コメディ・ライト小説(新)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 君は愛しのバニーちゃん【完】
- 日時: 2024/09/24 01:36
- 名前: ねこ助 (ID: tOcod3bA)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13998
小説大会2024・夏 金賞🥇ありがとうございます✨
★まず初めに★
R18ではありませんが、下ネタ満載のラブコメになります。
やたらとパンチラが出てくる青年漫画のような作風を意識した作品の為、苦手な方は回れ右してください(^^;;
別名義でラブコメ・ミステリー・ホラーなど、その時の気分で色々と執筆しています。
ラブコメに関しては(君バニもしかり)箸休め的な感覚で、何も考えずに自由に執筆しております。
なので、読者の方にも何も考えずにサラッと読んで笑って頂ければと思います(^^)v
★あらすじ★
パンツにおっぱい!!! ……最高かッ♡♡♡
【下心満載のチャラ男家庭教師(21)✖️純真無垢な中学生(14)】
今日もピッチリと七三に髪を固め、ダサ眼鏡の仮面を被って下心満載で家庭教師に勤しむ。
そんなどうしようもない男の、おバカな初恋奮闘物語——。
昔からモテ男でチャラ男な瑛斗は、大学でもその名を知らない人はいない程の、超がつくほどの有名人。
合コンに行けば百発百中、狙った女は逃さない。
落とした女の人数は数知れず……。
そんな百戦錬磨な瑛斗(21)も、ついに本気の愛に目覚める!!!
そのお相手は……
なんとまさかの、中学三年生!
天使のように愛らしい美兎を前に、百戦錬磨の瑛斗も思わずノックダウン。
パンツやおっぱいの誘惑に時々(いや、結構毎回)負けつつ、今日も瑛斗は純愛を貫く……っ!!
だってそれが、恋ってもんだろ!?
ちょっとエッチな、男性目線のラブコメ!
だけど——
そこにあるのは、紛れもなく純愛(下心有り)なんだ!
◆目次◆
1)これは、純愛(下心あり)物語>>01
2)ライバル、現る>>02
3)グッジョブ、山田>>03
4)レッツ、いちご狩り!>>04
5)お願い……先っちょだけ!>>05
6)江頭◯:50>>06
7)パンパンでパイパイ♡>>07
8)夕日に誓って、零した涙 >>08
9)ついに、ゴールイン!?(仮)>>09
10)給水・夏の陣2020>>10
11)悪魔、再び>>11
12)闘う男、スーパーマン>>12
13)それは綺麗な、花でした♡>>13
14)ハイセンス波平、輝きを添えて>>14
15)おっぱい星人、マシュマロン>>15
16)これはつまり、“愛”の試練>>16
17)腰振れ、ワンワン>>17
18)感動の名シーン(童話ver.)>>18
19)殺人級、サプライズ>>19
20)君の名は。>>20
21)それすなわち、愛の結晶>>21
22)イエス♡マイ・ワイフ>>22
23)滾るシェンロン、フライアウェイ>>23
24)これぞ、愛のパワー♡>>24
25)おまけ>>25
26)あとがき>>26
- 殺人級、サプライズ ( No.19 )
- 日時: 2024/08/12 18:37
- 名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)
「はい。……じゃあ、今日の勉強はこれで終わり。お疲れ様、美兎ちゃん」
「うんっ。瑛斗先生、今日もありがとう」
俺に向けて可愛らしく微笑んだ美兎ちゃんは、椅子から立ち上がるとすぐ後ろの床へと座り直す。そんな美兎ちゃんの姿を追うようにして、俺は座っていた椅子ごとクルリと後ろを振り返った。
(……っ、あぁぁぁああッ♡♡♡ 可愛いッッ♡♡♡♡)
相変わらずの天使のような可愛らしさに、我慢できずに鼻の下を伸ばすと顔面を蕩けさせる。
美兎ちゃんの膝の上で嬉しそうに甘えている山田が……ちょっと、いや、だいぶ羨ましい。
(クソ……ッ!! 犬の分際で忌々しい奴め!!! たまにはそのポジション、俺に譲れっ!!!)
そんな不毛な嫉妬を抱きながら、滲んできた涙を堪えてギッと山田を睨みつける。すると、その視線に気付いた山田がポテポテと俺に向かって近付いてきた。
ピコピコと小さな尻尾を振りながら、俺の足に懸命にしがみついてくる山田。そんな山田を持ち上げて見てみると、その顔はなんだか自信と喜びに満ち溢れている気がする。
「…………っ、」
(そりゃ……、嬉しいだろうよっ!)
なんとも言いようのない敗北感に、悔しさから持ち上げた山田をグッと抱きしめる。こうなれば、もはや間接的に美兎ちゃんの温もりを味わうしかない。
俺の耳元でハァハァと呼吸を荒げる山田を抱きしめながら、その温もりに顔を埋めてホロリと涙を流す。
そんな俺の涙を拭うかのようにして、ペロペロと俺の顔面を舐めているのは美兎ちゃんの舌……。と、そんな素敵な錯覚をしたいところだが、残念ながらとても犬臭い。
それはもう、俺の妄想も一気に冷める程の臭さだ。
先程、自分で出した糞を嬉しそうに咥えていた山田の姿を思い出し、舐められた頬を全力で擦って唾を拭き取る。そんな俺を他所に、プリプリとケツを振りながら嬉しそうに俺を見つめている山田。
悔しいが、敗北を認めざるを得ない。
「……あっ! 瑛斗先生。実はね、今日はプレゼントがあるんだぁ〜」
「……えっ!?♡♡♡♡」
突然聞こえてきた美兎ちゃんの愉しげな声に誘われ、俺はパッと明るい笑顔を見せると美兎ちゃんの方へと視線を移した。
何やら、スクール鞄をゴソゴソと漁っている美兎ちゃん。その横顔は、やけにご機嫌なご様子だ。
「はい、これっ! ……今日ね、調理実習でクッキー作ったのっ。いつもお世話になってるから、瑛斗先生にあげようと思って!」
そう告げながら綺麗にラッピングされた袋を差し出すと、俺に向けて眩しい笑顔を見せる美兎ちゃん。
「……っ、……」
嬉しさから溢れ出そうになる涙を必死に堪えると、歓喜に震える右手で目の前の袋を受け取る。
明日は11月11日。ポッキーの日。実は、俺の誕生日だったりもする。だが、美兎ちゃんは勿論知らない。
受験生である美兎ちゃんには受験だけに集中して欲しい。そんな気持ちから、俺の誕生日など元々言うつもりはなかったのだが……。
これは、愛故の奇跡なのだろうか——?
