コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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???〜おまけやってます〜
日時: 2011/11/30 06:49
名前: 栗田 和紀 (ID: lmEZUI7z)



はじめまして。
栗田和紀と申します。

一応の完成です。
でも、気に入ってないのでちょくちょく書き直します。
あと、身を置く場所を間違えました。超シリアスです。

おまけを書き始めました。良ければ読んで下さい。
おまけが本気だったりします。

シリアスにも出没しているので、そちらも是非。


感想を求めています。
一言でも頂けたら嬉しいです。


本編はno.6から始まってます。

Page:1 2 3 4 5 6



Re: ??? ( No.7 )
日時: 2011/06/03 12:33
名前: 栗田 和紀 (ID: yjY9NVuD)

「ちっ、弟か!!」
「うちの兄貴になにやらかそうとしてんだ!!お前!!」

むぎゅっと音が鳴りそうなほど力強く抱きしめて、私からばにら先輩をひったくったのは、奇しくも彼の弟だった。

「何って健全な上下交流に決まっているでしょう。あなた馬鹿ですか?」
「セーラー服待ちだして健全語るな!!」
「大体”うちの兄貴”とかマジ止めてくださいよ。あなたなんかより私の方がばにら先輩とは長い付き合いなんですから」
「う・・・・」

そう言われると弱いのか途端に苦しげに呻いた弟に、私は勝ち誇ったように鼻を鳴らす。すると、あまりに可哀想に思ったのかばにら先輩は弟の腕からもごもご這い出ると、ぴょこんと小さな両手を広げて私の前に立ち憚った。

「歌音ちゃん!!駆汰(かるた)を苛めちゃ、めっ!!」

思い切り抱きしめた。

「きゃああああっ」
「だから、やめろっちゅーに!!!」
「いや、今のは不可抗力でしょう」

めっ!!って、お前・・・可愛いすぎるだろ・・・。
罪な人である。


「そんなことより、ばにら先輩」
「なぁに?」

抱きしめられたまま可愛く首を傾げるばにら先輩に、もう諦めたのか、もしくは私とバトるのに疲れたのか、弟はもう何も言わなかった。なので私は続ける。

「なんでコソコソしてたんですか?」
「っえ」

途端、先輩の表情が凍る。どうやら触れられたくなかった話題らしい。見て分かるほどに硬直した。

「コソコソ?」

弟にも心当たりは無いようで、初耳だとばかりに先輩の顔を覗き込む。先輩は私の顔を見つめてから、弟の顔を見つめて、それからまた私を見つめる。

「こ、コソコソなんかしてないよ!!」

怪しい・・・・
疑ってくれと言わんばかりだ。

「先輩」
「何かなっ?」

なんだか冷や汗をかき始めた先輩の耳元で、私はぽそりと囁く。

「今言った方が、先輩の為ですよ・・・・」
「か、歌音ちゃん、怖いからっ!!なんでシャツのボタン外すの!?」
「こらこらこらこら!!」

そこは譲れないらしく弟が止めに入る。仕方が無いので手を止めた。

「冗談ですよ、半分はね」
「本気も入ってんのかよ!!」

弟の軽快な突っ込みもよそに、先輩はなぜか急に私の腕の中で暴れ始めた。その声は通りがかった女生徒を呼び止めている。

「久美ちゃん、久美ちゃん!」
「あら?ばにらちゃんの声かしら・・・気のせいよね」
「ちょ、見えてるでしょ!?無視しないで!置いてかないでぇっ!」

先輩の悲痛な叫びにカラカラと笑ったショートカットの女生徒は、そこでようやくばにら先輩を振り返った。やけに目と胸のでかい少女だ。

「あらあら、ばにらちゃんじゃない!どしたの、こんなとこで。まさか先輩狩りの真っ最中?」
「不穏な単語出すの止めようよ!狩られて無いもん!遊んでるだけだもん!」

年上の沽券に関わるとでも思ったのか、負けじと言い返した先輩に、久美と呼ばれた少女は意地悪な笑みを浮かべる。

「へぇ・・・じゃ、助けなくていいんだ」
「えっ」
「なんか困ってるみたいだから、助けてあげよっかなぁ〜とか思ってたんだけど・・・そっかぁ遊んでるだけなのかぁ・・・」
「え、と・・・あのっ・・・」
「じゃあ、邪魔したねぇ!ばいばーい!」
「うわあああんっごめんなさい!困ってます!助けてぇっ!!」

