コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

君は愛しのバニーちゃん【完】
日時: 2024/09/24 01:36
名前: ねこ助 (ID: tOcod3bA)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13998


小説大会2024・夏 金賞🥇ありがとうございます✨



★まず初めに★


R18ではありませんが、下ネタ満載のラブコメになります。
やたらとパンチラが出てくる青年漫画のような作風を意識した作品の為、苦手な方は回れ右してください(^^;;



別名義でラブコメ・ミステリー・ホラーなど、その時の気分で色々と執筆しています。

ラブコメに関しては(君バニもしかり)箸休め的な感覚で、何も考えずに自由に執筆しております。
なので、読者の方にも何も考えずにサラッと読んで笑って頂ければと思います(^^)v




★あらすじ★


パンツにおっぱい!!! ……最高かッ♡♡♡

【下心満載のチャラ男家庭教師(21)✖️純真無垢な中学生(14)】


今日もピッチリと七三に髪を固め、ダサ眼鏡の仮面を被って下心満載で家庭教師に勤しむ。
そんなどうしようもない男の、おバカな初恋奮闘物語——。




昔からモテ男でチャラ男な瑛斗は、大学でもその名を知らない人はいない程の、超がつくほどの有名人。

合コンに行けば百発百中、狙った女は逃さない。
落とした女の人数は数知れず……。



そんな百戦錬磨な瑛斗(21)も、ついに本気の愛に目覚める!!!

そのお相手は……

なんとまさかの、中学三年生!

天使のように愛らしい美兎を前に、百戦錬磨の瑛斗も思わずノックダウン。

パンツやおっぱいの誘惑に時々(いや、結構毎回)負けつつ、今日も瑛斗は純愛を貫く……っ!!

だってそれが、恋ってもんだろ!?

ちょっとエッチな、男性目線のラブコメ!

だけど——
そこにあるのは、紛れもなく純愛(下心有り)なんだ!




◆目次◆

1)これは、純愛(下心あり)物語>>01
2)ライバル、現る>>02
3)グッジョブ、山田>>03
4)レッツ、いちご狩り!>>04
5)お願い……先っちょだけ!>>05
6)江頭◯:50>>06
7)パンパンでパイパイ♡>>07
8)夕日に誓って、零した涙 >>08
9)ついに、ゴールイン!?(仮)>>09
10)給水・夏の陣2020>>10
11)悪魔、再び>>11
12)闘う男、スーパーマン>>12
13)それは綺麗な、花でした♡>>13
14)ハイセンス波平、輝きを添えて>>14
15)おっぱい星人、マシュマロン>>15
16)これはつまり、“愛”の試練>>16
17)腰振れ、ワンワン>>17
18)感動の名シーン(童話ver.)>>18
19)殺人級、サプライズ>>19
20)君の名は。>>20
21)それすなわち、愛の結晶>>21
22)イエス♡マイ・ワイフ>>22
23)滾るシェンロン、フライアウェイ>>23
24)これぞ、愛のパワー♡>>24
25)おまけ>>25
26)あとがき>>26

ハイセンス波平、輝きを添えて ( No.14 )
日時: 2024/08/08 19:50
名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)




 楽しそうにはしゃいでいるたける達の姿を眺めながら、可愛い美兎ちゃんの姿を思い浮かべてボンヤリとする。


「……うあーーっっ!! 未来みくちゃん、ざんねぇ〜ん!!」


 輪投げを外してしまった未来ちゃんに向けて、さも残念そうな顔を見せると大きな声を上げた健。ハッキリ言って、オーバーリアクション過ぎる。
 だが、流石は盛り上げ隊長。周りにいる大和達4人の男女は、とても楽しそうな笑顔を見せている。

 俺は今、大和の彼女とその女友達2人を含めた男女6人で、地元近くのそこそこ大きな夏祭りへと遊びに来ている。
 まぁ、決して悪くはない状況だと言えるだろう。だが——!


(クソォォオーーッ!! どうせなら、うさぎちゃんと来たかったわ……っっ!!)


 これが本音だ。けれど、カテキョの生徒である美兎ちゃんのことを、仮にも先生という立場の俺から気軽に誘えるわけもなく……。
 ましてや、相手は中学生。犯罪の香りしかしない。

 否——! 間違いなく、犯罪を犯してしまう自信しかない。
 あんなに可愛い美兎ちゃんと2人きりで夏祭りだなんて……そんな素晴らしいシチュエーションの中、我慢なんてできるわけがない。


(あぁ……っ! 浴衣を着たうさぎちゃんは……っ、なんて可愛いんだっ♡)


 脳内で浴衣姿の美兎ちゃんを妄想しては、だらしない顔をして鼻の下を伸ばす。
 妄想だけでこれだ。実際に目にしてしまったら……どうなってしまうか、自分でもわからなくて怖い。


(っ……でも、見てみたいっっ!!!)


 そんな欲望と不安な気持ちを混同させながら、だらしなく鼻の下を伸ばした不気味な笑顔で1人頭を抱えて身悶える。

 お気付きだろうか? 最近の俺のマスト顔は、『ロリコン変態野郎』になりつつある。
 顔面だけで言ったら、もはや立派な犯罪者。3年連続ミスコン優勝に輝いた威厳はみる影もなく消え失せ、無残なものだ。
 
 そんな理由からか、残念ながら美兎ちゃんからデートのお誘いの声がかかることもなく……。ちょうど大和に誘われていたのと、必死な形相の健に懇願されたのもあって、今、こうして男女6人で夏祭りに遊びに来ることになったのだ。

 景品としてカラフルなマシュマロが詰まった袋を受け取ると、俺の元へと近寄ってきた未来ちゃん。


「あ〜ぁ、惜しかったなぁ〜。マシュマロだって。……瑛斗くん、食べる?」

「いや、俺はいいよ。ありがとう」


 正直言って、甘いものは得意ではない。ニッコリと微笑みながら断ると、「そっか」とだけ答えて健の方へと歩み寄ってゆく未来ちゃん。
 そんな光景を黙って眺めていると、デレデレとした顔の健が嬉しそうにマシュマロを一粒掴み取った。そしてそのまま俺へと視線を移すと、嬉しそうな顔をしてこちらへと近付いてくる。


「……なぁ、瑛斗っ。未来ちゃんて、可愛いよなぁ〜」


 ご満悦な表情の健は、デレデレとした顔を俺に向けると鼻の下を目一杯伸ばした。

 今回のこの企画は、夏祭りデートと称したいわば合コンのようなもので、彼女が欲しいとうるさわめく健の為に、大和とその彼女が気を利かせて用意してくれたものなのだ。
 肝心の未来ちゃんにその気があるかは別としても……お目当ての女の子が見つかった健のことは、素直に喜ばしく思うし応援してやりたいとも思う。

