コメディ・ライト小説(新)
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- カオスヘッドな僕ら【連載終了】
- 日時: 2022/10/17 18:15
- 名前: 夢兎 (ID: gzz.lbul)
- 参照: www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=18233
「なにがどうしてこうなった…………」
****
こんにちは。夢兎、またの名前をむうと言います。
簡単なプロフィール! 高2女子、以上!
ちょっと個性強めの妖怪幽霊たちが繰り広げる、怪異コメディです。
怖い要素は(多分)ないので、楽しく見て下さると嬉しいです。
おかしな仲間に翻弄されながらも成長する(かもしれない)主人公。
そして彼らとの出会いは一体何を生むのでしょうか?
カオスヘッドなキャラたちが繰り広げる怪異譚、始まります(いつ終わるかは分かんない!←)
【注意】
●私情により未完の作品です。(ここ大事)
●完結小説の一覧に登録しましたが、未完です(二回目)
●荒らしや中傷行為はご遠慮くださいませ。
【キャラクター】>>11
出てこないキャラもいますがお楽しみに! ちょくちょく追加予定。
【単語紹介】>>49
本編の中で出て来た単語や設定を、詳しくまとめたページです。
コメディなのにやたらと用語が多い物語ですスミマセン。
【Special Thanks】
・美奈様>>15 りゅ様>>46 閲覧をしてくれた皆様。
又とあるサイトでアイディア参考をさせていただいた皆様。
【感謝】
2021年夏☆小説大会にてコメディ・ライト版 銅賞入賞。
感謝ぁぁぁぁぁぁ(涙)>>40にコメントを記載しました。
【その他作品】
ろくきせシリーズ↓
〈鬼滅の刃 会話文短編集〉
〈鬼滅・花子くん 短編集続編 六人の軌跡〉
〈ろくきせ恋愛手帖〉
********************
【目次一覧】
一気読み>>01-
↑ここからすべてお読みいただけます。
★キャラクター別情報File★
百木周&百木朔>>22 クコ>>25 紗明>>31 栗坂八雲>>40
□第1章 リスタートする人生>>01-12
第1話「僕が死んだ理由」>>01
第2話「クコと言う名の少女」>>02>>03
第3話「やらかしてしまったので」>>04
第4話「栗坂八雲」>>05>>06>>07>>08
第5話「黒札と白札」>>09>>10
第6話「そして物語は始まる」>>12
□第2章 札狩life始めました!>>13-50
第7話「デスメタルでアタック!」>>13>>14
第8話「僕たちの非日常」>>17-20>>23-25
第9話「カオスヘッドな僕ら」>>26-28
第10話「僕たちの作戦会議?」>>29>>30>>33
第11話「刺客」>>34-39 >>41
第12話「秘められた力」>>42-48
第13話「室長室にて」>>50
□第3章 from天界管理局!
第14話「ネートル室長を探せ」>>51>>52>>54>>55
第15話「お説教、みたいな」>>56>>57
………………………………
※あとがき的な>>58
☆記録ログ☆
2020年7月下旬 スレ立て、執筆開始
2020年9月上旬 2カ月間の休載後、再び執筆開始。
2020年9.22 イメージ曲を選曲。
2020年9.23 キャラ紹介作成。
2020年9.24 改稿作業完了。
2021年2.08 高校合格。再び執筆開始。
2021年9.04 我、帰還也。(三カ月間来なかったってマジか)
2022年3.02 我、またまた帰還也(お前どんだけ失踪するんだ)
2022年10.2 連載再開。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.48 )
- 日時: 2021/10/26 21:25
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
〈八雲side〉
その出来事は夢のようだった。
一瞬の出来事だったけれど、鮮明に目に焼き付いている。瞳を閉じればあの時の映像が流れだす。
悪霊に手足をギュウギュウに縛られ、口も塞がれ、完全に身動きが取れなかった。
どれだけ叫んでも攻撃を止めてくれなくて、唯一の頼みの綱の紗明ですら足止めを食らっている。朔くんも外に出て行ったきり戻って来ない。
絶体絶命の状況に、自然と冷静になった。私の十二年の人生はここで幕を閉じるんだと考えたら、声を上げる気力もわかなくなった。
そっと目を閉じる。今この瞬間に据える息を沢山吸っておこうと、くちびるを開く。
視界がぼやける中、誰かの足音が不意に聞こえた。
「八雲ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
大声で名前を呼ばれて、反射的に顔を上げた。
諦めたはずなのに、私は声の主の姿を探そうとなんとか首を伸ばした。
数メートル先の歩道に、彼の姿を見つけた。
そのとたん、私の両目から大粒の涙がこぼれる。
百木周くんがいた。おモチくんと呼んでいる、百木周くんがいた。相変わらず、あんちゃんのお下がりのTシャツに身を包んでいる。
いつも穏やかな顔が、霧ッと引き締まっていた。こっちへ精一杯腕を振って駆けてくれている。
嬉しかった。陳腐な言葉でしか言い表せないけど、とても嬉しかった。
心臓がぐうって鳴って、押し込めていた色んな感情が、あと少しでバクハツしそうだった。
ありがとうって言いたかったんだけど、彼が放った一撃が敵を一掃しちゃったから、その気持ちは胸の中に隠れてしまった。
思わず目を見開く。
こんなに細いのに。なんで………?
