コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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ユキノココロ【番外編更新中】
日時: 2016/11/06 23:15
名前: ゴマ猫 (ID: 4J23F72m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33090

 初めまして、ゴマ猫です。
 
 コメディライトで3作目になりました。
 読んで下さった読者様のおかげで、本作は無事完結する事ができました。本当にありがとうございます!

 参照が10000を超えました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます!

 下の作品は過去に自分書いた作品です。
 もし興味があったら、コメントいただけると嬉しいです。

 コメントをいただいた作者様の作品は見に行くようにしています。ちゃんと作品見たいので、コメントを入れるのは遅くなる事もあります。


【日々の小さな幸せの見つけ方】1作目です。(1ページ目にリンクあります)

【俺と羊と彼女の3ヶ月】前回作品です。(リンクは上にあります)
 この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!

【お客様】

 珠紀様 

 朔良様 

 華憐様

 八田きいち。様

 七海様

 夕衣様

 妖狐様

 由丸様

 杏月様

 オレンジ様

 いーあるりんす様

 はるた様

 アヤノ様

 蒼様

 あるま様

 てるてる522様

——あらすじ——

 高校2年生の冬、清川 準一(きよかわ じゅんいち)は、突如として深夜に自分の部屋にあらわれた不思議な女の子に出会う。彼女は準一の事を知っているようだったが、準一はまったく覚えがない。彼女の正体と目的とは……? それぞれの複雑に絡み合った運命の歯車がゆっくりと動き始めていく。

 〜お知らせ〜

 【短編集始めました】
 
 ここと同じ板で【気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜】というタイトルで書いています。基本的にストーリーはラブコメです。コメディが強いもの、ややシリアス要素が強いもの、色々な書き方で挑戦中です。
 タイトル通り、気まぐれに見ていただけたら嬉しいです。こちらからどうぞ。>>121




【目次】

 登場人物紹介(更新)
 >>18
 (こちらはネタバレを含みますので、ご注意下さい)

 プロローグ
 >>1

 始まりの場所
 >>8 >>13 >>14 >>15 >>21

 疑惑の幽霊
 >>26 >>27 >>28

 清川 準一【過去編】
 >>31 >>34 >>35

 ユキと渚
 >>36 >>39 >>40 >>41 >>42 >>47

 先輩
 >>51 >>52 >>59 >>63 >>67 

 揺れる心【綾瀬編】
 >>71 >>73

 疑問
 >>74 >>75 >>78 >>79 >>80 >>83
 >>84 >>85 >>88

 眠れぬ夜は
 >>89 >>90

 悪意と不思議な出来事
 >>91 >>94 >>95 >>96 >>99 >>100
 >>101 >>102 >>105

 ユキと紗織
 >>106 >>107 >>108 >>113

 それぞれの想い
 >>116 >>117 >>118 >>122 >>123
 >>124

 過去の想いと今の願い【ユキ編】
 >>130

 出せない答え
 >>131 >>134

 素直な気持ち【渚編】
 >>135

 大切な君のために今できる事
 >>140 >>141 >>144 >>147

 記憶【綾瀬編】
 >>157

 約束の時
 >>158 >>159 >>160 >>163

 すれ違う想い【渚編】
 >>164 >>165

 ユキノココロ
 >>166 >>167 >>168 >>171 >>174

 エピローグ
 >>176

 あとがき
 >>179

 【ちょっとオマケ劇場】

 〜あの日へ〜涼編
 >>184-191

 〜未来への帰り道〜ユキ編
 >>195-200 >>202-209 >>210-211

 〜彼奴と私〜芽生編
 >>212-215 >>218 >>221-222 >>223

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お知らせとお詫び ( No.201 )
日時: 2016/01/29 19:39
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: z5Z4HjE0)

 こんばんは、ゴマ猫です。

 年が明けてから最初の投稿です。今更過ぎますが、明けましておめでとうございます。長らく更新出来てませんでしたが、こちらの番外編は少しづつ、アップしていきたいと思います。かなりスローペースになりそうですが(汗)
 冬に新作云々言っていましたが、それももう少し先になりそうです。こちらの番外編をちゃんと終わらせてから、次の作品にいかないと落ち着かないもので……。拙い文章ではありますが、最後までお付き合いして頂ければ幸いです。

