コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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Enjoy Club  =第1章完結=
日時: 2013/06/23 07:18
名前: 友桃 (ID: KZXdVVzS)
参照: http://www3.plala.or.jp/banisingukyanon/

あるとき、世界に謎の薬品がばらまかれた。
数年後、不思議な能力を身につけて生まれてきた子供達。彼らは仲間を求めて、ある結社に集結した。
彼らと接触した女子高生・亜弓は、結社内の混乱に次第に巻き込まれていく——

ファンタジー&シリアス要素ありのラブコメです!




クリックありがとうございますm(__)m

はじめまして、友桃(ともも)です^^
初投稿です>< 長編になるのですが、ちょっとずつ更新していきたいと思います。

よろしければ読んでみてください^^


*参照はHP(Enjoy Club保管場所)です。このスレのものを修正したやつを、縦書き改行無しバージョンで載せていくのでよろしければのぞいてみてください。※ただいま更新止まっております


*たまに記事のNo.飛んでいるところがありますが、残りの返信数を増やすために必要ない友桃のコメントを消しただけなので気にしないでください^^



〜お客さま〜
・花見さん ・かれーらいすさん ・十六夜さん ・貴也さん 
・勿忘草さん(亮さん、扉さん) ・咲さん ・gojampさん ・詩音さん 
・セピアさん ・杏樹.さん(真白ちゃん・そふとくりーむさん) ・ハッチしゃnさん ・ARMAさん
・遮犬さん ・ひろあさん ・白桃さん ・ゆかさん
・aguさん ・皐月凪さん ・(朱雀*@).゜さん ・奈々☆さん
・ 蘭*。*さん ・山口流さん ・トレモロさん ・紅蓮の流星さん
・或さん ・ (V)・∀・(V)さん(十六夜さん) ・もちもちさん ・夜兎さん
・むーみんさん(椎奈さん) ・未来さん ・ゲコゲコさん ・てるてるさん
・こたつとみかんさん ・星ファン★さん ・そらねさん ・希蘭さん
・Eternalさん ・羅希さん ・霧雫 蝶さん ・あらびきペッパーさん
・抹茶.(小豆.)さん ・野宮詩織さん ・、璃瑚. さん ・ののさん
・友美さん ・亜美さん ・蜜姫. さん ・ネズミさん
・月読 愛さん ・紗夢羅さん ・黒揚羽さん ・優香さん
・ぱちもんさん ・Lithicsさん ・苺莢さん

読んでくださってうれしいですv ありがとうございますm(__)m



〜登場人物紹介〜

・友賀 亜弓 Tomoga Ayumi……主人公
・荒木 恵玲 Aragi Ere
・紫苑 風也 Shion Kazaya

・ウィル=ロイファー
・有希 白波 Yu-ki Shiraha
・棚妙 水希 Tanadae Mizuki

・芝崎 功 Shibasaki Kou
・月上 有衣 Tsukigami Yu-i
・三和 伸次 Miwa Shinji
・蓮田 夜ゑ Hasuda Yoe

・谷田 津波 Tanida tsunami
・沢田 美久 Sawada Miku
・幸崎 静音 Ko-saki Shizune
・町田 美沙 Machida Misa
・小松 幸道 Komatsu Yukimichi

・大崎 影晴 O-saki Kageharu
・天音 Amane
・天銀 Amagane


〔後半から登場or2章メイン登場〕

・篠原 扇 Shinohara Ougi
・安藤 園香 Andou Sonoka
・富永 春妃 Tominaga Haruhi
・神崎 迅 Kannozaki Jin

