コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 樹海のエアガール【完結Thank you!】
- 日時: 2015/12/05 08:45
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
初めまして、シロマルJr.であります!
今回のこの小説が、僕の初投稿の作品になりますっ!完全に趣味でやっているので、正直言って文章力は皆無に等しいです。なので、皆様なるべく温かい目で見て頂けると幸いです・・・。
<登場人物>
未空マナミ( ミソラ マナミ)
樹海高校一年生の、本作主人公。深緑色の長袖ワンピースと、木の形の髪飾りが特徴。極度のメンドくさがり屋で、厄介事を何よりも嫌う。学校では決して目立つことの無い、まさに空気の様な存在である事を理想としている。キャラクター作りが趣味。
ソラマナ(そらまな)
マナミの前に突然現れたソラマメ。性格は、マナミと正反対で、とにかく積極的で好奇心旺盛、おまけに生意気。何のために、何をしに彼女の前に現れたのかは一切不明。マナミが作成したツイッターのアイコンキャラによく似ている。
星茂流(ホシ シゲル)
マナミのクラスメートでとなりの席。茶髪で髪を立てている。とにかく陽気でお調子者。いつも冗談を言って、クラスの笑いを誘っているが、最近では何かに酷く怯えているらしい。
久遠綾(クドウ アヤ)
マナミ達の中学時代のクラスメート。155センチ程の小柄で山吹色のショートヘアが特徴的。当時は、誰にでも明るく活発に振る舞い、クラスを通り越して学校の人気者だったが、1年前に、事故で亡くなっている。
吉丸澪也(ヨシマル レイヤ)
マナミのクラスメートで学級委員。イケメンで、クラスメートからの信頼も厚い優等生。マナミはその爽やかな表情に、何か裏があるように感じているが・・・。普段はメガネを掛けている。
早乙女凛花(サオトメ リンカ)
マナミのクラスメート。副学級委員で正義感が強い。藍色の髪とポニーテールが特徴的。特技は空手で、その実力は全国レベル。中学の時の大会で優勝した事もあるというが、何故か空手部に所属していない。マナミの唯一の友達の一人。
亮,健人,正志(リョウ,ケント,マサシ)
三人とも一年A組。澪也と特に仲の良い三人組。澪也の裏の顔を知っている。
未空勇樹(ミソラ ユウキ)
マナミの弟。樹海中学二年生。控えめな性格で、自分の意見を上手に表現できない。最近、誰にも伝えずに一人でどこかへ出かけることが多いらしい。霊感が強い。
目次
プロローグ メンドくさい事 >>01
1. 「空気」とは? >>02
2. 行方不明 >>03
3. 疑惑 >>08
4. いつもの広場に >>11
5. 動揺 >>12
6. 中学時代 >>16
7. 三度目のニュース >>17
8. どうしてこんなこと >>18
9. 級友の逆襲 >>25
10.綾と勇樹 >>26
11.私の話 >>27
12.樹海 >>28
13.夢か現実か >>29
エピローグ1.いつもと変わらぬ日常 >>32
エピローグ2.「未来」>>35
コメント返し >>05,>>07,>>10, >>15,>>21, >>24, >>31,>>34
茶番タイム、番外編らしきもの >>13, >>22
時間のある時に頑張って投稿したいと思います。そのため、少し話が空いてしまうかもしれませんので、その辺はご了承した上でお願いします。お楽しみに〜!
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.25 )
- 日時: 2015/11/25 01:01
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
9.級友の逆襲
「みんな来てくれたんだ。あたしの事覚えてる?」
午後8時になり、ライトアップされた噴水に座って、綾らしき人物が言った。
正直私は、今目の前で何が起こっているのか、全くわからない。おそらく全員そうじゃないだろうか?
彼女は死んだはずだ。事故で1年前に。じゃあ目の前にいるこの綾は、一体何なんだろう?幽霊か何か?いや、ありえない、そんなものいるわけない。仮にそうだとしても、なんで私達には見えてるんだろう?まだ、誰も何も言えずにいた。
「唐突に聞くけど、今日が何の日か分かるよね?」
綾はそう言うと、噴水から飛び降りた。地上から噴水までの高さは、約5メートル程度だ。普通に考えて、人間がそんな場所から飛び降りたりなんてしたら、間違いなく大怪我するだろう。だが、肉体が存在しない彼女は、そんな心配は全くない。よって、何事もなく着地に成功した。
「あーあ、やっぱりだ。だーれも覚えちゃいない」
綾が呆れた様子で言う。そうそう、質問されてたんだ。でも、申し訳ないけど全く分かんない。シロマルJr.の誕生日とかくだらないものなら、今すぐに帰らせてもらおうか。(ちなみに僕の誕生日は5月です)
みんな答えが分からず、黙り込んでいると、
「まさか忘れた?そんな事言わせないよ。メールにも書いておいたけど、あの頃の3年C組のみんなは、いやでも覚えてるはずだし」
いや、私は答えは分かってるんだけど答えたくないだけ。メンドくさいし。
「あーもうしょーがないな!正解教えるよ。あたしの命日。覚えてない?あの日みんなで遊びに行ったじゃんか」
やっぱりそうだったかぁ。私天才アリガトウ。
「んでその日の夜8時、つまり1年前の今、私が行方不明になったじゃん」
「ああ、思い出したぞ!それで見つからないから、その日は解散って事になって・・」
「それよりあたし、どうして死んだと思う?」
茂流の言葉を無視して、綾は淡々と話し続けた。が、彼女が何かに激しく憤っている事は、なんとなく読めてきた。
「・・やめろ」
そう低くつぶやいたのは澪也だった。今までじっと黙ってたのに、急に話し始める。やっぱり何かおかしい。
「あれれー?何か心当たりでもあるのかなー?澪也くん」
すると、綾が澪也に向かって嫌味な笑顔を向けた。生前の明るい性格の彼女なら百パーしない表情だ。この二人の間に、何かあったんだろうか?