 何だか長々不在が続いたもので、コメントやらなんやら、お返し出来ずに音信不通になってしまい申し訳ないです。またゆっくりとお返事させて頂きます。ではでは、今日はこの辺で失礼します。

未来への帰り道〜ユキ編〜【6】 ( No.202 )
日時: 2016/02/02 22:33
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: XM3a0L/1)

「遊びに行こう!」

 翌日の放課後。
 渚に誘われて、渚が働いてるというカフェ『風見鶏』に私は来ていた。
 渚は今日はシフトに入ってないという事で、窓際の席に座って2人で紅茶を飲んでいる。渚はジャスミンティーを飲んでいるけど、私はあの香りが少し苦手。ジャスミンとは違い、癖のないダージリンを一口飲んでから私は口を開いた。

「突然どうしたの?」

「ほら、私とユキって友達になった訳だし、遊びに行って親睦を深めようと思ってさ」

 私が問いかけると、渚は少し照れたようにそう言った。

「うん、別に良いよ」

 私としても渚とはせっかく仲良くなれたので、どこか一緒に行きたいとは思っていた。……けど、気になる事もある。それは、昨日の黒いスーツの男の事。あの男の人は涼くんの事を知っていた。身内しか知りえない情報で、私は誰にも言っていないし、唯一知っているお母さんは涼くんの事を忘れてしまっている。
 それに、お姉ちゃんにさえ涼くんの事は話していない。つまり、私が涼くんの事を捜しているのは、私しか知りえない事だ。
 けれど、あの男の人は言い当てた。面識すらないはずなのに、ピタリと。まるで私の心の中を覗かれているようで気味が悪い。こんな状態で遊びに行って楽しめるだろうかという一抹の不安が私の中にはある。

「ユキ?」

「あ、ごめん。それでどこに遊びに行くの?」

 渚に心配そうな表情で名前を呼ばれて我に返る。
 いけない。こんなんじゃ渚に心配されちゃう。何事もなかったかのように、私は笑顔でそう返した。家に心配性なお姉ちゃんが居るせいか、私の誤魔化し方は上手いものだと我ながら思う。

「今度の連休あるでしょ? その連休を利用して海にでも行きたいなって思ってて」

「海? まだ海開きじゃないし、行っても入れないよ」

 今はまだ春。大分暖かくなってきたとはいえ、海に入れるような気温じゃない。私が疑問に思いながらそう言うと、渚はクスッと小さく笑った。

「それで良いんだよ。夏の海なんて人ばっかりで疲れるだけだもん。誰も居ない海の方がゆっくりできるし」

「でも、海に入らないって事は眺めるだけなの? それじゃあんまり——」

「そこはほら、ユキの恋を応援するための企画だし」

「——っつ!? コホッ、コホッ!」

 唐突にそんな事を言われて、飲んでいた紅茶が喉に詰まってむせてしまう。私はハンカチで口を押えながら涙目になって渚を見る。

「あれ? もしかして気付いてないと思ってた? 準一は鈍感だから気付かないかもしれないけど、態度でバレバレだよ」

「……あ、あははは」

 それを聞いて、思わず乾いた笑いが零れる。
 私ってそんなに分かりやすい態度してたのかぁ……。渚とは会ったばかりなのに。もしかして涼くんにも感付かれてるんじゃ? いやいや、それはマズイよ。ただでさえ、変な女だと思われているかもしれないって言うのに。

「まぁ、山部くんは準一と違って、人の心の機微なんかには敏感な方だけど、この間の感じだとまだ気付いてないと思うから安心して良いと思う」

「——っ!」

 まるで私の心を読んだかのように、渚は先回りしてそんな事を言う。
 そっか、それなら一安心……って、まだ涼くんが私の思い出の涼くんと決まった訳じゃないから。今の段階では似てるってだけで、それを裏付ける証拠なんて何一つ無いし。そ、それに、いつの間に私が涼くんを好きって前提で話が進んでるの! 私は憧れの気持ちが強いだけで、好きとかそういう気持ちなんかじゃ……ない、はず。