図らずも、美兎ちゃんからクッキーを貰うことができたのだ。
しかも、聞き間違えでなければプレゼントと言っていた。プレゼント……。
そう——! これは、誕生日プレゼントだ♡♡♡♡
(グハハハ……ッッ!! まいったか、山田めっ!! 俺の勝ちだッ!!!!)
圧倒的な勝利を前に、受け取った袋を抱きしめて脳内で高笑いをする。
「……あっ、あああ、ありがとう(愛してる)っ! 美兎ちゃん♡♡♡♡」
初めて貰う、美兎ちゃんからの手作りプレゼント。そのスパイスは、きっと俺への溢れる程の愛に違いない。
そう思うと、今すぐ全裸になって踊り出したいぐらいに嬉しい。
抱きしめていた胸元からそっと袋を離して見てみれば、そこには俺への愛が詰まったクッキーがある。正直、クッキーだと言われなければ……ミニハンバーグに見えてしまいそうな程に、だいぶ歪な形をしたそのクッキー。
確か、クッキーとは型で生地をくり抜くものだったような気がするが……。型を以ってしても、はみ出てしまう俺への愛と、美兎ちゃんの芸術的センス。流石だ。
「さっそく……食べてみても、いいかな?」
「うんっ!」
ガサガサと袋を開け始めた俺を見て、ワクワクとした表情ながらも静かに見守っている美兎ちゃん。そんな姿も、たまらなく愛しい。
叶うものなら、そんな美兎ちゃんごと今すぐ食べてしまいたい——。
(グフッ♡ ……いただきま〜すっ♡♡♡♡)
そんな邪念を抱きながら、取り出したクッキーをパクリと口に含んで咀嚼する。
「……っ!? ガハァ……ッッ!!!」
勢い余って椅子から転げ落ちた俺は、テーブルに置いてあったグラスを手に取ると、中に入っていたお茶を一気に飲み干した。
(こっ……、これが……っ。噂に聞く、胃袋を掴まれるって……、やつか……っ!!!?)
胃袋を掴まれる前に、喉に穴が開いてしまいそうな程に強烈だ。ハァハァと呼吸を荒げながら、口端に垂れたお茶を袖で拭う。
初恋の思い出は甘酸っぱいとはよく聞くが……。美兎ちゃんの俺への愛情は、そんな生温いものではなかったようだ。軽くみていた俺が馬鹿だった。
そう——これは、殺人級の塩っぱさ!
(っ、うさぎちゃん……! 俺も……っ、愛してるよっ♡♡♡♡)
いよいよ本格的に俺を殺しにかかってきた美兎ちゃんを前に、恐ろしく殺傷能力の高いクッキーが入った袋を握りしめて脳内で愛を囁く。
君の愛に殺されるなら、それは俺の本望だ。受け止めきれない訳がない。
「瑛斗先生っ! 美味しい!?」
俺を見つめながら、ワクワクとした瞳を輝かせている美兎ちゃん。
「うん……っ♡ 死ぬほど、美味いよ♡♡♡♡」
間違いなく、死ぬほどだ。きっと、死因は”愛”という名の塩分過多による中毒死。
「よかったぁ〜!」
俺はクッキーの入った袋をテーブルに置くと、空になったグラスにトポトポとお茶を注いでゆく。
「……み、美兎ちゃん。ところで……試食って、したのかな?」
嬉しそうに微笑んでいる美兎ちゃんに向けてヘラリと笑ってみせると、俺の言葉を受けて暫し考える素振りをみせた美兎ちゃん。
「…………。ううん、してない」
(で、ですよね……)
「忘れてた〜。ミトも食べてみよ〜っと!」
———!!?