・風香 Fu-ka
・友賀 葵 Tomoga Aoi


*あだ名>>48



〜目次〜

<第1章>

プロローグ >>0

第1話『謎の闇組織E・C』
(1)>>1 (2)>>2 (3)>>3 (4)>>5 (5)>>6 (6)>>10 (7)>>11 (8)>>13

第2話『金髪のキミにひとめ惚れ』
(1)>>25 (2)>>30 (3)>>40 (4)>>46 (5)>>49 (6)>>50

第3話『我ら、麗牙光陰——』
(1)>>57 (2)>>58 (3)>>64 (4)>>70 (5)>>81 (6)>>86 (7)>>88,>>89 (8)>>98 (9)>>104,>>105 (10)>>108

第4話『あなたのために……』
(1)>>111,>>112 (2)>>120,>>121 (3)>>130 (4)>>136 (5)>>147 (6)>>152 (7)>>157 (8)>>166 (9)>>172 (10)>>180 (11)>>184 (12)>>188

第5話『不確かなもの』
(1)>>212,>>213,>>214 (2)>>256 (3)>>268 (4)>>285 (5)>>291 (6)>>306 (7)>>332,>>333 (8)>>346,>>347 (9)>>357,>>358,>>359 (10)>>370,>>371

第6話『衝撃のとき
(1)>>397 (2)>>413,>>414 (3)>>425 (4)>>447,>>448 (5)>>474,>>475,>>476 (6)>>486,>>487 (7)>>518,>>519,>>520 (8)>>534 (9)>>557 (10)>>568 (11)>>576 (12)>>599 (13)>>627,>>628 (14)>>648 (15)>>696,>>697,>>698 (16)>>708,>>709,>>710

第7話『友を取り巻くモノ1』
(1)>>721 (2)>>726,>>727 (3)>>750,>>751 (4)>>784,>>785 (5)>>798 (6)>>813,>>814 (7)>>870,>>871 (8)>>>889,>>890

第8話『友を取り巻くモノ2』
(1)>>893 (2)>>901,>>902 (3)>>905,>>906 (4)>>910,>>911,>>912,>>913,>>914 (5)>>918,>>919 (6)>>923,>>924 (7)>>926,>>927 (8)>>931,>>932 (9)>>934 (10)>>936

第9話『混乱の夜明け』
(1)>>940,>>941 (2)>>945 (3)>>949 (4)>>955,>>956

エピローグ>>962

*初めて来てくださった方、できれば目次から行かないでコメも含めてよんでほしいです><
途中でキャラのプロフィールと絵がでてくるんで^^ てか某友人の書いたキャラ絵、神なんでv←



〜企画〜

≪第1回キャラ人気投票≫ 2010.8.27〜
 結果>>225

≪第1回シーン人気投票≫ 2010.923〜
 結果>>511

≪☆お客様方の小説紹介☆≫
第1弾 返信300突破記念 2010.9.25 >>304
第2弾 参照2000突破記念 2010.10.11 >>460
第3弾 参照3000突破記念 2010.11.18 >>661

≪返信400突破記念*E・Cラジオ*≫ 2010.10.6〜
NO.1 亜弓&恵玲 >>422
NO.2 恵玲&風也 >>495
NO.3 ウィル&白波 >>587
NO.4 亜弓&風也 >>676
NO.5 水希&茜 >>852

≪返信500突破記念 =キャラQ&A=≫ 2010.10.17

≪参照4000突破記念 =キャラ誕生秘話=≫ 2010.12.9
NO.1 >>743 NO.2 >>748


≪ Enjoy Club名言集*。* ≫ by杏樹.さん  2010.9.25・26・28
杏樹さんがつくってくださいましたーv
ネタばれになるんで本編一通り読んでから、ぜひご覧になってください^^♪
杏樹さん本当にありがとうございました!!!

