コメディ・ライト小説(新)
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- カオスヘッドな僕ら【連載終了】
- 日時: 2022/10/17 18:15
- 名前: 夢兎 (ID: gzz.lbul)
- 参照: www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=18233
「なにがどうしてこうなった…………」
****
こんにちは。夢兎、またの名前をむうと言います。
簡単なプロフィール! 高2女子、以上!
ちょっと個性強めの妖怪幽霊たちが繰り広げる、怪異コメディです。
怖い要素は(多分)ないので、楽しく見て下さると嬉しいです。
おかしな仲間に翻弄されながらも成長する(かもしれない)主人公。
そして彼らとの出会いは一体何を生むのでしょうか?
カオスヘッドなキャラたちが繰り広げる怪異譚、始まります(いつ終わるかは分かんない!←)
【注意】
●私情により未完の作品です。(ここ大事)
●完結小説の一覧に登録しましたが、未完です(二回目)
●荒らしや中傷行為はご遠慮くださいませ。
【キャラクター】>>11
出てこないキャラもいますがお楽しみに! ちょくちょく追加予定。
【単語紹介】>>49
本編の中で出て来た単語や設定を、詳しくまとめたページです。
コメディなのにやたらと用語が多い物語ですスミマセン。
【Special Thanks】
・美奈様>>15 りゅ様>>46 閲覧をしてくれた皆様。
又とあるサイトでアイディア参考をさせていただいた皆様。
【感謝】
2021年夏☆小説大会にてコメディ・ライト版 銅賞入賞。
感謝ぁぁぁぁぁぁ(涙)>>40にコメントを記載しました。
【その他作品】
ろくきせシリーズ↓
〈鬼滅の刃 会話文短編集〉
〈鬼滅・花子くん 短編集続編 六人の軌跡〉
〈ろくきせ恋愛手帖〉
********************
【目次一覧】
一気読み>>01-
↑ここからすべてお読みいただけます。
★キャラクター別情報File★
百木周&百木朔>>22 クコ>>25 紗明>>31 栗坂八雲>>40
□第1章 リスタートする人生>>01-12
第1話「僕が死んだ理由」>>01
第2話「クコと言う名の少女」>>02>>03
第3話「やらかしてしまったので」>>04
第4話「栗坂八雲」>>05>>06>>07>>08
第5話「黒札と白札」>>09>>10
第6話「そして物語は始まる」>>12
□第2章 札狩life始めました!>>13-50
第7話「デスメタルでアタック!」>>13>>14
第8話「僕たちの非日常」>>17-20>>23-25
第9話「カオスヘッドな僕ら」>>26-28
第10話「僕たちの作戦会議?」>>29>>30>>33
第11話「刺客」>>34-39 >>41
第12話「秘められた力」>>42-48
第13話「室長室にて」>>50
□第3章 from天界管理局!
第14話「ネートル室長を探せ」>>51>>52>>54>>55
第15話「お説教、みたいな」>>56>>57
………………………………
※あとがき的な>>58
☆記録ログ☆
2020年7月下旬 スレ立て、執筆開始
2020年9月上旬 2カ月間の休載後、再び執筆開始。
2020年9.22 イメージ曲を選曲。
2020年9.23 キャラ紹介作成。
2020年9.24 改稿作業完了。
2021年2.08 高校合格。再び執筆開始。
2021年9.04 我、帰還也。(三カ月間来なかったってマジか)
2022年3.02 我、またまた帰還也(お前どんだけ失踪するんだ)
2022年10.2 連載再開。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.43 )
- 日時: 2021/10/10 18:17
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: AzYdFFfX)
〈クコside〉
「百木くんっ! 待ちィや百木くんっっっ!!」
光の速さで部屋から飛び出した百木くんを追いかけて、うちは家の扉を乱暴に開けた。
周囲を見回すと、数メートル先の歩道に彼の姿を見つける。
感情に任せて動くとろくな目に合わんってネートル室長が言うてた。
君がもし怪我なんかしたら責任はうちに帰ってくんのや、ただでさえ安くなった給料がこのままゼロになる可能性もあるってことやぞ、ちょっとはうちの気持ちにもN……(以下略)。
何度か声をかけてみたが、走るのに夢中なのか振り向いてもくれない。
もともと何かに熱中すると他の声が聞こえくなる性格で、おまけに無駄に頑固な子や。ちょっとやそっとの言葉なんか聞いてもらえん。
「おいこらっ! 待てって言うてるやろっっっ」
「あだだだだだだだだだ!????」
八雲ちゃんのお兄さんからもらったお下がりのTシャツを、百木くんはこのんで着とる。
蛍光色のピンクや黄色もぎょうさんあったけど、目立つのが嫌いなのか白か黒のもんしか身に着けないので、うちは心の中で『パンダの君』と呼び始めている。
そんな彼の服の裾を引っ張ろうとしたけど、勢い余って代わりに彼の左手首を思いっきり掴むことに。切るのを怠って、魔女のごとく伸びたうちの爪が、彼のか弱い肌に突き刺さる。
「痛っった!! な、なんだよっっ……? あ、痕になってる……」
「……ご、ごめん………。悪気はなかったから……許したってや」
怪我させたらいけんと思ったのに、自分から怪我させてどうするんや。うちのバカ、馬鹿!