美兎ちゃんの発した言葉に、ビクリと肩を揺らして驚いた俺。クッキーに向けて、美兎ちゃんの手が伸ばされた——次の瞬間。
俺は奪うようにしてシュバッと素早く袋を掴むと、ザーッとクッキーを口に含んで、注いだばかりのお茶で一気に流し込む。
「……ふグゥッ!!? グ……ッ、ガハァッ!! ハァハァハァ……。ご、ごべん……美どちゃん……っ。お……おいぢっ、すぎで……全部、食べ……ぢゃっ、た……っ」
焼け切れそうな程の喉の痛みを堪えながら、必死な形相で美兎ちゃんに向けて笑顔をみせる。
美兎ちゃんからの愛を余す事なく受け入れたどころか、クッキーという脅威から美兎ちゃんを守ることにも成功したのだ。これぞまさに、死して尚一片の悔いなし——。
フッと意識を失うような感覚に、力尽きた俺の身体は床へと向かってぶっ倒れる。
「……キャッ!!? 瑛斗先生っ!! どうしたのっ!? 大丈夫っ!!?」
心配そうに焦っている美兎ちゃんの声を遠くの方で聞きながら、ボヤけてきた視界の中で必死に美兎ちゃんの顔を見つめる。
たった一つ、未練があるとするなら——。
美兎ちゃんとの、ラブラブ新婚ライフ♡ を味わってみたかった。
(その時は……。料理は、俺に任せてくれ……っ)
遠くなる意識の中、確かに感じる美兎ちゃんの太腿の感触。その念願だった膝枕の心地よさに酔いしれながら、俺は薄っすらと不気味に微笑んだのだった。
- 君の名は。 ( No.20 )
- 日時: 2024/08/13 18:59
- 名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)
「……それでね。受験勉強も兼ねた、クリスマス会をしようかって話になったんだよね〜」
「へぇ〜。いいね、それ」
「うんうんっ! それなら、ママ達も許してくれるかも!」
「でしょ〜?」
楽しそうに会話を弾ませている美兎ちゃん達の横で、俺は一人、繰り広げられてゆく会話に耳を澄ませながら歩みを進める。
家庭教師に向かう道すがら、偶然にも学校帰りの美兎ちゃん達に遭遇した俺。目的地が『美兎ちゃんの家』であることから、当然ながら、ここで別行動という選択肢はあり得ないだろう。
こうして、偶然にも美兎ちゃんに遭遇するという”ご褒美イベント”を与えてくれた神様には、本当に心から感謝する。美兎ちゃんの家までたったの数分という時間でさえも、俺にとっては素晴らしく幸せな時間なのだ。
だが——。
気付かれないように平静を装いつつも、チラリと横に流した瞳をカッと見開くと、俺の血走った瞳は美兎ちゃん達と楽しそうに話している少年の姿を凝視した。
(コイツは一体っ、……誰なんだっ!!?)
先程から、やたらと愉しげに美兎ちゃん達と会話をしている少年。そんな少年から視線を離すことなく凝視し続ける俺の心臓は、バクバクと心拍数を上げてもはや爆破寸前だ。
(こんな、余計な副産物が付いてくる”イベント”だなんて……っ。俺は聞いてねぇぞッッ!!!)
メラメラと燃え滾る瞳をカッと光らせると、少年に向けて目に見えない光線を撃ち放つ。
ただでさえ、美兎ちゃんの隣にいるだけでも目障りだというのに……。黙って話しを聞いていれば、なんとまさかの、一緒にクリスマス会を開催する計画まで立てているではないか。
(……っ、クソォォォオーーッッ!! 俺だって……っ! 美兎ちゃんと一緒に、クリスマス過ごしたいのに……っっ!!!!)
鬼のような形相で少年を睨みつけると、あまりの悔しさから滝のような涙を流す。
「瑛斗先生って……。クリスマス、どこか行くの?」
「…………! えっ!? あ、いやぁ……。特には、出掛ける予定もないかな」
突然の悪魔からの質問にハッと我に返った俺は、瞬時に顔を元に戻すと平静を装う。
「彼女とか……いないの?」
「うん、そうだね。今は(まだ)いないかな」
「へぇ〜……。そうなんだぁ」
俺の答えを聞いて、小さく微笑んだ悪魔はほんのりと赤く頬を染める。
「…………」
まさかとは思うが……。
(……いや、まさかな)
嬉しそうに微笑んでいる悪魔からそっと視線を外した俺は、天使のように愛らしい美兎ちゃんに視線を移すと鼻の下を伸ばした。
(今はまだ……、ね♡ マイ・ワイフ♡♡♡♡ ……グフフフフッ♡♡♡♡)
「へ〜。意外ですね! カッコイイのに……」
俺を見て、驚きの反応をみせる少年。
どうやら、コイツの目は節穴らしい。今の俺は、どう見たってクソダサ男なのだ。
「……ありがとう。カッコイイなんて、俺みたいなの全然だけどね(ところで、君の名は?)」
「いえっ! 眼鏡とか……服装は確かに落ち着いてますけど。隠し切れない、素材の良さって言うんですかね? イケメンなのはわかりますよ!」
「ハハッ。そんなに褒めてくれて、ありがとね(君の名は?)」
「……あっ。なんかそれ、わかるかも」
「だよね? やっぱりいいよなー、イケメンて。オーラが違うっていうのかな……」
「ふ〜ん。オーラかぁ……」
「そうそう、オーラ。どんな格好してても、やっぱりオーラって隠せないと思うんだよね。……まぁ、単純に元の顔がイイっていうのもあるけど」
「…………(で、君の名は?)」
いつの間にやら、悪魔に向けて俺の容姿について熱く語り始め出した少年。
クソダサ眼鏡に扮する俺の事がイケメンに見えるだなんて、そんな悪すぎる視力のことなんて今はどうだっていい。
今大事なのは、そう——。
(……っ、キサマの名前を教えろっ!!!)
チラリと美兎ちゃんの方を見て嬉しそうに微笑んだ少年の姿を見て、俺の血走った瞳は嫉妬という炎で激しく燃え上がる。
未だ名前のわからない、この謎の少年。だが、この少年が美兎ちゃんに好意を寄せている事だけは俺にもわかる。
(俺の可愛いエンジェルは……っ。絶対に渡さねぇ!!!!)
「……柴田さんも、イケメンだと思うでしょ?」
———!?
少年の発したその言葉に、ピクリと素早い反応をみせた俺の耳。嫉妬の炎をすぐさま鎮火させると、話を振られた張本人である美兎ちゃんの方へと視線を向けてみる。
すると、ほんのりと赤らめた頬でニッコリと微笑んだ美兎ちゃん。俺はそんな美兎ちゃんを見つめながら、バクバクと鼓動を高鳴らせるとゴクリと喉を鳴らして息を呑んだ。
「うん。カッコイイよねっ」
———!!!?
(グォォォオーーッッ!!♡♡!♡♡!♡♡)
あまりの嬉しさから脳内で歓喜の雄叫びを上げると、両手でガッツポーズを作って満面の笑みを浮かべる。
俺の頭の中で、何度も何度も繰り返し再生される、『カッコイイ』と告げる美兎ちゃんの可愛い声。戻れるものなら、数秒前に戻って録音したい。
大切な記念日の瞬間を録り損ねるとは……。俺としたことが、なんたる不覚。
これは、紛れもなく——!