「あっはは、ユキは分かりやすいなぁ〜。でも、そんなユキも好きだよ」

「か、からかわないでよ」

 カラカラと楽しそうに笑う渚に、私は抗議の意味も込めてそう言うが、渚は「分かってる、分かってるから」と、したり顔で頷く。もう……全然分かってないよ。

「お客様、店内ではお静かにお願いします」

 真横からの窘めるような物言いに視線を向けると、私たちの席の傍に清川くんが立っていた。
 風見鶏の制服である白いYシャツに腰に黒のサロンを巻いた清川くんは、この間見た時よりずっと大人っぽく見える。例えるなら、お洒落なバーとかに居そうな、かっこいいお兄さん。清川くんって、よく見ると容姿は整ってるなぁ。

「……うるさくしちゃって、ごめんね。清川くん」

 そう言って私が謝ると、清川くんは少し驚いた表情に変わる。

「いやいや、綾瀬さんは良いんだよ。渚の声が大きいだけだから」

「あぁ〜、何その態度? 準一、まさかユキを口説こうしてるんじゃないでしょうね?」

「バ、バカッ! そんな訳ないだろ! 渚と違って綾瀬さんはお淑やかだって事を言いたいだけで、そんな気持ちは一ミリもないぞ」

 渚にあらぬ疑いをかけられて、清川くんが焦ったように否定する。
 でも、その否定の仕方だと火に油を注ぐんじゃないかな……? 渚は私に分かりやすいって言ったけど、渚だって——

「ふーん。どうせ、私はユキみたいにお淑やかじゃないですよ。もう準一に夕飯なんて作ってあげないから。お淑やかなユキに作ってもらえば?」

 あぁ、やっぱり。案の定、渚は拗ねてしまった。
 渚は唇を尖らせて、清川くんから顔を逸らす。なんだか、私に飛び火してるし。それに、私はお淑やかという言葉とは無縁だと思う。お姉ちゃんなら、その言葉は似あいそうだけど……。

「おい、何でいきなり怒ってるんだよ?」

渚の態度の変化に、清川くんは意味が分らないというような、戸惑いの表情を浮かべていた。清川くんって、本当に女心に疎いんだね。そんな事を内心で思いつつ、私は渚の頭を撫でて、よしよしと宥める。

「準一、いつまでサボってんだ。暇なら明日の仕込み手伝え」

「は、はいっ!」

 厨房の奥から野太い男の人の声が飛んでくる。
 その声を聞くと、清川くんは背筋をピンと伸ばして厨房へと駆けていった。

「渚も人の事は言えないね」

「……そうみたい、だね」

 そう言って、2人して苦笑すると冷めた紅茶を一口飲む。
 結局この後、雑談で話は終わり、後日改めて計画を練る事になったのだった。

 (続く)

未来への帰り道〜ユキ編〜【7】 ( No.203 )
日時: 2016/02/14 02:34
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: lU2b9h8R)

 穏やかな春の陽気にあてられながら、足早に流れていく景色を車窓から見つめる。4人が向かい合うようにして設けられた座席。窓側に私、その向かいに渚、隣りには涼くん、涼くんの向かい側に清川くんという配置だ。
 そう、今日は渚とかねてから計画していた4人で遊びに行く日。いつもより少しだけオシャレをして、チラリと横目で涼くんを見る。

「…………」

 白のVネックのシャツに、紺色のYシャツを重ね、下は黒のジーンズ。
 シンプルな服装なのに、それが涼くんに良く似合っていて、ジッと見つめていると体温が上昇していくのが分かる。どれだけ違うとは分かっていたって、私にとってはあの時の涼くんにしか見えないんだ。それが嫌という程に理解できてしまう。