暗くなった心を入れ替えようと、両頬を手でぺチンと叩く。
「用がないなら僕は行くよ。朔たちを助けに行かな……」
「待てって言うてるやろ―――――ッッ!!」
べチィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッ
あっと気づいたときには、右手が目の前の相手の右頬へと軌道を描いていた。そのまま大きな音を立てて手のひらが直撃。
攻撃を食らった衝撃でよろよろと倒れる百木くん。片やフーフーと息を切らしながら彼を睨んでいるうち。上がった息を必死に整えるも、膨れ上がった気持ちは静まるそぶりを見せない。
「なにすんだよ!??」
「知ってるはずやろ百木くん! あんたは幽霊や! うちや紗明やユルミスとかの天界の住人や、八雲ちゃんみたいな霊感の強い子にしか見えんし触れんのや! その状態のまま戦線へ飛び込んだら……攻撃はすり抜けるかもしれんけど、怪我は保証できん!!」
うちの言葉を受けて、鋭かった彼の目つきがふっと弱まる。何か言おうと口を開きかけた百木くん。でもその口からはなにも出て来んかった。反論できなかったからやろか。うちの言うことが全部正しくて悔しかったからやろか。
うちはな、ずっと君に謝りたかったんや。天界管理局っていうところで働いておきながら、君を天国に連れていけんかったやろ。
百木くんが今こうしてここに居らんといけんのも、札狩をやっているのも、全てはうちが犯した失敗のせいなんや。『地上にいられるんは五分まで』ってルールを無視して長々と喋ってた馬鹿な天使のせいや。
あと……もう一つ。
謝らなきゃいけんことがあるんや。本当はもうちょっと後にでも言えばいいと思っとったけど……それはやめた。
いつも頑張ってるパートナーに、これ以上隠しごとをすんのはなんか違う気がしたんや。
さっきだってあんた、うちが止めなきゃそのまま走り続けとったやろ。感情で動くのが苦手っておこと、よう知っとる。だけどみんなを守りたいという意志のままに君は動いた。凄いと思うで。
「………百木くん。うち、百木くんにずっと伝えたかったことがあるんや。出会ってすぐ、『天界に居れるのは五分まで』って言うとったやろ、うち」
「……う、うん?」
「あのときうち、わざと百木くんを天国に行かせんかってん」
「…………………え?」
「……案内人は、死んだ人を天国に送り届ける職業。でも、連れていける人っていうのはある条件がいるんや。百木くんはその条件に当てはまらんかったから、わざと……連れて行かんかった」
話が呑み込めないでいるのか、百木くんが「え、え!?」と何度も叫ぶ。
彼の表情を見るのが怖くて、視線を地面に降ろす。ありんこが歩道の端を歩いていた。
「本当なの? その話。じゃあ僕に札狩を教えたのも、天国に行けないってわかってたからなの?」
「……未練がある人は連れていけん」
○○市○○庁で、人間の男子中学生一名が車にはねられ死亡した。すぐに向かってくれ。
室長にそう命令されて地上に降りたうちは、百木くんに会った。そして彼と話すうちに、あることに気づいてしまった。
彼には未練がある。もっと生きたい。まだ死にたくなかった。そういう気持ちがある人を送り届けてはいけない決まりになっている。なんの欲もない状態が一番望ましいのだ。
百木くんが天国へ行けないのを知っていたから札狩をすすめた。幽霊で札狩をやっているのは、だいたいが未練を晴らすために地上に残っている子だった。
うちはそのまま帰れたけれど、百木くんが心配だったから彼と一緒に残ることにした。この仕事を始めてから今まで、沢山の人間を担当してきたけれど、彼が一番話が合った。これまで担当してきた人間は年配の老人ばかりやったから、こんな若い子が死んだというのが納得いかんかった。
