コメディ・ライト小説(新)
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- 玉響が揺蕩うので泡沫にお砂糖ご利用ですかまた会えますか?
- 日時: 2024/08/30 22:33
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
セーラー服の女の子、歌方海月(うたかたみつく)が誰なのかはわからないけれど、ギターは弾けるし歌えるし踊れるから、バンド組もうぜ。
#文披31題 参加作品。
◆回答欄満た寿司排水口
day1夕涼み>>1
day2喫茶店>>2
day3飛ぶ>>3
day4アクアリウム>>4
day5琥珀糖>>5
◆問うたら淘汰ラヴァーと泡沫
day6呼吸>>6
day7ラブレター>>7
day8雷雨>>8
day9ぱちぱち>>9
day10散った>>10
◆シュガーレスノンシュガー
day11錬金術>>11
day12チョコミント>>12
day13定規>>13
day14さやかな>>14
day15岬>>15
◆スイカスイカロストワンダー
day16窓越しの>>16
day17半年>>17
day18蚊取り線香>>18
day19トマト>>19
day20摩天楼>>20
◆鰹節目潰し
day21自由研究>>21
day22雨女>>22
day23ストロー>>23
day24朝凪>>24
day25カラカラ>>25
◆イマジナリティオールマイティ
day26深夜二時>>26
day27鉱石>>27
day28ヘッドフォン>>28
day29焦がす>>
day30色相>>
◆
day31またね>>
- day15 岬 ( No.15 )
- 日時: 2024/08/15 22:55
- 名前: 今際 夜喪 (ID: 6mW1p4Tl)
海風特有のベタつきが肌を撫でる。夏の日差しの暑さが和らぐなら、どんな風でもありがたかった。
ここは千葉にある犬吠埼。青空に青い海、白く伸びた灯台がきれいな場所だ。景色は良いが、観光地と同時に自殺の名所でもあるという。
海月と二人、崖上から見下ろす海は見事なものだった。フェンスに手をかけて、二人してぽかんと口を開けたまま、下を見る。岩肌に打ち付ける白波の激しいこと。確かに、ここに飛び降りたらぴろっと死ねるだろう。
「自殺の名所と呼ばれる場所は、何処も美しい場所だって言うね。それがなんでか、糖子はわかる?」
海月は私の方を見ないままに問う。陽光で輝く海の煌めきを、そのまま瞳に閉じ込めたまま。海月はただ景色に見惚れているらしかった。
「死ににいくのに、どうして景色のきれいな場所を選ぶの? 自殺を決めてるなら、誰も寄り付かない樹海の中でも渋谷の交差点でも同じことじゃないの?」
「糖子は情緒がないなあ」
呆れるような目で、海月は私の方を見た。海風が彼女の髪を弄ぶ。セーラー服のカラーとスカーフ、スカートも踊った。
「何。海月には理解できるというの?」
「うん。自殺する人はね、最悪の人生を歩んできたの。何もかも上手く行かなくて、生きているのが辛くて、死にたくて苦しくて、そうして行き着いた場所が、最期に見る景色が美しかったら、少しだけ報われるような気がするんだよ。こんな自分でも、生まれてきてよかったって、世界はこんなに美しかったんだって、気付けるんだよ」
海月は私の方を見たまま、微かに微笑んだ。儚くて、今にも壊れそうな笑みだった。
それが理解できてしまう海月は、やはり。
彼女のリストカット。星を飲み込もうとしたこと。
だとしても、海月は私には何もできないのだと言った。私には海月を助けることができない。そもそも、海月が助かりたいのかどうかすら知らないのに助けたいなんて、傲慢すぎるだろうか。
私は海月と過ごす時間が好きになっていた。独りよりずっと良かったから。孤独は寒いから。海月は明確に、私にとっての救いになっていた。なのに、私は海月の救いにはなれないらしい。
「糖子、そんなに暗い顔してどうしたの?」
「…………」
「せっかくこんなきれいなところに来たんだからもっと笑ってよ。ほら、海をバックに二人で写真でも撮ろ?」
私が何か返事をする前に、海月はインカメラにしたスマホを構える。上手く笑えていないのに、勝手にシャッターを切られた。
「ふふ! 何これ、ブサイクだねえ」
「海月が下手なんだよ」
撮れた写真を確認して海月が笑う。人の顔を笑うなんて失礼な奴。そう思って画面を覗き混んだが、半目の私の顔は確かに最高にブサイクだった。その代わりに海月はキメキメの笑顔で写っている。
「いい写真だね。保存しよ」
「え、嘘でしょ、消してよ」
「ヤダ。プリントアウトして壁に貼っとく」
「なんて悪趣味な」
せめてもの抵抗に、海月の頬を摘んで引っ張った。イヒャイ、イヒャイと楽しげな彼女を見ていると、なんか全部どうでも良くなってくる。
- day16 窓越しの ( No.16 )
