コメディ・ライト小説(新)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Lunatic Mellow Mellow
- 日時: 2021/04/21 23:44
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: vQ7cfuks)
あの美しい月は、人の心を狂わすのです。
* * *
半年以上小説を書いてなかったのでリハビリを兼ねて。
最初から >>001-
ぷろろーぐ「 愛を殺したい 」>>001
mellow001「 夏は君の匂いがする 」>>004 >>005 >>006 >>007 >>008
mellow002「 優しく騙して、甘い嘘で 」>>012 >>013 >>014
mellow003「 忘れないで、夏の嘘 」>>015 >>016 >>017 >>018 >>019
mellow004「」
mellow005「」
mellow006「」
mellow007「」
登場人物
□篠宮藍
■香坂飛鷹
■茅野咲良
□三原あんず
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.8 )
- 日時: 2020/04/18 22:22
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
湧き出る汗は止まらずに、頭は整理できないくらいの量の「歪な記憶」でごちゃごちゃに掻きまわされた。どうして咲良は死んだんだろう。どうして私は咲良の死を看取ったんだろう。そもそも咲良と私は付き合っていたのか、それとも私の片思い?
どうしてそんな知っていて当然のことすら私はちゃんと覚えていないのだろうか。
目が覚めると私はいつのまにか家のベッドで眠っていた。飛鷹さんが家まで送っていってくれたのだろう。化粧もしたままだし、服もデートをした時の格好のまま、それくらいに私は憔悴しきっていたのだ。
体は鉛を背負ったくらいに重く、足も地面の感覚を忘れたかのようにふらふらと安定しなかった。唐突に気持ち悪くなってしゃがみ込んだときに、ベッドの下に一冊本が落ちているのに気づいた。手を伸ばしてそれを見てみると、それは日記帳のようなものだった。こんなのを書いた記憶はない。パラパラとめくってみたけれど、やっぱりそれは私の記憶にはなくて、でも、それは間違いなく私の字だった。
「○月×日
今日は咲良に会った。ますます咲良はイケメンになっている。身長が伸びたせいだろうか、またアイドルになりたいなんて夢みたいなことを言っている。そういうちょっと馬鹿なところも嫌いじゃないから困ったものだ」
「○月△日
咲良が大手のアイドル事務所の書類審査に合格したらしい。嬉しそうにメールで報告してきてくれた。喜んでる顔が浮かぶ。今度お祝いしてあげよう。やっぱり食べ盛りだし焼肉とかがいいかな」
「○月□日
咲良が合格したらしい。しかももうグループで活動するらしい。早いものだ、先輩にとてもカッコいい人がいるとか言ってた。ライブもするらしいから咲良のことを見に行くついでにその先輩も見てこようかな」
あれ、おかしい。
咲良がデビューしたばっかのころの私の日記。こんなの書いた記憶なんてない。
「○月▼日
気になっていた人に告白された。付き合うことになった。咲良もあんずもおめでとうってお祝いしてくれた。すごく嬉しい」
私の字だった。間違いなく私の字。私は咲良のことが好きだったわけじゃないのか。そもそも付き合うことになったって誰のことだ。
知らない、私はこんなの知らない。次のページを開くのがただただ怖かった。真実を知るのが怖かっただけなのに。
「○月◆日
今日は咲良の誕生日。あんずと飛鷹さんと一緒にお祝いした。私の弟もついに十八歳になってしまった。結婚もできちゃうよ。お姉ちゃんは寂しいな」
風がカーテンを大きく揺らす。汗べったりの気持ち悪い肌。投げ捨てた日記帳。
どうして誰も何も教えてくれないんだろう。
どうして私は何も「覚えてない」んだろう。
咲良が好きだった。恋だったはずだった。それなのに、それさえも「嘘」だなんて。
私はこれから何を信じればいいのだろう。
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.10 )
- 日時: 2019/11/05 20:20
- 名前: (朱雀*@).°. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
はじめまして! 朱雀です。
最新話まで読みました(*^^*)
良い意味でコメライっぽくなくて、こういうお話大好きなので、今めっちゃテンション上がってます…!笑
つまり、藍ちゃんと咲良は兄弟なんですよね…。どこから記憶が狂ってしまったんでしょう。弟が死んでそのショックで飛鷹さんとの記憶が混在しちゃったのでしょうか。付き合ってた彼からすると二重でショックですね……。
今後の展開がとても楽しみです(>_<)
あと飛鷹さんが、男っぽくて、とてもかっこいいです好きですv笑
また遊びにきます。失礼しましたっ。