おモチくんの意外な力の出現は誰も予想してなくて、ヴィンテージの佐倉くんやクコさんも、狐に包まれたような表情で立ち尽くしていた。
「………つまり、僕は自力で実体化したってこと……?」
当人のおモチくんが、誰に言うともなしに呟く。
実体化……?つまり周くんは、人に見える状態と見えない状態を、自分で無意識にオンオフできるようになったってことなのかな?
もしそうなら凄く便利な能力だと思うし、札狩にも応用が利く。攻撃も防御もできる幽霊はまさしくチートだ。雑魚級の霊なんて簡単に退治出来ちゃいそう。
でも……そんなすぐに強くなられると、対応に困っちゃうよ。
生まれつき霊感が強いから、紗明の姿も彼の姿も見えた。人に視えらんもんが自分に視えとる。特別な感じがして、勝手に浮かれていたときもあった。
実体化できるのだとしたら、霊感がある人しか見えないという現象もなくなるわけだよね。透明化を切れば、普通の人にだってまるで生きているかのように思わせられる。
じゃあ、私の立ち位置はどうなるのだろう。
幽霊だからって言う理由で家を貸してたけど、その必要もなくなるんだろうか。人の世話がいらなくなって、私との接点も消えてしまうのかな。
いやだな………。おモチくんの全てを知っとんのは、私だけのはずだもん……。
あれ、この考えまずいかもな。でも、実際そうだし……。ああもう………。
「アルジ様? どうしました? 腹でも痛いんすか? お腹ピーピーなんすか?」
しばらくグルグルと頭を働かせていた私の顔色はそうとう悪かったようだ。紗明が心配して肩に手を当ててくれたが、考えごとに夢中だった私はその声が全く届いていなかった。
「あっ……アルジ様? す、すんません俺、ふざけて言っただけで別にそんなつもりじゃ……」
怒ってスルーしているのだと勘違いした紗明が、顔の前でわたわたと両手を振る。
紗明は毎日毎日、私にとことん尽くしてくれる。たまにうざいけど気にかけてくれて、笑わせてくれて。
私も、おモチくんとそんな関係になりたいな………。
でもおモチくんは優しいから、誰にだって分け隔てなく接しているんだろうな。だから弟の朔くんにもあんなに慕われてる。普通だったら兄弟喧嘩したりするはずなのに、あの兄弟はそんなことが全然ないから。
「僕、もう帰る。なんかやられちゃったし、じゃあね」
急に佐倉くんがそう言って回れ右をする。
つい数分前まで戦意をみなぎらせていた佐倉くんだが、急展開に振り回されて戦意を失ったようだ。離れていく背中を見送りながら、取り残された私たちはお互いの顔を見つめあう。
おモチくんは思案気な表情で俯いていて。
クコさんは暗い気持ちを紛らわそうと鼻歌を歌っていて。
紗明はぼうっと夕焼け空を眺めていて。
朔くんは、そっと私の元へ近寄ってきて、耳打ちする。
お兄ちゃんとは反対に、感情に任せて動く朔くん。言いたいことははっきり言う性格の彼が、わざわざこんな行動をとったそのわけは。
「……………チカが離れていくみたいで寂しいの?」
「っ」
たったそれだけのセリフで、彼は私の心情を完璧で表現した。
何も言ってないのに。目の前に居る人間がエスパーなんじゃないかと、私はまじまじと朔くんを見つめる。
「……なんで、わかるの?」
「弟だから」
朔くんはにっこりとほほ笑んだ。
おひさまのように無邪気な笑顔をする子だということは、これまでの付き合いで把握している。
でも今の笑顔は純粋なものではなくて、どこかいびつな感じがした。
「離れていったら、多少は自由になれるかもしれないけど、やっぱり寂しいよね」
あぁ、芯が強いんだ。この子は心の芯が強いんだ。
兄の姿が見えているけれど、本当はもう死んでいて、黒札関連の出来事がなかったら二度と再会することはなかったと分かっているから。
朔くんは心のなかでは何回も何回も泣いているかもしれない。けど、神様がくれたこの奇跡の時間を精一杯身体で楽しんでいるんだ。「お兄ちゃんと話せること」ということが、朔くんにとって何よりの奇跡なんだ。
「みんな、なんか、……ごめんね。ヘンな空気作って」
