでやりたい気持ちになった。

 うつろな目で隣に視線をやると、風也と恵玲も暑さにやられて顔をしかめていた。風也はいくつかボタンの外されたワイシャツの襟元で、パタパタとあおいでいる。

「……どこかで涼みません?」

 私は堪え切れなくなって、2人にそう持ちかけた。駅前の桜通りに、ファミレスも喫茶店も大体そろっている。

 ちょうど校門を抜けたところで、風也が独り言のように呟いた。

「何か飲みてぇ……」
「私、アイス食べたいですー」
「ごめん、あたし帰るから」

 期待を裏切る恵玲の台詞に、私は勢いよく彼女を振り返った。恵玲は前に視線を向けたまま、こちらを見もせず調子の低い声で続ける。

「今から出掛けるの。だから2人でこのままデートでも行ってきなぁ〜」

 ——……デ…っ!?

 頬がカッと熱くなる。危うく声に出すところだった。

 風也と2人で出掛けたことは今まで何度もあったが、改めて“デート”と言われると全く感触の違うものになる。突然緊張が増してきて、体全体がまた別の熱を帯びてきた。太陽の熱だけでもう限界だというのに、このままでは火照りあがって沸騰してしまう。

 そんなことをしているうちに、学校を出て1つ目の交差点にたどりついた。本来ならここで私と恵玲が右に曲がることになるのだが、今日は恵玲のみ別れることになる。

 ちょうど信号の色が青に変わり、恵玲はからかうようにニッと口元で笑って手を振った。

「それじゃ、テスト返却お疲れっ。バイバイ!」

 嫌な単語を耳にし、うっと渋い顔をしている間に、彼女は行ってしまった。

 一応、という感じにその後ろ姿に手を振り、彼に向き直る。いつもは全然平気だというのに、目が合った瞬間思わず息を止めてしまった。恥ずかしすぎて目をそらしたいのに、そらせない。わけもなく、ただそらしたくないと意地を張るもう一方の自分が、逃げようとする自分を強い力で引き止めているようだ。

 彼は、緊張しないのだろうか。その表情は驚くほどいつも通りに見えて、複雑な気持ちになった。


 でも——


「それじゃお言葉に甘えて。……行くか、デート」


 彼のその優しい声が、私をがんじがらめにしていた緊張を、一瞬でほどいた。

Enjoy Club 第5話『不確かなもの』(1) ( No.213 )
日時: 2010/09/16 16:29
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

「そーいや、テストどうだっ——」
「それ第一声に言いますか!」

 喫茶店に入り、窓際の席に座った瞬間だった。
 私が皆まで言わせずに文句を言うと、風也はからかうようにこちらを見ている。

 ウェイトレスが水を置いて去るのを待ってから、私は重い口を開いた。

「風也に教わった英語と数学と古典は3、40点取れたんですよ、奇跡的に! あと国語と保健と…オーラルもギリギリどうにかなったんですけどー…」

 私がそこで言葉を濁すと、風也はメニューを開きながら独り言のように言う。

「そーいや、オレ理社教えてなかったな…」

 忘れてた、という感じの口調だ。実を言うと私も、頭の中が「数学ヤバい」という言葉で満たされていて化学と世界史の存在が完全に吹き飛んでいたため、文句は言えない。どちらにしろ、時間の関係からしてそこまで手は出せなかっただろうが。そしてもちろん前日に異常なほど焦って一夜漬けに挑戦した私だったが、見事に失敗。始めて1時間で眠ってしまったのである。
 ただ、そもそも彼に勉強を教わっていなかったらこれらの教科全て赤点だった自信があるので、彼にはいくら感謝をしてもし足りない。

「夏休み明け、追試ですー…」

 予定より少ないとはいえ、やはり追試があるということ自体が憂鬱だ。
 落ち込んだ声を出してヘタッとテーブルに伏せる私を見て、風也は苦笑を浮かべた。彼が頬杖をつくと、ショートヘアの金糸がさらっとその手を覆う。

「理社も教えるって。てか追試の科目数オレのが多いし」
「そういえば2日休んでましたもんね」
「あぁ。確か4科目」

 それほど、というより全く苦に感じていない声音。4科目と言えば、誰もがまず留年を思い浮かべる数だろう。風音高校には救済措置としての追試が設けられているため留年を避けることは可能なのだが、それでも普通は焦って当然の赤点数である。おそらく追試で十分な点数を取る自信があるのだろう。あるいは、それ以前に出席日数が足りていないために開き直っているだけか。