「そうだよね?まさか自分がクラスメートを殺したなんて知られたら、優等生キャラが台無しだもんね?」
ーーな・・!?
「そうだよ。あたしが死んだのは、この吉丸澪也に殺されたからなんだ」
ーー衝撃の一言だった。まさか澪也が、あの事件の原因だったなんて。私達の中に、嫌な沈黙が続いた。
「・・・違う、あれは・・」
「何が違うの?確かにあんたが直接殺したってわけじゃないけど、ほぼあんたが殺したようなもんでしょ?人の命奪っといて、よくそんな事が言えるよね」
一方的に綾が言葉で押していた。澪也がここまで追い詰められる所は見た事がない。
「・・・あのメールはお前が送ったのか?」
「そうだけど?」
「どうやってみんなに送ってたんだよ」
「え?普通にだよ。普通にケータイでメールを書いて送った。幽霊になってもちゃんと物は触れるんだよ。幽霊の生態は、死んだ人にしか分からないんだから」
そこまで言うと、こちらに向きを変えて、
「あんたもだよ、茂流。あんたも澪也と一緒にあたしを探してたんでしょ?」
「・・・おう」
「あの時、見つからなかったって言ってたけど、本当はその目でしっかり見たんでしょ?あたしが不良達にグルになってボコボコにされてるのを」
どうやら茂流に言っているらしい。それから、茂流は黙り込んでしまった。
つまりはこういう事。あの日、みんなで遊びに行きました。夜8時になりました。綾が行方不明になりました。澪也達が捜索に行きました。すると、澪也達は綾が不良達グループにリンチされてたのを目撃しました。彼らは、自分達が巻き込まれるのが怖くて、その場から逃げ出した、って事。
今こうしてる間にも、綾の話は止まらない。
「・・・マナミ」
すると、ポケットからソラマナが顔を出していた。何か言いたげな表情をして。
「・・・何?」
「マナミ、綾に何か言いたい事あるんじゃないの?」
ーーは?何言ってんのこいつは。何で私が綾と話さなきゃいけないんだ。
「は?別にないよ。なんでそんな事・・」
「嘘だね。絶対何かあるでしょ。私に分からないとでも思った?」
そんな事思ってない。何でこんな事聞くんだ、うっとうしい。
「あ、あなたソラマナでしょ。話は聞いてるよ。面白い形してるね」
急に綾が入ってきた。タイミングが全くつかめない。だから彼女は嫌いなんだ。
「面白いとは失礼な!!ただソラマメみたいな形してるだけじゃんか!」
いや、みたいなっていうか、まんまソラマメじゃん。っていうか、私を挟んでどうでもいい争いやめてもらえるかな?
ーーあれ?待って。今、話は聞いてるって・・・。
「・・・何かあるの?マナミちゃん?」
すると、さっきまでずっと黙っていた凛花が、初めて私に聞いた。凛花まで何言ってんの。
「いや、私は何も・・」
「・・・そうなの?ならいいけど」
そういうなり、彼女はまた黙り込んでしまった。綾は、今も澪也と口論を続けている。いつの間に戻ったんだ。あの二人、なんだかんだ言って仲が良いんじゃないだろうか?
すると私は、急に一つの気がかりな事が頭に浮かんだ。
ーー勇樹はどう思ってるんだろう?
それだけ気になった。その勇樹はというと、綾達が話しているのを横目に、いつも通り黙っていた。
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.26 )
- 日時: 2015/11/29 17:24
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
10.綾と勇樹
あれは、私が中学三年生だった頃の、5月くらいの事だった。
「こんにちはー!勇樹、遊びに来たよー!」
いつもの無邪気な笑顔で、一人の少女が私の家に来た。
この少女こそ、クラスのムードメーカーの久遠綾である。まだ5月だというのに、半袖のシャツにハーフパンツを履いて、頭には、オシャレなロゴが入っている白のキャップを被っていて、まるで真夏のような格好をしてたっけ。
「あ、綾姉さん。こんちは」
その声に、勇樹が答える。
彼女と勇樹は、なぜかとても仲が良かった。人見知りで、自分の意見が言えなかった勇樹が、綾とだけは積極的に話していた。家族よりもたくさん話してたかもしれない。他人から見れば、まるで本当の姉弟のようにに見えるほどだ。
二人はその日、一日中緑広場で遊んでいた。私は近くで小説を読んでたけど、二人共心の底から楽しそうだった。それほど仲が良い事を改めて実感した。
ーー私よりも、綾の方が勇樹の事を分かってるんじゃないだろうか?
一瞬そう思ったほどだった。思えば私は、勇樹とあまり話した事が無かった。姉弟だというのに、私は勇樹の事をあまり理解していなかった。
夕方になり、さすがに二人共くたびれたようで、広場の真ん中に並んで寝転がっていた。私はずっと小説を読んでたから、もちろんこれっぽっちも疲れていない。
すると、二人がこんな会話を交わしていたのを、たった今思い出した。
「勇樹?」
「・・・どうしたの?」
「最近どう?何かあった?」
勇樹が不思議そうな表情を見せる。唐突な質問に戸惑っているようだ。
「いや、特に何もないけど。何でそんな事聞くの?」
「ううん、ちょっと気になったからさ。最近の勇樹、何か元気ないじゃん」
「・・・」
「もしかして、またあいつらにいじめられてる?」
あいつらとは、澪也達のことだろう。この頃からいじめられてたんだろうか?