「別に気にしてへんよ。実際百木くんがあそこで一発決めてくれんかったら、八雲ちゃんは死んどったで。そーゆー意味ではまさしくあんたは、八雲ちゃんのヒーローやん!」
おモチくんがそろそろと周りの面々の顔色を窺う。
なんと返そうかとみんなが迷うなか、一番最初に声をかけたのはやっぱりクコさんだった。
持ち前の明るさでみるみるうちに場の雰囲気を和ましていく。暗かった場がいっきに明るくなる。クコさんはやっぱりすごい。
「それにそれにぃ、あのシチュエーションだったら、八雲ちゃんも惚れていいと思うしぃ」
「へっ!?」「はっ!?」
おモチくんと私の声が重なる。
双方とも顔が真っ赤っかかだ。熟れた林檎みたいになった私たちを、なおもクコさんはからかいまくる。
「うちはお似合いやと思うで。なぁ紗明!」
「はぁ!? うちのアルジ様とこんなゴキブリがいちゃつくなんて見たくもねぇよ!」
はい、紗明は通常運転でした。
ちょっとでも弁解してくれると期待した私が馬鹿みたい。
「うわロリコンッッ。 そんなんだからあんたには人が寄って来ないんや。ざまあざまあ」
「お前みたいにピーチクピーチク鳥みたいにやかましい奴もだよ! チェケラッチョ」
いつものごとく、二人が口論を始める。なんでこの二人、こうも毎回そりが合わないのかなあ。
まあ、二人のおかげで沈みかけていた心が少しだけ上を向いたかもしれない。
この先何があるのか分からないけれど、私には沢山の仲間がいる。みんな癖が強くて大変だけど、その分裏で色々と抱え込んでいる人が多いことを最近知った。
だからきっと、この先も大丈夫だよね。
そういえば、ユルミスちゃんが解雇されたんだっけ。ユルミスちゃんも何かあるのだろうか。それと、ヴィンテージの佐倉くん。彼にもきっと、ヴィンテージに入ろうと思ったきっかけがあるはずだ。
いつか、知れたらいいな。誰だって色んなことがあるんだから。
だからどうか、今日の夜みんなが安心して眠れますように。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.49 )
- 日時: 2021/10/27 11:54
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
カオ僕に出てくる単語が思いのほか多くなったので、一ページにまとめることにしました。
追記で、第3章の舞台である天界管理局の情報ものっけておきましたので、参考がてらご確認くださいませ。
これからカオ僕ももっと面白く、深みのある物語にしていきますので今後ともよろしくお願いします!
********
〈天界管理局の各機関について〉
天界管理局は、いわば日本で言う所の市役所のようなところです。
行政や司法、立憲など全ての機関がこの管理局に集まっています。(分かりやすく言えば、警察や裁判所、大学などがすべて入っているような感じ)。
管理局は地方にもいくつかあって(地方管理局と呼ばれています)、そこに勤務している職員は定期的に中央の天界管理局(作中で良く呼ばれる場所)へ連絡に行きます。
天界管理局には主にこんな課があり、めいめいにそれぞれの仕事を行っています。
全ての課の代表取締役(社長)は、室長であるネートル室長が担当しています。
いやぁ、ネートル室長……大変ですねぇ。
天使課
→主にキューピッド、死者を天国に届ける案内人、守護天使などが所属している。
クコはこの天使課の、案内部というところに入っているぞ!
札狩班
→主に悪霊退治にあたる天使や死神たちが所属しているぞ! 紗明はここ!
成績におうじて階級があがっていくエスカレート式となっている。
保安課の直属の部隊であり、保安課とはこまめに連絡をとっているぞ!
守人課
→主に、記憶媒体アカシックレコードと呼ばれる水晶の管理を担当するぞ!
巨大なクリスタルを持ち回りで見張るのが主な仕事。以前はユルミスが所属していた。
難関な採用試験に合格した人しか就任できないことで有名だ!