とうとう白状させられた先輩に、「正直でよろしい」と満足げに微笑んだ久美は私に向かい合った。

「ってぇ事で、それ貰ってイイ?」
「嫌です」

間髪入れず答えた私に、久美は一瞬驚いて後、何かを理解したように微笑んだ。

「あぁ、なーる。君、”歌音”チャンでしょ」
「・・・・それが何か?」

ていうか何で知ってる?
その思いが顔に出てたのか久美はニコニコ(どっちかというとニヤニヤ)したままばにら先輩を見た。

「ばにらちゃんから聞いたのさ〜。可愛いねぇ、歌音ちゃん」

その思わせぶりな言葉にばにら先輩はあからさまに動揺して叫んだ。

「久美ちゃん!僕、久美ちゃんに御用があるの!!ちょっといいかな!!?」
「おお、おお、いいともさ」
「ここじゃなんだから、移動しよっ!ねっ?・・・ってことで、ごめんね、歌音ちゃん!!また明日ねっ!!」

上記の台詞を三倍速で言い終えたばにら先輩は、私の返事も聞かずに久美の首根っこを掴んで、二次元的表現で言う所の”煙を上げて”走り去ってしまった。

・・・・・速ぇ。


「・・・・おい、霧島」
「なんですか、弟」

私と同様に呆然としていた弟もようやく復活したらしい。ポツリと呼びかけてきた。

「お前ってさ・・・・・・やっぱり兄貴の事」
「?」
「・・・・・・・なんでもない」

何かを言いかけた弟は、しかし首を振って続きを止めた。私的には、ばにら先輩の名が出た以上無視するわけにもいかないので弟に食って掛かる。

「気になるじゃですか。あなたのせいで今夜私が安眠を貪れなかったらどうしてくれるんです。責任とってばにら先輩を嫁にくれるんですか」
「なぜに兄貴!?そこは俺・・・・・っ」

そこまで言いかけて止まる。顔が真っ赤だ。
私は白い目で見た。

「嫁に来ますか?アナタが」
「・・・っ!行かねぇよ、ばーか!!」

悔しそうに睨み付けた弟は紅玉林檎みたいだ。
面白かったので私は続ける。

「そんな・・・・私とは嫌だって言うんですか」
「・・・・え?いやっ違っ!!」
「あぁ、やっぱり嫌なんですね。仕方ありませんよね、私はアナタに冷たい態度ばかりでしたし・・・嫌われても・・・・」
「嫌いじゃないっ!!」

及び腰になった弟を集中砲火の勢いで畳み掛けていた私は、弟の叫びに息を呑む。

「嫌いじゃ、ない・・・・・から」

それだけの台詞なのに、弟の顔は真剣だった。
二人の間に何とも言えない空気が流れた。
弟はしばらく何かを言いかけていたが、ふっと微笑むと

「・・・・・・・・・・・・帰ろうぜ」

と言った。
私はホッと肩の力を抜いて、小さく頷いた。


Re: ??? ( No.8 )
日時: 2011/06/03 12:35
名前: 栗田 和紀 (ID: yjY9NVuD)

「久美ちゃん意地悪だよぅ・・・」

小さく嗚咽を漏らしながらぐずっているばにらに、久美は意地悪く微笑んで見せる。片手には、ばにらに奢らせたコロッケパンが握られていた。

「だって、しょうがないさね。可愛い後輩ちゃんに会いに行くーっ!って言うから掃除代わってやったのにさぁ。偶然通りかかってみりゃ、弟に遠慮してキョドってんだもん。そりゃ意地悪な気分にもなりますよぅ」
「・・・・そんなんじゃないもん」

ばにらは図星を指されたのが悔しかったのかぷくっと頬を膨らませた。それから首を傾げる。

「あれ?でも久美ちゃん、一年生のクラスに何か御用だったの?」
「え?」
「だって歌音ちゃんのクラスって非常階段の近くでしょう?非常階段って裏口だから正面玄関と正反対だし・・・・久美ちゃん正門組でしょう?」

今日はやけに鋭い・・・。
冷や汗をかきながら久美は目を逸らした。

「・・・・・・今日は裏門組なのさ・・・っ」
「ふぅん・・・・じゃあ、今日は一緒に帰れないんだね・・・残念」

大きな瞳をうるうるさせて、小さくため息をついたばにらに、久美は叫びだしそうな衝動を堪える。
・・・・・ワザとじゃないのはわかっているが、この男は人の恋心をもてあそぶのが上手だ。
そんな本当に残念そうな顔するな、馬鹿ばにら!本当はアンタに会いに来たんだよって教えたくなるだろ!!