俺への、愛の告白記念日だ♡♡♡♡
(っ……。生きてて、本っ……当に良かった!♡!♡!♡!♡)
「それにね、凄く優しいよ」
「へぇ〜。そうなんだね」
「そうそう、すっごく優しいよねっ! この前、美兎と一緒に瑛斗先生の学校の文化祭に行ったんだけどね。その時、ぜ〜んぶご馳走してくれたもんねっ?」
「うんっ。あとね、動物園にも連れて行ってくれたこともあるんだよ。……ね? 瑛斗先生っ」
「っ……、うんっ♡(愛してる)」
先程から、嬉しさで蕩けっぱなしの俺の顔。平静さを装いたいが、ニヤケ顔が止まらない。
「そうなんだ……。イケメンで優しいなんて、凄くモテそうですね」
「いやいや、モテるだなんて(当たり前)……。俺なんて、全然だよ(で、君の名は?)」
「俺も……、頑張らなきゃな……。……あっ。じゃあ、俺こっちなんで。柴田さん、香川さん。また明日、学校でね」
「うんっ。またね〜」
「また明日ぁ〜。ばいば〜い」
「…………」
遂に、最後までその名を明かすことのなかった謎の少年。名前など、もはやどうだっていい。
立ち去ってゆく少年の後ろ姿を眺めながら、俺の顔は蕩けた表情から一気に怒りの表情へと変貌する。
少年の口からポツリと溢れ出た、とても小さな声。俺はそれを聞き逃さなかった。
(頑張るって……っ。一体、何を頑張る気だ!!! このっ、クソガキめ……っ!!!!)
「市橋くんには伝えたし、あと男子は……。岩倉と悠人と……あと、今井くんと渡辺に……」
「そんなにクリスマス会に呼ぶの? 連絡するの大変だね……。男子の連絡は、市橋くんに頼めばよかったのに」
「あぁ、そっか! ……あ〜っ、もう遠い。よしっ、ラ◯ンしとこ」
遠く小さくなってゆく少年の背中を確認すると、ピコピコと携帯を操作し始めた悪魔。
(市橋、くん……だと……っ? そうか……っ、キサマが市橋か……ッッ!!!!)
忘れもしない、その名前。
あれはいつだったか……。夏休みの宿題をやっていた時に、悪魔が不吉なことを言っていた。
『市橋くんとか、絶対に美兎のこと好きだと思うんだけどなぁ……。あの2人、付き合ったりしないのかな〜』
まさか、あの少年が例の『市橋くん』だったとは……。中々の好青年に見えるが、その頑張りだけは許すわけにはいかない。
悪魔からラ◯ンを受け取ったのであろう少年は、こちらを振り返ると大きく手を振る。
(っ……恋愛なんかにうつつぬかしてねぇで、キサマは受験だけ頑張ってろっ!!!!)
ようやく知り得た名前を前に、悪魔のような顔で不敵に微笑んだ俺。その口元に弧を描き続けながら、遠くに見える少年の姿を睨みつける。
(その名は、俺のデスノートに刻んでやるっ!! 覚悟しろっ! クソガキめっっ!! ……グハハハッッ!!!!)
できれば、今すぐにでも叩き潰してやりたいところだが……。これが、クリスマス会にお呼ばれしてもらえなった俺にできる、せめてもの反撃なのだ。
少年の頭をガッと掴んで地面に叩き潰すシーンを思い浮かべながら、脳内で悪魔のような笑い声を響かせる。
——その日の夜。自室に籠ってひたすら『市橋、ぶっ殺す』と何度もノートに書き殴った俺。
その目から滝のような涙が流れ出ていたことは……誰にも秘密だ。
- それすなわち、愛の結晶 ( No.21 )
- 日時: 2024/08/16 05:10
- 名前: ねこ助 (ID: tOcod3bA)
俺は鞄の中に手を入れると、そこにある小さな箱を掴んで美兎ちゃんの様子を伺った。
『カテキョ』の時間も無事に終わり、恒例である山田の散歩へと来ている俺達。公園のベンチに腰掛けている俺の視界に映るのは、無邪気に山田と戯れている美兎ちゃんの姿。
俺はそんな光景を前に覚悟を決めると、ドキドキと高鳴る胸を抑えて立ち上がった。右手に収まる小さな箱をキュッと握りしめ、ゆっくりとした歩みで美兎ちゃんへと近付く。
目の前に見える美兎ちゃんがおもむろに腰を下ろしたのを確認すると、俺はそんな美兎ちゃんの背後まで行くとピタリと足を止めた。
「……っみ、美兎ちゃん」
そう声を掛ければ、山田のうんち片手に後ろを振り返った美兎ちゃん。山田の空気の読めなさ加減には若干イラッとするが、それすらも凌駕してしまう程に可愛い、うんちwith美兎ちゃん。
(グフゥッ♡ っ……なんて、可愛いんだッッ♡♡♡♡)
真っ赤なコートに、白いモコモコのマフラーを着けた美兎ちゃん。その破壊力は凄まじく、例えその右手にあるものが”うんち”ではなく人の”生首”だったとしても、その神々しいまでの美しさは引けを取ることはないだろう。
そう——決して、汚されることはないのだ。
「これ、少し遅くなっちゃったけど……クリスマスプレゼント。誕生日も近いから、それも兼ねて」
そう言いながら手の中にある小さな箱を差し出せば、驚きに瞳を大きく見開いた美兎ちゃん。
「……えっ? プレゼント?」
「うん。気に入って貰えるといいんだけど」
「……ありがとうっ、瑛斗先生!」
(ハグゥゥ……ッッ♡♡♡♡)
あまりの可愛さに危うく昇天しかけながらも、満面の笑顔を咲かせる美兎ちゃんを見つめて顔面を蕩けさせる。
俺の手から小さな箱を受け取った美兎ちゃんは、ワクワクと瞳を輝かせると早速その蓋を開いた。そこから現れたのは、赤いガーネットの石が付いた小さなハート型のピアス。
ガーネットは、1月生まれの美兎ちゃんの誕生石。石言葉は『一途な愛』。俺の気持ち、そのままだ。
「……うわぁ〜っ! すっごく可愛いっ!」
「少し早いけど……。高校生になったら、美兎ちゃんピアス開けるって言ってたから」
とても嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせている美兎ちゃん。どうやら、俺の『一途な愛』に感動しているようだ。
現在、中学3年生である美兎ちゃん。当然ながら、真面目な美兎ちゃんがピアスホールなど開けているわけもなく……。残念ながら、今すぐに”俺の愛”を身に纏うことはできない。
けれど、もう少し大人になった、その時には——。
その【貫通式】は、是非とも俺に任せて欲しい。
(優しくするからね♡ ……グフフフフッ♡♡♡♡)
抑えきれないアダルトな妄想に取り憑かれた俺は、鼻の下を伸ばすと不気味に微笑む。これもひとえに、美兎ちゃんへの『一途な愛』故なのだから、仕方がない。
この石が持つ意味の一つである、”繁栄”という言葉のように、俺は美兎ちゃんとの愛を育み繁栄させたいのだ。
「早くピアスしたいなぁ〜。……やっぱり、痛いのかなぁ?」
———!!!?