第1弾>>317 (友桃コメ>>319
第2弾>>338  (友桃コメ>>341)
第3弾>>362 (友桃コメ>>364


≪E・C(1章)紹介文≫ by ARMA3さん 
>>992 2013.1.27


≪Christmas Short Story≫ 2010.12.19
>>773,>>774

≪Happy Birthday≫
・5月…… (朱雀*@).゜.さん
・11月17日……杏樹.さん >>654

みんなでお祝いしましょ♪


*2010年冬・小説大会 コメディ・ライト小説大賞受賞。
*2011年夏・小説大会 コメディ・ライト小説銀賞受賞
みなさま、ありがとうございましたm(__)m

*2011.5.4 第一章完結





=Enjoy Club=



第1章




—プロローグ—



——熱い


 燃えるように、煮えたぎるように身を焦がしていくモノは、先程注入した薬品か、はたまた我自身の高揚か……。体内に何か不可視の力がみなぎってくるのを、今全身で感じている。
 目の前の金属の台に置かれているのは、たいていの科学者が用いているだろう多量の実験器具。その透明なガラスには幾色もの液体が沈み、わずかな振動で波紋を描いている。その隣には、青白い液の残った注射器が無造作に転がっていた。
 興奮に身を震わせる私の隣に、線の細い少年が音もなく歩いてきて足を止めた。

「……」

 台上の液体を見つめる顔は冗談でも健康的とは言えず感情も感じられないが、よく見るとまだ幼いことが分かる。眠っていないのか、黒くくすんだ眼元をごしごしとこすり、彼は黙って私に視線を向けた。

「君のお陰だ。君が手伝ってくれたお陰で、ようやく完成した……!」

 この試みを始めてから8年という時が経過していた。寝る間も食う間も惜しんで、器具と薬品と毎日、毎日にらみ合い、無数に思えるほどの液体を調合し、実験をし、数値を示して再び薬品とのにらめっこ。長い、長い時だった。しかし何の組織にも属さない、2人というごく少数の科学者が8年で実験の成果を出す、ということは、あるいは幸運なことなのかもしれない。たった8年だった、というべきなのだろうか……。
 何にせよ、実験は成功したのだ。私の努力がついに実を結んだのだ!
 現実であることを確かめるように両の拳を力強く握ると、先程まで無言だった少年が、まだ声変わりしない声で囁くように言った。

「ぼく、……少しは“かげはる”様の役に立てた……?」

 彼の至極純な気持ちが伝わってくる。はっきりと頷いてやると、少しはにこりとするかと思ったが、ごく僅かにも表情は動かない。

 ——この子は今何を感じているのだろうか

 長きにわたる研究によって身に宿った、“透視”の能力。あらゆる障害物を無にし、普通視界に入るはずの無いはるか遠くにあるものをも見ることができる能力。しかしこの能力を持ってしても、人の心は、——彼の心は覗けない。


「——天音」


 私は少年の目を覗き込んで、そう呼んだ。

「私と同じ、能力者になろう。そしていつかはこの薬を世界中にばらまいて——……」

 試験管の中の色とりどりの薬品。それぞれが異なる性質のものであり、体内に入れたときにどのような能力を発するかは、今の段階では未知である。しかし、だからこそ、私は興奮するのだ。未知のものを追いかけたくなるのだ。

 天音が一番手近にあった、桃色がかった液体を手で示す。私は満足感に笑みを浮かべた。

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Re: Enjoy Club ( No.707 )
日時: 2010/11/30 20:27
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)
参照: ごめんなさいm(__)m


読むのがんばってください、約6000字!!(爆←←
たぶん文字数的にE・C史上最長です(笑

……3ページww

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(16)  ( No.708 )
日時: 2010/11/30 20:31
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)

 これがどこかのお城だったら、“謁見の間”とでも称すのだろうか。
 開かれた扉の向こうを見た恵玲は、感嘆の吐息と共にそんなことを考えていた。

 長方形の広い部屋。両側は大きな窓がいくつも並び、それらの縁は丁寧な彫刻で飾られている。派手すぎない落ち着いた赤色の絨毯が、足元——つまり入り口から真っ直ぐ部屋の奥まで伸び、この部屋の格調を何倍にも上げている。そして部屋の一番奥は床が一段高くなっていて、そこには玉座のような立派な椅子がしつらえてあった。さすがに金ぴかではなかったが。