- 日時: 2024/08/16 22:37
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
学校へ行くために電車に乗っている。三つ目の駅に到着したとき、向かいの線路で停車していた車両内が、窓越しに確認できた。
乗客の後ろ姿。セーラー服の少女がいる。彼女は手首に包帯を巻きつけていて、その下に眠る傷跡が勝手に想像できてしまう。
リストカット。自らの皮膚を切りつける行為。あれになんの意味があるのか、私には理解できない。しかし、その少女には何かしらの理由があり、腕を切りつけるべくして切りつけたのだろうから、私が勝手に妄想を巡らせることすら傲慢な行為と言えるのだろう。
考えるのをやめたくて、視線を逸らす。やがて電車は動き出して、窓越しの少女が離れていく。赤の他人。それも電車で偶々視界に入っただけの人。そんな誰かの傷に思いを巡らせるなんて。
思考しながら、自らの手首に触れる。絆創膏に覆われた皮膚。その下に眠る傷。窓越しの彼女も私と同じなら。
──机の硬さが心地悪くて、目を開ける。腕の骨が頬に当たっていて痛い。
上体を起こす。私は教室の机に突っ伏して眠っていたらしい。セーラー服の少女。海月(みつく)がそんな私を見守っていた。穏やかな表情で私を見つめている。
「おはよう、糖子。よく寝ていたね」
「……夢を、見ていた」
「へえ。また夢の中で夢を見ていたの?」
「うん。そっか、あれは夢。今も夢。もう私、何が現実で何が夢なのか、わからなくなってきたよ」
「ウケる」
「ウケないわ」
伸びをする。夢。どんな夢を見ていたっけ。窓の向こうに女の子がいて、それで、なんだっけ。
なんとなく自分の腕を見た。生白い手首の下、血管が見える。それだけのサラッとした皮膚。なんで腕を見たんだっけ。なんだっけ。
- day17 半年 ( No.17 )
- 日時: 2024/08/17 22:36
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
いちめんのひまわり。
いちめんのひまわり。
いちめんのひまわり。
いちめんのひまわり。
セーラー服の女の子。
いちめんのひまわり。
と言うような。見渡す限り黄金。背の高い向日葵が視界一杯に埋め尽くしていて、青く澄んだ空とのコントラストが眩しかった。
そんな景色の中を、セーラー服の少女がはしゃぎ回っている。色素の薄いセミロングとスカートを揺らしながら、嬉しそうに走り回る。何が楽しいのか、向日葵の塀でできた通路をバタバタと。何やらキャーキャー喚いている。
彼女の名前は歌方(うたかた)海月(みつく)。向日葵初めて見たってくらいのレベルで向日葵畑の間を駆け抜けている。
「はち! はち!」
なんか叫んでる。叫んだまま此方に駆け寄ってきた。
「はちぃ──!」
「何、うるさいねえ」
「スズメバチィィィ!」
私は咄嗟に海月に背中を向けて走った。
「ヤダヤダ! なんで逃げるの糖子! 助けてよ!」
「スズメバチなんか死ぬじゃんイヤだよ! アナフィラキシーショックで死ぬ!」
と言うようなこともありつつ。
木陰に二人で腰を下ろして、ラムネ瓶を煽る。海月は飲むのが下手で、中のビー玉が飲み口に落ちてきては、中身が出てこなくて困っている。
「糖子さん、今年も半分が終わりましたが、どんな塩梅ですか」
「塩梅も何も。終わったねー、くらいの感想しかないよ。てか海月、ラムネは瓶の窪みにビー玉を嵌めて傾けるんだよ」
「やってるよー。なのに落ちてくるんだよ。飲みづらいねえ、瓶ラムネって」
「下手くそ」
鼻で笑って、瓶を傾ける。見上げる硝子瓶の中、夏空が揺れる。口内を満たす炭酸。ぱちぱちと爆ぜる中に、不思議と酸味がある。口の中で転がして炭酸を殺してから、喉を潤す。
七月。一年の半分が過ぎて、深まる夏に茹だるような暑さ。八月はもっと暑いかな。残暑の九月もしんどいよな。そうやって先のことを考えて、当たり前に先の人生を過ごす想定をしている自分が不思議だった。
未来を当たり前に享受することが、不思議だった。
「八月と言えば夏休みだけど、海月はどう過ごすの?」
ラムネの瓶を煽る。カラン、ビー玉と瓶が触れ合う音が鳴る。
返事がない。
あれれ? と思って、隣を見た。海月はいなかった。代わりに飲みかけの瓶ラムネが置いてある。
「私を一人にしてどこ行くねーん」
ポツリと口にしてみて、空虚に響いた。
- day18 蚊取り線香 ( No.18 )
- 日時: 2024/08/18 15:55
- 名前: 今際 夜喪 (ID: dP/RlTyN)
夜。家のベランダから外を眺めていた。
家の裏にある草刈りのされていない物凄い茂み。そこから虫達の合唱が聞こえてくる。虫の蔓延る草むらが近所にあるということは、当然あいつの出没率も高くなるわけで。
クソモスキート。奴だけは許しちゃおけない。住民の就寝中、被害者の手足を滅多刺しにして逃走。これだけ聞いたらやっていることは通り魔だ。そう、クソモスキートは通り魔なのだ。確実に仕留めねばならない。
