コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ユキノココロ【番外編更新中】
- 日時: 2016/11/06 23:15
- 名前: ゴマ猫 (ID: 4J23F72m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33090
初めまして、ゴマ猫です。
コメディライトで3作目になりました。
読んで下さった読者様のおかげで、本作は無事完結する事ができました。本当にありがとうございます!
参照が10000を超えました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます!
下の作品は過去に自分書いた作品です。
もし興味があったら、コメントいただけると嬉しいです。
コメントをいただいた作者様の作品は見に行くようにしています。ちゃんと作品見たいので、コメントを入れるのは遅くなる事もあります。
【日々の小さな幸せの見つけ方】1作目です。(1ページ目にリンクあります)
【俺と羊と彼女の3ヶ月】前回作品です。(リンクは上にあります)
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【お客様】
珠紀様
朔良様
華憐様
八田きいち。様
七海様
夕衣様
妖狐様
由丸様
杏月様
オレンジ様
いーあるりんす様
はるた様
アヤノ様
蒼様
あるま様
てるてる522様
——あらすじ——
高校2年生の冬、清川 準一(きよかわ じゅんいち)は、突如として深夜に自分の部屋にあらわれた不思議な女の子に出会う。彼女は準一の事を知っているようだったが、準一はまったく覚えがない。彼女の正体と目的とは……? それぞれの複雑に絡み合った運命の歯車がゆっくりと動き始めていく。
〜お知らせ〜
【短編集始めました】
ここと同じ板で【気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜】というタイトルで書いています。基本的にストーリーはラブコメです。コメディが強いもの、ややシリアス要素が強いもの、色々な書き方で挑戦中です。
タイトル通り、気まぐれに見ていただけたら嬉しいです。こちらからどうぞ。>>121
【目次】
登場人物紹介(更新)
>>18
(こちらはネタバレを含みますので、ご注意下さい)
プロローグ
>>1
始まりの場所
>>8 >>13 >>14 >>15 >>21
疑惑の幽霊
>>26 >>27 >>28
清川 準一【過去編】
>>31 >>34 >>35
ユキと渚
>>36 >>39 >>40 >>41 >>42 >>47
先輩
>>51 >>52 >>59 >>63 >>67
揺れる心【綾瀬編】
>>71 >>73
疑問
>>74 >>75 >>78 >>79 >>80 >>83
>>84 >>85 >>88
眠れぬ夜は
>>89 >>90
悪意と不思議な出来事
>>91 >>94 >>95 >>96 >>99 >>100
>>101 >>102 >>105
ユキと紗織
>>106 >>107 >>108 >>113
それぞれの想い
>>116 >>117 >>118 >>122 >>123
>>124
過去の想いと今の願い【ユキ編】
>>130
出せない答え
>>131 >>134
素直な気持ち【渚編】
>>135
大切な君のために今できる事
>>140 >>141 >>144 >>147
記憶【綾瀬編】
>>157
約束の時
>>158 >>159 >>160 >>163
すれ違う想い【渚編】
>>164 >>165
ユキノココロ
>>166 >>167 >>168 >>171 >>174
エピローグ
>>176
あとがき
>>179
【ちょっとオマケ劇場】
〜あの日へ〜涼編
>>184-191
〜未来への帰り道〜ユキ編
>>195-200 >>202-209 >>210-211
〜彼奴と私〜芽生編
>>212-215 >>218 >>221-222 >>223
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- ちょっとオマケ劇場【〜あの日へ〜涼編】 ( No.186 )
- 日時: 2015/05/15 20:27
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Uj9lR0Ik)
『あそこの廃屋、マジでやばいらしい。もう何人も行方不明になってるみたいだ』
『それ、ガセじゃね? 大体、あんな所行ってどうすんの?』
『そりゃお前、怖いもの見たさっしょ? あんな所に好んで行く奴なんかいねーし』
『本当にお前らはわかっていない。そこにある不思議、自らの目で見てみたいと思うだろ!』
『あっ、何か変な奴来た』
『絶対居るよな、こういう奴』
『俺が今度そこに行く。行かなかった事を後で後悔するなよ?』
『しねーし。ってか、マジで行くのかよ? 暇だね』
『大好きだからな。俺が証明してやるから、楽しみにしておくといい』
『はいはい、勝手に行けよ。せいぜい行方不明になんないようにな、名無しさん』
そんな会話をネット上の掲示板で話していたのはいつだっただろうか?