「・・・」
「あ、答えたくなかったらいいよ。あたしも悩みとかたくさんあるし」
「例えば?」
「え?そんな具体的な事は言えないよ。・・・でも、簡単に言うなら・・」
「・・・何?」
「あたし、本当にこのままでいいのかなって事」
「どういう事?」
「疲れちゃったんだよね。今の自分を演じるのに。あたしさ、一応クラスの中じゃムードメーカー的な存在に見られてて、悩みなんて無いって思われてる」
「・・・」
普段見ることの無い綾の裏側に、勇樹も私も内心驚いていた。
「人間なんだから誰でも悩みくらいあるっての。みんなあたしの周りに集まってくれるけど、誰もあたしの本当の気持ちなんて分からない。もしかして本当は、みんなあたしなんていない方が良いって思ってんのかな?」
そこまで言うと、彼女の目元がキラっと光った。泣いてるんだろうか?
「・・・」
「なんてね!くよくよ悩んでてもしょうがないよ。前に進まなきゃ」
急に綾の口調が明るくなる。強がってるのは明らかだ。
「・・・分かるよ。僕もそういう事あるから。誰も寄ってこないけど」
「・・・ありがと、理解してくれて。勇樹に言って本当に良かったよ」
ーー以上が、私が思い出した会話の全てだ。
綾は、あの時から何かおかしかった。学校では聞けなかった、彼女の本音を聞いた気がする。
ーーもしかしたらあの時、彼女は死んでも良いと考えていたんじゃないだろうか?
・・・いや、まさかね。そんなことないでしょ。大体、私は今のところ彼女と何も関わりはない。せいぜい中学時代のクラスメートだったって事くらいだ。
まあ何にせよ、綾と勇樹は親友みたいな関係だったという事だ。私はそのような関係になったのは、今んとこ凛花以外にいない。私と綾は、正反対の性格だから、絶対に仲良くなれないだろう。絶対に。
そんな明るい綾が、今まさにこんな事になってしまうなんて。
澪也と綾の口論はとっくに終わっていた。あくまで口論は。
「分かった?あんた達がやった事は、最低な行為なんだよ。人として」
綾は生前と変わらぬ、人懐っこい笑顔で澪也達に話していたが、その笑顔には、どこか邪悪な雰囲気や迫力があった。
「・・・で?結局、お前の目的は何なんだよ。俺らに謝らせる事か?」
澪也も負けじと言い返す。セリフとは裏腹に、謝るつもりは全く無いという態度だ。
「謝る?そんなんじゃ足りないよ。あたしが求めてるのは・・・」
だが次の瞬間、彼女の出した答えは、誰もが驚くべきものだった。
「あたしと同じ運命を辿ってもらう事、つまり、あんた達に死んでもらう事」
その言葉に、澪也をはじめ全員が言葉を失った。その後数秒間、みんなの間に沈黙が流れた。
「・・・本気で言ってるの?」
最初に沈黙を破ったのはソラマナだった。その小さな顔は、怒りで真っ赤になっていた。
「もちろん本気だよ。じゃなきゃこんな狂った事、簡単に言えないじゃんか。別にあたしと同じ死に方しろって言ってるわけじゃないよ。あたしはただ、友達を平気で見捨てるようなあんた達に、復讐したいだけ。あたしと同じ気持ちを味わわせて、一生分の後悔をさせたいだけ。あんな事しなきゃ良かったってさ」
ーーダメだ。彼女は完全に正気を失っている!このままじゃみんなが危ない!
「特に澪也。あたしだけじゃなく、勇樹にも深い苦しみを与えたあんただけは、絶対に許さない。そうだ勇樹、ちょっと来てくれる?」
そう言われ、勇樹は少々怯えた様子で前に出た。
「何をするつもり?」
「決まってんじゃん。澪也が今まで勇樹にしてきた仕打ちを、何も知らない凛花やマナミに教えてやるんだよ。勇樹から直接」
凛花に言われ、嬉々として答える綾。もはや何を言っても無駄だろう。
しばらくして勇樹は、これまで澪也に受けたいじめの全てを話した。広場で暴行を受けた事、金を取られた事など全て。
「ウンウン、これで全部だね。ありがと勇樹、あとはあたしに任せて。今からこの悪魔に制裁を与えるから、そこで見てて」
勇樹の供述が終わり、満足そうな表情を浮かべる綾。それとほぼ同時に、澪也の体が大木に叩きつけられた。もちろん、綾が押し付けたのだ。
「聞きたい事聞けたら、あんたにもう用はないよ。そうだ、いい事教えてあげようか。この前、樹海中学の女子高生が行方不明になって、数日後に死亡した事件があったじゃん?」
「・・・」
澪也は完全に黙り込んでしまっていた。このまま死ぬつもりなのだろう。反論する様子は見られなかった。
「あれ、3人全員あたしが殺したんだよ。この広場で、・・・こうやって!!」
そう言うと同時に、綾が澪也の首元に向かって左手を振り上げる。これで全部終わる。勇樹がいじめられる事も、私がメンドくさいことに巻き込まれることも。
ーー本当にこれで良いのだろうか?