 恵玲はレッドカーペットのように一直線に伸びる絨毯を、手前から徐々に奥の方へと目で追っていき……

 やがてある男性を、その印象的な黒瞳にはっきりと映し出した。

 右目が包帯で覆われた隻眼。その白い包帯にかぶるように右側だけ長く伸ばされた黒い髪。後ろは首筋を覆う、やや長めの長さ。鼻筋は通り、細い顎が顔全体を引き締めている。隠されていない左目は凪いだ波のように穏やかに、しかしどこか狂気の色を含んでいた。緩く弧を描く薄い唇からは、どんなことが起きても大丈夫、そんな大きな余裕を感じさせられる。年齢は、外見から判断すれば30代くらいだろう。
 仕立ての良い黒いスーツを身にまとったその人物は、部屋の一番奥の椅子に堂々と腰かけ、足を組んで、微笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

 思わず、すぅ……と息を吸い込む。それを吐き出せないまま高鳴る胸に右手の拳をあて、震える唇をかむようにして押さえこんで。——直後、どかんっと一気に体温が上がり、恵玲は感極まった表情で、声で、叫んでいた。


「——影晴様!!」


 誰かの歓喜に満ちた声がかぶる。おそらく水希だろう。

 2人の声に一層笑みを深くした男性——闇組織・E・Cのリーダ大崎影晴は、ゆっくりと椅子から腰を上げこちらに向かって歩き出した。それを見て目を見開いた恵玲と水希は、次の瞬間迷わず駆け出し、影晴の胸に飛び込んでいた。

「影晴様〜!」

 さすがに驚いた様子の影晴はしばらく目を丸くして腕の中の2人を見下ろしていたが、ややあってその瞳に慈愛の色を灯し、大きな掌を頭にのせた。

「正直そこまで喜んでくれるとは思わなかったなぁ。2人とも、元気にしてたかい?」

 頭を優しくなでられ抱きついたまま顔をあげた2人は、心底うれしそうな表情で言葉を返す。

「はい、おかげさまで!」
「7年振りなんですよぉ? うれしくないわけないじゃないですか!」

 すると影晴は微笑みを絶やさないまま、膝を折って目線を下げてきた。それは……そう、初めて会ったあの日のように。ただ当時と決定的に違うのは、比較的低い部類に入るとはいえ、2人ともあのときよりは随分と背が伸びたということ。背は高めの影晴でも、しゃがんでしまうとさすがに恵玲たちを見上げる形になる。
 尊敬する大好きな主に会えた喜びに加え、こんな行動までとられてしまい、恵玲はじんわりと胸が熱くなった。

「大きくなったね、2人とも」

 感慨深い声で、そんなことまで言う。
 つい目頭が熱くなったのを、恵玲は無理矢理押さえこんだ。隣にいる水希は瞳を涙で滲ませ、しゅんと鼻をすすっている。

 ——変わらない。
 彼女らの主は、以前と変わらず、大きな包容力のある優しい笑みをその頬にたたえている……。





 完全に取り残される形となったウィルと白波は、部屋の入口に突っ立ったまま、その光景をじっと見つめていた。特にウィルは、自分のことのようにうれしそうな表情だ。
 あんなに喜ぶのも無理はない、とウィルは思う。自分と違って、彼女らは何年も彼に会っていないのだから。

「良かったね」

 周りには聞こえないような小さな声でそう呟き、ウィルは彼女らと同じく久し振りの面会のはずの白波に声を投げた。

「白波も行ってきたら? 感動の再会」

 ちらりと視線だけ寄こす白波。

「……いい」

 思った通りの辞退の言葉に、ウィルはついくすっと笑みをこぼしていた。

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(16) ( No.709 )
日時: 2010/11/30 20:34
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)