「そ・・・さね」
「うん。でも、しょうがないよ」

困ったように微笑んだばにらに、ここで「やっぱり一緒に・・・」なんて事は言わない。そんな事言おうものなら

「ダメだよ。何か御用があるんでしょう?僕とはいつでも帰れるんだから、ね?」

とか、かわいい顔で頼み込みやがるのだ。

久美は深いため息をつく。
無駄だと分かっているのに、この恋を捨てられない。
・・・・・ばにらは、あの後輩ちゃんが好きなのに。

「久美ちゃん?」

心配そうに久美の顔を覗き込んだばにらは、そっと顔を近づける。

「っ!!」
「隙ありっ」

驚いて目をつぶると、くすくす笑うばにらの声が聞こえた。
久美は恐る恐る目を開ける。・・・・・コロッケパンのコロッケが無い。
ばにらを見ると、口をもぐもぐさせていた。
ハムスターみたいで、ちょっとかわいい。
・・・・・・・・・じゃなくて。

「こらぁっ!!大事な部分を食べるなぁっ!!」
「へへぇんだっ!意地悪返しだもんっ」

真っ赤になっただろう顔を見られたくなくて、久美は俯きがちに叫ぶ。
ほっぺに衣の屑をつけたばにらは悪戯に微笑んで、「ばいばい、久美ちゃん!」と元気に手を振ってそのまま駆けて行ってしまった。

「・・・・・・意地悪なのは、そっちさね・・・」

ばにらが口付けたであろう残りのパンに、忍びなくて口を付けられない久美は、幸せなんだかそうじゃないんだか分からない状況に一人ため息をついた。





「時に、弟」
「な、なんだよ」

道中終始無言だった帰り道。会話の口火を切ったのは自分でも意外だが、私だった。

「・・・・さっきの”久美ちゃん”なるものを、貴方は知っていましたか?」
「あ?あぁ・・・確か、一年の頃からずっと兄貴と同じクラスで、仲イイんだって言ってたな。・・・・・・・つか、兄貴の話かよ」
「・・・?それがなにか?」
「いや、お前らしくていいけどさ・・・」

何かがっかり感が否めない顔で言われてもてんで信憑性は無い。
だが、さほど掘り下げる話でもないので私はあえて流した。弟が恨めしげに言う。

「俺なんかよりお前の方が兄貴と付き合い長いんだろ。そんな話聞いてなかったのか?」
「・・・・・・・・・・」

嫌な所突いてきやがった。
・・・・ばにら先輩はあまり自分の話をしてくれない。
いつも私に話をねだって、話しべたで拙い私の言葉を幸せそうに聞いてくれる。

・・・昔からそうだ。
先輩だけが私を見てくれた。
怖がっても逃げずに、ずっと傍に居てくれた。





私が生まれたのはとある施設だった。
そこでは身寄りの無い子供たちが共同で生活していて、ばにら先輩とはそこで出会った。

「これが歌音だ」

霧島 歩振(きりしま ぽぷり)という名の女に呼び出され、そいつの部屋へ行くとそこには私より小柄な少年が立っていた。はた、と目が合う。

「歌音・・・ちゃん?」

きょとんと小首を傾げたその少年はたどたどしく私の名を呼ぶと、次ににっこり笑って私に手を差し出した。

「ぼく、ばにらっていうの。おいしそうでしょ」

くすくす笑う少年に、私は無機質な視線を返す。
・・・・だって、どうしたらいいのか分からないのだ。
そんな私に気付いたのか、少年は私の手を優しく掴むと自分の手を握らせて言った。

