コメディ・ライト小説(新)
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- 玉響が揺蕩うので泡沫にお砂糖ご利用ですかまた会えますか?
- 日時: 2024/08/30 22:33
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
セーラー服の女の子、歌方海月(うたかたみつく)が誰なのかはわからないけれど、ギターは弾けるし歌えるし踊れるから、バンド組もうぜ。
#文披31題 参加作品。
◆回答欄満た寿司排水口
day1夕涼み>>1
day2喫茶店>>2
day3飛ぶ>>3
day4アクアリウム>>4
day5琥珀糖>>5
◆問うたら淘汰ラヴァーと泡沫
day6呼吸>>6
day7ラブレター>>7
day8雷雨>>8
day9ぱちぱち>>9
day10散った>>10
◆シュガーレスノンシュガー
day11錬金術>>11
day12チョコミント>>12
day13定規>>13
day14さやかな>>14
day15岬>>15
◆スイカスイカロストワンダー
day16窓越しの>>16
day17半年>>17
day18蚊取り線香>>18
day19トマト>>19
day20摩天楼>>20
◆鰹節目潰し
day21自由研究>>21
day22雨女>>22
day23ストロー>>23
day24朝凪>>24
day25カラカラ>>25
◆イマジナリティオールマイティ
day26深夜二時>>26
day27鉱石>>27
day28ヘッドフォン>>28
day29焦がす>>
day30色相>>
◆
day31またね>>
- day5 琥珀糖 ( No.5 )
- 日時: 2024/07/06 20:31
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
誰もいない教室の、一番窓際の席にいる。黒板の上の時計は何故か針が無く、何の時間も表していなかった。それでも外の青空が入道雲と太陽を浮かべているので、夜でないことだけは分かる。
誰もいない教室。だと思っていたが、後ろの席の人物に肩を突かれて反射的に振り返る。セーラー服に、病的に白い肌の少女、海月(みつく)だ。
「食べる?」
そう言って海月は白いハンカチを差し出す。なに、と視線を落とすと、白い布いっぱいに、カラフルな宝石の欠片が詰まっていた。違う、宝石に似た何かの欠片だ。赤、水色、緑、黄色、透きとおったそれらが布の中に収まっている。
何故か私は、それが星の欠片だと思った。
「いらない」
予想外の返事だったのか、海月がぽかんと口を開ける。
「星を食べる夢を見ると死ぬらしいから、いらない」
何かの本で見た情報を伝えると、海月は目を丸くして首を傾げた。
「なんで星を食べる夢で死ぬことになるの?」
「私も知らないよ。でもほら、空の青さや雲の白さに疑問を持ったことは無いでしょ? それと同じように、星を食べる夢はとにかく死ぬんだよ。そういうもんなんでしょ」
知らんけど、と頭の中で付け足す。信憑性のない言説を唱えても責任から逃れられる、便利な呪文だ。
ふうん、と海月は興味なさげに相槌を打って、赤い星の欠片を摘み上げると、口に放った。
「あ。あんた死ぬよ」
「死にませーん。何故ならこれは、星の欠片なんかではなく琥珀糖っていうお菓子だからでーす」
言いながら、海月は緑色の欠片を指先で摘んで、私の口元に近付けた。私は水色のほうが好きだったから一瞬迷いつつも、鳥の雛みたいに口を開ける。
ころん、と確かな質量が舌の上を滑る。甘い。砂糖そのものの甘さだ。歯を突き立ててみると思った以上に柔らかく、シャリ、と崩れる。ゼラチン質の歯ごたえ。仄かにメロンソーダに似た風味がある。緑色だからか。咀嚼を繰り返すごとに崩れてバラバラになって、甘味が口内を覆い尽くしていく。
「あんまり美味しくないかも」
「だよね」
私のマイナスな感想に、海月は笑って頷いた。じゃあなんで食べさせたし。
「見た目だけは好きなんだけどね、琥珀糖」
「宝石みたいできれいだもんね」
「私とおんなじ。見た目ばっかり。中身が伴わない」
海月はそう言って、悪戯っぽく笑っている。海月が笑うとえくぼができる。それを湿布が覆い隠している。