・・・いや、ダメだ。肝心の謝罪がまだじゃんか。弁解の一つも残さないなんて、絶対におかしい。
「やめて!!!」
ーーと、次の瞬間、私は自分でも驚くくらいの大声をあげていた。みんなが驚いた様子でこちらをじっと見ている。そんな反応をするのも無理はない。普段目立たない人物が、急に怒鳴りだしたんだから。それだけじゃない。私自身、こんな大声出したことないんだから。とにかく、勇樹のこともあるし、このまま澪也がいなくなるだけで、全部振り出しに戻るのは我慢なんない。
私は意外と安定した足取りで、綾に向かってまっすぐ歩いていった。
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.27 )
- 日時: 2015/11/29 22:19
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
11.私の話
ーー私は一体何をしてるんだろう?
こんなメンドくさいこと、早く終われば良い、私に関わらずに終われば良いと思っていた。それが今は、自分でこの厄介事に終止符を打とうとしている。やっぱり最近、クラスメートが行方不明になったり、今ここで幽霊と話そうとしていたり、不可解な現象が起きたため、私の何かが変わり始めていた。っていうかジャンル違くない?何でコメディライト小説に幽霊とかが出てくるわけ?まあこればかりは、作者の設定ミスだからしょうがないけど。
ーーさあ、話を元に戻そうか。
私は目の前の綾に向かって、一歩、また一歩と歩みを進めていた。その場の全員が、驚いた様子でこちらをじっと見ていた。まあ、無理もないか。普通はありえない事が、今起こっているんだから。
「・・何?」
綾が私に声をかける。油断していたという表情だった。
「あんたさ、今、ここで澪也がいなくなれば解決するとでも思ってるわけ?」
正直、何を話したいのか私には分からなかった。が、自然に言葉が出てきた。頭で考える事なく、ごく自然に。
「そうだよ、さっきからずっと言ってるじゃん。あたしが死んだのは全部澪也が原因なんだもん。ここで澪也を殺して、全部終わらせる」
綾も言い返す。言ってる事は間違ってないと思うが、納得なんてできるわけない。
「それは違うよね?こんな事したって何にも解決しないよ。あんたに何があったかなんて知らないけど、こんな事やめた方が・・・」
「ーーうるさい!!」
と、急に綾が怒鳴りだしたので、私は少し怯んでしまった。
「あたしの事何にもわかってないくせに!みんなそうだよ、あたしの事全然知らない。みんな勝手にあたしの周りに群がって、ワイワイ騒ぎあってる。みんな本当は、あたしなんてどうでも良いんだよ!」
「綾ちゃん・・」
綾が怒鳴り、凛花が心配そうにその綾を見つめる。
「マナミ、あんただってあたしが嫌いだったんでしょ?いつもあたしと距離を取ってたし。誘いだって毎回断ってたもんね?」
もっともな事を言われて、私は少し黙り込む。しかし気を取り直し、すぐに話し始めた。
「・・そうだね、私はあなたの事は特に知らない。正直な話、あなたの事も嫌いだった」
ここまで来て、自分の性格を隠すつもりはない。洗いざらい全てを話す事を決意した。
「あたしは、人一倍メンドくさがりな自信がある。少なくとも、この学校では一番ね。私は誰とも関わらず、空気みたいな存在で、只々平和に高校生活を送れれば、それで良いと思ってた。でも本当は、そんな自分じゃダメだって心のどこかで思ってたんだ・・」
綾は黙って聞いてくれていたが、やがて
「じゃあマナミは、何であたしを助けてくれなかったの?あの日あたしが行方不明になった時、何で探しに来てくれなかったの?やっぱりあたしを心から心配してくれる人なんて、一人もいないんだよ・・」
そこまで言うと、綾の目に涙がうっすらと見えた。確かにそうなのかも知れない。ここでヘタに綾を刺激しても、余計に怒らせるだけだろう。
ーーいったいどうすれば良いんだ?
かける言葉が見つからず、途方に暮れていると、
「・・・綾姉さん、大丈夫?」
そう声をかけたのは、意外な事に勇樹だった。そうだった。彼は昔から綾と一緒に遊んでたんだ。
ーー勇樹なら、綾を説得できるかもしれない!
私は勇樹に後を託す事にした。みんなの視線が勇樹に注がれる。
「勇樹・・・、あたしは大丈夫。心配しないで」
「嘘だよ。絶対に無理してるよ。綾姉さん、あの日何かおかしかったもん」
あの日?あの日とは、綾が死んだ日のことだろうか?あの日、勇樹はあの場所にいたってことだろうか?
ーーもしかして!?
ふと、一つの可能性が頭に浮かんだ。勇樹が澪也達にいじめられてた理由が、何となく分かった気がする。
あの日、澪也達が綾を見つけた。そこで綾が、不良達にリンチされてたのを見て、澪也達が逃げ出した。それを勇樹が目撃していたとしたら!?
バラバラだった人物の丸が、一つのつながりとなっていた。そんなことを考えてるうちにも、二人の会話は続いていた。
「今綾姉さんは、自分を心配してくれる人なんていないって言ってたよね?」
勇樹がこんなにハキハキと話すのは非常に珍しかった。これは期待が出来るかもしれない。
「それは違うよ、だって君を心配する人なら、今目の前にいるじゃん」
その言葉が、私の心にズーンと響いた。勇樹ってこんな良いやつだっけ?
そう思うほど、今の勇樹は別人に見えていた。
「勇樹・・・」
その言葉は、綾の心にも響いたらしく、彼女はいつの間にか静かに涙を流していた。本当に勇樹ってこんなやつだっけ?何か新たな疑問が生まれた。何があったんだろう?
「・・・ありがとう、そんな風に心配してくれるの、勇樹だけだよ。しばらく見ないうちにホント立派になって・・・」
どっかの親戚みたいな口調になる綾。ねえ、ホント何があったの?