「”あくしゅ”だよ、歌音ちゃん。仲良くしよって意味なの」

繋いだ手から温もりが伝わってくる。

「よろしくねっ!歌音ちゃん」





「・・・・・霧島?」
「・・・・・っ」

どうやら物思いに耽っていたらしい。弟の声で現実に呼び戻された。
気がつくとそこは私の家の前で、ばにら先輩の家はとうの昔に過ぎていた。

「弟、なんで居るんですか?」
「お前がなんか考え事しながらフラフラ歩いて危なっかしいからついてきてやったんだよ!!悪いか!?」

いや、あまりにナチュラルに居たから驚いて。
真っ赤な顔で睨み付けてくる弟の顔に、私はふと、ばにら先輩の面影を見つける。・・・・ばにら先輩は塩崎家の養子で血は繋がっていない筈だが、一緒に暮らすと顔が似てくるものだろうか。

「・・・・なんだよ」
「いえ、似てるなぁと思って」

そうして黙っていれば可愛く見えなくも無いのでじっと見つめていたら、弟はとうとう耐え切れないとばかりに口を開いた。

「似てるって、兄貴にか?」
「はい」

弟は何かを考えるように俯くと、真摯な瞳を私に向ける。


「・・・・まぁ、兄貴は家族だしな。血は繋がってなくても、兄貴は俺の兄貴だ」

その言葉に私は少なからずショックを受ける。
私には理解できない家族愛とやらを見せ付けられたようで、切なかった。
・・・私はばにら先輩の何になれるのだろう。
悔しくてわざと茶化して見せた。

「・・・・・・ペットが飼い主に似る論と同じでしょうか」
「全然違うだろ!!もしかしなくとも失礼だからな、その例え!!兄貴にも俺にも!!」

軽やかな弟の突っ込みに私が満足げに頷いていると、弟はハッとしたように空を見る。

「っと、俺そろそろ帰るからな!」

沈みかけた夕日を見つけた弟は慌てた様に私に告げる。
私は小さく頷くと、ひらひらと手を振って見せた。
弟は嬉しそうに手を振り返す。

「また明日な!!」

『また明日ね!!』

その弟の姿と先程のばにら先輩が被って、私は思わず微笑んでしまう。そのレア顔を目撃したのか、弟は

「うああああああああああああああああああああああっ」

と、やけに悲鳴にしては嬉しそうな声で駆けて行った。

Re: ??? ( No.9 )
日時: 2011/05/31 12:36
名前: 栗田 和紀 (ID: yjY9NVuD)

一人暮らしのである為、私が家のドアを開いても「おかえり」の言葉は無い。
よって私にも「ただいま」の言葉はなかった。
その筈だったのだが・・・

「あら、やっと帰って来たわね」

誰も居ないはずの家のリビングに、見知らぬ女が居た。
燃えるようななワインレッドのワンピースに白衣。
フレームの右だけがハート型のサングラスと縫い痕だらけの全身。
キメてんだかズレてんだか分からない格好だ。
不審者だって事は一目で分かる。

「・・・・もしかして、誰?とか思ってる?」

あまりにも愉しそうに言うので私は負けじと首を振る。

「いえ、断じて。あれですよね、昨日の”神への道は亀が握っているの会”の勧誘の方ですよね。ですから、昨日も言った通り私は鶴派ですので」
「こらこらこら、人を変な宗教団体と一緒にしない!これでも私研究者なのよ?科学の申し子なのっ!」

えっへんと胸を張った自称科学者は、にっこり笑って私に言う。

「あなたの計画にも参加してたのよ。霧島 歌音ちゃん」
「・・・・・・?」

計画?まさか・・・
私の顔色が変わった事に気付いたらしい科学者、したり顔で続ける。

「そう。楽園(エデン)に居たの」
「・・・・・・・」

彼女の言う楽園とは、別にたいした隠語でも何でもない。
私が生まれて私が壊した施設の名前だ。
孤児をかき集めた、趣味の悪い実験動物の檻。
沢山の子供達が幾度も実験に使われ、壊れれば捨てられた。
・・・・・そんな場所。