「……だから自分の未練がなにか分かるまで、未練が晴れるまで、札狩をしてのんびり過ごしたらええと思ったん。幸い八雲ちゃんっていう優しい知り合いも出来たんやし。……でもみんなが仲良うしてるときにこんなこと言うのは、雰囲気壊しそうで………」
ごめんな百木くん。馬鹿なパートナーでごめんな。
九人姉妹の末っ子に生まれて、姉ちゃんみんな頭いい企業に就職して。自分もそのレールに乗せられて案内人になったけど、正直忙しくてあんま楽しめなくて。
でも君の担当になってからめっちゃ楽しかってん。うちのせいで悲しませてんのに……めちゃくちゃ毎日面白くて充実してて……だから、だから………。
両目から生温いものが溢れて顎を伝っていく。お気に入りの赤縁眼鏡を取って、手の甲で乱暴に目元をぬぐう。あかん……しっかりせないけんのに………。
と。
「大丈夫だよ、クコ。もういいよ。ちゃんと、分かってるから」
頭の上に温かい感触が乗っかった。百木くんの手のひらだった。そのままうちの頭を数回撫でる。優しく、ゆっくりと彼の手がうちの髪を撫でる。
「………も、ももきくぅん………!」
「僕、クコがパートナーで良かったよ。……紗明やユルミスがパートナーだったら、絶対うまくいってないよ」
「紗明を手なずけれんのは八雲ちゃんしかおらんやろ。百木くんには無理や」
「だよね」
こらえきれずに吹き出した百木くんにつられて、しばらく笑い転げる。笑っているうちに、胸の中の汚い感情はすっかりなくなっていた。
決めたで。うちの目標。百木くんの未練を晴らすこと。そして百木くんの未練が晴れるまで、彼を守ることや。
姉ちゃんには馬鹿にされるわ、室長には呆れられるわ。後輩のユルミスには気を利かせるわ。どうしようもない天使やけど。大切な人を一人守るくらいはできるやろうし。
「さて、ほな行こうか。朔くん小指折れたんやって? 怪我した奴にきゃくのちぎゃいってやつを見せつけてやrrrrrrrrrんや!」
「………滑舌大丈夫か??」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.44 )
- 日時: 2021/10/16 15:10
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
閲覧数1200突破ありがとうございます♪
これからもカオ僕をよろしくお願いします!
********
〈亨介side〉
黒札で悪霊をよびよせ、攻撃を仕掛けた僕は、戦闘は霊に任せその場を立ち去った。
チームのリーダーであるプリシラことシアには接触だけするようにと命令されていたし、その任務を行うのは自分ではなく御影月菜だったんだけど……やっちゃったなぁ。
コンビニの方を振り返って、小さな溜め息を一つ。
百木周の弟は、どうやら悪霊にパンチを食らわそうとして小指の骨を折ったみたいだ。しばらくは痛みで動けないだろう。ただのスライムだと侮ってはいけない。シアから渡された黒札でよびよせた霊の強度は、鋼より硬いんだ。
死神やそのパートナーの子も、だいぶ苦戦しているみたい。
自分の力で戦わないのは卑怯だって、もしかして思ってるかな。痛いのが嫌なだけだよ。まともにやりあったら、運動オンチの僕はあっという間に倒れてしまうだろうからね。
「……とはいえ、やりすぎちゃったかもな」
誰に言うともなく呟く。
とりあえず、今の状況をパートナーである御影に報告しなくては。彼女は今どこにいるんだろう……? まだ学校か?