 ちゃんとしていればそこそこにイケメンな部類ではあるし、彼女ができるのもそう遠い未来ではないだろう。


「良かったな。頑張れよ、健」

「おぅっ! ありがとな、今日は来てくれて!」

「……まっ。来たからには、お前に協力してやるよ」

「マジでありがと〜っ、瑛斗! 流石は心友っ! これからも、ズッ友でいてくれよなっ!」

「そんなの当たり前だろ。何言ってんだよ、バーカ」


 嬉しそうな笑顔を向ける健から視線を外すと、前方にいる大和達に向けて視線を移してみる。すると、そんな俺の視線に気付いた大和は、「後はよろしく」と告げるとニッコリと微笑んだ。


「おう、任せろ」


 そんな大和に向けて親指を立てると、自信に満ちた顔でニヤリと微笑む。


「……なぁなぁ、瑛斗」


 隣りから聞こえてきた声に視線を向けると、ハート型のピンク色をしたマシュマロ片手に、ニヤリと不気味に微笑えんだ健。
 

「おっぱい……♡」


 プニプニとマシュマロを指で挟みながら、嬉しそうに鼻の下を伸ばしている。


「…………」


(だから……。お前に女ができないのは、そーゆーとこな)


 低能すぎる発想に、投げかける言葉すら見つからない。


(なにが、おっぱいだ……)


 長いこと女っ気がないせいか、ついに頭がおかしくなってしまったらしい。それは、どう見たってマシュマロだ。

 嬉しそうにマシュマロをプニプニとさせている健を見て、哀れすぎて涙が出そうになる。
 誰がどう見ても、今の健は変態そのもの。何度も言うが、ちゃんとしていれば健はそこそこにイケメンなのだ。

 これは一刻も早く彼女を作ってやらねば、俺よりも先に健が犯罪を犯してしまいそうだ。
 健の不気味な笑顔を前に妙なシンパシーを感じ取った俺は、『類は友を呼ぶ』なんて言葉を薄っすらと頭に思い浮かべる。
 ……嘘だと信じたい。


(俺も……っ。美兎ちゃんの前で、こんな不気味な笑顔を……?)


 健の不気味な笑顔を前に、ヒクリと口元を痙攣らせる。


「っ……、やめろっ」


 パシリと健の手をはたくと、その反動で地面へと落下したマシュマロがコロコロと転がってゆく。


「あぁーー! 何すんだよ、バカッ!」

 
 バカはお前だと、健に言ってやりたい。
 
 地面から拾い上げたマシュマロにフーフーと息を吹きかけながら、「もう、食えねぇよ……」と本気で嘆いている健に哀れみの目を向ける。
 なんだか、その姿が自分と重なって見えたのは……きっと、気のせいだ。そう自分に言い聞かせると、健から視線を逸らして前を向く。



 ———!!!



 逸らした先に見えてきた人物の姿に驚き、俺の瞳はカッと見開くと瞬時に血走った。


(あっ、あれは……!! 間違いなく、うさぎちゃんっっ!!!!)


 目の前に見えるのは、可愛らしいピンクの浴衣を着た、マイ・スウィート・エンジェル♡ そのかたわらには、悪魔改め、最近百合へと改名した花が添えられている。
 まさか、こんな所で遭遇しようとは願ってもいない奇跡。

 いや——これはまさに、ディスティニー!

 お陰様で、妄想でしか拝めなかった浴衣姿も、こうして実際目にすることができたのだ。これはやはり、運命と言っても過言ではないだろう。


「…………」


 だだ、俺の妄想と唯一違っていたことといえば、美兎ちゃんの頭にお面が付いているという事。


(何故……、波平……?)


 『サザ◯さん』でお馴染みの『磯◯波平』のお面を見つめながら、暫し沈黙したまま困惑する。
 流石は美兎ちゃんだ。ハイセンスすぎて、俺には到底理解ができない。

 だが——。
 どんな美兎ちゃんであろうとも、一生愛し続ける覚悟と自信だけはある。なんならいっそのこと、『波平』ごと愛したっていい。
 それだけ、美兎ちゃんのことを愛しているのだ。
 

(あぁ……っ!! なんて、可愛いんだっ♡♡♡)


 ハゲたおっさんを頭に乗せているというのに、こんなにも可愛く見えるのは、世界中どこを探したって美兎ちゃんぐらいしかいないだろう。
 その眩しさに思わず目をくらませると、フラリとよろけながらも昇天しかける。

 浴衣の破壊力とは、想像以上に凄まじい。
 『波平』のハゲ頭効果もあるせいなのか、いつにも増して美兎ちゃんが輝いて見える。こんなに沢山の群衆に囲まれているというのに、ギンギンと光り輝く天使を前に、俺の下半身はもはや爆発寸前にギンギンだ。


(こっ、これが……っ! 愛故の、羞恥プレイ……ッッ!!?)


 ならば、甘んじて受け入れる以外俺に残された選択肢はあるまい。
 そう覚悟を決めると、ズキズキと痛みだした股間をモジモジとさせる。

 そんな耐えがたい苦痛の中でも、『波平』を頭に乗せた美兎ちゃんの姿を眺める俺は、その神々しくも光り輝くオーラに目を細めながら、美兎ちゃんの浴衣姿に見惚れて目一杯鼻の下を伸ばしたのだった。


おっぱい星人、マシュマロン ( No.15 )
日時: 2024/08/09 09:40
名前: ねこ助 (ID: RcHXW11o)




「うさぎちゃん……っ」


 溢れるような溜め息と共にとろけた表情をさせると、鼻の下を伸ばして小さく声を漏らす。その声に反応してガバッと振り返った健は、俺に向けて勢いよく口を開いた。


「……えっ!? あの、『うさぎちゃん』!? え、どこど——ンム……ッ!!?」


 健の口を背後から回した手で塞ぐと、右手に持ったフランクフルトの棒をチラつかせて血走った瞳で凝視する。


「っ……おい、黙れ。さもなくば殺すぞ」


 まるで殺し屋のようなセリフを耳元で囁けば、コクコクと勢いよく何度も頷いてみせる健。
 本来ならば、是非にとも美兎ちゃんに話しかけに行きたいところだが……当然ながら、生憎と今日は未変装。ここで万が一にでも正体がバレてしまっては困るのだ。
 大人しくなった健を確認すると、口を塞いでいた手を退けてゆっくりと離れる。
 