「あそこの関係者が私に何か用ですか?」

ろくな物ではなさそうだが、私は一応聞いてみる。
すると科学者は思わせぶりに微笑んだ。

「ええ。ちょっと返して欲しい物があって」
「返して欲しい物?」
「言っとくけどしらばっくれてもダメなんだからね。歩振があんたに渡したって調べはついてんだから」
「・・・・・歩振・・・霧島歩振ですか」

嫌な名前を聞いた。
一応苗字は借りているが、私にやたらと固執する嫌な女という印象が拭えないどうしようもない人だった。
私は首を振る。

「いえ、あの人からそんなに大層な物貰った記憶はありませんよ。あったとしても多分捨ててますし」
「あら、冷たいのねぇ。一応、親でしょう」
「生み出した、という意味でならそうですが、あの人と親子だなんて想像するだけで虫唾が走るのでやめてください」

きっぱりと言い切った私を寂しそうに眺めていた女は、急に真顔になるとポツリと囁いた。

「アカシックキューブ」
「は?」
「聞いたことないかしら?霧島歩振が生み出した至高にして最悪の発明品。自然の摂理をことごとく無視した科学の集大成」
「・・・・・・・?」

何かのスイッチが入ったらしい女は恍惚の表情で語り始めた。私は無言でそれを見つめる。

「あれは最早芸術よ!科学を愚弄する者たちだってあれの前には跪いて服従するわ!!・・・・けれど、あの女は・・・」

そこまで言うと私を憎々しげに睨み付けて糾弾する。

「あの女はアンタを作るためにアカシックキューブを使いやがったのよ!!”人間の手で一から完全な人間を作る”だなんてほざいちゃってさぁ!!結局作り上げたのはこんな出来損ないの人間モドキで、しかもそれに殺されやがって!!あははっざまあみろっ!!」
「・・・・・・」
「・・・・っふぅ、いけないいけない。つい熱くなりすぎたわ」

正気に返った女はまだ上気したままの自分の頬を両手で挟むと「きゃっ!またやったった!」とか言って照れていた。

「とにかく、”貴女が生きている”ってことはアカシックキューブがまだシステムダウンしてないってことなの」
「・・・・・はあ」
「だから返して頂戴」
「持ってません」

本当に知らないからそう答えたのだが、どうやらしらばっくれてると認定されたらしい。女は深いため息をついた。

「そんなに意固地になること無いのにぃ・・・ただちょおおおっと返してもらうだけよぉ?」

怪しい笑みを浮かべる科学者の目は、人を見つめるそれではなかった。まるでモルモットに注射器を押し当てる時のような、捕える瞳。
・・・・・それはそうだ。私は他の皆と違って孤児でもなく人の子ですらなかった。
天才科学者、”霧島歩振”の最後の作品にして初めての失敗作。・・・それが私だから。

「まぁ、いいわ。一週間待ってア・ゲ・ル。だからちゃんと返してね」

去っていく女の言葉を遠くに聞きながら私はばにら先輩の事を考えていた。




「ぼく、泣き虫なんだ」


遠い、遠い、過去の記憶。
あれは私がまだ、人間として機能していなかった時。
ばにら先輩と出会って間もない時だった。

「歌音ちゃん、その子どうしたの・・・・・」

今にも泣き出してしまいそうな彼に、私は少なからず困惑する。

「・・・・邪魔そうでしたので、片付けようかと」

とりあえず正直に答えると、余計に泣きそうな顔になってしまった。私は首を傾げる。

「・・・・片付けては駄目でしたか?」

どうしてそんな顔をするんだろう。ただの鳥の死骸なのに。
猫にでもやられたのか羽をもがれた状態で死んでいた鳥。死んだ場所がちょうど道の真ん中で、酷く嫌そうな顔で避けて行く人々に、ああ、邪魔なのだ。と思ったから片付けようとしただけ。なのに皆奇怪なものを見るような目で私を見つめ、私が見つめ返すと目を逸らした。どうして?私はただ、皆の為に・・・

「・・・・・ううん、そっか。・・・ぼくも一緒にビーちゃん埋めに行っていいかな?」

自分の手が汚れるのも構わずに私の両手ごと小鳥を握り締めた彼に言葉に、私はようやく気づいた。
そうだ。この鳥、確か彼が大切に世話していた”ビーちゃん”とやらだ。生まれつき泣き声が不細工でビービー泣くからビーちゃん。「こうゆうのは、こせいって言うんだよ」と苦しげにフォローしていた彼の笑顔を思い出す。