保安課
→いわば天界の警察。事件の調査や報告書の作成まですべて手掛ける。地方の保安課や札狩班・室長とも連携をとり、秩序を守るお仕事。天界管理局には1番隊から7番隊、7つのグループがあり、それぞれ担当地域をきめて警備にあたっている。
司法課
→天界の内閣。様々な法律を作り、政治を行っている。保安課とも何度も会議を行い、安全な社会を作るのが仕事だ!
難しい話に頭が痛くなってきたそこのあなた!大丈夫、カオ僕にはほとんど司法課は出てこない!
〈天界で使われる主な用語〉
黒札
→天界で売れているグッズだが、地上にも流通。
身に着けると悪霊をおびき寄せるため回収が日常化。
白札
→黒札とは逆に、良い霊を引き寄せる。こちらも札狩によって回収されている。
札狩
→天界用語。簡単に言えば、悪霊退治・または悪霊を退治する人を指す。
黒札などを回収することからこのように言われる。
ヴィンテージ(またはヴィンテージQ班)
→札狩たちの敵組織の名称。AからQ班まで、各班3~4人で活動している。
〈その他設定〉
色んな設定が開示され次第ここにのっけていきます!
●案内人であるキューピッドが天界に送り届けていい人間は、未練のない状態に限られている。
●ヴィンテージは現在人間の助手がいる。
●主人公である百木周は、無意識に実体化することができる。(条件は未だに不明〉
●幽霊は基本、霊感のある人にしか見えず、食事なども自力では行うことが出来ない。未練を持った幽霊は未練が何か分かるまでは、札狩という仕事で収入を得て暮らしている。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.50 )
- 日時: 2021/10/27 18:48
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
コンコンコン、と三回室長室の扉が軽くノックされた。
燭台の明かりで報告書を呼んでいたガイコツ……ああいや、ネートル室長はおもむろに体を起こし、入り口の方を見やる。
「どうぞ」
ギィィィィィィィッと、建付けの悪い木造の扉が蝶番の音をきしませて開く。
扉の隙間から顔をのぞかせた人物は、そのままスタスタと部屋の中に入ってきた。
外見9、10歳くらいの茶髪の男の子だった。童顔で、ぱっつりとした二重。頬はほんのり赤く染まっていて、幼いいでたちである。
白いシャツはシワ一つなく、サスペンダーで黒色のズボンと繋がっている。シャツの上から厚い生地のマント。左腕には、『保安課』と書かれた腕章をはめている。右手には書類の入ったファイルを手にしていた。
男の子はそのまま室長室をぐるりと一望する。
脇の古風な本棚や、その上に置かれた花瓶などに興味を示したようだった。アンティーク調の家具や部屋のつくりは、ネートル室長の趣味だった。
「ずいぶんとおしゃれなお部屋ですね。おまけに埃一つないとは。室長は自分の部屋は清掃員に任せず、自分で掃除をなさってるとお聞きしました。清潔感があって素敵ですね」
顎に手を当てて、感嘆の息を漏らす男の子。
見た目に反して流ちょうに喋り始めた男の子が何者なのか、ネートル室長は知らなかった。
新しく入ってきた新入りだろうか。それにしてはやたらと幼い気がするが……。
「失礼を承知で尋ねるが、君の名前は?」
「あ、はい。ルキアです。ルキア・レオンハルト。お初にお目にかかります」
ルキアは丁寧に腰を45度に曲げてお辞儀をする。
その柔らかな動作一つ一つが洗練されていて、室長は驚きを隠せない。
「先月までは、北区の地方管理局の保安課で補佐として勤務しておりましたが、このたび4番隊副隊長に昇格するに際し、こちらに転勤となりました。よろしくお願いします!」
地域管理局の、保安課………!?