誰も信じはしなかったけど、俺が思っていた通り、確かに不思議はそこにあった。
「やっぱり俺が言っていた通りになったろ?」と言いたいところだが、どうやらここは俺が住んでいる10年前の場所らしい。色々と散策してみた結果、既に無くなってしまった商店街、今使っている機器が出る前に使われていた物、当時流行っていたキャラクター。
だがそんなものより、信憑性が高いのは日付だ。何度も目を疑ったが、それは変わらない事実として存在していた。
「さて、これからどうしようか」
近所にある公園のベンチに腰を掛けて独り呟く。今もあるこの公園は昔も変わらない。
平日の昼下がり、本当なら家に戻っていたはずだが、ここには俺の家はなかった。
それもそのはず、俺は家族と一緒に、このもう少し後に引っ越してきたはずなので存在しないのは当然だ。それに、少し気になる事もある。
この場合、俺が俺に出会ってしまったらどうなるのだろう? SF小説なんかを見ると、過去の自分に今の自分が会うという事は、タイムパラドックスが起きるという事だ。
だが現実に時間旅行をしてきた人など居ない。それだけに、好奇心だけで動くとどんな事態が起きるのか全く想像がつかないという事だ。
「知的好奇心を取るか、身の安全を確保するか、それが問題だな」
スマホはあまり役に立ちそうにないが、持ってきていたお金はこの時代でも使える。
廃屋探索をする時、念のため少し多めに持ってきていたので、2〜3日ぐらいなら余裕があるので少し辺りを調べるのも良いかもしれない。
ただ、帰りのルートを確保しておきたいので、まずは廃屋があった場所に戻り、実際に戻れるかどうかの確認しておかないといけないだろう。
「よし、まずは廃屋があった場所に戻るか」
考えがまとまり、勢いよくベンチから立ち上がった俺の目の前に飛び込んできたのは、公園内で遊ぶ3人の子供達だった。
公園内で先頭を走る少年に、少女が後を追う。少し遅れて追いかけている、もう一人の少女は、今朝俺の事を見て逃げ出した子だった。また会うなんて世間は狭いな。
それにしても、あの男の子、どこかで会ったような気がするんだが……気のせいだろうか? 心に引っ掛かるものを残しながら、俺は公園を後にした。
***
「これは……」
廃屋があった場所まで戻ってくると、そこにあったのは不気味な建物ではなく、白く綺麗な2階建ての家。外観と周りの景色で、何となくここで間違っていないのは分かるのだが、たかが10年くらいでこの綺麗な家が朽ち果てた家に変わってしまうとは……。
「という事は、この時代はまだ人が住んでいたんだな」
立派な門の前に打ち込まれた、銀色のフレームに白文字で書かれた表札。
名前は、綾瀬さんというのか。人が住んでいるという事は、簡単には中に入れないという事になる。理由を話したら入れてくれるだろうか? いや、いくらなんでもそれはない。
「お宅にある不思議な鏡で、現代に戻りたいので、家にお邪魔しても良いですか?」うん、こんな事を言ったら間違いなく通報されるな。俺は突きつけられた難題に思わず頭抱える。
「……あっ、あの」
「うん?」
背後から掛けられた小さな声音に気付き振り向くと、そこには今日の朝、そしてつい先ほども見た少女が立っていた。
(続く)
- ちょっとオマケ劇場【〜あの日へ〜涼編】 ( No.187 )
- 日時: 2015/05/15 20:46
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Uj9lR0Ik)
「……わ、私の、い、家の前で……何をしているんですか?」
恐る恐るといった感じで少女は俺に問いかける。
ここはこの子の家だったのか。そりゃそうだよな、自分の家の前に見知らぬ男が立っていたら警戒するよな。しかも俺、今朝この子に怯えられた訳だし。
「別に、怪しい者じゃないんだ。道に迷っていてね、ここはどこかなって考えていただけなんだよ」
この台詞が既に怪しいが仕方ない。迷っているのも間違いではないからな。今という時代に迷ってるとか言ったら、さらに怪しさが増すから言わないけど。
そんな俺の言葉に、不審者を見るような目で見る女の子。いつでも逃げれるような体勢になっているのも微妙に傷つく。