(な……っ、ななな、なんだって!!!? ……っ、早く貫通されたいだなんて……っ。うさぎちゃん……っ君は、なんてスケベなんだ……っっ♡♡♡♡)
もはや、アダルトな妄想が止まらない。乱れる呼吸とともに、ズキズキと疼き始めた俺の股間。
「っ……、大丈夫だよ(優しくするから♡)」
「瑛斗先生は、痛くなかった?」
「うん。痛くなかったよ(貫通する側だし)」
「沢山開いてるもんね、瑛斗先生。ミトは1つずつでいいかなぁ……。怖いもん」
「ハハッ……怖くないよ(何度だって、貫通してあげる♡)」
容赦なく続く美兎ちゃんからのエッチな言葉責めに、俺の股間はもはや爆破寸前。どうやら、天使のように愛らしい俺の美兎ちゃんは、とんでもなくドSな小悪魔ちゃんらしい。
「早く高校生になりたいなぁ〜……。瑛斗先生、本当にありがとうっ! ミト、受験頑張るねっ!」
———!!!?
俺に向けて、笑顔で頑張ると宣言した美兎ちゃん。それは、つまり——。
子作りを頑張るということ!?♡!?♡
(グハァァァアアーーッッ!♡♡!♡♡!♡♡!♡♡ ……っ、なんて積極的な、スケベちゃんだッッ♡♡♡♡ 今すぐ押し倒したい!!!!)
俺としては、もう少しゆっくりと愛を育んでいきたかったが……。頑張ると言われてしまった以上、俺が頑張らないわけにはいかない。
「っ、……うん♡(俺も、子作り頑張る♡)」
素敵な妄想に囚われ、爆破寸前の股間をモジモジとさせて身悶える俺。あとほんの少しでも刺激されようものなら、この場で今すぐ美兎ちゃんを押し倒してしまいそうだ。
「ちょ、……ちょっと俺、ベンチに戻るね?」
「うんっ」
そう美兎ちゃんに告げると、押し倒す前にベンチへと戻ってきた俺。美兎ちゃんからの誘惑を断るのは忍びないところだが、いきなり野外プレイとは流石にハードモードすぎる。
一歩間違えなくとも、危うく犯罪者になるところだった。
(全く……困った小悪魔ちゃんだぜ♡)
フーッと大きく息を吐くと、山田と戯れている美兎ちゃんの姿を眺める。
こんな俺だが、その石に込めた想いに嘘偽りなど一切ないのだ。美兎ちゃんへの想いは、間違いなく『一途な愛』。
そしてこのアダルトな想いもまた、嘘偽りのない俺の想い。……だって俺、男だし。
(楽しみだね、うさぎちゃん……ッ♡ ♡♡♡)
どうやら、ベンチで休憩したぐらいでは俺の妄想は収まらないらしい。
溢れ出る想いに、ニヤリと不気味に微笑んだ俺。その表情は、もはや『ロリコン変態野郎』全開だ。
「グフッ♡ ……グフフフフッ♡♡♡♡」
我慢しきれなくなった笑い声が、俺の口から小さく溢れ出る。そんな俺の姿を見て、時折通りがかる親子連れが不審そうな目を向ける。
このままでは、いつ通報されてもおかしくはない。そうは思うものの、膨らむ妄想と不気味な笑い声は止められそうもない。
(美兎ちゃん……。俺……っ、捕まったらごめん……)
俺の純粋な想いと邪な想いを兼ね備えた、ガーネットという”愛の結晶”。
それを身に付ける美兎ちゃんの姿を想像しながら、俺は1人、ベンチの上で不気味な笑い声を響かせながら悶絶するのだった。
- イエス♡マイ・ワイフ ( No.22 )
- 日時: 2024/08/19 12:55
- 名前: ねこ助 (ID: gh05Z88y)
「なんで俺達まで行かなきゃならないんだよ……」
うんざりとした顔でそう告げる大和の腕を掴むと、俺は般若の如く顔でグワッと大和に詰め寄った。
「っ、バカ野郎! 俺一人じゃ、心細いだろっ!? 受験に失敗したらどーすんだよ!!?」
「別に、瑛斗が受験するわけじゃないだろ……」
「まぁまぁ……。いいんじゃんか、大和。憧れのJKとお近付きになれるチャンスだぞ? やっぱいいよなぁ……JK」
相変わらずうんざりとした顔をしている大和の肩に触れると、遠くの方を見つめてフッと鼻から息を漏らした健。
「ハァ……。バカだなぁ、健。受験日なんだから、在校生が来てるわけないだろ? それに俺、彼女いるし。JKになんて興味ない」
「……えっ!? JKいねぇの!!? しかも、サラッと彼女自慢!!? ……っ、瑛斗ぉーー!! お前……っ、JKに会えるだなんて、俺のこと騙したな!!?」
「っ、……煩いっ! どーせ暇だろ!? お前は黙って俺に着いてくりゃいーんだよっ!」
「おいっ!! それが、人に物を頼む態度かよ!?」
「…………。もう……恥ずかしいから、二人とも静かにしててくれよ」
校門前でそんなやり取りをしている中、俺達の目の前をチラホラと通り掛かってゆく中学生達。そのほとんどが、何事かとこちらに視線を向けながらも、関わりたくないと言わんばかりに無言で通り過ぎてゆく。
俺達は今、県内の公立高校である『葉練池高等学校』へと来ている。それは何故かというと——。
今日が、美兎ちゃんの高校受験日だからだ。
普段の美兎ちゃんの成績を考えると心配は無用なのだが、なにせ高校受験だ。緊張で思わぬミスや、体調不良を起こすかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られなかったのだ。
(やっぱ、『家庭教師』として見守る責任はあるしな……)
なんて想いも勿論本当だが、ただ単純に、美兎ちゃんに会いたいだけだったりもする。”家庭教師と生徒”という立場を利用して会えるのも、残り僅かな時間しか残されていないのだ。
「——瑛斗せんせぇ〜!」
———!!?
