コメディ・ライト小説(新)

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 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

君は愛しのバニーちゃん【完】
日時: 2024/09/24 01:36
名前: ねこ助 (ID: tOcod3bA)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13998


小説大会2024・夏 金賞🥇ありがとうございます✨



★まず初めに★


R18ではありませんが、下ネタ満載のラブコメになります。
やたらとパンチラが出てくる青年漫画のような作風を意識した作品の為、苦手な方は回れ右してください(^^;;



別名義でラブコメ・ミステリー・ホラーなど、その時の気分で色々と執筆しています。

ラブコメに関しては(君バニもしかり)箸休め的な感覚で、何も考えずに自由に執筆しております。
なので、読者の方にも何も考えずにサラッと読んで笑って頂ければと思います(^^)v




★あらすじ★


パンツにおっぱい!!! ……最高かッ♡♡♡

【下心満載のチャラ男家庭教師(21)✖️純真無垢な中学生(14)】


今日もピッチリと七三に髪を固め、ダサ眼鏡の仮面を被って下心満載で家庭教師に勤しむ。
そんなどうしようもない男の、おバカな初恋奮闘物語——。




昔からモテ男でチャラ男な瑛斗は、大学でもその名を知らない人はいない程の、超がつくほどの有名人。

合コンに行けば百発百中、狙った女は逃さない。
落とした女の人数は数知れず……。



そんな百戦錬磨な瑛斗(21)も、ついに本気の愛に目覚める!!!

そのお相手は……

なんとまさかの、中学三年生!

天使のように愛らしい美兎を前に、百戦錬磨の瑛斗も思わずノックダウン。

パンツやおっぱいの誘惑に時々(いや、結構毎回)負けつつ、今日も瑛斗は純愛を貫く……っ!!

だってそれが、恋ってもんだろ!?

ちょっとエッチな、男性目線のラブコメ!

だけど——
そこにあるのは、紛れもなく純愛(下心有り)なんだ!




◆目次◆

1)これは、純愛(下心あり)物語>>01
2)ライバル、現る>>02
3)グッジョブ、山田>>03
4)レッツ、いちご狩り!>>04
5)お願い……先っちょだけ!>>05
6)江頭◯:50>>06
7)パンパンでパイパイ♡>>07
8)夕日に誓って、零した涙 >>08
9)ついに、ゴールイン!?(仮)>>09
10)給水・夏の陣2020>>10
11)悪魔、再び>>11
12)闘う男、スーパーマン>>12
13)それは綺麗な、花でした♡>>13
14)ハイセンス波平、輝きを添えて>>14
15)おっぱい星人、マシュマロン>>15
16)これはつまり、“愛”の試練>>16
17)腰振れ、ワンワン>>17
18)感動の名シーン(童話ver.)>>18
19)殺人級、サプライズ>>19
20)君の名は。>>20
21)それすなわち、愛の結晶>>21
22)イエス♡マイ・ワイフ>>22
23)滾るシェンロン、フライアウェイ>>23
24)これぞ、愛のパワー♡>>24
25)おまけ>>25
26)あとがき>>26

ついに、ゴールイン!?(仮) ( No.9 )
日時: 2024/08/05 13:00
名前: ねこ助 (ID: KuHgV/y.)




「……瑛斗先生。さっきは寝ちゃってごめんなさい」

「いいよいいよ。遠出して疲れちゃったもんね」


(俺こそ……っ。ヘタレでごめんねっ! 次こそは……っ絶対にキメるから……っ!!!)


 二人並んで住宅街を歩く道すがら、チラリと隣りを見れば、ほんのりと赤く頬を染めた美兎ちゃんが小さく息を吐いた。


「また、『パンパン』見に行きたいなぁ……」


(……えっ!!? パ……ッ、パパパッ、パンパンしたい……ッ!!?)


 その素敵な脳内変換に、思わず昇天しかけて足元から崩れ落ちそうになる。


(……っい、いや……。落ちつけ俺! 今のは、そーゆー意味じゃないだろっ!)


「……っ美兎ちゃん。また今度、パンパンし……っ、見に行こうね」

「……本当っ!?」

「うん、俺でよければ。また今度……一緒に行(イ)こうね」

「わぁ~いっ! 楽しみっ!」


 無邪気な笑顔を見せながら、それはそれは嬉しそうに喜ぶ美兎ちゃん。


(っ、……なんてスケベなんだっ! そんな悪い子には、お仕置きしちゃうゾ……ッ♡)


 ピンク一色な妄想に脳内で酔いしれると、それはそれはとんでもなくスケベな笑顔を浮かべて鼻の下を伸ばす。


「今度は、うさぎちゃんも抱っこしようねっ?」

「えっ……?」

「瑛斗先生、好きなんでしょ?」


 コテンと小首を傾げて微笑む美兎ちゃんの姿が可愛すぎて、その衝撃にフラリとよろめくと危うく再び昇天しかける。


(ウグッ……! ハァハァハァ……。お、俺の……可愛い、うさぎちゃん……っ!!!)