電話帳を開き、『御影月菜』の携帯へ発信する。
プルルルル……プルルルル……という呼び出し音が三回なった後、すぐに相手につながることが出来た。
「もしもし? 僕だけど」
『キョーちゃん? 珍しいじゃん、そっちからかけてくるの。何の用?』
カチャカチャと、なにかを操作している音が電話越しに流れてくる。どうやらパソコンでもいじっているようだ。と言うことはもう帰宅しているのか。
「実は………」
これまでのいきさつをかいつまんで説明すると、明るかった御影の声のトーンが次第に暗くなっていく。勝手な行動をした僕に苛立ち始めているのが分かる。顔は見えないけれど、画面の奥で眉をひそめた気がした。
『なんかいつものキョーちゃんらしくないね。感情的にならないタイプなのに。ま、シアには怒られるだろうけど』
「………はぁ……」
「御影は今何してるの? もう家なんでしょ?」
『ウチは動画編集してる。Youtubeにあげるやつ。今日の夕方にあげるから見てね』
御影月菜は、Youtubeとティックトックで美容動画をあげている。その登録者数は両方50万人を突破しているほどの人気。事務所にも入っているほどの、実力派中学生Youtuberだ。
ダイエット、メイク商品紹介などほとんどが女性向けの動画なので、視聴者は女性が多い。そんな動画を男の僕が視聴するのはおかしいし、そもそも興味がない。
「……見るわけないじゃない。男なんだから」
『ケチ。すこしはパートナーに貢献して、視聴回数伸ばしてよ』
理不尽なわがままを突きつけられるのも毎回のこと。イライラしながら電話を切り、もう一度後ろを振り返る。
………このままほっといて、死人でも出たらたまったもんじゃない。
そろそろ黒札を処理して立ち去ろうか。……でも札狩の連中にあっさり負けるのもなんだか釈然としない。
『なんでこんなことしてるの?』
百木朔がそう自分に問いかけて来たとき、内心ヒヤッとしたことを思い出す。
なぜだろう。心の中を読まれたような気がして、一瞬言葉に詰まったんだ。
本当のことを言えば、こういう理由でこんな考えで……というのを打ち明けて楽になりたかった。ヴィンテージに入るまでの経緯を説明して、同情してもらいたかった。
自分の中に変なプライドがあって、そいつが言葉を放つのを拒んでいる。話したところで、どうせ理解ってはくれないだろうという、そんな変なプライドが。
それゆえに、シアにも御影にも、自分の話は今までしてこなかったし、御影がなぜシアに協力しているのか僕は知らない。そういうもんだと思い込み、同じチームのメンバーとして表面上接している。それだけの関係。
数分間考え事をしていた僕は、ある大きな音に反射的に顔を上げた。
ウガァァァァァァァァァァァァッッ
遠くから悪霊の叫び声が聞こえ、声のした方に目をやる。
場所はあのコンビニの駐車場。死神が結界を張り、一般人が襲われるのを防いでいる。結界の中では死神とその主人の少女が、悪霊の集団と対峙していたのだが……。
死神が率先して敵を相手にしているのをいいことに、女の子を狙った一体の悪霊。鋭い爪を持つ、髪の長い女性の霊だった。
そいつは死神の隙をついて、女の子に飛び掛かったのだろう。霊の長い髪に体を縛られて、女の子が悲鳴をあげている。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっ 助けてぇぇぇぇ!!』
『アルジ様!!!』
「…………流石にこれはまずい。早く対処しに行かないと!」
やりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎた。失敗した失敗した失敗した失敗した!!
人を死なせてはいけないのにっ。僕の管理不行き届きだ。僕のせいであの子が死んだら………とりあえず早く片付けないと!!
慌ててコンビニへと走り出す。百木朔は怪我のせいで、女の子の元へ駆けつけれないようだ。死神も、他の悪霊に攻撃を防ぐのに精いっぱいだ。
敵だから見殺しにしていいわけではない。シアはすぐ、『邪魔な奴らはやっちゃいましょう』とかいうけど。そういうわけにもいかないんだ。
必死に足を動かす。身体が重い。すぐ近くに目的地があるのに、スピードがひどくゆっくりだ。今日は学校の六限に持久走があって、一時間散々走らされたから。あぁダメだ、間に合わない……!