楽園の裏庭にある大きな木の下に、二人でビーちゃんを埋めた。私は泣かなかったが彼は泣いた。息も続かないほど声を枯らして泣いた。それから、私に向かって壊れそうな儚い笑顔で言った。

「ぼく、泣き虫なの」

告げた声は震えていて、大きな瞳に湛えた涙は限りを知らずに溢れている。

「だからね、ぼくが歌音ちゃんの代わりに泣いてあげるよ」

与えられたやさしい言葉と、小さな温もり。
彼の柔らかな腕の中で私は思った。

・・・・・・・・・・愛しい、と。







Re: ??? ( No.10 )
日時: 2011/06/01 12:03
名前: 栗田 和紀 ◆d6U.RXJi8k (ID: yjY9NVuD)

結局私はばにら先輩に話してみることにした。
先輩も楽園に居た子供の一人だし。・・・・・・・といっても、楽園の生き残りは私とばにら先輩しか居ない訳だが。

あの時楽園には数百名の孤児たちが居た。
皆何らかの研究のためのモルモットにしか過ぎず、親も居ない彼らは格好の実験材料だったに違いない。だが

あの子供たちは皆、もうこの世には居ない。
なぜなら私が壊したからだ。
楽園を作り上げた霧島歩振ごと、私が消した。

理由は簡単。ばにら先輩を殺そうとしたから。


「か、の・・・ちゃ・・・ごめっ・・・ごめんなさいっ」

歩振の血飛沫を浴びて真っ赤に染まったばにら先輩は、震える手を私に伸ばして何度も何度も謝った。理由はよくわからなかったが先輩が苦しそうに見えたので私は宥めるように何度も背を摩った。
どうして歩振が先輩に手をかけようとしたのか、いまでもわからない。
けれど、あれが楽園の終止符となった。




「アカシックキューブ?」
「はい、そう言っていました」

昨日の女の話を都合の悪いところは心持ちカットでお送りすると、ばにら先輩は可愛く小首を傾げた。

私たちは今、使われていない空き教室の教壇の裏に隠れて密会をしていた。なんとも美味しい展開である。
”教壇下の密会”というシチュエーションを一度はやってみたかったので教室に入った瞬間教壇を確認した私だったが、最初は”さすがに二人は入れないな”と躊躇した。思ったより狭かったからだ。だが、「ここに入るの?」と何も疑わずに教檀の裏に難なく納まったばにら先輩は私が入っても尚スペースが余るという神テクを披露した。
先輩のサイズはミラクルだ。夢と希望ぐらいしか詰まってない。

「というか、そんな危ない人お家に入れちゃダメだよ、歌音ちゃん」
「入れてませんよ。入ってたんです」

ご飯に混入した髪の毛とかと同じレベルの不快指数である。

「その人に何もされなかった?怪我とかさせられてない?」

心配そうに声をかけてくれる先輩の声が耳に心地よくて私は小さく頷くと甘えるように抱きついた。先輩はてれたように「にはは」と笑うとぽんぽんとリズミカルに背中を摩ってくれる。

「それにしてもアカシックキューブかぁ・・・・一体何なんだろう?」
「全くわかりません・・・・あの女余計なもん残していきやがって」
「歌音ちゃんっ!キャラ違うよっ!!おーい!!」
されるがままになっていた先輩は私に頬擦りされながらもごもごと訴えた。やべぇ、可愛い。

・・・・・どうやら先輩も知らないようだ。
そんなものを回収に来られても困ったものなのだが、何かきな臭い。そもそも楽園関係者ってだけで胡散臭いのに。まぁ、放っておいても後々面倒なことになりそうなので在り処ぐらいは把握しておいた方がいいだろう。