「っ……おい! なんなんだよ、一体!」


 鬼気迫る様子の俺に恐れをなしたのか、健は抗議の言葉を述べながらもその声量はとても小さい。


「バカ……ッ! 忘れたのか!? 俺は変装してカテキョしてんだよ! 正体がバレたらどーすんだっ!」

「あっ……、そっか。……で、どの子? 『うさぎちゃん』て」


 うさぎちゃんを眺めながらも、コソコソと健とそんな会話を交わす。


「チョコバナナの屋台の前にいる、ピンクの浴衣の……超絶に可愛い子っっ♡♡♡」


 うっとりとした瞳でそう答えれば、俺の視線を辿った健が口を開いた。


「……え。あの、変なお面付けた子……?」


(変とはなんだ……っ! 『波平』に謝れっ! …………。いや、何か違うな)


 なんだか美兎ちゃんを侮辱されたような気分になり、若干イラッとする。だが、あのハイセンスすぎるお洒落を理解しようなどと、健には到底無理な話しだ。
 ここは一先ひとまず、寛大な心を以て許すとしよう。


「……そう。あの、『波平』のお面の子」

「え……。あれって、どう見ても中学生じゃね?」

「……は? だから、受験生だって言っただろ。ピッチピチの♡ 中3だよ♡」

「確かに、ピッチピチ♡ ……って、いやいやいや!!! 普通、受験生って言ったら高校生だと思うだろっ!? っ……つか、中学生はガチで犯罪だからなっ!!?」


 健の大きな声で、大和達までこちらに注目し始めてしまった。やはり、健は抹殺しとくべきだったのかもしれない……。


(うさぎちゃんにバレたら、どーすんだっ!!! このバカ野郎……っ!!!)


 ヘッドロックを決めて黙らせれば、苦しそうに悶える健が激しくタップする。
 お面のことといい……やはり、許してやった俺が甘かったのだ。


(グハハハハ……ッ!! どうだっ!! ……参ったかっっ!!!)


 悪魔のような笑顔を浮かべて、健の首を更に締め上げた——その時。


「——!!!? ……ファッ!!?」


 こちらに向かって歩いてくる美兎ちゃんの姿に気が付き、驚きの声を上げると瞬時に健から腕を離す。
 

「っ……、おいっ!! 俺を殺す気かよ!?」


 解放された健が何やら叫んでいるようだったが……その声は、もはや俺の耳には届かない。
 ハゲたおっさんを頭に乗せながら、満面の笑みで美味しそうにチョコバナナを頬張る美兎ちゃん。その姿に、俺の瞳はロックオン。

 まったくもって、けしからん。


(そんな姿を……、人様の前で堂々と晒すとは……っ)


 どこぞの変態どもの、恰好かっこうの餌食じゃないか——!


(なんて……っ、卑猥なんだっっ♡♡♡♡)


 美兎ちゃんを見つめて鼻の下を伸ばすと、不気味に微笑みながらその姿を堪能する。

 どうやら、さっそく”俺”という変態の餌食になったようだ。ここは是非とも、その姿を写真に納めさせて頂きたいところだが……リスクが高すぎて、それは無謀なチャレンジと言えよう。大人しく諦めて、脳内に焼き付けておくしかないらしい。

 ギンギンに血走った瞳で美兎ちゃんを凝視しつつも、その存在を悟られないように気配を消して静かに佇む。
 そんな俺の様子に、珍しくことの次第を察したのか、隣にいる健も大人しくその様子を静観している。

 そんな中、俺の存在などミジンコ程にも気にしていない様子の美兎ちゃんが、チョコバナナ片手にこちらへと向かって歩いてくる。
 ズンドコズンドコと鼓動を響かせながらも、ギンギンに血走った瞳で目の前を通り過ぎてゆく美兎ちゃんを凝視する。
 と、その時——。


「きゃ……っ!」


 小さな声を漏らすと、そのまま前のめりに倒れてゆく美兎ちゃん。それに向けて、俺は咄嗟に右手を差し出した。


「——!!? っ……ハフンッ♡」


 夢見心地なその手触りに、吐息を漏らすとゆっくりと視線を下げてみる。そこに見えるのは、律儀に1本だけひょろ毛を生やしたハゲヅラ頭の『磯◯波平』。
 右手に伝わる、確かなこの感触——。


(俺は……っ。なんて浅はかで、バカな男だったんだ……っ)


 乏しすぎる想像力のせいで、こんなことですら想像ができなかったとは……。今までの人生、だいぶ損をして生きていたらしい。
 健の言っていたことは、嘘ではなかったのだ。

 これは、間違いなく——!
 

「マシュマロ♡ だ……っっ♡♡♡♡」


 右手に収まる美兎ちゃんのおっぱい片手に、だらしなく微笑みながらブシューッと盛大に鼻血を吹き出す。
 ドクドクと流れ出る鼻血をそのままに、俺は全神経を右手に集中させるとふらつく足元をグッと堪えた。


(これが……っ!! 天にも昇る、心地良さってやつか……っ♡♡♡♡)


 今、ここで一瞬でも気を抜こうものなら、出血多量で今すぐにでも天に召されてしまいそうだ。
 それはそれで、最高な死因だとも言えるのだが……。どうせ召されるのなら、一時でも長くこのマシュマロを味わっておきたい。
 それが、死に際の男の本能というやつなのだ。


「……っ、キャアァァアアーーッ!!! マジキモイッ!!!! 最っ、低!!! このっ、おっぱい星人!!! ……死ねッッ!!!!」


 そんなののしりの言葉と共に、俺に向けて強烈なキックをかました百合の花。


「——!!?!? ッ、グフゥ……ッッ!!?!!?」

 
 見事なクリーンヒットに、俺は両手で股間を押さえると膝から崩れ落ちた。
 声を失ったどころか呼吸すらできない状況に、本気で天に召されかけては悶絶する。
 

「美兎っ!! 早く、今のうちに逃げよっ!!」

「っ……う、うん」


 真っ赤な顔をした美兎ちゃんの手を掴むと、足早にこの場を去ってゆく百合の花——と見せかけた、凶暴な悪魔。
 悪魔のせいで行方不明になった俺のドラゴンボールは、暫くは地上で拝めそうもない。

 再び2つ揃う時がくるのは、数日先か……はたまた、数ヶ月先になるのか……。


(さよなら……。俺の、もう1つのドラゴンボール……っ)


 願いが叶った瞬間、悪魔によってかき消された俺のドラゴンボール。
 元より、ドラゴンボールとはそういうものなのだと思えば、叶えられた願いの大きさに感謝する他ないのだ。