悪霊の髪が女の子の腕や足にどんどん巻き付く。ギュウギュウに締め付けられて、ぐってりとしている。気絶してしまったのだろうか。どちらにせよやばい。やばいのに………!
『う゛……! 助けて、誰か……………!!』
絶体絶命のピンチ。見方全員、助けてくれそうな様子はなく、このまま力尽きてしまうのか。女の子がいくら叫んでも助けてくれる人はいない。
あぁ、私はこのまま死ぬんだ。とうとう諦めたのか、女の子が叫ぶのを止めた。
その時。
「八雲をぉぉぉぉぉぉぉぉぉお、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!」
ヒーローは、遅れて現れる。いつもヒロインがピンチになった時に、颯爽と現れて拳を振るう。
漫画でみんなが好きなシチュエーション。だから主人公はかっこいい。人々に勇気を与える存在に、誰もが目を輝かせる。
しかし、声の主は特殊能力が使えるわけでも、ガタイがいいわけでもないただの幽霊だった。
ただの、幽霊だと思っていた。
ズバァァァァァァァァァァァァン!!!!!
透けているはずのその腕が、長髪の悪霊その他もろもろを一瞬にして吹き飛ばすほどの右ストレートを放つまでは。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.45 )
- 日時: 2021/10/21 21:10
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
〈チカside〉
ズバァァァァァァァァァァァァン!!!!!
右手を力いっぱい振り下ろすのと同時に発生した爆風が、八雲を攻撃していた悪霊だけではなく周囲の敵までをも数メートル先へ追いやったのは、自分でもうまく理解しがたい出来事だった。
十数年間ろくに運動もしてこなった人間だ。いきなりスーパーヒーローみたいなパンチを出せるわけがない。
火事場の馬鹿力というべきか、仲間がやられているのを放ってはおけなくて、自然と手が出てしまった。人を殴ったことも喧嘩をしたこともないのに。
悪霊がシュウッと、炎が燃えるような音を立てて消滅していくのをぼうっと眺める。やけにあっけない最期だ。
僕が倒したなんて夢のようだ。
もしかして今、実際に映画のスクリーンの中にいるんじゃないのかな、なんて馬鹿げたことを考えてみる。でも握った右手は今も痛くて、少し汗ばんでいる。夢ではないんだ。
あれは何だったんだ……?
幽霊の身体であんなことができるなんて教えてもらってない。それに、横にいるクコですらあんぐりと口を開けて固まってるんだもん……。
色んなことがいっぺんに起こったせいか、頭がくらくらしている。身体が興奮してなのか、じんわりと熱を持っているのが分かる。
「……おモチくん!」
と、解放されて楽になった八雲が後方から駆けて来た。腕や足に多少の擦り傷はついているけれど、命に別条はなさそうだ。
彼女もまた興奮状態にあるのか、いつもより上ずった声で八雲は言う。
「ありがとう、助けてくれて。終わったと思ってたの。死んじゃうんじゃないかって怖かった。でも、おモチくんが走ってくるところが見えて……かっこよかったよ。とっても」
真っ直ぐな言葉が、胸を突く。
そんな、ただ僕は八雲を怪我させたくなくて、それで。
誤解されるような言い方になってしまい、恥ずかしくなって、ゆるゆると下を向く僕を、八雲は笑って受け止めてくれた。
「おいクコ! あいつンことただのゴキブリと思ってたけど、意外とやるじゃんか。テメエなんかあいつに伝授したんだろ、どうせ。ったくそういう世話焼きなとこ、お前らしいぜ」
「いや、うちは何も……」
珍しく紗明がクコの肩に腕を回す。
いつもなら『やめい!』と叫び距離を取るクコは、腑に落ちない顔で首を傾げる。その様子に紗明は眉をひそめて、人差し指をクコの鼻先に突き付けた。
「はぁ!? じゃ、さっきのは何だってんだ? 俺が相手してた奴ら全員殺すほどの威力! あんな攻撃が出せた幽霊は前代未聞だぜ!?」
「知らんもんは知らん! だってうちはあの子のパートナーや。案内人をやってかれこれ三十年以上経っとる。うちがなんか知っとったら、すぐアンタやユルミスに言うはずやで」