突然聞こえてきたその可愛らしい声に、すぐさまピクリと反応をみせた俺。右手に収まる潰れた顔の健を押し退けると、駆け寄る美兎ちゃんの姿を眺めて鼻の下を伸ばす。
その姿は——まさに今、俺の胸に向かって飛び込んでくる天使! 俺は迷うことなく両手を広げると、邪な感情にまみれた心で曇りなき笑顔を見せた。
(っ……さぁ! 今すぐ、俺の胸に飛び込んでおいで……っ♡♡♡♡)
「……瑛斗先生、本当に来てくれたんだね!? 昨日、急に来るってラ○ンが来たから、ビックリしちゃった! …………。瑛斗先生、どうしたの?」
「…………」
俺の期待も虚しく、すぐ目の前でピタリと足を止めた美兎ちゃん。両手を開いたまま立ち尽くしている俺を見て、キョトンとした顔をしている。相変わらず、焦らしプレイがお上手な小悪魔ちゃんだ。
この広げた俺の両手は、何処へ?
所在なさげに宙に浮いたままの両手をゆっくりと下ろすと、何事もなかったかのように平静を装う。
「……うん、心配だったからね。美兎ちゃん、受験お疲れさま。大丈夫だった?」
「うんっ。ちょっと緊張しちゃったけど……たぶん、大丈夫だと思う」
(フグゥゥ……ッ! なんてっ、可愛さだっっ!!!)
寒さのせいか、赤く染まった頬ではにかむような笑顔を見せた美兎ちゃん。その姿がなんとも愛らしくて、今すぐ労いの抱擁をしてあげたい。……いや、抱擁したい!
「……そっか、なら良かった」
抱きしめたい衝動を堪えると、乱れはじめた呼吸を抑えながら蕩けた笑顔を向ける。
「……健さんと大和さんも来てくれたんですね。わざわざ、ありがとうごさいます」
「受験お疲れ様。無事に受かるといいね」
「う……、じゃなかった。ミトちゃん、お疲れ様!」
健達に視線を移すと、ニッコリと笑って律儀にお礼を伝える美兎ちゃん。流石は、良識ある良い子ちゃんだ。
「——美兎ぉ〜っ! ……もうっ。先に行かないでよぉ」
そんな悪魔の声と共に、ワラワラと集まりだしてきた美兎ちゃんと同じ学校の生徒らしき面々。やはり相当仲が良いのか、どうやら悪魔も美兎ちゃんと同じ高校を受験したらしい。
「……あっ。皆さん、こんにちは! 文化祭の時は、ありがとうございました」
「いやいや、たいした事もしてないから。そっか……イチカちゃんも、ここ受験したんだね。受かるといいね」
「そうそう。俺ら別に、な〜んもしてないから。むしろ、若い子と一緒に回れてこっちが感謝だよ! 2人とも、受かるといいね」
そんなやり取りを横で聞きながら、俺は集まってきた生徒達にチラリと視線を向けた。
———!!?
(キ……、サ……ッマァァアーーッッ!!!)
その中からある人物の姿を見つけ出すと、途端に鬼のような表情へと変貌した俺の顔。
(市橋ぃぃいい……っ!! お前も受験したのかッッ!!!!)
あの忌々しい思い出を彷彿とさせると、憎しみを込めて『お前は落ちろ』と何度も脳内で唱える。美兎ちゃんを追いかけて(と予想)同じ高校を受験するとは、なんとも憎たらしい少年だ。例えどこまでも追いかけようとも、絶対に美兎ちゃんは渡さない。
「……あっ。そぉーだ! 今日ね、瑛斗先生が来るって聞いたから、昨日作ってきたの。 ……はい、これ。少し早いけど、バレンタインチョコ」
そう告げながら鞄の中身を漁ると、俺の目の前に綺麗にラッピングされた箱を差し出した美兎ちゃん。
———!!?♡!!?♡!!?♡
その思わぬ出来事に、鬼のような形相から瞬時に破顔させた俺。あまりの嬉しさから卒倒しそうになるも、それを既のところでグッと堪える。
俺はフーフーと荒い鼻息を上げながら、震える右手で目の前のチョコを受け取った。
(グォォォオオーーッッ!!♡♡!!♡♡!!♡♡!!♡♡)
脳内で歓喜の雄叫びを上げると、そこかしこに飛び散るピンクのハートを眺める。これは、幻覚だろうか……? ——いや。確かに美兎ちゃんから溢れ出ているのだ。
その不思議な現象に浸りながらも、俺は美兎ちゃんを見つめて感涙した。
これはまさに——逆プロポーズ!?♡!?♡!?♡!?♡
ならば……俺の答えは、一つしかない。特大の愛を込めて——!