「……ま、迷子なら……お、お巡りさんの所に行けばいいと思います……」
うん、この子しっかりしてる。
間違っても不審者について行くような子ではないな。けど、何か微妙に傷付くな。しかも、高校生にもなって迷子呼ばわりとか……お呼び出しとかされるような歳じゃないんだけど、それをこの子に言っても仕方ない。
「そうだね、じゃあ俺は行くよ」
そう言うと、踵を返して来た道を引き返す。
その途中、背後からあの子の声とは少し違う明るい声が聞こえてきたが、振り向く勇気はなかった。また不審な目で見られても困るからな。
***
ホテル等に泊まっていては、すぐに資金が底をついてしまうので、駅前にあるネットカフェに俺は来ていた。今日の宿、いや当分はここが拠点になるかもしれない。
と言うのも、廃屋だった場所が民家になって——いや、この場合は戻ったと言うべきだな。人が住んでいる場所においそれとは入れない。つまり、長期戦を覚悟しなければならなくなったという事だ。
「しっかし、この時代はこんなのが流行ってたんだな」
特にする事もないので、やたらと大きい一人用ソファーに身体を預けながら、棚から適当に持ってきた雑誌を斜め読みしていく。
10年前といえば、この時代の俺はまだ6歳か7歳ってところか。その時は何してたかな……確か、準一や新谷さんと俺はまだ出会ってないんだよな。
準一と新谷さんは、ずっと幼なじみだと言っていたから、この頃も一緒に居たはずだよな。それなら、もしかして準一が住んでいた場所に行けば準一に会えるんじゃないか?
もしかしたら、新谷さんとも会えるかも——
「……いやいや、会ってどうする」
浮かんだ思考をすぐにかき消す。
会った所で「俺は君の未来の友達だよ」と言える訳もない。頭のネジが2〜3本外れちゃった人の発言にしか聞こえないもんな。下手すりゃ、今日のあの子みたいに怪訝な目をされた挙句、本当にお巡りさんのお世話になってしまう。
この現象に最初は心を躍らせていたけど、現実的な問題が山積み過ぎて、はしゃいでる場合でもなくなってきたな。もしかしたら、行方不明になった人達もこの時代に飛ばされてきたのかもしれない。
「……やっぱり、あそこに入るための方法だよな」
今回のタイムトラベルの原因の鏡がある、あの家に入る方法、家の人と仲良くなれれば一発なんだけど、縁もゆかりも無い俺がそうなるには難易度が高い。
可能性は限りなくゼロに近いけど、今日会ったあの子の家なんだから、あの子と仲良くなればいけるんじゃないだろうか? ……雲を掴むような話で、しかもハイリスクな事は間違いないけど。
「やってみるしかないか」
結局、この日は朝まで一睡もする事ができなかった。
(続く)
- ちょっとオマケ劇場【〜あの日へ〜涼編】 ( No.188 )
- 日時: 2015/05/16 21:18
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Ft4.l7ID)
昨日と同じ時間、同じ場所にやってきた俺は公園のベンチに腰を掛け、昨日の子を捜す。
傍から見ると俺は危ない人なのかもしれないが、あの子は俺が元の時代に戻るための鍵なのだから仕方ない。いくら俺が不思議現象大好きでも、ここに骨を埋めるつもりはないのだから。それに、昨日徹夜して考えてきた作戦もある。
「……ふぅ、まぁそんなに上手くいく訳ないか」
公園内に居るのは、鳩と日向で気持ち良さそうに眠る猫だけ。
その様子を見続けていると、あまり動きのない光景と暖かな日差しに照らされたせいか、ベンチで意識が飛びそうになっていく。これは多分、昨日の寝てなかったのが原因なんだろうけど……瞼が重く……。
***
頬に柔らかな感覚が走り、意識が徐々に覚醒していく。
「あっ、起きた。やっぱり寝てただけだね」
「……う……ん?」
重たい瞼を無理矢理開けると、そこに居たのは俺が捜していた子だった。
ベンチで寝転がっていた俺に、上からその大きな瞳で見つめてくる。なぜだかデジャブを感じるが、これは2度と来ないチャンスかもしれない。そう思い、俺は勢いよく飛び起きた。