「やめてよそんな・・・お礼なら僕じゃなくて姉さんに言ってよ。僕にこの話ができたのも、姉さんが話を持ちかけてくれたからだし」
ちょ、なんで私はこうも厄介事に巻き込まれるんだろう?そう思ったのとは裏腹に、私は何か悪い気はしなかった。なぜなんだろう?
綾は黙っていた。罵倒されるのかと思ったが、しばらくすると、
「・・・マナミ」
私に声をかけてきた。何だろうかと思わず身構える。
「・・・ありがとう、あなたのおかげで目が覚めたよ。あたしってどうかしてたんだよ。きっと。死んだショックでおかしくなってたんだと思う。だから澪也」
「!!」
急に声をかけられ、あからさまに動揺している様子の澪也。その後ろで茂流、いつからいたか分からなかったけど、A組の3人が、綾の方を見ていた。
「・・・何だよ」
「とりあえず、あたしが死んだ件については許してあげる。その代わり・・・」
綾は、すっかり生前の明るい純粋な笑顔に戻っていた。
「もう二度と勇樹をいじめないこと。分かった?」
そう言って、綾がにっと歯を見せて笑う。
「・・・ああ、わかったよ。本当に悪かった」
その言葉に、嘘は感じられなかった。澪也は本気のようだ。
「いや、私は何もしてないから・・・」
「そんなことないよ。マナミちゃんのおかげだよ!ホントにありがとう」
凛花が私をギュッと抱きしめた。息苦しかったが、嫌な気はしなかった。
「で、もしこの後勇樹に何かあったら、今度は本当に許さないからね?覚悟しといてよ」
勇樹がクスッと笑った。もう勇樹は大丈夫だろう。
「ああ、こんな恐ろしい目にあったら、もう二度といじめらえねえよ・・・」
そう言ったのは茂流だ。もういつもの生意気な表情になっていた。今にもうるさくてくだらない冗談でも言い出しそうだった。
「・・・綾」
気づくと私は、幽霊の綾に話しかけていた。なぜか分からないが、急に彼女ともう一度話してみたくなったのだ。
「どうしたの?」
綾はいつもの笑顔で私の声に反応した。その笑顔に、私は少し安心していた。そして、私はさっき話し損ねたこと全てを話すことにした。
「・・・私はね、ホントは綾が羨ましかったのかもしれない。いつでも明るくてみんなを笑顔にできる綾が。思えば私は、面倒だって決めつけてみんなと向き合わなかっただけなのかもしれない」
「あたしだって、たまにはマナミみたいに落ち着いて、1人の時間を過ごしたかったなあ〜。ねえ、良かったらこれからマナミの家に行っていい?勇樹の様子も見てみたいしさ」
「え!?」
「・・アハハハ!冗談だよ。ただ行ってみただけ」
何だ冗談か・・・。一瞬本気で言ってんのかと思ったよ・・・。
「良かったねマナミ、綾と仲直りできて」
ポケットでソラマナが言う。別にそんなんじゃない。ていうか久しぶりに声聞いたな。またシロマルJr.を縛り付ける必要があるんじゃ?
ーーこうして、綾は自分の世界に帰ることになった。その世界って何かって?まあ詳しい事は分かんないけど、綾が帰るんだから、きっと死後の世界なんだと思う。この話はもうやめよう。何か悲しくなりそうだから。
「じゃね、みんな気をつけて!」
この場面で気をつけてはおかしいんじゃないのか?と思った人は山ほどいるだろうが、そこはどうか触れないでやって欲しい。
すると突然、綾の前に虹色に輝く膜が現れた。どういう原理で存在しているのか、考えたらキリがない。綾はそこに、ゆっくりと向かっていく。
「そうだ勇樹、もしあなたがまた誰かにいじめられそうになったら、思いっきり蹴っ飛ばしてやんなよ!躊躇なく全力でさ!」
今この場面で、こんな黒い事を率直に言うのはおかしいと思った人はゴキブリほどいるだろうが、どうか許して欲しい。作者は表現力が乏しいんだ、察してあげて。っていうか例え気持ち悪いなオイ。
「・・・分かった。頑張ってみるよ。綾姉さんも頑張ってね」
そう言い終わらないうちに、綾は膜の向こうに消えていった。勇樹の言葉が届いたかどうかは分からない。多くの者はその光景を、ただ呆然と見ていた。
ーーさて、これで全ての問題、厄介事が解決した。本当に長かった・・・
「全てじゃないよ。まだ私の事が残ってる」
そう言ったのは、今まで一番私のそばにいたであろう、ポケットに入った生物ーーソラマナだった。
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.28 )
- 日時: 2015/12/01 14:55
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
12.樹海
綾も自分の世界に帰り、こうして忌々しい事件は幕を降ろしたーーかと思われたが、事態は予想外の展開になっていた。
ーー全てじゃないよ。まだ私の事が残ってる。
ソラマナは確かにそう言ったんだ。まるで私の思ってた事が予め分かってたように・・・。
「どういう事だよ!?」
茂流がまっすぐにソラマナの方を見て言った。みんなも同じように彼女の方を見ていた。
「だーかーらー、私の事が残ってるって言ったの。秘密だよ、秘密」
こいつは何を言ってるんだろうか?自分の秘密とやらを簡単に言っていいんだろうか?何か知らんが心配になってきたんだけど。
ーーふと、私の頭にいくつか心当たりが浮かんだ気がした。ソラマナは度々私の心を読んでいたこと、いつも私を厄介事に巻き込もうとしたこと、綾と何か進展があったような関係だったこと、考えてみれば、思い当たる節はたくさんあった。
本当にこいつは何者なんだ?何で私の心を読めるんだろうか?