「……何か俺の顔に付いてる?」

「う、ううん! 何でもない、何でもないの!」

 あまりに見つめていたせいか、怪訝な表情で涼くんに問い掛けられる。
うぅ、変な奴だと思われた。絶対、変な奴だと思われた。

「涼、少しは笑えよ。綾瀬さんが怖がってるだろ」

「準一に言われたくはないよ。準一の方こそ、普段は能面みたいに張り付いた顔で女子を怖がらせてるだろ? 唯一、話しかけられるのは新谷さんくらいだ」

「な、何を! 俺は普段通りの顔だっての!」

 清川くんが私のフォローに入ってくれて、涼くんが清川くんに冷静に返す。その状況を見かねた渚が仲裁に入ってきた。

「はいはい、やめやめ。せっかく遊びに来てるんだからケンカしない」

 溜め息混じりにそう言う渚。

「俺は別にケンカなんてしてねーよ。涼がこう、つまんなさそうで——いや、別に心配してた訳じゃないからなっ!」

「何それ? ツンデレ?」

「違うっ!」

 清川くんと渚が長年連れ添った夫婦のようなやり取りをしていると、隣りで涼くんが小さく笑った。初めて見たかも、涼くんが笑う顔。

「あぁ、ごめん。準一と新谷さんのやり取りを見てると、嬉しくてね」

 私が不思議そうに見ていたせいか、涼くんは2人に聞こえない程度の声音でそう言った。

「嬉しい?」

「あぁ、綾瀬さんより俺は長く2人を見てきたからね」

 涼くんはそう言って、2人を見つめて優しげな笑みを浮かべる。
 どうして嬉しいんだろう? けれど「どうして?」とも聞ける雰囲気ではない。それ以上は聞いちゃいけない感じがする。それになにより、私は涼くんとも仲が良い訳ではないから。その後しばらくの間、私は優しく微笑む涼くんの横顔を見つめていた。

 (続く)

未来への帰り道〜ユキ編〜【8】 ( No.204 )
日時: 2016/02/14 02:42
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: lU2b9h8R)

「うーみー!」

 渚が両手を伸ばして、そんな事を叫ぶ。
 電車に揺られる事、数時間。眼前に広がるのは青の世界。やはり時期ではないため、人の気配はしない。テレビの映像でよく見る、夏特有のゴミゴミした光景は欠片もなく、唯一居たのは地元の方なのか、お爺さんがひとり犬を連れて砂浜を歩いていたくらいだ。

「さて、無事に着いたのはいいけど、これからどうするんだ?」

 清川くんは渚にそう問いかける。

「ふふっ、これこれ」

 そう言って、渚は含むように笑うと自分の鞄の中から折り畳まれたビニールのような何かを取り出した。

「何だそれ?」

「ビーチボールだよ。これに空気入れて、4人でビーチバレーやろう」

 胸を張って、そう得意気に語る渚だが、清川くんがげんなりしたような表情に変わる。

「お前なぁ〜、わざわざ海まで来てビーチバレーはないだろう」

「海に来てやらないと、ビーチバレーにならないじゃん。それに、ビニールだからケガもしない、安心安全だよ」

「俺が言いたいのはそういう事じゃなくて、せっかく遠出してきたんだから、別の遊びにしようという事だ」

「なーるほど、準一は下手だからやるの嫌なんだ」

 私と涼くんが見てるそばで、渚と清川くんの夫婦漫才のようなやり取りが続く。私はオロオロしながら、涼くんは電車内と同じように微笑んでいる。

「そんな訳ないだろ。ビーチバレーくらい余裕に決まってる」

「それならいいじゃない。準一が苦手じゃないって証明するためにも、勝負しようよ」

 話しが思わぬ方向に逸れ始めて、私は涼くんに小声で問い掛ける。

「ね、ねぇ、渚と清川くん揉めてるみたいだけど大丈夫かな?」

「ん? あぁ、問題ないよ。準一と新谷さんは、いつも通りだよ。むしろ、いつもより楽しそうだな」

 私の心配をよそに、特に気にした様子もなく涼くんはそう答える。
 そっか、涼くんがそう言うならそうなのかな。視線を戻すと、話はビーチバレーで勝負する事で落ち着いたらしい。何故か私と涼くんも巻き込まれて。


 ***


「よーし、準備はいい? ルールは簡単、先にボールを落とした人が負け。負けた人には、もれなく罰ゲームがあります」

 渚が元気な声でそう言うと、私たちは円になるように散らばる。
 4人で順番にトスをしていって、先にボールを地面に落とした方が負け。単純明快なルールだけに、持久力の勝負になりそう。私は履いていた靴を脱ぐと、砂を踏みしめる。ジャリジャリして少し痛いけど、今日はスニーカーじゃないし、こっちの方が動きやすい。