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.11 )
- 日時: 2019/11/10 00:01
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: A2dZ5ren)
(朱雀*@).°.様
初めまして、立花と申します。お名前見た瞬間、ひえええええあの朱雀さんが私の小説にコメントを???待って見間違えかひえええええとプチパニックになった生粋のコメライ民です。
コメライっぽいフレッシュなラブコメが歳を重ねるごとに書けなくなってしまって、どんどん趣味に走ってしまうようになりました。朱雀さんのお好みのストーリーだったみたいで、とても嬉しいです。
そうなんです、咲良と藍は姉弟なんですが、記憶の障害のせいで彼氏だった飛鷹を補うために咲良の存在を「彼氏」と認識してしまってるのが現在の状況です。わかりにくい設定で申し訳ないです(; ・`д・´)
飛鷹は私の趣味を詰め込んだキャラで、とにかく優しい理想の年上男性って感じで書いてます。好きと言っていただけてとても嬉しいです。私もこういう男性が好きですが、飛鷹はとても不憫なキャラで、ストーリーが進むにつれてどんどん可哀想になってくるので、よかったら続きもまた読んでいただけると嬉しいです。
コメントありがとうございました。また遊びに来ていただけるよう地道に小説更新頑張りたいです。
本当にありがとうございました(*'ω'*)
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.12 )
- 日時: 2020/04/18 22:18
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
mellow002「 優しく騙して、甘い嘘で 」
可愛い顔をして性格めっちゃ悪いんだね。仲の良かった友達にそんな絶交宣言を受けたのは中学二年の春のことだった。桜がぽつぽつと咲き始めた四月の頭。彼女は私を睨みつけて吐き捨てるようにそう言った。日頃の鬱憤も全部吐き出して満足したかのように私の頬を勢いよくビンタした。
「ていうか、わたしがこういう人間って気づかなったの。それで友達って笑えるよね」
馬鹿みたい。言葉は発さなかったけれど、正直私にとってはどうでもいいことだった。
勝手に信じて勝手に裏切られて、ああ面倒くさい。私の感想はそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。私に怒りの感情をぶつけてもこの子は無駄だとわかっていないんだ。
「うわっ、どうしたの藍。ほっぺた真っ赤じゃん」
階段をおりていると偶然むかし近所に住んでいた幼馴染に会った。名前は三原あんず。おせっかいな世話焼きで、いつも私に構ってきて鬱陶しかった。引っ越していったからもう会わないと思っていたのに、中学でまさかの再会を果たしてしまった。三年ぶりの彼女はやっぱりむかしと変わらず鬱陶しくてうざかった。
「別に。あんずには関係ないじゃん」
「ああ、どうせまた友達怒らせたんでしょう。藍はすぐに面倒くさくなって適当に話切っちゃうから」
「なにそれ私が悪いの? 私がそういう人間って分かって付き合ってない向こうが悪いんじゃん」
「どうしてそんな冷たいこと言うかなあ。こんな可愛い顔して」
あんずは私の頬を優しく撫でて心配そうに私の顔を覗き込んだ。慈愛に満ちたその瞳に胸の奥がぞわっと騒めく。私にとってあんずの優しさは毒だった。こんな風に誰かに大事にされたことがないから。だから、気持ち悪い。あんずの言葉一つ一つが肌に合わずにしみになって広がっていく。
「どうせ好きだった人が藍のこと好きになったって言ってたーむかつくーみたいな恒例のやつでしょ」
「まあ。いつものだけど」
「藍は自信もっていいんだよお。性格は悪いけど、本当に美少女なんだから」
なんのフォローにもなっていないということはきっと彼女自身一生気づかないんだろうな。
下駄箱で靴を履き替えて外に出る。あんずが一緒に帰ろうとついてきて離れなくてやっぱり鬱陶しかった。
「ていうかさ、私は今日は咲良に会いに行く日なんだけど」
「ああ、いいな。わたしもついていっていい?」
「は。絶対に嫌なんだけど」
「私も会いたいなあ」
「死んでも嫌。ついてこないで」
私の後ろを追っかけてきてひっつくように彼女は私の隣を歩く。当然のように。いつものように。
どれだけ私が嫌悪感をいっぱい表情に態度に表しても彼女は全く気にせずに私に構ってくれる。そういうところはやっぱりうざいと思うけれど嫌いじゃなかった。
私のそばにくる人間は私の表面しか見ないから。だから私の中身をしって落胆する。そりゃ当たり前だ。天使だと思って近づいたら悪魔なんだから。でも、それを知らないのが悪い。気づかないのが悪い。私が自分の性格を変えることなんてできないんだから。一回全部記憶が吹っ飛んだら、優し心まで優しい天使が完成するかもしれないけれど、そんなの夢物語だから。
「会うの久しぶりだなあ咲良くん。楽しみ」
あんずがうきうきして私の隣を歩く。スキップでもしてるかのような軽い足取り。私は軽くため息をついて足を進めた。