そういえば私は、海月の中身をよく知らない。手足の包帯や絆創膏の理由も知らない。名前と姿以外、私は彼女についての殆どのことを知らなかった。
「…………」
だけど、まだ知らなくてもいいかもな。そう思ったから、水色の琥珀糖を摘むと、口に運んだ。シャリシャリと崩れていくゼラチン質の甘味は、やはりあまり美味しいとは言えなかった。
- day6 呼吸 ( No.6 )
- 日時: 2024/07/06 20:30
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
自室にいた。物の少ない部屋にデスク、椅子、クローゼット、本棚。自分自身はベッドに腰掛けている。
ふと隣に視線をやれば、海月(みつく)がいた。色素の薄いセミロング、包帯や湿布に覆われた白い肌、セーラー服。
「夢の中で人に殺されたら、どうなるんだろう」
浮かんだ疑問を口にする。海月は私の顔を見て首を傾げた。さらり。彼女の挙動にあわせて髪が揺れる。
「楽に死ねるのかな」
「楽に死にたいの?」
「そりゃあ、誰だってそうじゃない? ある日突然、ベッドの中で眠るように死ねていたら、それが一番幸せ。なんの苦痛も無く、なんの苦労もなく、息を吸って吐いて、次の瞬間にはふわりと死んでいたい」
そんなことを言ったせいだろう。海月が両手を伸ばしてきて、私の喉元に絡めた。温い温度と絆創膏のざらつきがキュ、と気道を押さえつけてくる。
ちゃんと苦しかった。細い指が首の骨を潰してくるのが痛くて、息がしづらい。陸に打ち上げられた魚みたいに口を開閉して、酸素を求める。周りの音が遠のいて、段々頭がふわふわしてくる。
海月の手を振り解こうと、彼女の手首を掴んだ。包帯のざらつきの下、海月の腕は驚くほど細い。細いのに込める力に手加減が無くて、放してという声すら上手く音にならない。
「かはっ……」
生理的な涙で視界がぼやけてきた辺りで、ようやく開放される。
必死に呼吸を繰り返していると、海月の手は私の頬を撫でた。労るように、割れ物を扱うように、さっきの暴力からは想像もつかぬほど優しい手つき。
この女、何を考えているんだろう。そう思っていたら、不意に海月の顔が鼻と鼻が触れ合うほどの距離にある。睫毛に縁取られた黒い瞳がじっと、私を見ている。近い、と思ったときには私の唇に、海月の唇が重ねられていた。
この女、何を考えているだろう!?
キス、されていた。触れるように優しいキス、とか思っていたら口内に舌が侵入してきて、生温かいそれが私の舌に絡む。歯列をなぞる。唾液を吸われる。口が塞がるからまた苦しくなって、海月の肩を押した。離れてくれない。
「は、ぁ、みつ、く」
呼吸の合間を塞ぐように、唇が押し付けられて、わけがわからなくなって、息が苦しくて。なりふり構ってられなかった。口内にある生暖かく湿ったそれに、思い切り歯を突き立てた。
「痛っ」
反射的に、海月はその行為をやめてくれた。他人の唾液と血の味が口の中に残っている。物凄いキスされな。なんで?
海月は薄く笑って私を見つめていた。それからチロリと舌を覗かせる。私が噛んだから、赤く滲んでいた。
「海月、なにしてんの。人の首締めるし、急にキスしてくるし」
「私は糖子のこと、チューしたいくらい好き。だから死にたいなんて言わないでって言いたくて」
私が怪訝な顔をしているのをお構いなしに、海月は私に抱きついてきた。
やばいな、この女。そうは思ったが人に好意を向けられて嫌な気がしないのも確かで。
- day7 ラブレター ( No.7 )
- 日時: 2024/07/07 21:28
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
拝啓
あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にいないでしょう。こういう書き出しからあなたが察する通り、これは遺書です。実によくある素朴な理由で私は死ぬことを選びました。ただそれだけなんです。
家に居場所がない。学校に居場所がない。私の世界は家と学校を往復することなのに、その二つとも駄目になったら、世界が壊れたも同然なんです。未来に希望を持てるはずもないのです。駄目だから、生きていたくなくて、死んじゃえばいいかなという考えに至ったわけです。