 しばらくすると、自然と皆あるべき位置に戻っていった。主の影晴は元座っていた立派な椅子へ、麗牙光陰の4人は扉から2、3メートル進んだところへ。
 会えた喜びをせき止められずに表に出し切った恵玲と水希は、少しの間恥じらうような表情を見せたものの、ウィルの所に戻る頃にはすっかりいつもの顔に戻っていた。恵玲なんか特に、実に頼もしく意志の強い光をその瞳に宿している。彼女らが戻るとウィルは小さく頷き、慣れた動作で片膝をつき頭を下げた。彼の一歩後ろに横に並んだ3人も、当然のごとく彼に従う。

「3人に代わって。お久しぶりです、影晴様」

 ウィルは部屋に入るときと同じく改まった感じの、落ち着いた声音でそう言った。その声を耳にしたとたん、恵玲は一気に身が引き締まるのを感じていた。自分の息使いがやけに大きく聞こえる。
 影晴はあくまでゆっくりと、組んだ両手を膝にのせて軽く前かがみになる。先程の2人の行為を無礼だとみなす気配はまったく無く、快い表情でうなずいた。

「元気そうで何よりだ。白波も元気にしてたかい?」

 一拍おいて白波が肯定の返事を返す。頭を下げている4人は、影晴の顔にうっすらと浮かんだ意地悪な笑みには気付かない。

 そしてなにやら楽しそうに小さく笑い声をもらした影晴は、ふと思い出したように、顔をあげるよう彼らに指示をした。ウィルと白波は割合あっさりと従ったが、残る2人はちょっと躊躇いがちにおずおずと顔を上げていく。そして主が正面の奥のほうにいることを再確認して、嬉しげに自然と頬を緩める。

 すると影晴は、ちらっと入口の扉に目をやってから再びこちらに視線を戻し、そして——……

「——さて」

 そう切り出したときの影晴の声は、物騒な響きを充満に含んでいた。

「本題に入ろうか」

 部屋の空気が一変した。主の目は、笑っていない。

 ぞくりと背筋に寒気が走り、恵玲は体を硬直させた。横目に水希を見ると、彼女も表情を凍らせ、まばたきもせずに目を見開いている。今口の中の空気を吐き出したら、白い息でも出てきそうな、そんな冷気が恵玲の身を包んでいた。

 4人の反応を確かめるように視線を横に流して、影晴は空気を凍らせたまま話を続ける。

「なぜ、ここに4人そろって呼んだのか」

 ゆらりと、影晴は立ち上がった。それだけで、空気の重みが増す。息が、詰まる。
 まるで図っているかのように、彼はゆっくりと、もったいぶったようにゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。かかとから爪先へ絨毯を踏んでいくのが、息苦しいほどにはっきりと感じられた。……足音まで聞こえてくるようだ。実際ではありえない、重く響く足音が。