「……っ、ぐ……っ」


 声にならない声を漏らしながら、ドクドクと鼻血を流し続けたまま股間を押さえてうずくまる。
 そんな俺を見て、驚きの顔を見せる人々と呆れたような眼差しを向ける大和。


「……おい。大丈夫か? おっぱい星人、マシュマロン」


 チラリと隣りに視線を向けてみれば、すぐ横で腰を屈めた健が心配そうに顔を覗き込んでいる。ちゃっかりと変なあだ名で俺を呼ぶ健には、軽く殺意を覚える。
 だが、なんと無力なことか……。今の俺には、そんな力さえ残っていないようだ。もはや、痛みと貧血で意識さえ朦朧もうろうとしている。


「これ……鼻に詰めとくか?」


 俺に向けて、ピンク色をしたハート形のマシュマロを差し出した健。


「…………」


 ふざけるのも大概にして欲しい。
 そんなボケにツッコミを入れる余裕など、今の俺には残っていない。同じ男なら、ドラゴンボールを蹴られた苦しみは痛いほどわかるはずだ。
 言葉に出せないこの怒りを、せめて眼光で伝えようとギロリと健の方へと視線を向ける。


(…………。あぁ……、忘れてた……。コイツ……ガチの、アホだったわ……)


 真剣な表情を見せる健を前に遂に力尽きた俺は、股間を押さえながらその場にぶっ倒れると、ドクドクと流れ出る鼻血で色欲にまみれた赤い泉を作ったのだった。




これはつまり、“愛”の試練 ( No.16 )
日時: 2024/08/10 12:15
名前: ねこ助 (ID: hquqghd4)





「——えっ!!?」


 俺は座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、驚きに見開かれた瞳で手元の携帯画面を食い入るようにして見た。
 そこに写し出されているのは、今しがた届いたばかりの美兎みとちゃんからのラ○ンメッセージ。



【今ね、衣知佳いちかちゃんと一緒に瑛斗先生の学校に向かってるよ〜𓀤𓀠𓀥】



 語尾に付いた絵文字の意味は、全くもって謎なのだが……。どうやら、最近の美兎ちゃんのお気に入りらしく、乱用するかのごとく毎度の様にオマケとしてくっついてくる。
 そんな謎めいた美兎ちゃんも、激しく愛しい——。

 解読不能な絵文字を眺めながら、うっすらと不気味に微笑み暫しほうける。


(——ハッ! 今は、そんな場合じゃねぇ……っ!!)


 俺の学校では今、2日間に及ぶ文化祭の真っ最中である。
 そこでサボっ……いや、休憩中に暇を持て余していた俺は、美兎ちゃんとのラブラブなラ○ンのやり取りを楽しんでいた。
 ——と、その時。何の前触れもなくやってきたのが、このメッセージ。


(い、今!? 今って……、今だよな!?)


 急な展開に慌てふためくと、手元の携帯を危うく落としそうになる。

 俺がこんなにも慌てているのには勿論、ちゃんとした理由があって。今日はカテキョの日でもなければ、美兎ちゃんと会う予定すら元々入ってはいなかった。
 という事はつまり、当然未変装な訳で……。その上もっと最悪なのは、変装グッズすら持ち合わせていないという現状だった。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ……
ッッ!!! なんとかしねぇーとっ!!!)


 常備しているワックスと伊達眼鏡の入ったバッグを片手に、教室から飛び出すと一気に廊下を駆け抜ける。
 こうなったら、誰かに洋服を借りるしかない。そう判断した俺は、広く長い廊下をキョロキョロと見渡した。


(……っ、どこだ! どこにいる、俺の救世主……っ!!!)



 ———ピローン


 
 新着メッセージを知らせる着信音が鳴り響き、慌てて手元の携帯を確認してみると——そこには、美兎ちゃんからの新たなメッセージが表示されていた。



【着いたよー! 瑛斗先生、どこにいるの?𓀀𓀠𓀋】



(ファッ……ツ!? もう着いた!!?!!?)


 あまりの早さに驚き、その場で軽く飛び跳ねる。きっと、先程のメッセージは学校のすぐ近くからだったのだろう。
 全く……こうして君は、いつだって俺をドキドキとさせて飽きさせやしない。



(なんて、刺激的な小悪魔なんだ……っ♡♡♡)



 欲を言えば、もっと早くに知らせて欲しかったりはするのだが……。
 仕方がない、これも小悪魔のテクニックなのだ。君から与えられるものならば、俺は甘んじて受け入れる他ないだろう——。



【迎えに行くから、ちょっと食堂で待っててくれる?】



 それだけ返信すると、再び救世主探しに奮闘する。


(……どこだっ!! どこにいる、ダサ男……っ!!!)


 変装にピッタリな服装を探し求め、広い廊下を必死で彷徨う。
 だがしかし——流石は三流大学。チャラそうなやつらばかりで、中々お目当てのダサ男が見つからない。



 ———!!



「……おいっ! そこのダサ——……男! 今すぐ、俺にその服を貸せっ!!」


 やっと見つけ出したダサ男に声を掛ければ、ビクリと肩を揺らして立ち止まった見知らぬ男。


「だ、ださ……?」


 俺を見て怯えるような表情を見せる男は、文化祭のチラシらしき束を片手に小さく声を上げる。


「お前の着てるその服、俺と交換してくれ!」

「……えっ? ふ、ふふ……、服!?」

「俺には今、その服が必要なんだよ! お前には俺のこの服、貸してやるから!」

「えっ!? そ……っ、そんな派手な服……」

「なぁ……頼むよ……っ!!」

「——っ!?!? ヒィ……!」


 必死の形相で目の前の男の両肩を掴めば、顔面蒼白になった男は悲鳴を上げた。
 俺は真剣に頼んでいるだけだというのに……。こんなにビビられてしまっては、まるで側から見たら恐喝だ。


「なぁ……いいだろ?」


 般若の如く形相で再度必死に頼み込めば、ブルブルと震える顔面蒼白の男は、首を何度も大きく縦に振って答える。もはや、声すら出ないようだ。


(ハァ……。マジ、焦ったわぁ)


 目当てであった洋服を手に入れる事ができた安堵感から、ホッと息を吐いた——その時。



 ———!!?



 廊下の先に見えてきた美兎ちゃんの姿に驚き、両目を全開にさせた俺はその場で固まった。


(……えっ!!? な、ななな、なんで、うさぎちゃんがここに……っ!!!?)