「という訳ですので、先輩探すの手伝ってください」
「う、うん。全然会話繋がってないけど。いいよ。・・・一緒に探そっ!」

予想通り快く引き受けてくれた先輩はその小さな胸板にポンと右手の拳を乗せた。その拳が微かに震えていたことに、私は全く気づかなかった。













次の日、心当たりなんてものは皆目検討もつかなかった私は
手広く視野を広げることにした。

「おい、弟」
「うわっ!!霧島」

ばにら先輩程では無いにしても、弟が返したなかなかのナイスリアクションに気を良くしながら、私は交渉を試みた。

「探し物を手伝って欲しいのですが」
「お、おう・・・珍しいな、お前が頼み事なんて。何を探せばいいんだ?」

私の珍しく殊勝な態度に何故かドギマギしながら、なんだか照れくさそうに後ろ頭を掻いて弟は言う。私は穏やかに告げた。

「世界の秩序」
「ぶふっ!!!」

噴出しやがった、この野郎。

「けほっ・・・お前なぁ、手伝って欲しいなら真面目にやれ!!」
「わかりました。では言い方を変えましょう」

折角の人員候補だ。遊びだと舐められないうちにインパクトを与えておこう。私は言い切った。

「科学の集大成」

あながち嘘じゃない。

「お前、今度は何に目覚めた!?」

半ば本気で怯えたように言われるといくら私でも落ち込むのだが。
仕方が無いので私はニヒルな笑みを浮かべた。

「通りすがりのマッドサイエンティストとでも言っておきましょう」
「将来性豊かだな!!」

将来性かよ。他に色々あっただろ。
・・・・っと、いけない、いけない。弟の反応がいつもより乗っていたのでつい調子に乗ってしまった。
お遊びはここまでにしよう。そろそろ本題に入らねば。

「まぁ、それは冗談として。アカシックキューブという物を探しているのですが、何かご存知ですか?」
「あか・・・何だって?」
「アカシックキューブです。もう難聴が始まったんですか?」

ご飯まだかのぉ、とか言い出したら横っ面引っ叩くぞ。

「失礼な事言うなよ!!」

どうやらボケは始まっていなかったらしい弟は元気に口答えしてきやがった。私はねじ伏せる。

「一度で聞き取らない貴方が悪いんですよ。使えない野郎ですね」
「ぐ・・・・」

素直に引き下がった弟に、私は鼻を鳴らす。
おとといきやがれ。・・・・閑話休題。

「まぁいいです。私とばにら先輩で調べる手筈になっているのですが、あの方は主にマスコット要員なので実働するのは・・・」

私がそこまで言った時、弟は訝しげに口を開いた。

「・・・・・・・ば、にら?」
「は?」
「ばにら先輩って誰だよ?仲良いのか?つかお前先輩に知り合い居たのか・・・」
「・・・・・・・・・」

”使えない野郎”と言ったのをまだ根に持ったのだろうか?
・・・・私を見つめる瞳はいやに真剣だ。

「・・・・・は?・・・性質の悪い冗談は止めて下さい。あなた、”血が繋がってなくたって家族だ、俺の兄貴だ”って言ってたじゃないですか!不謹慎ですよ!!」
「な、何怒ってんだよ?誰かと勘違いしてんじゃね?俺一人っ子だし・・・」

何が起きているというのだろう?
エイプリルフールにしては時期が早すぎるぞ。

「・・・・・・・・もういいです。貴方には頼みません」
「あ、おいっ」
冗談にも程がある。自分の兄を知らんぷりして何が愉しいのだ。
私は呆然と立ち尽くす弟を放置して上の階に駆け上がった。先輩のクラスに行くのだ。弟の前に引っ張り出して目に物見せてくれるわ・・・・。
だが、上の階についてから足が止まってしまう。

・・・・・私、ばにら先輩のクラス知らない・・・。

血の気が引いていくのが分かる。
結局の所、私はばにら先輩と深い仲でもなんでもない。
あまりの悔しさに歯噛みした。

・・・・・・いや、広いといえど所詮校舎だ。適当に回ればすぐに見つかる筈・・・・。

「・・・・居たらの話ですけど」

不意に口から零れた自分の本音に唇を噛む。
さっきのは弟の悪い冗談だ。私をからかっているのだ。
真に受けるな、馬鹿にされるぞ。
そう自分を叱責した後一歩踏み出そうとした時、今ばかりはありがたい人に会った。

「あら?歌音ちゃんじゃない。どしたん?ここ三年の階だよ」
「久美・・・・さん」

そこに居たのは久美だった。
彼女は確かばにら先輩と同じクラスの筈。
私は堰切るように問いかける。

「ばにら先輩は!?今日学校にいらしてますか!?」
「ばにら?」

返ってのは期待外れで予想通りの返事だった。

「誰、それ?美味しそうなあだ名だねぇ」











Re: ??? ( No.11 )
日時: 2011/06/01 12:19
名前: 栗田 和紀 (ID: yjY9NVuD)

・・・・どうして。


どうして先輩が居ない?