保安課とは、天界で言うところの警察に当たる機関だ。1番隊~7番隊までの隊があり、それぞれの隊が指定された地域の警備を担当したり、札狩との連携を取ったり、報告書の作成を行う。
地方で働いていたにしても、この歳でそうそうなれる職業じゃない。
それに、4番隊副隊長だって!? 嘘じゃないかと、ネートル室長は何度も瞬きをする。
「ルキアといったか。就任おめでとう。ところでお前さん、歳はいくつなの」
「はい、今年で230になります」
「230ッッ!?? わ、若すぎるじゃろッッ」
クコの600歳が人間の14歳くらいにあたるならば、ルキアの230歳は人間の9歳くらいだ。
「ユルミスでさえ480なのに……年齢詐称……には見えないのぉ……」
「ふふ、褒めてもらって構いませんよ?」
室長の反応がいいことに、自分の凄さを鼻にかけるルキア。歳ゆえの少々生意気なところもまた、彼の年齢が真実だという証拠だ。
「それで、ここには何の用で?」
「先日行われた会議の報告書が完成したので、そちらと————」
ファイルから、端を目玉クリップで留めた書類を抜き取り室長に差し出したルキアが、思い出したようにある話題を持ちかけた。
「そういえば、この前解雇処分になった守り人のユルミス・ローズベリ……室長と長い縁なのだそうですね」
「………まあな」
ユルミスの話題に、ネートル室長の肩眉が下がる。目と目の間にくっきりとしたしわが刻まれたことから、この話題に対してあまり良い思いはしていないようだ。
あれ?でも先輩たちから聞いた話には、案内人のクコや札狩の紗明さんと並んで、室長と仲がいいとのことだったけれど……。
ルキアは腑に落ちないものを感じたが、顔には出さないことにして話を続ける。
「ヴィンテージ幹部のプリシラ・ローズベリと苗字が同じなのは、何か理由があるんでしょうか?」
「…………」
「もしそうなら、近々彼女を管理局に迎えて、保安課の方から直接話を聞きたいですね」
「…………」
室長は気難し気な表情を崩さない。
消えかかった燭台の炎用にマッチを擦りながら、じっとルキアの話に聞き入っている。
「だって、アカシックレコードを管理している悪魔が、プリシラと繋がっていたらまずいでしょ? ぼくは嫌ですよ。室長も知り合いが敵と繋がってたら……って考えたらどんな気持ちになりますか? だからユルミスを解雇したんですよね。そうでしょっ?」
ルキアが喋るごとに言葉が入っていく。保安課に所属している少年だ。ヴィンテージについても、誰よりも嫌悪感があるのだろう。
室長はなおも何も答えることはなかった。ただ、ゆっくりとルキアを見つめる。
無言ながら、彼がもうこの話を耳に入れたくないのがわかり、ルキアはコホンと咳払いをして背中を向ける。
「話過ぎましたね。ご気分を害したのなら謝ります。申し訳ありませんでした。失礼します」
再び扉が固く閉ざされる。室長は入り口を、じっと凝視していた。
少年が放った言葉、少年が口に出した人物の名前が、室長にないはずの胸に深く刺さっていた。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.51 )
- 日時: 2021/10/28 22:06
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
第3章突入だぁぁぁヤッホー!!
新キャラルキアを含め、新たなキャラが沢山登場……するとかしないとか!
むうは通信制の高校に通っているのですが、学校がない日はこうやって更新しに来ます。
********
〈紗明side〉※朝モード
「んにしても急ですね。できればチカさんも連れて行きたかったのですが……」
きょろきょろと広い構内を見回す。
床はガラス張りになっていて、綺麗に磨かれている。天井は高く、大きなシャンデリアが等間隔で吊るされてある。毎回、あれが落ちたら死ぬんじゃないかと馬鹿なことを思う。
日付は日曜日の午前十一時すぎ。
場所は変わって、ここは天界にある俺たちの仕事場・天界管理局のロビーだ。室長からとうとう呼び出しを食らったクコ・ユルミス・そして自分と、「自分も行きたい!」と駄々をこねた朔さんが、今日ここを訪れている。
チカさんは天国には行けないし、アルジ様は友達と映画を見に行く予定とダブルブッキングして今回は諦めることになった。
クコに言わせると、この面子はなにかと心配だとのこと。彼女の考えだと、メンバーに俺が入っていたらどんな場合でも不安になってくるらしい。
そんなに頼りなく見られてるのか……?