「わっ、びっくりした。お兄ちゃん、こんな所で寝てると風邪引いちゃうよ?」
屈託のない笑みを浮かべながら、女の子はそう言う。
うん? なんだか昨日とは態度が違わないか? 昨日は俺の事を不審者を見るような目で見つめてきて、警戒心バリバリだったのに……いや、まぁ露骨に警戒されるよりは良いんだけどさ。どうにも違和感を感じてしまうな。
「ちょっと、悩んでいる事があってね。昨日は眠れなかったから、ついここで寝ちゃったんだよ……」
少し芝居がかった演技をしながら、顔を伏せる。
子供を騙すのは心苦しいけど、これは元の時代に戻るためだ。
「そうなの? お悩み聞いてあげようか?」
横目でチラリと確認すると、女の子は心配そうな表情で俺を見つめていた。
考えていた作戦通りの展開になり、少し安堵する。
だけど、今からその理由を言わなければいけないかと思うと、憂鬱で憂鬱で仕方ない。
「ありがとう。実はね、俺は友達がいないんだ……それで本当に寂しくて寂しくて……」
我ながら名演技をしつつ、寂しそうに呟いてみる。
ってか、なーにが、友達がいないだよ! しかもこんな知らない子供相手に相談とか、自分で言ってて引くわ! もっと良い方法なかったのか、俺!?
「そっかぁ、お友達がいないと寂しくなっちゃうよね、ユキもお姉ちゃんと準くん居なかったら寂しいもん」
身を切った効果はあったのか、女の子は俺に同情してくれたようだ。とりあえず、その可哀相な人を見る目はやめてほしい。俺だって友達くらい、いるんだからな? 準一とか、準一とか、準一とか。
「じゃあ、ユキがお兄ちゃんの友達になってあげる! そしたらお兄ちゃん寂しくない?」
「あぁ、けど本当に良いの?」
「うん、お母さんも困っている人が居たら親切にしてあげなさいって言ってたし」
濁りのない純粋な眼差しに当てられて、俺の良心がズキズキと痛む。
神様、嘘ついてごめんなさい。けど、いたいけな子供を騙し、しかもぼっち宣言をした俺もダメージが大きいんです。今すぐ誰も居ない海に行きたいくらいなんです。
「……ありがとう、本当に嬉しいよ」
「えへへ、どう致しまして」
まるで太陽のようなその笑顔に、おもわず目を背けたくなる。俺の心は曇り空でも、見上げた空は青かった。
さておき、多少の犠牲は払ったけれど、なんとかあの家の子と仲良くなる事に成功したのだった。
(続く)
- ちょっとオマケ劇場【〜あの日へ〜涼編】 ( No.189 )
- 日時: 2015/05/19 20:47
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: a0p/ia.h)
あの子と友達になり、数日が経った。
拠点はネットカフェに、お風呂は近くにあるスーパー銭湯に、着替えは安めの服を数着買った。しかしそのままではジリ貧なので、日雇いのアルバイトも探し、肉体労働。
この時代での俺は住所不定という怪しすぎる高校生なので、履歴書なしで働けるにはそれしかなかった。けれど、そのおかげで何とか今をしのげている。
あの女の子、名前はユキちゃんと言うらしい。ユキちゃんとは、あの公園で何度か会って話す内に、大分仲良くなってきたと思う。家にはお父さんとお母さん、それとお姉さんの4人家族で、最近は近所に住む男の子が気になっているとかなんとか。
「…………」
そして今日は部屋にお邪魔させてもらう事になったのだが——
「……だ、誰ですか?」
玄関のチャイムを鳴らして、出てきたユキちゃんに思いっきり怪訝な目で見られた。
昨日は凄くにこやかに「明日は楽しみにしてるね」とか言ってたのに、何この温度差?ツンデレ? デレツン? 普段はデレデレしてるのに、たまにツンツンする新しいジャンルなのだろうか。いや、別にデレデレしてほしい訳じゃなく、普通に会話をしたいだけなんだけどさ。
「……えっと、昨日約束したよね? 明日は家で遊ぼうってユキちゃん自身が言ってたと思うんだけど」
恐る恐る確認してみると、怪訝な表情をしていたユキちゃんが少し強張っていた顔を緩めた。
「……私は、姉です。そういえば、友達が来ると言ってましたけど……ユキなら今公園に居ると思います」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
