コメディ・ライト小説(新)

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玉響が揺蕩うので泡沫にお砂糖ご利用ですかまた会えますか?
日時: 2024/08/30 22:33
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

セーラー服の女の子、歌方海月(うたかたみつく)が誰なのかはわからないけれど、ギターは弾けるし歌えるし踊れるから、バンド組もうぜ。

#文披31題 参加作品。

◆回答欄満た寿司排水口
day1夕涼み>>1
day2喫茶店>>2
day3飛ぶ>>3
day4アクアリウム>>4
day5琥珀糖>>5

◆問うたら淘汰ラヴァーと泡沫
day6呼吸>>6
day7ラブレター>>7
day8雷雨>>8
day9ぱちぱち>>9
day10散った>>10

◆シュガーレスノンシュガー
day11錬金術>>11
day12チョコミント>>12
day13定規>>13
day14さやかな>>14
day15岬>>15

◆スイカスイカロストワンダー
day16窓越しの>>16
day17半年>>17
day18蚊取り線香>>18
day19トマト>>19
day20摩天楼>>20

◆鰹節目潰し
day21自由研究>>21
day22雨女>>22
day23ストロー>>23
day24朝凪>>24
day25カラカラ>>25

◆イマジナリティオールマイティ
day26深夜二時>>26
day27鉱石>>27
day28ヘッドフォン>>28
day29焦がす>>
day30色相>>


day31またね>>

day1 夕涼み ( No.1 )
日時: 2024/07/04 22:31
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 カナカナカナカナカナ。リーンリーン。
 辺りからそういう音が聞こえてくることに気付いた頃、同時に部屋の暗さを知った。
 顔を上げる。カーテンの隙間、菖蒲(あやめ)色の空が見えた。
 電気も付けずに窓を開けた。エアコンで冷やしきった部屋より、いくらかぬるい空気が肌をべったりと撫で付けてくる。湿気を多く含んだ夏の空気は重く、不快だった。
 しかし、真昼の灼熱は和らぎ、幾ばくかは心地よくなった風が吹き込んでくる。もうエアコンはいらないだろう。机の上のリモコンを掴んで、電源を切った。

 玄関で適当なサンダルに足を引っ掛ける。扉を開けた途端、気圧の影響で外の空気が吹き込んできた。髪が肩の辺りで軽く踊る。
 全身で外気を受けると、夕方を実感した。
 ヒグラシと遠くの風鈴が鳴る音が相まって、どうしてか寂しさを抱く。七月一日。夏が始まった。ばかりだというのに、夕暮れのヒグラシは寂しさの代名詞だ。なんだか今にも夏が終わってしまいそうで、それが寂しいと感じる。さて、こんな蒸し暑い夏が終わることの何が名残り惜しいのだろうか。

 少し散歩でもしようかと歩き始めて、道の遠くで黒猫に横切られる。紫がかった空の下だから、暗くて黒猫に見えただけかも知れないが。古くから不吉と言われる事象を見ると、何となく不安になった。
 ヒグラシと風鈴の歌に、砂利を踏む音が交じる。時折吹き付ける風に髪が踊らされると、首の辺りが涼しかった。

 街路地を曲がったとき、低木一本分くらいの距離に、セーラー服の君を見た。色素の薄いセミロング。湿布や包帯、絆創膏に保護された白い肌。今にも死にそうな、光を灯さない黒黒とした瞳。
 歌方(うたかた)海月(みつく)。
 君はいつも傷だらけの腕で、私に手を振るんだ。

day2 喫茶店 ( No.2 )
日時: 2024/07/04 22:33
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 セピア色のライトに照らされて、クリームソーダの表面が汗をかく。向かいに腰掛けるセーラー服の少女は、嬉しそうにストローを咥え、緑に透ける液体を吸い上げた。

「あなたは夢を見ているの」

 ひと呼吸おいて、彼女は言った。

「醒めない夢を、見ているの」

 彼女──歌方(うたかた)海月(みつく)は私を真っ直ぐ見つめて言った。
 夢。馬鹿げてるな。嘆息して、私は椅子に深く座り直した。後頭部の結び目がくしゃっと歪んだけどどうでも良かった。