「綾瀬さん、マジじゃん」

「だ、だって、負けたくないし」

 清川くんが私を見ながら、少し驚いたような表情でそう言ったので、私は途端に恥ずかしくなる。やっぱりここは女の子らしく、動きより格好を優先した方が良かったかなぁ……。少し気になって、清川くんの隣りに居る涼くんに視線をやる。

「いいじゃないか。じゃあ、準一が負けたら今日1日の飯は準一の奢りって事で」

 涼くんは楽しそうに笑い、腕まくりをした。
 と、とりあえず、引かれてはいない……よね? 私はホッと胸を撫で下ろす。

「いいね〜、準一の奢りなら夕飯は豪華にいこうよ。この辺りは海鮮物がオススメらしいから、お寿司とかにしよう」

「おい、待て。お前ら既に勝った気満々だが、俺が勝ったらお前らの奢りだからな」

 清川くんのその言葉を聞いて、渚が軽くストレッチしながら不敵に笑う。

「ふふーん、私に勝てたらね」


 ***


「とりゃ!」

 難しいコースに飛んだボールを、渚は俊足を飛ばして難なく返す。
 渚って運動神経良いんだ。動きに無駄もない。清川くんはまさか返されるとは思ってなかったのか、慌てて対応。打ち上げたボールはフラフラと涼くんの所へ。

「はっ!」

 そのボールを涼くんはキレのある動きで簡単に返した。ボールはまたも清川くんの所へ。

「くっそー、砂に足を取られて、上手く動けない……っ!」

 清川くんが、かろうじて返したボールは、私のとこへ目掛けて高く舞い上がる。チャンスボールなんだけど、アタックは禁止だから私は両手で軽く返す。ビニール製のボールは軽くて風に煽られやすい。上空で微妙な変化を繰り返して、どこに行くのか予測がつかない。

「また俺かよっ!」

 右へ左へ、面白いように変化して、またも清川くんの所へ。先程からきわどいコースに飛びまくって、その度に全力で走る清川くんは、既に肩で息をしながらボールを拾う。

「準一はそろそろ限界かな? 帰宅部だから仕方ない、ね!」

 狙い撃ちという言葉がピッタリな渚のトスが絶妙なラインに飛ぶ。まるで、風の流れすら読んでいるような鮮やかな返しに、清川くんは右往左往している。

「お、お前も……帰宅部……だろう、が!」

 ヘロヘロになりながらも、清川くんは何とかボールを返す。今度は私の所へ。このまま清川くんを狙い続ければ勝てるけど、それはさすがに可哀相だよね。そろそろ別の人に回そう。私はくるりと身体を半回転させて、レシーブの要領でボールを涼くんに返す。

「おっ、と!」

 涼くんは不意を突かれたような表情をしながらも、冷静にボールを渚に。
 渚は即座にそのボールを清川くんに返す。

「またか! ……うわっ!」

 慣れない砂浜を何度も全力ダッシュさせられて、既に体力の限界に近付いていた清川くんは、砂に足を取られて転んでしまった。無情にも無人の砂浜にボールは落下。清川くんの負けが確定した瞬間だった。

「はぁ、はぁ……お、お前ら……き、汚いぞ……」

「準一、負けは負けだから。お寿司、期待してるね」

 砂浜にうつ伏せになった清川くんの肩をポンポンと軽く叩いて、とどめの一言。渚ってばこの前、清川くんに言われた事を根に持ってるのかなぁ。ちょっと可哀想になった私は、清川くんの所へ近づく。