その間が気になる。ユキちゃんのお姉さんは「まさかこんな人が来るとは思ってなかった」とでも言いたげだ。
けど、それはまったく同感で、俺も鏡の事がなければ、友達はおろか、話す事すらなかったと思う。
それにしても良く似てる姉妹だな。見分けがつかない。もしかして、感じていた違和感の正体はこれかもしれない。ユキちゃんだと思って話したらお姉さんで、お姉さんだと思って話したらユキちゃんだったという事か。
見た目はそっくりだけど、性格は違うみたいだな。ユキちゃんは明るく人見知りもしない性格で年相応みたいだけど、お姉さんの方は少し大人びた印象だな。
しかし、約束をしておいてどこかに行くなんて……まぁ、待つのも間が持たないと思うから様子を見に行ってみるかな。
「……あ、あの! ほ、本当にユキのお友達、なんですよね?」
公園に向かおうとした俺の背後から、遠慮がちながらも凛とした声音が聞こえてくる。振り向くと、ユキちゃんのお姉さんが心配そうな表情で俺を見つめていた。
なるほど、得体の知れない男が訪ねてきたんだから心配だよな。うん、やっぱりこの子はしっかりしているな。
「うんそうだよ、嘘だったらお巡りさんでも何でも呼んで構わないから。……もし心配だったら、一緒に来る?」
俺の問い掛けに、ユキちゃんのお姉さんは少しの間逡巡しながらも頷いた。
***
俺達が公園に辿り着くと、既に帰ってしまったのか、ユキちゃんの姿は公園内に見当たらなかった。
来る途中で入れ違いになってしまったんだろうか? だとしたら、家の前で待っていた方が良かったのかもしれない。ユキちゃんのお姉さんとは、道中も会話らしい会話はなかったし、気まずかったなんてものじゃない。多分、時間にすれば5分ぐらいの時間なんだろけど、それが何倍にも感じたほどだ。
「少しこの辺を捜してから、また戻ってくるよ」
「……わ、わかりました、私は家に戻ります。帰っているかもなので」
ユキちゃんのお姉さんの言葉に俺は頷く。
俺はユキちゃんのお姉さんを見送らずにそのまま公園から出た。太陽が薄い曇に隠れた昼下がり、アスファルトを踏みしめながらどこから捜すかと思案していると、目の前に捜していた本人、ユキちゃんが鼻歌を歌いながらご機嫌な様子で歩いていた。
「ユキちゃ——」
そう呼びかけて、前方から猛スピードで突っ込んでくる車に気付いた。
見れば運転手は居眠りをしているのか、車体が右に左にフラフラと揺れている。ここは車1台分が通れるか通れないかという狭い道路なので逃げ場がない。しかも悪い事にユキちゃんは気付いていないみたいだ。このままじゃ、ユキちゃんが危ない。そう思った瞬間、俺は無意識のうちに駆け出していた。
(続く)
- ちょっとオマケ劇場【〜あの日へ〜涼編】 ( No.190 )
- 日時: 2015/06/16 22:34
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Uj9lR0Ik)
「危ないっ!」
俺は運動神経が良くて本当に良かったと思う。
もし俺の足が遅かったら間に合わなかっただろうから。あとほんの数センチで衝突といったところで、ユキちゃんを抱え込みながら壁にピッタリと張り付き、車を回避。
暴走していた車は、俺達を通り越して、そのまま少し先の壁にぶつかり、耳をつんざくほどの大きな衝撃音を辺りに響かせてから停止した。
間一髪とはこの事だ。あと一秒でも遅かったら、ユキちゃんは車に撥ねられていたに違いない。
「……り……涼くん……」
「大丈夫、もう大丈夫だから」
俺に腕の中で恐怖に震えるユキちゃんの抱きしめ、落ち着かせる。
俺だってこんな経験はないし、心臓だってさっきからずっとバクバクとうるさい。俺ですらこんなにも恐怖を感じているのだから、小さなユキちゃんは余程怖かったに違いない。
騒ぎを聞き付けた、近所の住民が電話をしている。
あぁ、そうか。俺はパニックになって、そんな単純な事すら気付けなかった。
あの車の中には人が居る。あれだけ派手にぶつかったのだから、すぐにでも救急車に連絡しなくちゃいけなかったんじゃないか。