「はぁぁぁぁ嫌だぁぁぁ行きたくないぃぃぃ、とうとううちまで解雇になったらマジで人生つむわ……あぁ時間よ戻れ……」
さっきからブツブツブツブツ小言を並べているクコは、室長からの呼び出しに相当参っているようだ。仕事もきちんとこなせない、自分勝手なことばかりすると今まで散々喝を入れられたせいか。
眼鏡の奥の瞳もどんよりと暗い。
「だ、大丈夫だよ。その、粘土室長?」
「ネートル室長」
「その人は厳しいけど、いい人なんでしょ。例えるなら運動部の顧問の先生とか。練習はきついけどその分生徒を思いやってる、そんな感じ」
確かに運動部の顧問は、きつい練習カリキュラムを組み立てて生徒の体力の向上を図っている。
生徒からしてみればたまったもんじゃないが、先生なりに教え子たちを支えようとしているのだ。
朔さんが、落ち込むクコを励まそうと必死になっているのが可愛い。しかしクコは一向に明るくなる気配はなく、口を尖らしながら愚痴を漏らした。
「きついもんはきついやん。それに、うちだけじゃのうて紗明も呼び出されとんのやで。つまり」
「つまり?」
「説教が倍になるんやぁぁぁぁぁぁぁ! もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
動物園のゾウ並みに野太い声で叫んだので、通行人が一斉にこちらを振り返った。人々の視線が一気にクコに当てられ、横にいたユルミスが代わりにぺこぺこと頭を下げる。
「パイセン、気持ちは分かりますけど、ちょっと落ち着いて。誰もがそうユルみたいにはなりませんから」
「うぅぅぅ、それが一番こたえんのやユルミスぅぅぅ……変にプレッシャーかけらんといて……」
「うわ、めんどくさい……」
ユルミスが呆れるのもまた珍しい。
まあ無理はないだろう。クコのお給料は毎月下がって行ってるのは事実。俺よりも、もらう金額が少ないので相当お財布はピンチなんだろう。
がやがや叫んでいてもキリがないので、受付にて手続きを済ませ、ベルボーイの準備が完了するまで待つことにする。
ホテルと同じような仕組みをとっていて、名簿に署名したあとは、荷物を持っくれるベルボーイ(女性の場合はベルガールと呼ばれる)が部屋まで案内してくれるのだ。
数分後、係員用の扉から黒髪ロングのベルガールのお姉さんが姿を現した。パリッと糊のきいた制服を丁寧に着こなしている。
「ベルガールを務めるシャルロットです。お荷物、お預かりします」
「ああ、はい」
俺の荷物はポシェットだけなので自分で持てたけど、ユルミスのスーツケースや朔さんのリュックは流石に重いのでシャルロットさんに預ける。
シャルロットさんはカートに荷物を置くと、取っ手をおして先に廊下を進もうとし………。
「シャル姉、調子はどーですかーっ?」
水色のくせ毛の髪の男の子――ユルミスと同じ位の年齢ですかねーーが、いきなり廊下の曲がり角から飛び出してきた。
髪色と同じ色のマントを学ランのような服の上から羽織っている。目は吊り目気味。
謎の男の子は。か弱いベルガールの身体をぎゅうっと後ろから抱きしめる。
「!!」
積極的なスキンシップに、俺達は言葉を飲み込む。
こちらの態度など彼にとっては小さなことみたいで、男の子は心行くまでシャルロットさんにスリスリしたあとは自分から手を離し、きょとんと首を傾げる。
「この人たちが今んとこのシャル姉の担当?」
「セシル!! 仕事はどうしたのです! 隊長に言いつけますよ!!」
セシルと呼ばれた男の子は、にひひっと無邪気に笑った。
この、幼い言動……朔さんに似ているけど、朔さんよりかは精神年齢が低くみえる。より幼稚な、自由奔放って感じだ。
「いーじゃんいーじゃん。オレ、今休憩時間なんだよねーっ」
「休憩なら保安課の仮眠室でしなさいよ。ここはロビーですよ!? お客様の邪魔でしょう」
腕を組んで、至極もっともなことを言うシャルロットさん。
こういうことは日常茶飯事なのか、口調はゆったりとしている。
「保安課……!? こんな子が? 試験で不採用にならなかったっちゅーことは、頭だけはいいんや」
「試験? 知らね! なんか、解き終わって時計見たら十分しかたってなかった!」
驚異の天才やないかい、と心の中で突っ込む。
俺だって札狩の実技試験に合格するまで3年近くかかったのに、こんな小さな野郎が……しかもこんな中途半端な奴が10分で!
おっといけない、本音が漏れてしまった。
エレガントに行かなければ。そう、Elegantに。
「シャル姉疲れてんでしょ? ほうれい線が昨日よりくっきりしてるよ」
んまっ!! こんな奴が保安課なんて絶対おかしいだろォ! と心の中でもう一度……(以下略)。
ほうれい線がくっきりだなんて、失礼な言葉をよりによって若い女の人に使ったりなんかしたら……。
「……そうですね! 丁寧に教えて下さりありがとう!!」
「でしょっ。オレって偉いでしょー。撫でてよー。ねえ撫でて撫でてー」
ワンコ系男子という言葉があるが、セシルの場合は残念ワンコだ。
その証拠に、お姉さんがやけにニコーッとした笑みを浮かべているのだ。しかも困り眉で。
怒鳴らないのが、流石ベルガール。
おい少年。俺にまで引かれるお前もそうとうやばいぞ、わかってるのか……?