「清川くん、私も出すから心配しないで」

「あ、綾瀬さん、なんて優しいんだ……昔からの付き合いの幼なじみと、友達は冷たいのに。もう、俺の心のオアシスは綾瀬さんだけだな……」

「わっ、清川くん、何も泣かなくても」

 涙目になった清川くんを宥めていると、横から湿った視線が突き刺さる。

「ふーん、なるほど。準一はユキが心のオアシスなんだぁ、へぇー」

「もう、渚、あんまり清川くんをいじめちゃダメだよ」

「べ、別にいじめてなんか……ないもん」

 私が渚に窘めるように言うと、渚はプイッっと視線を逸らした。ないもんって……清川くんも、もっと渚の気持ちに気付いてあげられたら良いんだけどなぁ。

「まっ、準一の負けは負けなんだから、とりあえず寿司は奢りだろ。なに、食べきれなかった分は持ち帰りにするから安心していいぞ」

「安心できねぇ!?」

「……あ、あははは」

 涼くんの冗談なのか本気なのか分からない追い討ちに、清川くんのツッコミが入ったとこで、私たちは昼食に行くのだった。

 (続く)

未来への帰り道〜ユキ編〜【9】 ( No.205 )
日時: 2016/03/14 21:25
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: KG6j5ysh)

「いらっしゃい!」

 町で聞いたお寿司が美味しいと評判の店。年季の入った暖簾をくぐると、威勢の良い声が飛んでくる。清川くんと涼くんが先頭になって店内に入ると、ふわりと柔らかい笑みを浮かべ、鮮やかな花柄の和服を着た可愛い店員さんが応対してくれた。

「いらっしゃいませ〜、4名様ですね? こちらの席へどうぞ」

 店員さんに案内されて、私達は4人掛けのお座敷に座る。

「当店のご利用は初めてですか?」

「はい、初めてです」

 代表して清川くんが答えると、店員さんは目尻を下げて、惹き込まれるような笑顔浮かべた。入った時も思ったけど、この店員さん凄く可愛い。モデルさんみたいにスタイルもいいし。

「は〜い、じゃあ当店のシステムをご案内しますね。当店では、その日獲れた新鮮な魚をお店に直送。その為、その日によってお値段の方を決めさせて頂いてます」

「……おいおい、それって時価って事じゃ」

 店員さんの話を聞いて、清川くんの顔が強張る。
 それもそのはず、さっきのビーチバレーの罰ゲームで昼食は清川くんの奢りという事になっているのだ。私も出すと言ったんだけど、清川くんは「気持ちだけもらっておくよ」と言って、丁重に断られてしまった。さすがに、渚も涼くんも本気ではないと思うんだけど……。

「はい、その通りでございます。しかし、お味の方は保証致しますからご安心くださいませ」

「……全然、安心できない。俺の腹が満たされる前に、財布の方が空腹で餓死するぞ」

 俯き加減で、そう呟く清川くん。

「ふっふっふ、そちらもご安心くださいませ! お客様方は見た所、学生さんですよね?」

「そうですけど?」

「あぁ、やっぱり。実は当店、昼間は凄く忙しいのに人手が圧倒的に足りないのです」

 そんな事を言いつつ、妙に芝居がかった仕草で頭を抱える店員さん。
 それはまるで演劇でも観てるかのようで、店員さんの容姿も相まって惹き込まれていく。

「急に話の雲行きが怪しくなってきたな」

 涼くんは『世界のミステリースポット』という、ハードカバーの本に目を落としたままそう言う。興味は無さそうなんだけど、話自体はちゃんと聞いてるみたい。店員さんは、涼くんの呟きに反応する事なく話を続けた。

「そこで、よろしければ当店でアルバイ——」

 店員さんがそこまで言いかけたところで、ゴスッという鈍い音が店内に響いた。

「こらっ、茜! お前は、お客さんに何て事言いやがる!」

「あいたた……ほんの冗談じゃない。というか、お父さん! 娘の頭にグーパンはどうかと思うよ?」

 少し強面のおじさんが、店員さんの頭にげんこつを落とした。さっきまで流れるように話をしていた店員さんが、頭を押さえながら涙目で抗議する。清川くんをはじめ、私達は目の前の状況が分からず困惑気味だ。