 食堂とは真逆に位置するこの廊下。何故、居るはずのない美兎ちゃんが、ここに……?
 一難去って、また一難。どうやら、俺の可愛い小悪魔ちゃんは休む間も与えてくれないらしい。俺は1人、パニックからその場であたふたとする。

 ——とりあえず、見つからないように隠れるしかない。


「……おいっ。ここでちょっと、待っててくれ。ぜーー……ったいに、待ってろよ? 逃げたら……許さないからな」

「は……っ、はい!」


 未だ顔面蒼白のままの男に向けてニヤリと不敵に微笑むと、俺はその場から離れて柱の陰に身を潜めた。そこからコッソリと顔を覗かせると、悪魔を連れ立って歩く美兎ちゃんの様子を静かに見守る。


(このまま、俺に気付く事なく通り過ぎてくれ……っ)

 
 ズンドコズンドコと鳴り響く鼓動を抑えながら、祈るような気持ちで美兎ちゃんの姿を凝視する。すると——。
 何やら、チラシ片手に美兎ちゃん達に近付いて来た男達。一見するとただの出し物の勧誘のように見えるが……それにしては、やたらと長く話し込んでいる。

 よく見てみれば、少し困ったように対応している美兎ちゃん。あれは……間違いなくナンパだ。
 そう認識した瞬間、あまりの怒りに青筋全開で鬼のような形相になった俺の顔。柱を掴んでいる右手の指は、ミシミシと音を立てながら深くめり込んでゆく——。


(俺の……エンジェルに……っ、手ぇ出すんじゃねぇ……っ!!!!)


 自分の事は最大限高く棚に上げさせてもらうとして……。いくら可愛いからとはいえ、中学生相手にナンパとは許すまじ行為——!


「——おい。この子達、困ってんのわかんねぇの……? しつこくすんなよ、可哀想だろ」


 美兎ちゃんの肩に触れようとした男の手をグッと掴むと、そのまま目の前の男に向けてギロリと睨みを効かせる。
 そんな俺を目にした男は、一瞬ムッとしたような顔を見せたものの、急に焦ったように態度を一変させると口を開いた。


「あー……。ご、ごめんね〜2人共。じゃ、良かったら後で遊びにきてね〜」


 それだけ告げると、そそくさと立ち去ってゆく男達。どうやら、相手は俺の事を知っていたらしい。
 3年連続ミスコン優勝の威厳は健在だったようで、無用な争いを避けられたなら良かった。


(まぁ……負ける気なんて毛頭ねぇけど。美兎ちゃんの前で、喧嘩なんてしたくないしな)


 誇らしげに胸を張ると、フフンと鼻で笑って満足気に微笑む。


「あの……。ありがとうございます」

「…………へっ?」


 その可愛らしい声につられるようにして目線を下げてみると、そこには俺の顔をジッと見つめながらたたずんでいる美兎ちゃんがいる。



 ———!?!?!?



 俺の頭からすっかりと消え去っていた、今の危機的な状況——。

 あの、一瞬にして天国と地獄を味わう事となった”マシュマロ事件”の事もあって、今となっては、単純に未変装姿を晒す事自体がデンジャラス。
 万が一にでも顔を覚えられていて……それが、『瑛斗先生』と同一人物だとバレてしまったら——! 

 この先の人生に、俺の明るい未来はない。


(やヤやヤ……、ヤベェッッ!?!? っ、あぁぁぁああーー!! 可愛いっっ♡♡♡ ……って、今はそんな場合じゃねぇっ!! ヤバイヤバイヤバイヤバイ——ッッ!!!!)

 
 パニックで挙動不審さ全開な俺は、小悪魔ちゃんの誘惑から逃れるようにして顔を逸らすと、そそくさとその場を離れようとする。


「いっ、いいよいいよ、これくらい……っ。じゃ、2人共ナンパには気をつけてね」

「あのぉ……」

「!!? あー……。いやいや、名乗るほどのもんじゃないから! いや、マジで! ……じゃっ!」

「えっ……」


 悪魔からの会話を一方的に終わらせると、俺はクルリと背を向けて廊下を歩き始める。平常心を装ってはいるが、俺の内心はヒヤヒヤだ。
 名前なんて教えてしまったら一発アウト。もとより、『瑛斗先生』でいる限りこの姿の俺には教えられる名前などないのだ。

 今日は、この数分間だけでも何度ドキドキさせられた事か——。
 先程見た美兎ちゃんからの熱い視線を思い返すと、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。


(俺の可愛いエンジェルは……ホント、とんだ小悪魔ちゃんだなっ♡♡♡)
 

 こんなにも短いスパンでハラハラドキドキ攻撃を仕掛けてくるのは、後にも先にも美兎ちゃんくらいなものだろう。
 そのテクニックには、もはや驚きを通り越して脱帽だ。今後どこまで俺の心臓が耐えきれるのか……ちょっと、本気で心配だったりする。

 未だバクバクと脈打つ胸にそっと手を添えると、興奮で息切れの激しくなった呼吸をゆっくりと整える。
 


「……行っちゃったね」

「うん」

「食堂の場所、聞こうとしただけだったんだけど……」

「やっぱり、瑛斗先生にラ◯ンで聞いてみるね」

「うん。それがいいね」



 ——そんな2人の会話は、俺の耳に届くことはなかった。


腰振れ、ワンワン ( No.17 )
日時: 2024/08/11 00:11
名前: ねこ助 (ID: rO31YiwF)





 無事に”愛の試練”とも呼べる困難に打ち勝った俺は、今、合流した美兎ちゃん(と、ついでに悪魔も)を連れてたけるの元へと向かっている。

 ダサ男へと擬態している今の状態では、とてもじゃないが自分のクラスになど案内できる訳もなく……。仕方なく、といったところだ。
 まぁ、俺の事情を知っている健なら、何かあった時のフォローは……。


「……………」


 あいつのアホさ加減を考えれば、期待できそうにもない。だが、幸いな事に大和やまともちょうど彼女連れで健のところに来ているらしく、それには少し安心だ。
 チラリと隣を見てみれば、楽しそうに悪魔と会話している美兎ちゃんがいる。


(……ッ、クゥゥゥーー!! 痺れるような可愛さだぜっ♡♡♡♡)


 無事にダサ男へと変装できて本当に良かったと、心の底から噛み締める。
 あの、息もつかせぬ怒涛のドキハラ攻撃。正直、あれにはだいぶ寿命を削られはしたが……。
 その甲斐あって、今、こうして美兎ちゃんとの”ラブラブ文化祭デート”を心置き無く堪能する事ができるのだ。

 美兎ちゃんの隣にいる悪魔が、ちょっと(いや、結構)邪魔だが……。まぁ、仕方がない。相手は中学生だ。


(フッ……。ここは一先ひとまず、健全にグループ交際とやらで妥協してやるさ)

 
 そんな事を思いながらも、抑えきれない嬉しさから鼻の下を伸ばして顔面をとろけさせる。


「——瑛斗先生。そのお友達の出店って、何売ってるとこなの?」

「……えっ? あー。確か、クレープって言ってたよ。……あっ。美兎ちゃん達、甘いもの食べれる?」

「うんっ! 大好きっ!」


(フグゥッッ……!!! だっ、だだだだ……っ、大好き、だとぉ……っ!!? どこで覚えたんだ……っ、そんなテクニック!!!)