「そうだね、まずは何で私がマナミの心を読めるのかについてね」
・・ほら、また私の心を読んでる。どうしてこんなことが可能なんだろうか?
ーーすると突然、ソラマナを光が包んだ。眩しい光が、夜の空を明るく照らし出す。
「な・・・何なんだよ、これ・・」
澪也があっけにとられた表情をしていた。見ると、みんな同じような表情を浮かべていた。ほぼ無意識だと思うけど。
そして、ソラマナを包んでいた光が消えた。目の前には、何やら見覚えのある人物のシルエットが見えていた。女性っぽいが、黒髪が腰まで伸びているため、綾が戻ってきたとは考えにくい。ポニーテールの凛花とも違うものだった。
だんだんシルエットがハッキリしてきた。私は、その姿を見て軽い戦慄を覚えた。長い黒髪、木の形の髪飾り、深緑の長袖ワンピース、いまいちパッとしない容姿、私が誰よりも理解しているであろう人物だった。
ーー私?
その姿は私、未空マナミにそっくりーーいや、そのものだった。性格、趣味まで同じなのではないか?そう思うほどだった。
「これで分かった?私がマナミの心が読める理由が。私、ソラマメって言ったけど、実は違うんだ。私、未来から来た樹海の精霊だったみたい。だから、今現在のマナミの考えてることは全てお見通しってこと」
目の前のソラマナ、いや、未空マナミが淡々としゃべっている。いやちょっと待て。未来から来た?樹海の精霊?私の心が読めても、あんたの話が全然読めないんだけど。
「で、私が未来でマナミ、あんたの存在とか性格を知って、実際にあんたのいた場所に落ちていった、自分でね。それがあの日の出来事だよ。覚えてる?」
あの日?ああ、私の頭にソラマナが落ちてきた日のことかな?っていうか、こっちの意見を聞いてもらえる?心読めてるんならちゃんと答えてよ。
「ちょっと待てよ、どうも信用できねぇ。未来から来た?ふざけてんじゃねーぞ。精霊ってのも嘘っぽいじゃねえか。一体どうやって現代に、未空のいた場所に落ちたんだよ?」
そう言ったのは澪也だった。完全に取り乱している模様。しかし目の前の未空は全く動じずに即答した。
「なんでだろうね?こればかりは企業秘密だから教えられないよ。まぁヒントを出すんなら時空と空間をどうこうってやつだよ」
いやいや、全然納得しないんですけども。というか、何だよ企業秘密って。どこか会社にでも勤めてるわけ?
ーー考える前に、私は未空に話しかけていた。
「・・・あなたの目的は何だったの?」
私が一番気になっていた疑問だった。一体何があって私を色んな事に巻き込んでいったのだろうか?
私の疑問に、未空マナミが答えた。
「決まってるじゃんか。マナミ、あんたの理想を叶えるためだよ!もうその理想は叶ったから、私ももうちょっとしたら帰ることにするよ」
ーー私の理想?
誰とも関わらず、空気のような存在の事だろうか?でも全然かなってないじゃんか。今こうして、もろメンドくさいことに巻き込まれてるし。空気になる以前に人と関わってんじゃん。
「・・・何で?私の理想、叶ってないけど」
「空気みたいな存在になるってこと?」
想定していた通りの言葉が飛んできた。「そうだけど」と私が即答すると、
「何言ってんの?あんたの“本当の理想”は、そんなことじゃないでしょ。あんたの“本当の理想”、私が当ててあげようか?」
ーーこいつは何をおかしな事を言ってるんだろうか?本当の理想?空気みたいな存在になる事以外何もないけど。
「・・・ホントは、もっとみんなと仲良くして、本気で向かい合いたかったんでしょ?」
・・・一番理想とかけ離れてるんだけど。みんなと仲良くしたい?冗談じゃない。何があってそんなメンドくさいことしなきゃならないんだ。
「は!?別にそんな事思ってないし!そんなの冗談じゃない!」
私としたことが、少々ムキになって答えてしまった。
「嘘だ、さっきまで綾と話してたじゃんか。面倒だと決めつけて、向き合わなかっただけ、綾が羨ましいって。だからその願い、今さっき叶えたよ?だって今、マナミはみんなと一緒にいて向き合ってたじゃん!」
未空にそんな事を言われた。そんな事思ってないのに、なぜか核心を突かれた気がして、何だか心がザワザワと落ち着かなかった。
「そうなの?マナミちゃん」と凛花。
「いやいや、確かに言ってたかもしれないけど、それとこれとは話が別で・・・」と私。
「別じゃないと思うよ。今マナミちゃん、綾ちゃんと凄く楽しそうに会話してたじゃん!」
凛花に言われて、私は完全に黙り込んでしまった。理由は分かっている。
ーー本当は、今までずっとそう思ってたのを隠してたからだ。
今までのクラスメートは、凛花以外私に見向きもしてくれなかった。係などの用事で話しかけてきたやつはたくさんいたけども。
でも、それと同じくらい、私もクラスメートの事を見ていなかった。未空の言う通り、私は本当はみんなと仲良くしたかったのかもしれない。でも、傷つく事を恐れていたのか、なかなかみんなと向き合えなかった。それで諦めて、空気のような存在を理想とするようになったんだ。よく分からないが、凛花もここまで言うんなら、多分そうなんだろう。
「・・・ありがとう、ソラマナ。あなたのおかげで、少しだけ気がラクになったよ」
「今ならまだ遅くないと思うよ」
私が本当の気持ちを打ち明け、もう一人の私がそれを認めた。勇樹も、周りのみんなも、私を見て暖かい表情を浮かべていた。
こうして、ソラマナは元のソラマメの姿に戻り、未来に帰る事にしたようだ。綾の時と同じように、虹色に輝く膜が地面に出現し、彼女はそこにピョンピョンと跳ねながら向かっていく。
ソラマナは、くるりとこちらに向きを変えこう言った。