(イエ ……ッ、ス……ッッ♡♡♡♡)
「あのぉ……。健さん達も来るって知らなかったので、これしかないんですけど……」
憐れな健達に向けて、おずおずとチ◯ルチョコを差し出した美兎ちゃん。見るからに義理チョコだとわかるそれを受け取る健達を見て、自分との歴然たる差に満悦しながらも、慈悲深くも女神様のような美兎ちゃんの姿に見惚れる。
チラリと生徒達の方を見てみれば、その義理チョコさえも貰えていない市橋がいる。なんとも惨めな少年。これは、完全なる俺の圧勝だといえよう。
(……グハハハハハッッ!!! 恐れ入ったか!! 市橋めっ!!!!)
脳内で悪魔のような笑い声を響かせると、手元の箱に視線を落とす。
そこにあるのは、綺麗にラッピングされた透明な箱。そこから見える、なんとも表現しがたい不思議な型をしたチョコを見て、いつの日か貰ったクッキーが脳裏を掠める。
俺はいつか——本当に、美兎ちゃんに殺される気がする。
そんなことを薄っすらと考えながらも、それを上回る程の大きな愛と喜びに包まれた俺は、手元の箱を胸元に寄せるとギュッと抱きしめた。
(俺の愛するマイ・ワイフ♡ になら……殺されたっていい♡♡♡♡)
そんなことを考えながら、俺は感無量の涙を大量に流すのだった。
——その日の夜。
まるで爆発物でも入っているのかと疑う程のチョコに、胃袋を爆破れそうになりながらも必死に完食しきった俺。
その後、数日間に及ぶ謎の腹痛に悩まされたことは……一生、美兎ちゃんには秘密だ。
- 滾るシェンロン、フライアウェイ ( No.23 )
- 日時: 2024/08/20 04:19
- 名前: ねこ助 (ID: n8TUCoBB)
今日は、美兎ちゃんが受験した『葉練池高等学校』——略して”ハレ高”の合格発表の日。
電話での結果報告を待っているだけだなんて、そんな事できなかった俺は美兎ちゃんに内緒でハレ高までやって来ると、ドキドキと鼓動を高鳴らせながら校門前で美兎ちゃんの姿を探した。
きっと、美兎ちゃんなら無事に合格しているはずだろう。そうは思っても、やはり緊張はする。
嬉しそうに笑顔を咲かせる生徒達や、涙を流しながなら帰宅してゆく生徒達を横目に、美兎ちゃんとお揃いで購入した合格祈願の御守りをギュッと握りしめる。
何故、受験生でもない俺が御守りを持っているかだなんて、そんなの理由は一つしかない。ただ、美兎ちゃんとお揃いで持っていたかったからだ。
きっと、これで御利益も2倍なはず。
(うさぎちゃん……)
中々見つからない美兎ちゃんの姿を探し求めて、校門前をふらふらと彷徨い歩く。
いくら探しても見つからない美兎ちゃんに不安を募らせると、流れ出そうになる涙をグッと堪える。その顔は、堪えすぎるあまり般若の如く形相へと近付き、まるでメンチを切っているヤンキーのようだ。
黒縁眼鏡に七三という髪型で、その見た目にそぐわずヤンキーのような表情を見せるダサ男。そんな俺を見て、不審そうな顔を見せながら通り過ぎてゆく中学生達。
「——あっ! 瑛斗せんせぇ〜!」
———!!
待ち望んでいたその姿を目にした瞬間、俺はヤンキー般若から瞬時に破顔させると、両手を目一杯広げて天使を受け止める体制に入った。
今までにも何度か訪れたこの機会。きっと、今回も俺の期待も虚しく、天使ちゃんは直前になって小悪魔ちゃんへと変わるのだろう。
そうは思っても、ニヤケ顔が止まらない。
(さぁ……! 今日こそ俺の胸に飛び込んでおいで♡♡♡♡)
———ドン
「はへ……?」
その軽い衝撃と共に間抜けな声を漏らした俺は、両手を広げたままその場で固まった。
「瑛斗先生っ! ……受かったよ! ミトも衣知佳ちゃんも、2人共合格したよっ!」
美兎ちゃんの可愛らしい声を聞きながら、俺の鼻からタラリと流れ出る鼻血。
これは、夢なのだろうか——? その確かな温もりに下へと視線を移してみると、俺の身体にギュッとしがみつきながら満面の笑顔を咲かせている美兎ちゃんがいる。
(フギュッ……!!? グホォォォオーー!?♡!?♡!?♡ なんだコレ!? ……夢!!? 夢なのか!!? 俺は白昼夢でも見ているのか……っ!?♡!?♡)
「ガハァ……ッッ!!♡!!♡!!♡」
その信じがたい光景に思わず吐血すると、その口元と鼻血をこっそりと拭って平静を装う。
「っ、……合格おめでとう、美兎ちゃん」
「うんっ!」
大興奮の美兎ちゃんは、そう笑顔で答えながらもギュウギュウと俺を抱きしめる。
そんな姿が愛おしすぎて、今すぐにでも抱きしめ返したいところだが……。俺のシェンロンが今にも大暴れしてしまいそうで、正直それどころではない。
ズキズキと痛む股間をモジモジとさせながら、抱きしめたい欲望と我慢との狭間で、宙に浮かせたままの両手の指をワキワキとさせる。
(っ、……ぐあぁぁぁああーー!!! 今すぐ押し倒したいっ♡!!♡!!♡!!♡)
美兎ちゃんもその気のようだし、俺としては今すぐにでも押し倒してあげたいところなのだが……。
こんな場所でフライアウェイしてしまったら、間違いなく俺はすぐさま複数の先生達によって取り押さえられてしまうだろう。そしてそのまま、警察の元へとフライアウェイだ。
俺は獄中結婚だなんて、そんな未来は望んじゃいない。ここは何とか堪えるしかないのだ。
(静まれ……っ、俺の燃え滾るシェンロンよ……!!!)