私は私のことが嫌いです。自分から行動しないくせに何か、世界が素敵に変わることを夢見てしまうこと。そんな御伽噺のお姫様みたいに物事は上手く行かないから、居心地の悪い教室で何も変わらない日々に絶望する。何となく嫌いなクラスメイトに何かを求めて、何もくれないことを勝手に呪って、最低な人間で、こんな私のこと誰も愛さないのは当たり前で。
一人で飲んでもきっと美味しくないクリームソーダ。手が伸びないから珈琲を飲みました。今の痛みを忘れたくて腕に切り傷をつけました。泣きたいくらい痛かった。だけど、血塗れの腕が愛おしいって感じました。傷だらけで、可哀想。きっと私、世界一可哀想な子。可哀想な私なら、愛してあげられる気がしたんです。
どうでしょうか。私は私を、愛せたかな。
「ラブレターみたいだね」
私の自室で、少女が言う。勝手に私の椅子に腰掛けて、実に静かな感想だった。
ベッドに腰掛けた私は、瞬きをする。少女がこちらを見る。私の遺書を読んだ彼女は、ゆっくりと頬を綻ばせた。色素の薄いセミロングがさらりと揺れる。
「何言ってるの」
遺書を持つ彼女の指先には、相も変わらず絆創膏が巻きついている。指、手首、腕、二の腕とどれだけの傷があるのか、包帯で隠されている肌の様子を私は知らない。
その彼女が、歌方(うたかた)海月(みつく)が私の遺書をラブレターと読んだ。どういう読解力をしていたらそんな答えが導き出されるだろうか。ちょっと苛立ち、口を開いた。
「私は私のことが嫌いだって書いた。海月にはその文が読めなかった?」
「読んだよ。三回くらい読み返したよ。それで、ラブレターみたいって思ったの」
海月の言うことはよくわからなかった。私は私が嫌い。なのに?
「糖子は、自分のことを愛したかったんでしょう? 自分のことが嫌いでも、糖子は糖子を愛したかったんだから、きっとこれは愛する人への手紙だよ。それって、ラブレターと呼ぶでしょう?」
「呼ばないよ。だってそれは遺書なんだから」
「そうかな」
「そうだよ」
「でも私は糖子のこと、愛してるよ」
面と向かって伝えられる好意。感情は動かなかった。
- day8 雷雨 ( No.8 )
- 日時: 2024/07/09 19:43
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
誰もいない教室を出て昇降口へ。上履きとローファーを履き替えて、硝子戸をスライドさせた。
まあ、教室の窓からも見えていたからわかっていたのだが、外は酷い土砂降りだった。うわー、と思わず声を漏らして空を見上げた。重い鈍色に覆われて、太陽の気配なんて何処にも無い。どんよりとした空を見ていたら、こちらまでどんよりとしてくるような気がした。
遠くからゴロゴロ、と雷鳴が聞こえる。途端、心臓がキュッと跳ねて体が縮み上がった。
落雷。何処に落ちたのかはわからないが、そう遠くない騒音。思わず悲鳴を漏らす。
「雷、怖いの?」
いつの間にか隣に居たセーラー服の少女が、嘲笑うような調子で訊ねてくる。イラッときて睨みつけた。海月(みつく)だ。いつも通り、その白い肌は包帯や湿布に絆創膏が覆い隠している。傘は持っていない。ならば、私と同じ状況のようだ。
煽られた苛立ちのまま、私は早口で捲し立てる。
「は? 煩いんだけど。生物の本能なんですけど。私達がアウストラロピテクスのときから刷り込まれた本能。コンクリートジャングルで飼いならされた都会人は本能なんか忘れてるんでしょうね、田舎者のことは放っといて下さい」
「あは、めっちゃ喋る。それで、どうするの。雷止むの待つ? 私、早く帰りたいんだけど」
「先帰っていいよ。まあ、私達二人とも傘を持ってないのにどうやって帰るつもりなのか、知らないけどね」
落雷。もう一度小さく悲鳴を上げて、耳を塞いだ。
海月は私の様子を観察しながら、何やら黙り込んでいる。傘を持たない私達がどうするべきか、考えているのだろう。
「糖子はさ、私と二人でいるの、楽しい?」
「何を藪からスティックに。まあ……独りよりは、いいかなって思うこともあるよ」
「そっか。ふふっ、そうだよね!」
そうやって嬉しそうに言って、海月は突然私の腕を掴んだ。そうして強引に引っ張る。