「じゃね、みんな気をつけて!」と。
だからこの場面で気をつけてはおかしいんだってば。綾とデジャブじゃん。二人とも自分の世界に帰ったら、真っ先に国語を勉強するのをオススメするよ。
これで終わりかと思ったが、
「マナミ!」
急に私に向かって話しかけてきた。なんだろうかと耳を傾けると、
「短い間だったけど、ホントに楽しかったよ!色々ありがとう、頑張ってね!勇樹とも仲良くするんだよー!」
最後にこう言った。そういえば、これが最後のソラマナとの会話なんだ・・・。
そして、ソラマナの姿が膜の中に完全に見えなくなった。その瞬間、あたりに緑がたくさん、まさに樹海のようにバーっと広がった。夜のはずなのに、あたりは一面明るかった。この小説のタイトルの意味を、たった今理解した人も少なくないはず。
ーー何も言えなかった。最後の会話だったのに、一言も。
そして、その思いを最後に、私の意識は遥か彼方に消えていった。
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.29 )
- 日時: 2015/12/02 00:21
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
13.夢か現実か
ーー気がつくと私達は、緑広場の噴水の周りに寝転がっていた。辺りはもうすっかり太陽の光が照っていた。
私はガバッと起き上がり、いつもの癖で真っ先にスマホをチェックする。時刻は午前9時25分、日にちは8月8日の日曜日になっていた。周りの様子を確認するが、特に異常は見られない。どうやら夢を見ていたらしい。しかし夢の中の出来事は、脳裏にしっかりと焼きついている。みんなとっくに起きていた。
「あ、おはようマナミちゃん!」と凛花
「よお未空、いつも早いのに起きんのは遅えんだな。何か意外だぜ」と茂流。
みんながそれぞれの言葉を私に投げかけてくる。なんで私はこんなに囲まれてるんだろうか?
ーーそうだ、ソラマナ!!
夢に出たあいつの事を思い出し、慌ててポケットを確認するが・・・・あいつはいなかった。何で?夢じゃなかったんだろうか?夢じゃないなら、なんであいつはいないんだろう?
ーー何が起きてるんだ?
わけが分からない。私は完全に混乱していた。
「・・・どうしたの?姉さん」
キョロキョロと首を動かしていたのを不審に思われたのか、勇樹が心配そうに声をかけてきた。勇樹から話しかけてくるとは、珍しい。
「・・・いや、みんな同じなの?」
やっとの思いでそれだけ言った。というか、私は何を言っているんだ?
「何が?」
勇樹がキョトンとして聞き返す。まあ、そんな反応をするのも無理はない。
「私、何か変な夢みてたんだ・・・。みんなでここの広場に集まって、そしたらいきなり、死んだはずの綾が出できて、澪也に復讐するなんて言い出して・・・それで私が綾と話して物事が解決して・・それっきり何も分からないんだ。ソラマナもいなくなっちゃったし・・」
「・・夢じゃねえぞ?」
「・・へ?」
澪也に反応され、思わず間抜けな声を出してしまう。いつもと変わらず、メガネをかけた優等生オーラを全面に出している。そういえば、初めて澪也とまともな会話した気がする・・・。というか、夢じゃないってどういうことなの?
私はまだ、澪也の言う事を完全には信じていなかった。
「俺が綾に殺されそうになったことなら、俺自身しっかり身に覚えがあったからさ・・。ソラマナがいなくなったんなら間違いねえよ。俺達、この目でしっかり見たんだからよ。なぁ?」
「そうだよ!俺の目に狂いは無いっっ!!」
そう答えたのは茂流だ。こちらもいつものようなお調子者オーラを、全面に出している。・・・ってことは?
「じゃああんたは、自分が綾ちゃんに殺されるのが分かってたわけなの!?」
「そういうことじゃねえよ。でも・・」
色んな感情・情景が頭の中を駆け巡る。目の前の凛花と澪也の声も、今ではただの雑音のように聞こえてしまっている。
「姉さん?」
勇樹の言葉でハッと我に返る。気がつくと、私は静かに涙を流して泣いていた。
ーー何で?何で泣いてるんだよマナミ!
その自問の答えは、私には分からなかった。何で?ガヤガヤうるさかった奴がようやくいなくなって、せいせいしたはずだ。金輪際会えないと言われても別に問題ないと思ってる。なのに・・・何で?
‘‘何で?‘‘という同じ単語が、頭を駆け巡る。わけが分からない。
ーーもしかして、澪也の言う通り全部現実だったのか?
私の“本当の理想“とやらが叶ったから、ソラマナがいなくなったというのか?そういえば、みんないつもより私に話しかけてくるような・・・。
「・・・おい未空、泣いてんのか?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、茂流が私に声をかける。
「そんなメソメソしてちゃダメだぜ!お前のせっかく可愛い顔が台無しになっちまうだろ?」
ーー何言ってんだこいつは?そんなヘタクソなお世辞が私なんかに通用するわけ・・・。
その思いとは違い、なぜかいつものように呆れ返る気はしなかった。思い出せば、男子に「可愛い」なんて言われたのは、今が初めてだった。まあ、言ったのは茂流だから、本心かどうか分からないけど。
「お前・・・それでナンパしてるつもりかよ・・・」
ほら、また澪也にダメ出し(?)されてるじゃんか。
「な・・そ、そんなんじゃねえよ!俺はただ、未空が泣いてるから元気付けてやろうと思って・・」
何必死になってんだよ。その様子がおかしくてたまらなかった。それより、泣いてた事みんなに言うのやめてもらえないだろうか?