 突然、俺に向けて”大好き攻撃”を撃ちかましてきた美兎ちゃんに殺されかけ、ハァハァと息の上がった呼吸のまま身悶える。
 なんだか、今日はやたらと小悪魔っぷりを発揮してくる美兎ちゃん。流石は、柔軟さと若さに溢れる中学生。目覚ましい急成長だ。
 

(……っ、だが! 俺はまだ、死ぬわけにはいかねぇ……っ!)


 ふらつく足元をグッと堪えると、平常心を装い爽やかな笑顔を貼り付ける。


「……そっか。なら良かった」


 そう言ってニッコリと微笑めば、俺に向けてニッコリと微笑み返してくれる美兎ちゃん。

 
「楽しみだね〜っ、衣知佳ちゃん」

「うんっ。でも、太っちゃうなぁ〜」

「大丈夫だよ。その分、いっぱい動けば!」


 そんな事を言いながら、楽しそうにキャッキャと会話を弾ませている美兎ちゃん達。そんな光景を眺めながら、俺は1人うっとりとする。


「動くって、何それぇ〜。運動とか?」

「うん、運動っ! 何がいいかなぁ〜」

「走るとか?」

「う〜ん……。痩せそうだけど、走るのってちょっと大変そうだよね」


 いつの世もどの世代も、女という生き物はスタイルキープに余念がないようだ。俺としては、太っていようが痩せていようが、美兎ちゃんなら何だって構わない。
 だが……。そんなに運動がしたいなら、いつだって俺がお手伝いしてあげようじゃないか——!



(楽しい、楽しいっ♡ ”裸の大運動会”という名の、激しい寝技競技で……っっ!!! グフフフッ♡♡♡♡)



 それが美兎ちゃんの願いだというのなら、俺は全裸……いや、一肌でも二肌でも脱いであげよう。協力は惜しまない。
 一人、脳内で妄想を膨らませては、とんでもなくだらしない顔をして不気味に微笑む。


「——お〜いっ、瑛斗ぉー! こっち、こっちー!」


 危うく垂れかけた唾を飲み込むと、聞こえてきた声の方へと視線を向けてみる。
 するとそこには、クレープ片手にヘラヘラとしながら大きく手を振る健がいる。どうやら、一応ちゃんと店番をしているらしい。

 客らしき人に持っていたクレープを差し出すと、「また来てねー」とチャラそうな笑顔を向ける健。


「——よっ。お疲れ」


 健の元へと近付きこっそりと耳元でそう告げれば、ニヤリと不気味に微笑んだ健。


「やっと、『うさぎちゃん』を紹介してくれる気になったか」

「バーカ。……仕方なくだよ、仕方なく。こんな格好で、自分のクラスになんて行けるわけねぇだろ?」

「しっかしまぁ、よく化けたもんだよな……。事前に聞いてなきゃ、瑛斗だって気付けねぇよ」


 感心したように俺の全身を眺める健を他所に、近くにいる大和に向けて軽く目配せをする。
 すると、それに気付いた大和が彼女を連れて美兎ちゃん達へと近付いた。


「2人共、いらっしゃい。俺は瑛斗の友達の大和で、こっちは彼女の香奈かな。よろしくね」

「……あっ、柴田美都です。よろしくお願いします」

「初めまして、香川衣知佳です。彼女さん……綺麗ですね」


 そんな会話を交わし始めた大和達に安堵すると、再び健に視線を移してポンッと軽く肩を叩く。


「今日は、よろしくな」

「おうっ。この俺様に任せろ」

 
 俺に向けてニカッと笑ってみせた健に、何故か一抹の不安を感じる。……いや、きっと気のせいだ。


「——俺は健。よろしくねっ! うさ……あ、やばっ。……ミトちゃんと、イチカちゃん?」
 

(おい……っ! お前今、『うさぎちゃん』て言おうとしただろっ!)


 ヘラヘラヘラと笑っている健に、軽い殺意を覚える。やはりこいつは、油断ならない。なんといっても、俺以上にアホなのだ。……そして、誤魔化し方がど下手くそ!


(やば、って何だ! やばっ、て! ……そんな下手な誤魔化し方があるかよっ! クソバカ野郎が……っ!!)


 ピキリとこめかみに青筋を立てると、そんな俺の気配に気付いたのか、健は慌てて近くにあったメニューを手に取った。


「2人共、クレープどれにするー? 俺のオススメはね、俺考案の和風モンブラン! ……因みに、1番人気はやっぱりチョコバナナ!」

「え〜っ。どれにしよう……。こんなにあると迷っちゃうねぇ、美兎」

「うん。どれも美味しそぉ……」


 あーでもない、こーでもないと悩んでいる美兎ちゃんを見て、その可愛さから俺の顔は瞬時に蕩けた笑顔を見せる。
 そんな俺の様子をチラリと横目に見た健は、ホッとしたかのように小さく息を吐いた。

 流石は、高校からの付き合いの健だ。俺の扱いを少しは心得ているらしい。
 それはそれで何だかしゃくさわるが、ここは一つ、美兎ちゃんの笑顔に免じて許してやろう。


「あの……。この、スペシャルって何ですか?」

「あー、これ? これはねぇ……。フラフープ3分間チャレンジ! 成功したらお好きなクレープどれでも1つ無料! しかも、生クリーム増量サービス付きっ! てやつ」

「えーっ、凄い! 無料だって、衣知佳ちゃん!」

「確かに凄いけど……。フラフープ3分間って、一度も落とさずに3分でしょ? ……ちょっと、無理じゃない?」

「うーん……確かに。1回できるかどうかも怪しいかも……」


 クレープ屋でフラフープなんていう、全くもって意味不明な怪しい勧誘に惑わされている美兎ちゃん。
 そんな事しなくたって、最初から俺が奢るつもりだ。クリーム増量だって、ちょっと健を脅せばいいだけの話し。
 だが、ちょっと見てみたい。

 優雅に舞い踊る美兎ちゃんは、さぞかし美しい事だろう——!