「夢だとして何。海月の飲んでるそのクリームソーダも夢なの? そんなに美味しそうに飲んでるのに」
「美味しいよ。でもクリームソーダって何処の店でもしゅわしゅわして冷たくて甘くて、合成着色料の緑が安っぽい色してる。味は想像つくでしょう? 夢って想像だから、知ってる味なら美味しく感じるんだよ」
「はあ……」

 聞いてる間に、店員さんがお待たせしましたと珈琲を私の前に置いた。黒く揺れる表面から、薫り高い湯気が昇る。

「夢なら、海月の存在も夢だというの?」
「そうだよ」

 海月は頬杖を突いて、上目遣いに私を見た。口元の湿布が嘲笑するように歪んだ。

「夢でも、クリームソーダ代は払ってよね。八百円」
「ええ……」

 私の言葉に不満そうな声を漏らす海月。無視して、珈琲のカップを口に運ぶ。苦味の奥に甘みがある。のは、砂糖を入れたから。

day3 飛ぶ ( No.3 )
日時: 2024/07/04 22:37
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 もしもこの世界が現実でないのだとしたら、飛び降りたところで私は死なないのだろうか。

 屋上から見下ろした地上は遠く。しかし、足を踏み出せば瞬きの間に、この体をアスファルトに叩きつけるのだろう。
 フェンスは灼熱の太陽に熱されて熱い。しかし構わず、私はそれを鷲掴みにする。次は爪先をかける。体重を預ける。脚をひょいと上げて、乗り越える。着地。
 フェンスを超えた先の、僅かな空間。そこにサンダルで立って、静かに空を見上げた。太陽は変わらず痛いほどに熱い。しかし、吹き付ける風が心地よい。このまま私の体を攫って、地の底へ叩きつけてしまいそう。
 目を閉じて、息を吸った。吐いた。意識すると心臓が内側から胸を叩いて喧しい。背中に滲む汗の正体は暑さからか、恐怖からか。ちゃんと怖いって感じるのは生きている証だ。別に生きていたいわけでもないのに怯えるのは、本能だ。生きとし生けるもの、死が怖い。

 なのに私は飛び降りる。
 はずだった。

 傾ぐ体。掴まれた手首が痛む。目を開ける。セーラー服の少女が必死になって、私の命を繋ぎ止めていた。触れた指先に、絆創膏の感触がある。傷だらけの手で、彼女は、海月(みつく)は私を離さない。

「どうして?」

 どうして止めるの。

「さて、どうしてでしょうね?」

 海月は意味深な笑顔を浮かべ、私の腕を引っ張った。邪魔なフェンスの内側に引き戻されて、屋上の床に二人して転がる。

「眩しいねえ」

 転がって、空を見上げて、海月がぽつりと零した。
 視界いっぱいに、入道雲の白と空の青が埋め尽くしている。

day4 アクアリウム ( No.4 )
日時: 2024/07/04 22:42
名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)

 この世界が現実でないことの証に、空に巨大な鯨が泳いでいた。

「まじ?」

 ビックリしすぎて声が漏れた。でも、マジの大マジで、空にはシロナガスクジラ的な、とにかく巨大な鯨が悠々と泳いでいるのだ。
 見事なものだった。住宅路の家々に覆われた狭い空の隙間。電線や白い雲を避けるようにして、鯨は空を揺蕩っている。
 ヒレの動きを見ていると、空を飛んでいるみたいだった。それなのに私が泳いでいると表現してしまったのは、本来鯨が泳ぐ生き物だから……だろうか。なんとなく、飛んでいるというよりは空を海に見立てて泳いでいるようだと感じたのだ。
 見飽きた私がそろそろ家に帰ろうかと歩き出すと、いつの間にか側にセーラー服の少女がいた。白い腕を痛々しい包帯で覆っている、素朴な顔立ちの女の子。海月(みつく)だった。

「空がアクアリウムみたいだね」
 彼女は見上げながら歩いて、そう口にした。
「他の魚がいないのに? 随分寂しいアクアリウムだね」
「糖子(とうこ)は52ヘルツの鯨って知ってる? 世界一孤独な鯨のこと。彼はきっと52ヘルツなんだよ」

 高い声で鯨が鳴いた。その声が何ヘルツなのか、私達にはわからない。

「……泳ぐときまで独りでなくたって、いいのにな」

 私に返事をするみたいに、鯨はもう一度高く鳴いた。


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