何で居なかった事になっている?


・・・・・・・・・・・分からない。分かる訳、ない。


一瞬皆ぐるみの嫌がらせかとも疑ったが、そんな事をする意味などもちろん無くてついでに久美はともかく弟はそういうタイプじゃない。奴は嵌められるタイプだ。という事実に気付き項垂れた。
・・・・・一体何が起きている?
これは悪い夢なのだろうか・・・・

「塩崎ばにら」
「!!」

私が追い求めた探し人の名を呼ぶ声に、私は反射的に振り返った。
そこに居たのはにたぁ、と笑う自称科学者。

「・・・・ここは学校の敷地内の筈ですが、不法侵入が趣味なんですか?」
「いいえぇ。許可は貰ってんのよぉ、不正だけど」

それは許可とは言わねぇ。

「・・・・・・一応もう一人の生き残りにも聞いておこうかとも思って来たんだけど・・・ビンゴみたいね」
「・・・・・・・・」

満足げに笑う自称科学者。
私は静かに睨み付けた。

「彼の記録、及び記憶がこの学校からひとつ残らず消去されてる。そんな芸当が出来るのはアカシックキューブだけよ」
「・・・・・・・何で先輩がそんな事しなきゃなんないんですか」

科学者は物分りの悪い子供でも見るような瞳で私を見た。

「あらぁ?分かんないの?・・・・・アカシックキューブを手放したくないからよ。あれがあれば思いのままに世界を作れるもの」
「・・・・・・・・・・先輩はそんな人じゃありません。貴方なんかと一緒にしないで下さい」
「じゃどうして姿を消したのかしら?」
「・・・・・・・・・・」

言葉に詰まってしまう私に、科学者は大いに笑った。

「だから言ったでしょう?アカシックキューブの前には誰もが跪くって。
どんな聖人君主でもアレを手にすればこんなもんよ」
「・・・・・・・・・・先輩を探します」
「どこに行ったか知ってるの?」
「いいえ。でも」

私は科学者に向かってこう言った。

「ばにら先輩は私のものですから」




霧島歌音が去った後、科学者はぽつりと呟いた。

「記憶消去とは出るトコでたな・・・・・」

一応使い方は教えてあったが、まさか使うとは思わなかった。
だが、彼がアカシックキューブを使うことはもう無いだろう。
現在地を特定されてしまうし、なにより彼は知っているから。

・・・・使えば霧島歌音の命に負担が掛かるという事を。






「霧島!!」

これ以上学校に用は無い、と見切りをつけて学校を去ろうとしていた私の背中に聞き慣れた声がかかる。

「・・・・・・何か用ですか、弟」
「お前どこ行く気だよ!授業始まるぞ!」

弟が息を切らして駆け寄ってくる気配がする。
私は弟を振り返り、睨み付けた。

「ばにら先輩に会いに行くんです。邪魔しないで下さい。貴方はもう関係ないんですから」
「っ!」

私の言葉に息を呑んだ弟は、落ち込んだように俯く。
それから、下を向いたまま呟いた。

「・・・・・・なら、俺も一緒に行く」
「どうして」

弟の言葉に私は冷ややかな視線を向けた。
ばにら先輩の弟で無くなった今、彼に優しくしてやる義理など無い。

「・・・・なんか気持ち悪いんだ。もやもやするって言うか・・・こう、大事な事を忘れてるみたいな・・・・」
「!!」
「そのばにらって人に会えば何か思い出すかもしれない。だから、一緒に行く」

私は思わず目をむいた。
僅かながらも微かに覚えているらしい。
・・・こんな所で家族愛なんか見せ付けやがってこの野郎。

「・・・・・・・・そう、ですか」

そう言ってから私は、自分がホッとしている事に気がついた。どうやら急な展開に心細くなっていたらしい。私は弟の眼を見て言う。

「ではまず、心当たりを探しましょう」








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