「チャレンジは無料だし、1回やってみる?」


 そんな健の提案で、フラフープにチャレンジしてみる事となった美兎ちゃん達。


「きゃ……っ! あ〜んっ。1回もできなかったよぉ〜」

「…………」


 俺の期待も虚しく、一瞬で終わりを迎えたフラフープチャレンジ。
 瞬きをしていたら間違いなく見逃していただろうそれは、開始と同時にストンと下へと落ちた。

 流石は小悪魔ちゃん。焦らしプレイがお上手だ。
 そんな美兎ちゃんも、激しく愛しい。


「残念だったねー、2人共。もう1回チャレンジしてみる?」

「うーん……。出来る気がしないです……」

「私も……」


 しょんぼりと落ち込む美兎ちゃん。
 残念ながら、何度チャレンジしてもきっと無理だろう。諦めるのは賢明な判断だ。

 落ち込む美兎ちゃん達にクレープを買ってあげようと、財布を取り出した——その時。健が口を開いた。


「瑛斗にチャレンジしてもらったら?」

「……え? いや、俺は普通に——!!?!!?」


 普通に買ってあげる。そう答えようとした俺の目に飛び込んできたのは、美兎ちゃんからの焼け焦げる程に熱い視線。


(そ……っ、そそそ、そんなに情熱的に……俺を、見つめて……っ)


「瑛斗先生……。お願い」


(ガハァァァア…………ッッ!!?♡!!♡!!?♡)


 その衝撃的な可愛さを前に、足元からガクリと崩れ落ちそうになる。それを近くにあったパイプを掴んで必死に堪えると、俺は空いた片手で吐血した口元をひっそりと拭った。
 突然のおねだりとは……反則技もいいところだ。どうやら、美兎ちゃんは俺を殺す気らしい。


「……でっ、できるかなぁ?」


 フラフープなど微塵もやる気はなかった俺だが、こんなに可愛くおねだりされてしまっては、やらない訳にもいかない。
 ましてや、可愛い可愛いハニーからのお願いとあっては、断るなんて選択肢は——俺にはない!

 そして、やるからには全力だ。
 ここは一つ、カッコイイ姿を見せてアピールする最大のチャンスでもあるのだ。


「……じゃ、3分なっ。瑛斗、がんばれ〜!」


 そんな健の声を聞きながら、フラフープ片手に闘志を燃やす。


「それじゃ……スタートッ!」


(しゃらくせぇーーっっ!!! フラフープごときに、俺が負けるかぁぁあーー!!! ……こんなもん、セッ◯スと同じだぁぁあーー!!! グハハハッッ……!!!)


 脳内で高らかな笑い声を響かせながら、全力で腰を前後させてフラフープをぶん回す。
 当初は余裕に思えた3分間も、やってみると予想以上に長く感じる。だが、負ける訳にはいかない。

 これも、いつか迎えるであろう、美兎ちゃんとのパンパンの練習だと思えばいいのだ。


(そう……っ。全ては、愛の為に——!)

 
 不純な妄想と美兎ちゃんへの純粋な気持ちを抱きながら、地獄のように長く感じる3分間を乗り切った俺。
 息の上がった呼吸を整えながら、鈍痛を訴える腰をそっと抑える。どうやら、全力でやりすぎたらしい。


「——瑛斗先生、凄いっ!」

「……アハハッ。なんとかクリアできたよ。クレープ、良かったね」

「うんっ! ……ありがとうっ!」


 美兎ちゃんのこの満面の笑顔を見る限り、どうやら無事に俺の愛は証明されたようだ。
 この笑顔と引き換えなら、負傷した腰の痛みなど容易いものだ。
 

「あー、ちょっと待って。賞状もあるから。今、用意するわ」


 そんな事を言いながら、段ボールから1枚の紙を取り出した健。ささっと何やらマジックで書き足すと、出来上がった紙を俺に向けて差し出してくる。


「……盛りのついた犬みたいで、クッソうけたっ」


 俺の耳元でそう告げた健は、ブフッと吹き出すと必死に笑いを堪える。
 そんな健には殺意が湧くが、これも美兎ちゃんとの思い出だ。賞状はありがたく受け取って、後生大事に部屋にでも飾るとしよう。

 これは言うなれば、美兎ちゃんへの”愛の証明書”みたいなものなのだ——。


「すごーい! 賞状まであるんだぁー!」


 健から賞状を受け取る俺を見て、キラキラと瞳を輝かせる美兎ちゃん。


(……そうさっ! これは、うさぎちゃんと俺との……っ、愛の証明書なんだよっ♡♡♡♡)


 これはもう——婚姻届と言っても過言ではないだろう!

 
 喜びから鼻の下の伸び切った不気味な笑顔を見せる俺は、健から受け取ったばかりの賞状——もとい、”愛の証明書”を確認する。


「…………」


(ぶっっっ、殺す——!!!!!!!)


 途端に般若へと変貌した俺は、手元の賞状を地面へと投げ捨てた。

 そこにあるのは、【犬みたいだったで賞】と書かれた賞状。


(神聖なる俺達の”愛の証明書”を汚した罪は、その命を以って償ってもらおうじゃないか……っ!!! 覚悟しろよ……健っっ!!!!)


 楽しそうに俺の美兎ちゃんと話している健を見て、脳内で悪魔のような笑い声を響かせる。


 ——こうして、儚くも消えていった美兎ちゃんとの”愛の証明書”。
 
 その後、悪魔の分もやらない訳にはいかず、計6分間にも及ぶ全力フラフープチャレンジに挑んだ俺。
 翌日から、3日間に渡って腰痛に苦しむことになるとは——まだ、この時は誰も知らない。

感動の名シーン(童話ver.) ( No.18 )
日時: 2024/08/11 21:25
名前: ねこ助 (ID: Cc8cxid4)





「西校舎の3階か……。了解、っと」


 大和からのラ◯ンに『了解』とだけ返信をすると、フーッと小さく息を吐いて携帯をポケットへと入れる。

 本来ならば、片時も離れず美兎ちゃんの側に居たいところなのだが……。ミスコンの予選に通過していた俺は、やむなく美兎ちゃん達を一旦大和達に任せると、一人、ミスコン本戦へと出場してきた。

 ——結果は勿論、優勝。
 4年連続優勝という、素晴らしき偉業を成し遂げたその勇姿を、愛する美兎ちゃんに見せてあげられなかったとは……。なんとも心苦しい。
 とはいえ、未変装姿を晒す事が出来ない以上、仕方のないこと。
 

(…………。今日だけで、既に何回着替えてんだ、俺……)


 通りすがりのガラス越しに映った自分の姿を眺め、フッと鼻から息を漏らす。
 

(全く……。こんなにも慌しくも刺激的な文化祭は、生まれて初めての経験だぜ……っ)


 天使と見紛みまごう程の可愛らしさで、こんなにも俺を翻弄させる美兎ちゃん。
 一体、この先どこまで小悪魔ちゃんへと進化を遂げてゆくのかと想像すると、俺の心臓が持ち堪えられそうにもなくて……ちょっと怖い。

 ——が。そこは、這ってでも食らいついてゆく!