 なんとか必死に堪えた俺は、息も絶え絶えに美兎ちゃんに向かって勢いよく口を開いた。


「……すっ、すすす、好きっ!!! 大好きっ!!! この世で一番、愛してるっ!!!」


(な、なんで……俺が好きなこと、知ってんの!!? ……そっ、そそそそ、それよりっ!! 抱っこしていいって……マジかっ!!!!?)


 白塗りの可愛らしい家の前でピタリと足を止めると、期待に膨らむ瞳で美兎ちゃんを見つめる。
 最寄り駅から徒歩十分という距離は思っていた以上に短く、どうやら、いつの間にか美兎ちゃんの家へと着いてしまったらしい。


(抱っこって……!! それって、今すぐしちゃダメ!!!?)


「そんなに好きなんだね。……フワフワしてて、可愛いもんねっ」


 クスリと微笑む美兎ちゃんの姿を見て、血走った瞳でロックオンした俺。荒い鼻息とともにコクリと小さく喉を鳴らすと、美兎ちゃんに向かってにじりと歩み寄る。


(……っう、うん。フワフワしてて……い、今すぐにでも食べちゃいたいぐらいに……っ、とんでもなく可愛いっっ!!!)


「今日は、モルモットしか抱っこできなかったから……残念だったね」


(じゃあ、今からでも……っ!!!!)


「今度行った時は、ミトもうさぎちゃん抱っこしたいなぁ~」


(今度と言わずに、今すぐにでも……っ!!!! …………って。あ、あれ……?)


 チラリと美兎ちゃんの手元に視線を移すと、そこには今日撮ったばかりのモフモフの毛玉が映し出された携帯がある。それを見て、幸せそうにニコニコと微笑んでいる美兎ちゃん。


(あっ……。え……? もしかして、美兎ちゃんの言ってる『うさぎちゃん』て……。あの、ピョンピョンと跳ねる、毛玉の方……?)


 とんでもない勘違いにガックリと項垂れると、そのあまりのショックさから静かに一筋の涙を流す。ポタリと地面へと落ちて吸収された俺の涙は、そうして人知れず儚く消えてゆくのだ。
 それはまさに、無残に散っていった今の俺の姿のように——。


(ううぅっ。そりゃないぜ……っ)


 一呼吸置いて気を取り直すと、ゆっくりと顔を上げて前を見る。するとそこには、相変わらず携帯片手に幸せそうに微笑んでいる美兎ちゃんがいて……。この笑顔が見られるなら、俺の受けた心の傷などどうでもいいことのように思えてくる。
 美兎ちゃんさえ笑顔でいてくれるなら、俺はどうなろうともそんなことどうだっていいのだ。だって現に——君の笑顔を見ているだけで、俺はこんなにも幸せな気持ちになれるんだから。

 俺はポケットに忍ばせていたキーホルダーを取り出すと、それを美兎ちゃんに向けて差し出した。実は、美兎ちゃんがトイレに行っている間に、こっそりと内緒で買っておいたうさぎのキーホルダー。
 まぁ……美兎ちゃんにあまりにも似ていたからつい買ってしまった、なんてことはさておき。初デートの締め括りに、サプライズは欠かせない。いくら頭の中がピンク一色だったとはいえ、そのへんはキッチリと抜かりはない。


「はい、これ。……今日の(初デート)記念に、美兎ちゃんにあげる」

「……あっ。それ……!」


 なにやら、鞄の中身をゴソゴソと漁り始めた美兎ちゃん。その姿を黙って見守っていると、なんとそこから取り出したのは、俺の差し出したうさぎと色違いのキーホルダー。


「……実はね、ミトも買ったの。瑛斗先生にあげようと思って」

「えっ? ……俺、に?」

「うんっ。今日のお礼に。瑛斗先生、うさぎちゃんが好きみたいだったから……。色違いになっちゃったね」


 ほんのりと赤く染まった頬で、恥ずかしそうにクスリと微笑んだ美兎ちゃん。

 まさか、お互いの為に選んだ商品が全く同じ物だったとは……。これはもはや、偶然なんて言葉では形容しがたい。
 そう——これはまさに、運命っ! こんなにも、俺達の想いは通じ合っているのだ。
 

「じゃあ……。交換こ、だね?」


 はにかむような笑顔を見せた美兎ちゃんは、俺の掌からキーホルダーを取り上げると、代わりに自分が持っていたキーホルダーをそっと置いた。その行為はまさしく、俺がここ最近ずっと夢見続けていた”アレ”と全く同じ行為で……。
 ついに夢が叶ったのだと、感動に心が震える。


(あぁ……。どこからともなく、祝福の鐘の音が聴こえてくる——)


 これはまさに、そう——!