「……あ、そうだぁ。じゃあオレ休憩中暇だし、今回だけオレがこの人たちを案内するよ」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.52 )
- 日時: 2021/11/02 13:25
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
〈ユルミスside〉
「……あ、そうだぁ。じゃあオレ休憩中暇だし、今回だけオレがこの人たちを案内するよ」
ふざけているわけでもなさそうだった。この子は本気でユルたちを案内するつもりらしく、シャルロットさんがどれだけ止めても引き下がってくれない。
『貴方はいつも勝手なことばかりするから』『興味深々なのはいいけどもう少し自分のことを観察してみなさい』『何度も言うけど任せられません、帰りなさい』と、シャルロットさんは頑なに首を振る。
落ち着きがないセシルに案内させるのを何が何でも回避したいという本心が、言葉の強さに現れている。
双方とも一向に意見を曲げる様子がなく、このままではベルガールの仕事も滞ってしまいそうなので、ユルはそろそろと右手を上げる。
「あの、本人がいいなら、こっちは大丈夫なんだけど」
「あんた本気!??」「こんなガッ……お、お子様で本当に良いんですかユルミス!?」
その言葉にセシルはパアっと顔を輝かせ、パイセンたちはどんよりとした眼差しを向けた。シャルロットさんも、口をぽっかり開けたまま数分間固まってしまう。
「……ほ、本当に平気ですか? お客様がよろしければ、私も次の仕事があるので……でも、この子はまだ子供ですし、迷惑だったら……」
「平気だよぉ!」と下唇を突き出して憤慨する男の子。
やる気だけは充分に伝わっているし、本人が乗り気なのはとてもいいことだ。どう転ぶかはまだ分からないんだから、やるだけやらせてあげようというのがユルの考え。
「まあまあ。俺はいいと思うよ。天界初めてだし、案内してよ」
「さっくん……! さっすがぁ」
「本気かぁぁぁ朔くん……。あんたたち百木兄弟はなんでそんなにお人好しなん……?」
そんな中、パートナー百木朔ことさっくんだけが、意見に賛同してくれる。ピりついた場を和ませようとみんなに微笑むと、セシルの右手に自分の指を絡めた。
「俺、朔。君は……セシルだっけ? よろしく!」
「オレ、セシル・バーナード。セシルでいーよ。んじゃ、案内していくよぉ!」
セシルは陽気に言うと、高々と右腕を突き上げ、奥にあるエレベーターに向かって歩き出した。足取りは軽く、のんきに鼻歌なんか歌っている。
その後に続くユルたちを、シャルロットさんは心配そうな表情で見送ってくれた。
********
天界にも人間界と同じようなエレベーターが存在している。ロビーの奥に設置されたエレベーターの中には他にも五人ほどお客さんがいて、肩がぶつからないよう気を付けなければならなかった。
「あれ、保安課の方?」
背中の天使の羽が立派な、健康そうなおばあさんが、最上階のボタンを押したセシルに問いかける。その優しそうな眼は、左腕の腕章をとらえている。
「はい。保安課2番隊の、セシルです」
「ここは客用のエレベーターじゃないかしら? どうかされたんですか?」
管理局のエレベーターは、職員用と客用に分かれている。職員用はユルやパイセンたちが良く使っていたもので、朱色に塗装されている。反対に客用は藍色。一目見ただけで区別したすく、二年くらい前に塗装工事がされたと聞く。
「こちらのお客様を室長室へ案内している途中でして。ベルガールのシャルロットからの仰せつけです」
切り替えのオンオフが凄すぎる。なぜさっきお仕事モードで対応できなかったのかと疑うほど。礼儀や敬語の知識なんてなさそうだったのに。
彼の素の状態を知っている立場は、スイッチが入ったセシルにあ然としてしまう。
「………できる男の究極版やん」
「流石保安課、頭の回転が速いんですよ」
クコパイセンの左耳に耳打ちすると、パイセンは何度も深く頷く。隣の紗明パイセンやさっくんも、まじまじとセシルを眺めた。
「あら、そうだったの。お疲れ様です」
「はい、こちらこそ。良い一日をお過ごしくださいませ」
二階につき、おばあさんエレベーターを降りていく。二階には食堂やちょっとした休憩所があるので、乗っていた他の人もおばあさんの後に続いた。
いっきに空になった室内で、みんな同時に大きなため息をつく。
ロビーからエレベーターに移動しただけなのに、なんでこんなに疲れているんだろう。
「つまりあなたは、仕事中だけ猫を被っていると、そういうことですね」
皮肉たっぷりに紗明パイセンが言う。セシルを見上げるその瞳には若干の軽蔑が見て取れる。
紗明パイセンは昔から、コロコロと態度を変えるタイプが嫌いな人だった。
「勘違いしないでほしいなぁ。アレはあくまで仕事だよ。保安課って言う立場上、当たり前でしょ?」
セシルが軽く肩をすくめる。こんな華奢の体のどこにスイッチがあるんだろうか。こうも一瞬でぱっと切り替えれるその頭の中身を見てみたい。
「ならなんで俺たちにはそうしないの? 一応『お客様』って立ち位置だけど」
「だってオレ、名前知ってるヤツにお客様って言わないもん」
…………は?