「……今、行くからね〜っ♡ 待っててね〜♡ 俺の可愛い、うさぎちゃんっっ♡♡♡♡」


 俺は瞬時にデレッと鼻の下を伸ばすと、ルンタッタ・ルンタッタと軽快に廊下をスキップする。
 ほんの少しの間とはいえ、俺と離れてさぞや寂しい思いをしているに違いない。仕方がなかったとはいえ、一刻も早く美兎ちゃんの元へと行かねば——。

 ギュルンッと勢いよく角を曲がると、そのまま西校舎の3階廊下を軽快にスキップしてゆく。


(俺の可愛いエンジェルちゃんは、どこかなぁ〜?♡♡♡♡)


 不気味な笑顔を浮かべながら、行き交う人々で混雑している廊下をキョロキョロと見渡す。
 そんな人集ひとだかりの中、神々しくも光り輝く天使を見つけ出した俺は、その姿を捉えると驚きに瞳を全開させた。



 ———!!?!!?



(……エッッッ!!?!!?)
 
 
 俺の目に飛び込んできたのは、車椅子に乗って健に押されている美兎ちゃんの姿。一体、俺の居ない間に何があったというのか——。
 気付けば、人集りを押し退けて夢中で廊下を駆け抜けていた俺。秒で美兎ちゃんの元へと辿り着くと、勢いよくその場にひざまずく。
 

「……っ、ど、どどどど、どうしたのっ!!? 美兎ちゃんっっ!!! ……足!!? 足でも挫いちゃった!!? ……大丈夫っ!!?!!?」


 目の前にある美兎ちゃんの足を凝視しながら、ペタペタと触ってくまなくチェックする。
 万が一にでも傷跡が残ろうものなら、健と大和の腹を2度……。いや、3度切腹させたって足りない程の一大事だ。


「バーカ。瑛斗、ちゃんと見てみろって」

「……っ!?」


 そんな健の声につられるようにして顔を上げてみると、俺と視線を合わせた美兎ちゃんがニッコリと微笑んだ。


(……っ、ぐぉぉぉおおーー!!! 可愛いっっ♡♡♡♡ 今すぐ抱きしめたいっ!!!!)


 エンジェル・スマイルを前に、俺は顔面蒼白だった顔から瞬時に顔を崩すと、鼻の下を全開に伸ばして一気に破顔させる。


「瑛斗先生。これ、コスプレだよ?」

「…………。ふぇ?」


 天使を目の前にして、その可愛さのあまり暫しほうけてしまった俺。
 告げられた言葉によくよく目の前を見てみれば、何やら美兎ちゃんの服装が先程までと変わっている。

 どこか、見覚えのある気がする水色のワンピース……。そんな美兎ちゃんの隣にチラリと視線を移してみると、そこには赤いワンピースを着た悪魔が立っている。
 これは——。


(……あ。ハイジ)


 ちゃんと車椅子に乗って移動するとは、なんとも完成度の高いコスプレ。まんまと騙されてしまった。

 だが——そのお陰で、こうして公然と美兎ちゃんの足にも触れることができたのだ。突然降ってきた、天からのお恵みとも言うべき、この幸運——! 
 後光の差し込む美兎ちゃんを仰ぎ見ると、感動に震える両手をグッと握って喜びを噛み締める。この手は一生、洗わない。


「これ、うちの出し物。……本当はコスプレ着て写真撮るだけなんだけど。せっかく遊びに来てくれた2人には、1時間レンタルさせてあげたよ」
 
「へっ、へぇ〜。そうなんだ……。にににっ、似合ってるね。……大和……っ。本当に、ありがとう……っ」


 こんなにも素晴らしい機会を与えてくれた大和に心から感謝をすると、喜びから溢れ出た涙がキラリと一雫、俺の頬を伝って床へと落ちた。


「瑛斗先生っ。これね、クララだよ。知ってる?」

「……うん」


 ハイジなんて見た事もなければ、ストーリーすらもよく知らなかったが……。楽しそうに話す美兎ちゃんの姿を見ているだけで、その可愛らしさから自然と俺の顔はとろける。


「じゃあ……あのシーン、やるね?」

「うん……っ♡」


 美兎ちゃんの言う、”あのシーン”が何なのかはよくわからないが……。はにかむような笑顔がただただ可愛くて、俺の顔面は蕩ける一方。
 車椅子に手を掛け、立ちあがろうとする美兎ちゃんの姿を見守る。


「…………!」


 これはあれだ。『クララが立った!』とかいう、あのシーン。その名場面らしき部分なら、ハイジを見たことのない俺でも知っている。
 そんな事を考えながら、床に片足を置いた美兎ちゃんの姿を眺めていた——次の瞬間。

 残されたもう片方の足を車椅子に引っ掛け、俺に向かって倒れてくる美兎ちゃん。
 その姿は——まさに、俺の胸へと飛び込んでくる天使のよう。なんて素敵なアドリブなんだ。

 これは……。今日一日、慌しくも頑張って乗り切った俺への、ご褒美なのだろうか——? 


「っ、……ぐふっ♡」


 堪えきれない喜びから、思わず溢れ出た小さな笑い声。俺は迷うことなく両手を広げると、そのご褒美を受け入れる体制に入った。


(さぁ……っ!! 俺の胸に、飛び込んでおいで……っ♡♡♡♡)



 ———ゴンッ!!!!



「フグゥ……ッッ!?♡!?♡」

 
 まるで落雷にでもあったかのような強い衝撃に、強打した顔面を真っ赤にさせると、そのまま卒倒して後ろに向かってぶっ倒れた俺。

 予想していた以上に激しい、美兎ちゃんからの求愛行動。どうやら、俺の準備では不足だったようだ。
 流石は予測不能な小悪魔ちゃん。頭突きとは、恐れ入った。

 激しすぎるその求愛行動に酔いしれながら、仰向けに倒れたままピクピクと痙攣する。


「……っ、きゃぁぁあーー!! 瑛斗先生っ!!!」


 強打した鼻からドクドクと鼻血を流す俺を見て、無事に立ち上がることのできた美兎ちゃんが顔面を蒼白にさせる。
 この世の何よりも愛しい、俺の可愛い可愛い天使ちゃん。君が無事なら、俺の犠牲はいとわない——。


「…………」

(……あっ♡ クララが……っ、立(勃)った♡♡♡♡)


 パンツ越しに見える美兎ちゃんの姿を見上げながら、ズキズキと痛み始めた股間に身悶える。

 ——主演、美兎ちゃん&俺の『クララ』。
 これぞ、感動の名シーンだ。



 俺の頭上で慌てふためきながら、パンツ付きという素晴らしいアドリブを披露してくれる美兎ちゃん。
 そんな姿を堪能しながら、俺はドクドクと流れ出る鼻血で貧血をおこしつつも、ニヤリと不気味に微笑んだのだった——。
 


Page:1 2 3 4 5 6



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。