 新郎新婦の、指輪交換だ♡♡♡♡


(……俺達っ! 結♡ 婚♡ しました……っ♡♡♡♡)
 

 俺の脳内で、何度も響き渡る祝福の鐘の音。その鐘の音を聴きながら、それはそれはだらしなく鼻の下を伸ばした俺は——。とても幸せそうな笑顔で美兎ちゃんを見つめると、キラリと一雫、歓喜の涙を流した。


(……っ神様、ありがとう!!!! 一生、大切にしますっ♡♡♡♡)


 可愛らしく微笑むマイ・ワイフ♡ を前に——俺はそう、神に誓ったのだった。





 ——その後。すっかりと幸せ気分に浸ってしまった俺は、どうやって自宅の最寄り駅まで辿り着いたのか……。その辺の記憶はさっぱりと抜け落ちていたが、そんなこと今はどうだっていい。
 買い込んだばかりの結婚情報誌片手に、ルンタッタ・ルンタッタと夕暮れに染まる歩道をスキップする。感動の涙を大量に流しながらスキップするその姿は、それはとても異様だったようで……行き交う人々は不審そうな目を向ける。
 だが、幸せ気分全開の俺には、そんなことちっとも気にはならない。

 そんなことより、挙式はどこにしようか、ハネムーンはどこにしようかなど……考えなくてはならないことが沢山あって、とても忙しいのだ。
 
 
(もちろん……。初夜のことも……っ♡ むふっ♡ ……むふふふふっ♡♡♡♡)


 もはや、笑い声が止まらない。
 不気味な笑い声を響かせながら、涙を流して軽快にルンタッタ・ルンタッタとスキップをする。その姿があまりに異様すぎて、翌日から【不審者、注意!】の看板が立てられたことは……俺の知る由もないこと。

 ——その日の夜。美兎ちゃんの年齢がまだ14歳だったと、衝撃の事実に気付いた俺。
 そんな俺が、キーホルダーを抱きしめながら一晩中泣き続けたこともまた、誰も知る由のないことなのだった。

給水・夏の陣2020 ( No.10 )
日時: 2024/08/05 19:01
名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)




 大学の夏休みってのは、どうしてこうも無駄に長いのか——。

 お陰様で、合コンに呼ばれてはそのまま朝まで飲んだくれて……。たまにモデルのバイトをしては、そのまま遊びに出掛けて飲んだくれて……。
 もはや、何が楽しいのか自分でもわからない。ただ、毎日が飲んだくれのパーティーだ。
 

(これじゃ、”大学生”じゃなくて”大遊生”だな……)


 なんて思っていた去年までのアホな俺は、もう、ここにはいない!
 ピッチリと七三に分けた髪に真面目そうな黒縁眼鏡をかけ、今日もパリッとのり付けされたシャツをチノパンにインしてキリリと顔を引き締める。

 今年の俺は、一味違う。去年までは無駄にダラダラと過ごしていた夏休みも、今年は充実した日々を送ると決めたのだ。
 叶うものなら、この充実した日々が一生続きますようにと。そればかり願い続けながら……。

 ——それはなぜなら!
 夏休み期間中は、普段よりもカテキョの時間が増えるから♡

 普段は週1・2で通っていたカテキョも、夏休み期間中は週3へと増えた。カテキョの時間が増えたのは勿論、美兎ちゃんが高校受験を控えた中学3年生だからっていう、ちゃんとした理由はあるのだが……。
 正直、美兎ちゃんはかなり優秀なので増やす必要はなかった。

 けれど、折角の機会をみすみす自ら放棄するわけもなく……。母親から勧められたこの提案を、俺は快く引き受けることにした。
 それはつまり——!