今日は半年ぶりに咲良に会う。弟の咲良との久しぶりの面会日だった。
- Re: Lunatic Mellow Mellow ( No.13 )
- 日時: 2020/07/22 16:32
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: rtUefBQN)
「あ、きたきた。遅いよ」
姉さん、と私を見た瞬間顔をほころばせた咲良がびっくりするくらい可愛くて、ああ天使がとうとう迎えにきてしまったのか、もう寿命なんだなと心の中で死を覚悟した。そのあと我に戻って咲良の表情をみると、ぷっくりと頬をふくらませて「おそい」と腕時計を指さして文句を言っていた。
「ごめん。……でも遅れたのには訳があって、」
「わあああああ久しぶり!! 咲良くん身長伸びた? かっこよくなったね、いや勿論かわいいのは相変わらずだけどさあ」
私のうしろにいたはずのあんずが私を押しのけて咲良に話しかける。私が話すはずの話題を全部奪っていくあんずに腹立たしくて仕方がなかったけれど、ここで怒って咲良に怖がられるわけにはいかない。
にっこり笑いながら、咲良とあんずの会話を見守っていると、ようやく私が怒っていることに気づいたあんずがこちらを振り返り、困り顔で「あたし、やっちゃった?」と一言。私は無言で首を縦に振った。
「ははっ、あんずさんは相変わら姉さんと仲良しなんだね」
「そうなんだよ、めちゃくちゃ仲良しなんだよお。今日もね、私が咲良くんに会いたいって言ったら一緒に行こうって誘ってくれて」
いや、勝手についてきたくせに。私はため息交じりに「お茶でもする?」と近くのカフェに誘った。
小春日和といってもいいほど、穏やかで暖かな天気。アクリル絵の具で塗りつぶされたような綺麗な青色の空が少しずつ赤く染まっていく。
咲良が「やった」と可愛く喜んだので、あんずがついてくるといったのもギリギリ我慢できた。
*
「咲良はもう小学六年生だっけ?」
「そうだよ。もうあと一年で俺も中学生だよ」
まだ先の話だけどさ、と咲良が嬉しそうにへらっと笑った。さっきあんずも言ってたけれど、半年前よりグンと身長が伸びたきがする。顔は昔から綺麗に整っていたし、正直あの話は無理だろうなと思うけれど、私はそれを上手く咲良に伝えることができなかった。
「だからさ、姉さん。俺、絶対早いほうがいいと思うんだ」
「でも、」
メロンソーダをストローで飲み干した咲良はごそごそとランドセルを漁って茶色の封筒に入った資料を机の上に出す。中にはアイドル事務所の書類審査への申込書がいくつか揃っていて、ご丁寧に事務所のホームページのコピーだったりパンフレットだったりが全部準備されていた。
咲良の意思が変わらないことはわかったけれど、私は夢を追うことが彼の幸せにつながるとはどうしても思えなかった。
「父さんもダメだっていうんだ。俺は夢に向かって挑戦することすら許されないの? こどもだから?」
咲良のうるうるとした瞳に陥落してしまいそうになる、私の心は軽すぎる。軽率に「応援するよ」なんて言ってはいけないと思って、私は唇を思いきり噛んだ。
隣で抹茶パフェを頬張っていたあんずはこちらをちらっと見たけれど、この話に関してはノータッチみたいだ。さっきみたいにうざい絡み方はしてこないし、これは家族の問題だと彼女は一歩身を引いてるんだと思う。
「母さんがいないから……」
ぼそっと言った一言に背筋が一気に凍り付いた。まだ小学生の咲良にこんなことを言わせたくなかった。
夢を追えないのは両親の離婚のせいなのか。そんなの私だってわからない。両親がそろっていたらお金の心配もなく、きっとお父さんもお母さんも咲良の夢を応援できたのかもしれない。でも、そんなのわかんない。だって、これが現実だから。今にも泣きそうになる咲良に私は何も言えなくて、もどかしくて、彼の顔がちゃんと見れなくてずっと俯いたままだった。
咲良がアイドルになりたい、と言ったのは本当に小さなころからだった。
両親が離婚する前。近所のお祭りで当時デビューしたばかりのアイドルがライブをやっていて、それがあまりにキラキラしててかっこよかったから。咲良はあの日からずっとアイドルに憧れている。当時のあのアイドルは今やテレビドラマの主題歌をつとめるくらいに人気になって、ファンクラブに入っていてもなかなか当たらない。ここ二年くらいはライブに行けてないや。
「……私が高校生になるまで、待ってくれないかな?」
「……え?」
「私が高校は入ったらバイト死ぬほど頑張って、咲良が事務所に入った時にいるお金とか全部稼ぐから」
「……姉さん」
「あと二年、ちょっとっていうか咲良にとったら結構長いかもだけど、もうちょっと我慢してほしい。そしたら審査書類一緒に送ってみよ。きっとなれるよ」
咲良の驚く顔と、ゆっくり希望を見いだせたのか綻んでいく表情に、私はあの日決意したのだ。
氷の解け切った薄いアイスコーヒーを勢いよく飲み干して私は席を立った。窓の外は夕焼けが綺麗で、もうそろそろお父さんが迎えに来る時間に迫ってきていた。
ありがと、と短く呟いた咲良の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、私は優しく「帰ろっか」と伝票をとってレジに向かった。