「あんたは大丈夫なのか!?」
「……えぇ、俺は平気です」
住民のおじさんの問いかけに、俺は平静を装いながらそう返す。
問題はない、ユキちゃんも傷ひとつなさそうだ。けれど言葉とは裏腹に、遠くから聞こえてくるサイレンの音が近付くまで、俺の身体は硬直してしまい、この場を一歩も動く事ができなかった。
***
「ユキっ! ユキ!」
市内にある大きな総合病院、特に外傷も見当たらなかった俺達だが、念のための検査をという事でここに来ていた。
広いロビーの待合室で検査結果を待っていると、ユキちゃんのお母さん(多分間違いない)が凄い勢いで入り口から駆けてきた。そしてそのまま、ユキちゃんの無事を確かめるように抱き締める。
「お母さん……苦しいよ」
「ごめんね、でも、ユキが無事で本当に良かった……」
そう言って、ユキちゃんのお母さんは瞳から涙をポロポロと零す。
仕事を抜けて、直でここに来たユキちゃんのお母さんはスーツに身を包んでいて、その見た目はキャリアウーマンといった感じだ。ちなみにお父さんの方は、国内にいらっしゃらないとか。そんな話をユキちゃんから聞いた。
「……あの、すいません」
「あなたが、ユキを助けてくれた方ですね。本当にもう……なんてお礼を言っていいやら」
俺がユキちゃんのお母さんに近付くと、立ち上がり深々と頭を下げた。
大の大人にこんな風にお礼を言われると、なんだか恐縮してしまう。
「いえ、俺も無我夢中で……無事で良かったです」
「本当に、ありがとうございます」
ユキちゃんのお母さんは、もう一度俺に向かって深く頭を下げた。
慣れないお礼を言われたせいか、どうにも落ち着かない。そんな気持ちを誤魔化すように「飲み物を買ってきます」と言って、俺はその場を離れた。
***
「ふう……まさかこんな事になるとは」
ロビーから少し離れた場所の自販機で買った、冷たいお茶を胃に流し込むように一口飲む。好奇心が招いた不可思議な現象、それは良い。それこそ俺が求めていたものだし、後悔はない。けど、もしかしたら俺は過去を変えてしまったんじゃないか? そうだとしたら、俺は大それた事をやってしまった事になる。だってそうだろう。あの時、もし俺があの場所に居なければ、確実にユキちゃんは——いや、そうとも限らないじゃないか。
俺が助けなくても、ユキちゃんは助かったという可能性だってある。
「ところが、そうじゃない」
背中から聞こえてくる、低い声音に俺は慌てて振り返る。
「…………」
立っていたのは、全身黒色のスーツに身を包み、褐色の肌、ハリネズミのように逆立った髪、体格もガッシリとしている見た事すらない男だった。
「初めまして、この地区を担当している大垣竜という者です。以後、お見知りおきを」
そう言って、大垣という男は自己紹介をしながら、まるで紳士のように胸に手を当てて大仰な挨拶をしてみせた。突然現れた怪しい男に、俺は何も言わずに距離を取る。
「おや? そんなに怖がらなくても平気だよ。君を取って食べたりしない」
「……何か用ですか?」
「用がなければ来たりしない。これでも私は忙しくてね、最近はアイツがさぼり気味のせいで、余計な仕事までまわってくる」
溜め息混じりに、そんな事を言う大垣という男。
最初に感じた威圧感のようなものは何だったのだろう? 今の台詞はとても人間っぽい。
——人間っぽい? 俺は何を考えているんだ。どこからどう見ても、この人は人間じゃないか。
「あぁ、君の考えている事は正しい。こんな格好をしてるけど、私は君とは違うからね」
「な、何で俺の考えている事を!?」
無意識の内に口に出していたんだろうか?
困惑した俺を見て、大垣という男は口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。
「それくらいは造作もないよ。もっと色々できるけど、やってみせようか?」
そう言って、おどけてみせる仕草すら恐怖でしかない。本当に何なんだこの人は。
「そう警戒しないでくれ。私は君を助けにきたのだから」
「……俺を、助けに?」
(続く)
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