「焚いたよ」
怜悧な声が響く。夜でも変わらずセーラー服の少女は、いつにも増して落ち着き払った表情で私を見ていた。
しゃがみこむ彼女の手元には百円ライター。足元、ベランダの床にはくるくると渦巻いた緑色のそれ。先端から特有の匂いを孕んだ煙を燻らせている。クソモスキートぶっ殺しガス撒き散らしマシーン。通称蚊取り線香である。
「ふふっ、死の宴の始まりだ」
セーラー服の少女こと海月(みつく)がなんか言ってる。
今夜は風が心地よい。昼に雨が降って、夜には雲が晴れた。夜闇の中、散りばめられた星と月が私達を照らしている。そんな気候だから、月見酒をしよう、と海月が言い出したのだ。と言っても私達は未成年。安心してほしい、ちゃんとソフトドリンクだから。
キャンプで使うような椅子を二つベランダに並べ、クソモスキートぶっ殺しガスを浴びる。線香臭さを纏うとクソモスキートバリアが発動した気になる。実際には煙自体に効果は無いらしいが、こういうのは気分が大切なのである。
「KP(乾杯)〜!」
海月と私はそれぞれ、ドリンクの注がれたグラスをコツンとぶつけ合う。そうしてひと思いに煽った。グビグビ、喉を通り抜ける炭酸が心地良い。飲んで一言。
「これ不味いねえ!」
思ったより美味しくなかったのだ、ビールのアルコール抜き。つまり炭酸麦茶は。大人たちは真夏の暑い日に飲むビールは最高だって言ってたのに。
海月もうーんと首を捻っている。
「なんだろうね? 単純に合わないというか、変というか……」
「全部言ってるよ。合わないし変な組み合わせなんだよ」
「期待はずれだったねえ」
そうは言いながらも、海月は良い飲みっぷりだ。私に意見を合わせただけで、彼女はそんなに嫌いじゃないのかもしれない。
飲み干したグラスをベランダの手すりに置くと、海月は蚊取り線香の方を見た。
「こんなの焚いただけで死ぬんだから楽なもんだよね。私達は生きることより死ぬことのほうがずっと難しいって言うのに」
出た。海月は暗器でも忍ばせるかの如く、何でもない日常の中に不穏な非日常を隠し持つ。そうして油断しているところを後ろからぶすりと刺してくる。蚊より質の悪い女だ。自分だけ悲劇のヒロインみたいな目をする。悲しみの海に溺れ、誰も助けてくれずに溺れ死んだみたいな顔をする。そのくせ、私には何もできないのだと言って突き放してくる。
酷い女なのだ。
どんな言葉をかけるべきか迷って、口を開いた。けれど、結局言葉が出てこないから閉ざす。
視線を落とすと、蚊取り線香に当てられた羽虫が、その辺にひっくり返っていた。
- day19 トマト ( No.19 )
- 日時: 2024/08/21 18:59
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
海月(みつく)はベランダが好きなのかもしれない。
夏めいた強い日差しが差し込む昼間。昨日の夜に使ったキャンプ用の椅子に腰掛けて、私達は向かい合っていた。その手元には食べやすく切り分けたスイカがある。瑞々しい果肉から、既に果汁が滴っている。滴った液はベランダの床を汚した。
超美味そう。そこに二人して齧り付いた。
ジュワ、と口内を満たす甘味。スイカは野菜だから、甘いけれど瓜科の風味がある。けして濃くない水っぽい甘みが程よい。よく冷えていて、喉越しが最高だ。
「あっつい夏にキンキンのスイカ! これが夏ってやつだよね! サイコー!」
海月がスイカ片手に拳を突き上げて騒ぐ。セーラー服の白に、スイカの果汁が染みを作っている。良いのだろうか。
ベランダから雑草の茂った庭を眺める。太陽光に焼かれて、青臭さが漂う。私にはそれが、トマトの匂いに感じるのだ。
「夏ってトマトの匂いがするよね」
私が言うと、海月はスイカを頬張って、首を傾げた。これが賛同を得られた試しは少ない。
果肉を咀嚼して飲み込むと、海月は口を開いた。
「それ、野菜っぽい匂いがするってこと?」
「野菜っぽいというか、トマトの匂いなの。草の渋みとリコピンの酸味が混じった、美味しい香り。それが夏の匂いだって思うんだ」
「リコピン……? あー、酸っぱい香り? 確かにする、かなあ……」
うーん、と唸りながらもスイカを齧る。咀嚼しているうちにトマトのことはどうでも良くなったのか、海月は寡黙にスイカに齧り付いた。私も同じように食らいつく。普通の人には夏の匂いってわからないのだろうか。
「スイカの種ってさ、食べるとおへそからスイカ生えてくるって言うよね」
「言わないよ」
「私はスイカ生やしたいから種は食べちゃう派なんだけど、糖子は?」
「果肉と種を分けるのが面倒だから食べちゃうけど、生やしたいわけじゃない」
「そっかー。立派なスイカが実るといいねー」
「あれ? 海月さん私の話聞いてる? 生やしたくないし生えないからね?」
「生えたら自分で銘柄つけてもいいのかな?」
「話聞けよ」