ちらちらと僕を見やるクコの視線が、だんだんと険しくなっていることに気づき、僕はそうっと視線を逸らす。
そんな目で見ないでほしい。僕ですら現状が分かってないんだから。
「チカ……! 来てくれたんだね!」
外にいた朔がこっちへ歩いてくる。ただしその身体は左右にふらふらと揺れていた。
弟が小指を骨折したことを思い出した僕は、八雲と一緒に彼の元へ走る。
「朔! 怪我は!? っ指、めっちゃ腫れてるじゃんっ」
朔の小指には添え木として小枝がハンカチで縛られてあった。ハンカチの隙間から見える朔の細い指は、赤くぱんぱんに膨らんでいてとても痛々しい。
「へーきへーき。ほら、なんともな……い゛っ」
「無理しないで……。ごめんね、もっと早く気づいていれば……」
八雲がシュンと肩を落とす。
女の子が悲しい顔をすると、こっちまで悲しくなってしまう。朔も同じ気持ちだったのだろうか。顔の前で右手を振り、にっこりと笑って見せた。
「ううん。八雲ちゃんがいなかったらもっとひどかったよ。ねえチカ」
「うん、ありがとう八雲」
二人で頭を下げると、八雲もいくらか安心した顔になった。やっぱり彼女は笑った顔が似合う。
しばらく三人で雑談をしたりして、のほほんとした雰囲気が広がっていた。考えごとをしていたクコたちも悩むだけ時間の無駄と思ったのか、数分後にいつも通りの口喧嘩をし出す。
そんな空気の中、とある声が僕たちを我に帰らせた。
「………信じられない。あの数の悪霊を、いとも簡単に………。何かの間違いだ」
佐倉享介。ヴィンテージとして暗躍する、札狩たちの———敵。
享介は独り言のようにぶつぶつと呟いた後、ふっと顔を上げた。その双眸はもう険しくはなかった。ただただ、「なんで?」という疑問心で彼は僕に問う。
享介の中にはもう戦意はなかった。僕のあの攻撃で、くすぶっていた彼の戦意はあっという間に消えてしまったのだ。時の流れに乗って、ろうそくの煙が空気に霧散するように。
「なにをしたの?」
「………なにも、してない」
本当になにもしてない。狙ってやったとかそういうことでもない。
いや、『なにかを自分がやっていたとしても、自分でそれが何かわからない』と言った方が正しいのかな。
『あんたは幽霊や! うちや紗明やユルミスとかの天界の住人や、八雲ちゃんみたいな霊感の強い子にしか見えんし触れんのや! その状態のまま戦線へ飛び込んだら……攻撃はすり抜けるかもしれんけど、怪我は保証できん!!』
おかしい。
普通、僕のパンチは悪霊の身体をすり抜けるものだ。幽霊の身体が透明であるなら、攻撃だって当然。
自分の拳に視線を移す。手のひらには、道路が透けて移っている。
あのとき、攻撃が通ったってことはひょっとして、あの瞬間だけ僕の身体は実態を持ったってことなのだろうか。もっと簡単に説明すれば、漫画とかでよくある『実体化』みたいな。
そんなことがあり得るのだろうか。幽霊は、自分の意志で実体化出来たりするものなのか? それがたまたまクコは知らなくて、僕に伝えることができなかったってことなのか……?
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.46 )
- 日時: 2021/10/21 21:20
- 名前: りゅ (ID: B7nGYbP1)
素敵な文章力ですね!( *´艸`)
応援しているので執筆頑張って下さい!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.47 )
- 日時: 2021/10/23 18:32
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
>>46 りゅ様
わー、ありがとうございます!
文章力は日々研究しているところです。これからも頑張ります!
りゅ様の小説も時間のある時にじっくり読みますね。これからもカオ僕をよろしくお願いします!
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