 ——……なに、これ……

 この異常な空気に混乱して、恵玲は影晴の顔を凝視していた。目がそらせなかったのだ。その不気味なほどに凪ぎ、どこか狂気を含んだ、その隻眼から。

 極度に張り詰められた空気の中、果たして影晴はあくまで口元だけに笑みを浮かべて言ったのだ。


「闇組織E・Cの勢力範囲を、大幅に拡大する」


 思わず2、3度まばたきを繰り返した。体の中に氷柱が生じたような寒気に襲われる。

 彼を金縛りにかかったように凝視し続けることしかできない恵玲に代わって、ウィルがどうにか言葉を発した。

「なん、で……そんなこと、する必要が……っ」

 そこでウィルが、くっと息を呑んでわずかに身を引くのがわかった。そして同じく恵玲も、ついた片膝を半歩引いている。

 影晴が笑っていた。満面の、笑みで。

「“なんで”……? そんなこと、君たちが気にする必要こそまったく無いよ。君たちはただ、今まで通りこちらの指示に従ってやってくれさえすればそれでいい」

 冷え切った声音。どこまでも凪いだ、ぬくもりなど消し去ったような音。
 自分の耳が信じられなかった。自分の目が、感覚が、信じられなかった。

 そこでふと、

 影晴から物騒な空気が一気に消失した。こちらが脱力してしまいそうなほどにあっさりと、前触れなく。周囲を取り巻いていた冷気も、霧散し消えていった。

「……なんて」

 影晴は、意地悪く笑ってみせた。冗談だ、という風に。

「大丈夫。範囲が広がるだけで任務内容は変わらない。君たちは何も心配しなくていい」

 すぅっと意識して空気を吸い込む。結局勢力拡大に変わりないではないか、なんていう疑問は心の隅に追いやられる。一度強く瞼を閉じた後、恵玲は改めて影晴の姿を視界に入れた。

 すっかり、元に戻っていた。つまり、彼女らが来た直後の穏やかで寛大な雰囲気に。
 一瞬、自分は馬鹿な夢でも見ていたのではないかという錯覚に襲われる。今の、1分に満たないような時間、自分はあろうことか主のいるこの場で眠ってしまっていたのではないかという錯覚に。
 しかしそんなことはどう考えたって起こり得ないことだし、それ以上に、
 体が、覚えている。握ったぬるっとした汗が、まだ手の中に残っているのだ。
 恵玲は張り詰めていた空気が緩んだことでほっと息はついたものの、自分の中に生まれた畏怖感を完全にぬぐいさることはできなかった。

Enjoy Club 第6話『衝撃の刻(とき)』(16) ( No.710 )
日時: 2010/11/30 20:36
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)

 皆が幾分か体の力を抜いて口の端に曖昧な笑みを浮かべるのを見て、影晴は突然声をあげて笑った。それはちょっとだけ4人をからかうような色を含んだ明るい声で、逆に恵玲たちの心を安心させた。恵玲の一歩前で片膝をついているウィルが、つられたように細い肩を震わす。恵玲はそれを見て自分も頬を緩めながら、隣にいる水希と視線をかわして意味もなく笑みをこぼした。

 それは、傍から見たら異様な光景だったかもしれない。恵玲自身、なぜ自分が笑っているのか、本当のところよくわかっていなかった。その中で唯一固い表情のままの白波は、少しだけ視線をそらして何もない床を見つめている。

 しばらくして影晴は、目じりににじんだ涙をぬぐいながら笑い混じりに言った。

「そう言えば、紹介したい人がいるのを忘れていたよ」

 そう言って影晴は、4人の背後——斜め後ろの方に目を向けた。そちらに視線を流す際、彼の視線が一瞬だけ扉の方に向くのを恵玲は見逃さなかった。

 ——……まただ。影晴様、さっきから何かを見てる

 ちょっとだけ眉をひそめつつ、彼の指す方向を何気なく振り返ると、

「あ……」

思わずといったふうに、ウィルが声をもらした。

 扉の左手……その壁際に、スーツを着込んだ1人の若い青年が身じろぎもせずに立っていた。
 すらりとした長身。何年も日に当たっていないような青白い頬に、焦点がはっきりと合わないぼんやりとした瞳。唇はただ閉じられているだけで、そこには何の表情も浮かばない。パサパサとした乾いた髪質の茶髪は、毛先にいくほど色が濃くなり黒に近付いている。その髪は所々いい具合にはね、1番長い部分は肩に触れる程度。

 ウィルとは違い、その青年に全く見覚えのなかった恵玲は、何の反応も示すことができなかった。

「私の助手の天銀だ。ウィルには紹介したことがあったね」
「はい」

 ウィルは頷いて、天銀と呼ばれる青年のほうに丁寧にお辞儀をする。対して彼は、無表情のまま顎を1ミリ程度引くにとどまった。ほとんど動いていないに等しいが。
 その少しだけ異様な雰囲気をかもし出した青年に、恵玲は正直親しみはわかなかったが、主の助手だということで最低限の礼儀は尽くすことにした。つまり、ちゃんと彼に向き直って片膝をついたまま頭を下げた。