どういう意味か分からず、ユルは眉尻を下げる。
その反応がおかしかったのか、セシルはカラカラと笑って、右手の人差し指をクコセンパイ・紗明センパイ・さっくん、そして自分に順番に指し示す。
「クコ、紗明、ユルミス、そして百木朔。君たちのことは保安課の全員が知ってるよ。ネートル室長に呼び出されたこともそーだけど、黒札の資格者を連れてきたことでみーんな君らにチュウモクしちゃってるから」
黒札の資格者。その言葉に、さっくんが「俺?」と呟く。
そう、とセシルは応え、直後さっくんの目と鼻の先まで距離を詰め、エレベーターの壁にまで追いつめる。そして上から見下ろすような体制で、あくまで無邪気に質問をした。
「どう? 黒札の資格者って、どんな感じ?」
「………え?」
さっくんの表情がこわばる。若干裏返ったその声から、酷く怯えているのが伝わる。
なんでいきなりそんな質問をするのか分からない。
保安課は札狩の調査もしているけど、だからといってこんなふうに追いつめるなんて卑怯だ。だって、さっくんにはなんの責任もないんだから。
「ちょっとあんた。人の仲間怯えさせてどういうつもり? これ以上なにかするようなら、その魂抜き取るけど」
不快な気持ちを抑えられず、とっさにそんなセリフが口から飛び出た。
普段もあまり大人しい方ではないけど、ここまで怒ることは滅多にない。パイセンたちもそのことを把握しているので、クコパイセンは顔面蒼白で自分とセシルを交互に見やった。
「ユルミス……あかんそれはあかん。保安課なんか怒らせたら……あんた……紗明何とかしぃっ」
「無理いいいいいいいい、マジ怖えぇぇぇぇぇぇ………こんな状況で何とかするってそれ無理いい」
「なんでエレベーター乗るだけでこんなことになるんやぁぁぁぁぁ。あんたのせいか?」
「こいつのせいだろぉぉぉぉぉ? 何でそこで俺の名前が出てくるんだよ………」
修羅場へと陥ってしまったエレベーターの隅っこで、クコパイセンと紗明パイセンが震えながらヒソヒソ会話している。
さしもの自分も、やってしまった感が半端ない。怒る相手を間違えた恐怖で怒りの熱もすぐに冷め、かわりに背中にかけて冷たい汗がタラーリ。
「さっくん助けて!」
「無理言うなぁぁぁぁぁぁぁ、お前のせいだろおおおおおおお」
ホントにその通りですごめんなさい!
保安課は年間にわたり、天界の警備や事件の捜査をしているエリート軍団。当然頭も運動神経もいい。そのうえこのセシルくん、小柄な体格だからこそ余計に攻撃が怖い。
素早い動きで相手を攪乱させ、とどめのパンチで一発KОなんて未来が本当にありそうだ。
それに加えてこの、天真爛漫で純粋無垢な性格が余計に恐怖心をあおってくる。
セシルは俯き加減でユルの前に立っている。その顔がどんな表情なのか、確かめようとも思わない。やばい、解雇されたことが小さなことのように思える。
セシルがマントの懐をまさぐり、金属製の一本の杖を取り出す。先っぽが、魚を捕る銛のようにとがっている。
ひゃあぁぁぁ! きっとあれで刺されて終わるんだぁぁ!
ユルミス・ローズベリの役400年の人生。短ったようで色々ありました。先輩たちや人間の仲間と楽しくやれて幸せでした。自業自得です。おやすみなさい………。
セシルが杖を頭上に振りかざすのと、エレベーターが三階で止まり扉が開くのがほぼ同時だった。
ウィィィィィンという音を立てて開いた扉の向こうに、赤茶髪の男の子が立っていた。
「……………………ル、ルキア4番隊長っ……………」
見られてはいけないものを見られた。
とっさに杖を背中に隠したセシルの顔がどんどん青ざめていく。
間一髪で命の危機を免れたユルは、腰を抜かしたままルキアと呼ばれた男の子に視線を移す。
セシルよりも1、2歳年上っぽい、聡明そうな男の子は、顎に手をあててユルたちを一瞥した。
「………………なにを、やってるんですか…………………???」
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