 そこでウェイトレスが注文を取りにやってくる。私はレモンティー、風也はアイスティーを頼み、ちょうど昼時だったのでホットドックを2つ追加した。

「風也テスト何点くらい取ってるんですか?」
 
 私はメニューをテーブルの脇に戻しながら尋ねる。

 自分の点数を口にするとどっと気落ちするが、他の人の点数を知るのはわくわくするものだ。

 ついさっきまでの沈んだ表情が一変して目をキラキラと光らせる私を、彼は半ば呆れたように見て、ぼそっと小さい声で言った。

「…90前後」
「——はい!? ちょ…っ、不良の肩書きどこ行ったんですか!」

 予想をはるかに超えた数字に、私は身を乗り出して声を上げる。

「その辺は気にすんな……って、あ…」

 視線を窓の向こうにやった風也が、あからさまに嫌な顔をして呟き声を漏らした。私は首をかしげて彼の視線を追う。

 この店の前の桜通り。クーラーの下の私達とは違い、日光にさらされぐったりとした表情の人々が多く行き来する中で、

 1人の少女が立ち止まり、こちらを凝視していた。

 しかもその表情がまた印象的で、まるで“理不尽な運命により引き裂かれた王子と、幾多の試練を乗り越えて今ようやく再会した…!”とでもいうようなオーラを漂わせているのである。口元に震える手をやり、瞳は今にも滴がこぼれそうな程うるんでいた。

 黒いストレート髪の、私と同じ制服を着た女の子。
 クラスは違うが、噂はよく聞いている。

「…町田…」

 正面で、風也がため息とともにその名前を吐き出す。今度は私が苦笑を浮かべる番だ。

「やっぱりあの子が町田さんですか。風也のこと大好きっていう…」
「——いや、ちょっと待て。アイツ店に入っ——」
「風也くんっ!」

 突然至近距離で喜色に満ちた明るい声が響き、私も風也も心底驚いて大きく身を引いた。

 さっきまで外にいたはずの町田美沙が、今目の前で頬を桜色に染めている。おそらく風也と目が合って無我夢中で店に駆け込んできたのだろうが、実に周りの見えていない子だ。普通好きな人が女の子と一緒にいたらその場を立ち去るだろう。それとも邪魔でもしに来たのだろうかと町田の顔を見て、私は内心かぶりを振った。そんな性格の悪いことをするような子には見えない。

 ——……この人完っ全に風也しか見えてないんですねー!

 町田は今、ものすごい押しの強さで風也に詰め寄っている。
 それをなぜか私は、他人事のように見つめていた。

「風也くん…! あたし達、こんな所で会えるなんてやっぱ運命だよね…!」
「なにバカなことほざいてんだ! 失せろっ」

 彼の町田の扱いが至極酷い。会うたびいつもこういう感じなのだろう。
 町田は彼が心底迷惑がっていることに気付かないのか、相変わらず恋に酔った表情で彼を見つめる。

「あのね、実はお願いがあるんだけど…」
「失せろ」
「あたしとメアド交換してくれない…!?」

 全くもって風也の台詞を聞いていない。ピンク系統の可愛いストラップがたくさんついたスライドの携帯を取り出して、スタンバイ状態である。周りのお客さんが何事かと注目していることにも、気付いていないようだ。

 ここまでくると本当にすごい、と私は内心感心していた。これがもし、風也がもう少し相手にしていたら私も不安でいても立ってもいられない状況になるのだろうが、彼がここまで邪険にしているのを見ると、その不安も吹き飛ぶ。

 私が黙って観戦する中で2人はしばらく言い合いらしきものを続けていたが、最後には風也が折れた。ズボンのポケットから黒い携帯を取り出して機嫌が悪そうに操作している。それを見て、みるみるうちに町田の顔が光に染まっていった。

「教えたらとっとと帰れよ?」
「うんっ!」

 案外素直に頷いた町田に、風也が携帯を向ける。すぐに交換が終わって、町田は嬉しそうに携帯を抱いた。

 そしてこのまま大人しく去るかと思いきや、彼女は迷惑極まりない台詞を残してこの場を後にしたのである。

「風也くん…っ、これであたし達、カップルになったも同然だね…っ!」

 私達は唖然として声さえ出せずに、ただただ固まって彼女の後ろ姿を見つめていた。

Enjoy Club 第5話『不確かなもの』(1) ( No.214 )
日時: 2010/09/16 16:26
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: pQfTCYhF)

 それから、たった紅茶1杯であれよあれよと2時間が経ち、私達は会計を済ませて店を出ていた。正直言って店に入るよりもさらに暑く、空気がねっとりとしている。

「……出る時間間違えましたね」
「確かに。……このままどこか遊びに行くか」
「はいっ」



 彼の隣に立てることが嬉しい。

 こうして私を見てくれる瞳が、本当に愛しい。


 私はこの時傲慢にも、彼とこんなに仲良く話せるのは私だけだと、心の隅で思いこんでいた。
 だって彼は、恵玲たちに対してさえ、今見せてくれているような優しくて甘い微笑みを見せたことが無かったから。今みたいなあたたかい声を、発したことはなかったから。


 だから私だけだって、いつのまにかそう、当たり前のように思っていたんだ——






 ちなみにその日の夜、風也の携帯に何十件という嫌がらせに近い数のメールが届いたそうだ。

 もちろんそれらは全て、町田からのものである……。

 ——……ドンマイです、風也……


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198