「このバカ娘! お前がサボりたいからって、お客さんを利用しようとするんじゃねぇ!」

「だーかーら、ほんの冗談だって。それに、せっかくの連休だってのに、店の手伝いしろーなんてさ、私だって遊びに行きたいんだよ」

 どうやら、この店員さんは店長さんの娘で、自分が遊びに行きたいからあんな条件を出して、私達に代わりに仕事をやってもらう算段だったみたい。
 え、えーと、この場合、どうしたらいいんだろう? チラリと横目で確認すると、清川くんと渚は呆気にとられていて、茫然とこの状況を見てる。
 ……涼くんは——あ、目が合った。涼くんは眉尻を下げ、分厚い本を閉じると「ふぅ」と、ひとつ溜め息をついた。そして立ち上がって店員さん達に近付いていく。

「あの、大体の事情は察しましたが、俺達は結局ここで食事しても良いんですか? もし込み入っているようなら出直しますけど」

「あぁ、申し訳ねぇ。このバカ娘のせいで、とんだ迷惑をかけたようで。お詫びと言っちゃなんだが、サービスするから是非食べてってくれ! ほら、お前も謝らないか!」

「はーい、すいませんでしたー」

 強面な店長さん(お父さん)に促され、店員(娘さん)さんは、渋々といった感じで頭を下げた。
 と、とりあえず、一件落着かな? 私はホッと胸を撫で下ろす。せっかくの遊びに来てるんだから変なトラブルに巻き込まれたら嫌だものね。

「とりあえず、落ち着いたみたいだな。準一の不安はまだ拭えないだろうけど」

 涼くんは清川くんを見て、少し楽しそうに笑う。目の前の問題は解決したのだけど、私には気になってる事があった。無事に食べれられる事になったのは良かったんだけど、問題は値段だ。さっきの店員さんの説明だと、お寿司やお刺身なんかは時価みたいだし。当然、学生の私達がそんな大金を持っている訳がない。
 ましてや、清川くん1人に払わせるのだとしたら、手持ちが絶対足りないのじゃないかと心配しているのだ。

「ね、ねぇ、りょ——山部くん」

「別に好きに呼んでくれて構わないよ。あと、準一の奢りとは言ったけど、ちゃんと俺も払うから大丈夫。きっと、新谷さんもそうすると思うし」

「え、あ、う、うん」

 私の聞こうとしていた事を、全部先回りして答えられてしまった。涼くんって、私の心を読めるのかな? 瞬きをして不思議そうに涼くんを見つめていると、涼くんが破顔する。

「なんだか不思議そうな顔してるけど、綾瀬さんって顔に出やすいよ。浜辺に居た時から、ずっと準一の心配してたでしょ?」

「う、うん。よく分かったね。……分かりやすくて、ごめん」

「何で謝るの? 悪い事じゃないだろ。変に裏表がある奴より、俺はずっと良いと思うけど」

「そ、そうかな? あ、ありがとう」

 涼くんの言葉は、私の事を肯定してくれたような気がして少し嬉しくなる。『今のままで良い』って。そう思うと緊張していた心が軽くなり、少しだけ頬が緩んだ。

「綾瀬さん、そうやって笑ってた方が可愛いと思うよ」

「ふぇ!? な、ななな、何を急に言い出すんですか!?」

「ほら顔に出てる。別に言葉の通りで、そのままの意味だよ」

「そ、そのままの意味って……」

 分かってる、別に涼くんの言った言葉は深い意味なんてなくて、広い意味で、そう、一般的な意味で可愛いって言っただけで、別に私じゃなくても言ったんだ。
 頭の中でそう必死に言い聞かせてみるけど、動揺は止まらない。冷静になるなんて無理だ。段々と顔が熱くなっていくのが分かる。

「ははっ、綾瀬さんって面白い人だね」

「…………」

 そう言って、爽やかな笑顔を浮かべながら私を見る涼くん。「何か言わなくちゃ」と思うけど、言葉が出てこない。熱が急速に冷めて、今度は落ち込んでいく。
 ジェットコースターのように浮き沈みが激しく気持ちが移り変わって、思考が追い付かない。というか、面白い人ってどうなんだろう? 変な奴って思われたのかな? うぅ……それはちょっとへこむかも。
 この後、店長さんのオススメで、豪華なお刺身盛り合わせをサービスしてもらったのだけど、美味しいはずなのに緊張のせいか、味が全く分からなかったのだった。

 (続く)


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