「まぁ、それは置いといて、俺一つ考えたんだけど、みんな集まってくれよ」
澪也がそう言って、その場の全員がここに集まった。裏があるとはいえさすが学級委員。話の切り替えとリーダーシップはなかなかのものだ。
「・・・あの事ーーあ、昨日の事な。みんな何の事か大体覚えてるよな?あれなんだけど・・」
そこまで言うと、澪也は一瞬言葉を詰まらせた。そんなに言いづらい事なんだろうか?
「・・・この話、俺達だけの秘密にしようぜ?」
ーー何だそんな事か。言葉詰まらせたから、何て事言うのかと警戒しちゃったじゃん。
「いや別に、俺らがやった事が学校に知られるとマズイとかじゃなくて・・、ソラマナとか綾の事もあんじゃん?あいつらの事話したって、誰も信じるとは思えねえし、あいつらのプライドってもんがあると思うんだよ。だから秘密にしようって事」
なるほど、あの行動が読めないコンビの事を考えるとは、成長したな。
「もちろん、勇樹にはひどい事したって思ってる。だから、俺らは今ここで勇樹に謝りたいと思う」
そう言って、澪也は勇樹の方に向き直った。そして「お前らも来い」と後ろにいた茂流、A組の亮、健人、正志に呼びかけ、四人も澪也の横に並んだ。っていうか後ろのA組の連中、とうとう一言も喋らなかったよ。セリフの一つ与えてやんなよ可哀想に。
「勇樹・・・俺らはずっとお前にひどい事をしてきた。あの日の事をお前に見られて、バラされんのが怖かったんだ。樹海高校一年B組の学級委員が殺したようなものだって。許してくれなんて言えないけど、本当に悪かったよ。ごめん」
そして、澪也が勇樹に頭を下げた。その後に茂流、A組の連中も謝った。とうとう名前も書かれなくなっちゃったよ。名前くらい書いてあげなよお粗末な。
「え!?いや、もう良いよ。もう全部終わった話じゃん・・。頭あげてよ」
勇樹が困った表情を見せる。私はこの光景がたまらなく面白かった。性格悪いかもしれないけど、ついに勇樹がこいつらを見下す日が来たんだなって。
「勇樹・・・本当に許してくれるのか?」
まさか、こんなあっさりと許してくれるとは思ってなかったらしく、茂流が驚きを隠しきれないようにして言う。
「勇樹君は心が広いのよ。これからしっかりと勇樹君を見習うように!分かった?」
その茂流の後ろで凛花がビシッと、でもどこか嬉しそうに澪也達に指差しした。一応彼女も副学級委員だ。みんなをまとめる能力と言ったらおかしいかもだけど、すごい事だなあ。
「なっ?何で早乙女が偉そうにしてんだよ!?あ、さてはこのスーパーエキサイティングな俺様に嫉妬してるな!悔しかったら捕まえてみろや〜い!」
そう言って、茂流が逃げるようにしてどこかに走り出した。エキサイティングの意味分かってるんだろうか?分かってないな。茂流だもん。
「心配すんな早乙女!俺がとっ捕まえてしばき倒してやる!!」
澪也がそう言って、茂流の後を追いかけた。三人もその後を走って付いていった。最後までセリフなかったなあいつら。
しかし、凛花は彼らには見向きもせず、勇樹の肩に手を置いてこう言った。
「良かったね勇樹君、スッキリして」
「え?あ、うん」
「・・・やめてあげなよ凛花。急だからビックリしてんじゃん」
そう言って私、凛花、勇樹が笑う。私が本当に理想としてた光景は、まさにこのような事だったのかもしれないな・・・。
「本当だよね。みんなが思い思いに、何の諍いも無く心から楽しみ、笑える事ってすごく良い事だと思わない?マナミちゃんの本当の理想って、もしかしてこういう事?」
何か心を見透かされた気がしたが、もう平気だ。だって慣れちゃったんだもん。
すると、茂流が息をぜえぜえ切らしながら、私の前で止まった。ろくに体力もないくせに、調子乗って走りまくってるからだよ。それを追いかけてた澪也一味も戻ってくた。
「まだ余裕だよ!なんてったってスーパーエキサイティングな俺様だからな!」
いや、息ぜえぜえいってるんですが。
茂流がそう言った途端、風が急に強くなった。そしてーーー
ーーバサッ!!
「うわっ!!」
・・・さて、何が起こったでしょうか?答えは、風が強くなると同時に一枚の大きな葉っぱが、茂流の顔にぴったり貼りついたのでーす!
風は勢いを全く緩めなかった。よって、葉っぱは茂流の顔に貼りついたままだ。
「な、何が起きてんだよ!?」
葉っぱに気づかない鈍感な茂流に、その場が爆笑の渦へと変化した。
「あ?何、スーパー何だって!?」
みんな大口開けて、楽しそうに笑っている。私も、笑いをこらえきれず爆笑してしまった。こんなに心から楽しそうに笑ったのは、すごく久しぶりだった。いや、初めてかもしれない。
さて、突然ですが、ここで問題です。
今なら私は、もしも心を読まれても平気です。なぜでしょう?
答えはーー
ーーもしも今これが夢ならば、何があっても絶対覚めて欲しくない。
心の底からそう思うほど、楽しい時間を過ごしていたから。
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