「えっ、え、ま、嘘でしょ? ちょっ、海月、海月! 待って、」
雨空の下へ。海月は駆け出して行く。私の腕を引いて。
途端、襲いかかる雨粒の冷たさ。容赦のない降雨が髪を、肌を、服を濡らしていく。
「うわーっ」
冷たくて声を上げた。開けた口に水が入る。腕を引く力に抵抗できなくて、酷い雨の町並みを海月と二人、駆け抜けた。
全身が重たく湿っていく。濡れて肌に張り付く髪の毛と服の不快感は予想通りだけど、経験したことのないもの。当然だ、経験したくないもん。
大きな水溜りを踏みつけてバシャッと飛沫が跳ねるも、あまり気にならなかった。気にする必要もないほど靴は浸水していたし、いつの間にか一歩一歩グチョグチョと水音を立てている。
「あははっ、私達、水に落ちたみたい!」
「馬鹿、海月の馬鹿!」
誰もいない住宅路を駆け抜けて、声を張る。雨音に負けないように。
そのうち走り疲れた私達は立ち止まった。はあ、はあと呼吸を整えて。走って火照る身体を雨が冷やしていく。心臓が内側から胸を叩く。
「馬鹿、海月、ホント馬鹿! びっしょびしょだよもう!」
雨で張り付いた前髪を掻き上げて怒鳴る。怒っている私に大して、海月はなんだか楽しそうだった。
「あはは、はー、走った走った。どう? これがコンクリートジャングルに飼いならされた女の所業だよ」
呆れて何も言えなかった。
「馬鹿みたい。馬鹿みたいだけど、なんだか雨も雷も気にならなくなってきたかも。雷、克服したかな?」
「まじ? 最高じゃん」
雷鳴、落雷、騒音。かなり近くに落ちたようで、私はギャッと声を上げて海月に抱きついた。湿って冷たい服越しでも、体温が伝わる。ほんのり温かい。
海月は雷が怖い私を見るのが楽しいのか、愉快そうに笑った。
「あっはは、あ、口に雨入った、美味しい!」
「うわ、何言ってんのあんた。美味しいわけ無いじゃん、ホント馬鹿」
海月から離れると、濡れた包帯の隙間から痛々しい切り傷が覗いた。直ぐに目を逸らす。なんとなく、見てはならないと思ったから。
私の挙動に気付かない海月は、空を見上げて言う。
「でもさ、一緒に雨の中走るってなんか、すごい最高の気分じゃない?」
「……そんな訳ない、最悪の気分だよ」
そう言いながら、私も笑みが隠せなかった。
- day9 ぱちぱち ( No.9 )
- 日時: 2024/07/09 19:45
- 名前: 今際 夜喪 (ID: Eay7YDdj)
夕刻。ブランコと滑り台と砂場。あとはベンチがあるだけの小さな公園。人気のないそこで、私達は静かに過ごしていた。
ブランコに腰掛けて、ゆらゆら。子供の頃のように思い切り漕いだりはしない。そうやってはしゃぐような気分ではなかったから。
揺れながら、空を仰ぐ。夕陽のオレンジに照らされて、入道雲が色づいている。じっと眺めていると、のろのろと輪郭が形を変えていく。それが別に面白い訳では無かったが、他にすることがないから私はぼんやりと見つめていた。
その視界の端、透ける球体が宙を漂っている。群れを成して、ふよふよ。球体の表面に写りこんだ景色が反転している。しばらく見守っていると、ぱち、ぱちと爆ぜ消えてしまう。シャボン玉。彼らはそういう、儚い存在だった。
シャボン玉の流れてくる方向を見ると、滑り台の上にセーラー服の少女がいる。筒にストローの先を浸けて反対側を咥えると、息を吹き込む。途端、魔法みたいにきらきら、シャボン玉が群れを成して宙に散らばった。
ぱち、ぱち。いくつかは直ぐに爆ぜて消えてしまうが、いくつかは私の近くまで流れてきて、風に煽られては空へ昇っていく。
ふと、少女と目が合った。微笑んだ彼女が楽しげに手を振る。つられて手を振り返した。
「糖子もやる?」
少しだけ距離があるから、彼女は声を張る。
シャボン玉か。小学生以来やっていないことに気付いて、少し悩む。
「一緒にやろうよ。おいで、糖子」
悩んでいたら、有無を言わせない声。
私と一緒にやりたいんでしょ? そう思って、呆れたように肩を下げた。
「今行くから待ってて、海月(みつく)」
ブランコを飛び降りて、靴で砂利を踏みしめる。
「はやくー」
「急かさないでよ」
私が歩いて向かうのを待つ間、海月はもう一吹きして、シャボン玉を飛ばす。夕焼けのオレンジが反射してきらきら。漂ってはぱちぱち爆ぜ消える。きれいだった。