蕩けた顔と般若の如く形相で、1人耐え忍ぶ俺の顔はまさに百面相状態。ここが学校でさえなければと、そればかりが悔やまれる。
「——あっ! 瑛斗先生だ!」
そんな悪魔の声と共に、ワラワラと集まり出した美兎ちゃんの同窓生達。その中には勿論市橋少年の姿もあるが、今の俺は幸せだからそんな事は大して気にはならない。
何より、全く鎮まる気配を見せないシェンロンを抑えるのに手一杯で、正直それどころではなかったりする。
「もぉ〜。美兎ったら、突然いなくならないでよね」
「ごめんね。瑛斗先生が居るのが見えたから、早く報告したくて……」
悪魔にそう返事を返しながらも、エヘヘッと笑って見せる美兎ちゃん。
そんなに俺に会いたかったとは……。こんなにも情熱的に迫られてしまっては、俺のシェンロンは鎮まるどころか大暴走だ。こんな場所で人目も憚らずに迫ってくるとは、なんて大胆なアプローチ。
(っ……なんてどエロい小悪魔ちゃんなんだ……ッッ♡♡♡♡)
その素敵な脳内変換に、更なる暴走の兆しを見せ始める俺のシェンロン。もはや、誰にも止められはしないだろう。
未だ俺に抱きついたままの美兎ちゃんの温もりに酔いしれながら、まるで拷問のような苦しみに小さく呻いては苦悶の表情を浮かべる。
もうこのままいっそ、美兎ちゃんと一緒に大人の世界へとフライアウェイしてしまおうかと、覚悟を決めて抱きしめ返そうとした——その時。
「もぉ〜、いつまで抱きしめてるの? 瑛斗先生、困ってるよ」
「……あっ! ホントだ! つい嬉しくって……。瑛斗先生、ごめんなさい」
悪魔の余計なお節介で、あっさりと離れてしまった美兎ちゃん。俺のこの覚悟は、一体どこへ着地すれば良いというのだろうか……?
(クソッッ!! っ、……この悪魔めっ!! 俺のせっかくの覚悟を邪魔しやがってっ!!!!)
着地点を見失った両手をそのままに、俺はその悔しさから涙を滲ませると天を仰いだ。
そもそも、すぐに抱きしめ返す勇気をもてなかった俺が悪いのだ。そんなこと頭の片隅ではわかっている。
できるものなら、5分前に戻って全てをやり直したい。
未だかつて、こんなにも悔やんだ事があっただろうか——? いや、ない。
「く、……っ」
あまりの悔しさから小さく声を漏らすと、両手を握り締めてプルプルと震える。
「……あ、そ〜だっ! 瑛斗先生! ミト受かったから、ご褒美にレストランに連れて行ってくれるんだよね!?」
後悔に打ちひしがれている俺に向けて、満面の笑顔を見せる美兎ちゃん。その瞳はキラキラと輝き、まるでこの世に2つとないダイアモンドのように美しい。
これは間違いなく、恋する乙女の瞳。
「……っ、うん♡」
俺は瞬間に破顔させると、美兎ちゃんを見つめてだらしなく微笑む。
「え〜! いいなぁ〜!」
「前から約束してたの。合格したら、美味しいレストランに連れて行ってくれるって。……瑛斗先生、衣知佳ちゃん達も一緒じゃダメ?」
———!!?
(フグゥ……ッッ!?♡!?♡!?♡)
突然の美兎ちゃんからのおねだり攻撃にビクリと飛び跳ねると、その可愛さの衝撃に気を失いかけてはフラリとよろける。
恋する乙女の猛追は留まる気配を見せないばかりか、こんなにも俺に向けて必死にアピールをするとは……。愛しすぎて、たまらない。
これはもう、シェンロン発動許可がおりたと言っても過言ではないだろう。
「……うん♡ (いつでも準備はできてるから)いいよ♡」
「えっ!? ホントにっ!? やったぁ〜!」
「良かったね、衣知佳ちゃん」
俺達の門出を祝ってくれているのか、それは大喜びで満面の笑顔を咲かせる悪魔。そんな悪魔の思いを、決して無駄にはしない。
俺は今から——。
(うさぎちゃんと一緒に、大人の世界へとフライアウェイだ……ッッ♡♡♡♡)
もはやまともに話しなど聞いていない俺は、アダルトな妄想に取り憑かれたまま不気味な笑顔を浮かべる。
もうすぐ美兎ちゃんも高校生。少しばかり早い気はするが、美兎ちゃんが望むのなら俺が応えないわけがない。
ゾロゾロと着いてくる生徒達に気付かないまま、その素敵な妄想にうっとりとしながらレストランへと向かい始めた俺。その目には、もはや隣にいる美兎ちゃんの姿しか映っていない。
予め行く予定でいた少し高めのレストランへと着いた時には、時すでに遅し。途中、美兎ちゃんが大勢いるように見えたのは、どうやら俺の錯覚ではなかったらしい。
何故か美兎ちゃんを含めた計5人の生徒達にご馳走する羽目になった俺は、その後予定していたシェンロンを発動することもなく、代わりに財布から大量の現金をフライアウェイさせたのだった。