「麗牙光陰の荒木恵玲です。知ってるかもしれないですけど、“アクション”の能力を持ってます」

 すぐに水希も倣って自己紹介をする。その間天銀はちゃんと聞いているのかどうか怪しい様子で、ぼうっと興味のなさそうな顔をこちらに向けている。
 そして当然のごとく、順番は白波のほうまで回ってきた。恵玲が横目で見ると、なぜか彼は唇を引き結んでじっと天銀を見ていたが、数秒後渋々口を開きかけて——……


「何者かが侵入したようだね」


 不気味に響いた影晴の声に、皆が一斉に主を振り返った。彼の薄い唇には、なぜか淡い笑みが浮かんでいる。腕を組んで入口の扉をじっと見つめるその目には、棘のような光が灯っていた。

 扉の前には誰もいない。そしてもちろんあの立派な扉の向こうが、見えるわけがない。……普通なら。

 ——……影晴様、さっきから何を見てるのかと思ったら、“透視”で扉の向こうを……

「侵入者、ですか……?」

 ウィルの顔が不安にかげる。恐る恐るといった声音だ。

 恵玲も水希と顔を見合わせ小さく首を傾げた後、その視線を扉へと移した。そしてそらすことなくじっとそれを見つめたまま、ゆっくりと立ち上がる。その黒瞳はわずかな警戒心と、それを大幅に超える自らの力への自信とで彩られていた。
 彼女に続いてウィルらも立ち上がり、じっと扉に目を凝らす。皆の視線が、一点に集中した。

「影晴様」

 そう言葉を発したのは、恵玲だった。視線はそのままに、後ろにいる主へと声を飛ばす。警戒した空気に包まれるこの空間で、異様に芯の通った余裕のある声だった。現に彼女は舌なめずりをし、片足を半歩引いて、いつでも動ける体勢となっている。

「あたしが追い払ってきましょうか?」

 彼女の声が、じんわりと広がるように不気味に響く。白波がちらりと横目で彼女を見る。

 しかし。

「——いや」

 背後からの主の声。彼女以上に余裕を感じさせる、落ち着いた、それでいてどこか鋭利な刃を思わせる声。彼もまた、周囲を取り囲む張り詰めた空気からははっきりと浮いていた。 

「もう、着いたようだよ」

 ウィルと水希が目を見開いて後ろを振り返り、影晴を見る。対して恵玲は視線を外さないまま、いつでも能力を使えるように気持ちを高め——……


 バタンっと音を立てて、両開きの扉が乱暴に開かれた。


 そして、その扉の向こうから姿を現した人物を視界に入れて、
 呼吸が、止まった。
 同時に周囲から一切の音という音が消え去り、強烈な金縛りにあったように全てが動きを止めた恵玲の世界を、

 よく知った声が突き破った。


「——恵玲!」


 背中まで真っ直ぐに下りた茶色い髪。その左上部だけを結った白いファーボンボンのシュシュ。こちらに負けないくらい切羽詰まって見開かれた、穢れのない瞳。

 声を出そうとしても喉の奥でつっかえて思うように出ず、空唾を飲んで、幾度か口をパクパクとさせ……
 息が止まりそうな苦痛にかられながら、ようやく掠れた声を発した。


「あゆ、み……!?」


 恵玲の震える大きな黒瞳には、友賀亜弓と紫苑風也2人の姿が、嫌というほどはっきりと映っていた——…… 

Re: Enjoy Club ( No.711 )
日時: 2010/11/30 20:41
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: vDb5uiaj)


6話終了ですww
なんでこんな半端なとこで終わらせた、私……っ←

とりあえず6、7話は続く感じになるんでご安心をww(ぇ

なんていうか……打つの疲れました←←
読んでくださった方ありがとうございましたm(__)m


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