 単純に、美兎ちゃんと一緒に居られる時間が増えただけという、俺にとってナイスな展開となった。


(……今年の夏はっ! ”大遊生”ではなく”大恋愛”に励みます……っ♡♡♡♡)


「——瑛斗先生っ! 水分補給しに、あの河原まで行こっ?」

「うんっ♡ ……階段、気を付けてね(マイ・ワイフ♡)」


 キリリとした顔から瞬時に破顔させると、鼻の下を伸ばしてフラフラと美兎ちゃんの背中を追い掛ける。
 こうして、カテキョ終わりに『山田』の散歩に付き合うこともいつしか習慣となった。まぁ……少しばかり、この空間に『山田』がいることが邪魔ではあるのだが。【散歩】という名目な以上、仕方がない。


(……邪魔だけはするなよ、山田)


 プリプリとケツを振って歩く仔犬を眺めながら、心の中でそんな釘を刺す。


「『山田さん』。はい、お水だよ〜」


 トポトポとミネラルウォーターを注ぎながら、山田の目前にシリコン製の器を差し出した美兎ちゃん。それを、美味しそうにペロペロと飲み始める『山田さん』。
 こうも甲斐甲斐しく美兎ちゃんからお世話してもらえるとは……相変わらず、犬の分際で生意気だ。

 
(俺だって……っ! うさぎちゃんに、お世話されたいのにっ!!)


 そんな不毛な嫉妬を抱きつつ、愛おしそうに『山田さん』をナデナデする美兎ちゃんの姿を眺める。


(……グハッ! ……てっ、天使だ……っ!!!)


 その驚異的な可愛さに思わず片手で顔面を覆うと、フラリと後ろへよろけてはグッと堪える。
 俺はいつか——この可愛さの暴力に耐えきれずに、死んでしまうのでは……? そんな一抹の不安を、日々、薄っすらと感じている。

 ズキズキと痛む股間を太腿をすぼめて抑えると、ハァハァと呼吸を荒げて身悶える。


(これが……っ。噂に聞く、”腹上死”ってヤツかっ!!?)


 指の隙間からチラリと美兎ちゃんを見ては、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。その姿は、完全に『ロリコン変態野郎』そのものだ。
 そろそろ、”自首しろ”なんて声がどこかから聞こえてきてもおかしくはない。


「今日は、あっついね〜。『山田さん』。お水で遊ぼっか!」

 
 山田のリードを引くと、サンダルのまま川へと入水した美兎ちゃん。足首程の高さしかない水位で、楽しそうに山田とパシャパシャと遊ぶその姿は——。


(まさに、天使の水浴びだ……っ♡)

 
 潰れた顔の不細工な仔犬が……絵面的に、ちょっと邪魔だ。そんなことを思いながら、蕩けた笑顔で美兎ちゃんの姿を眺める。
 すると、バシャバシャと嬉しそうに駆け回る山田が、俺の目の前まで来ると突然バシャリと飛び跳ねた。グッショリと水浸しになる、俺のチノパン。


(……クソッ! 山田めっ!!)


「……よくもやったな〜! この野郎〜!」


 笑顔を取り繕って川へと入ると、闘争心剥き出しでバシャバシャと山田へ水攻めを開始する。


(俺を敵に回すとは……っ、ブァカなヤツめっ!! グハハハハッ!!!)


 悪魔のような笑い声を頭の中で響かせると、チョロチョロと動き回る山田を必死に追いかける。
 なんだか、山田が嬉しそうに見えるのは……。きっと、俺の気のせいだろう。そう思っておくことにする。


「ミト&『山田さん』チームと、瑛斗先生の勝負ぅ〜!」


 楽しそうな笑い声を響かせながら、パシャパシャと俺に水をかけ始めた美兎ちゃん。


(……えっ!!? 俺、美兎ちゃんの敵なの!!!?)


 いつの間にやら開始されていた勝負に、その組み合わせを聞いて軽くショックを受ける。


(ゥグッ……。クソォォオー!! お前なんて、嫌いだーっっ!!!!)


 俺の目尻から流れ出た悔し涙は、山田が走り回って飛び散った水と混ざり合い、空へ舞って儚く消えていった。それはそれは、綺麗に光り輝いて——。

 グッと口元に力を込めると、気持ちを新たにせめて一矢報いようと、夢中になって山田を追いかける。


(ところで……。勝敗って、どこで決まるんだ……?)


 頭の片隅でそんなことを考えながらも……。楽しそうにはしゃいでいる美兎ちゃんの姿を見ていると、勝敗などどうでもよくなってくる。いつしか、この戯れを純粋に楽しむようになっていた俺は、鼻の下を目一杯伸ばすと歓喜に心を震わせた。
 だって、これはまさしく……。テレビなんかでよく見る、海辺で楽しそうに水を掛け合う——!


(カップルみたいじゃないか……っ♡)


 一人、妄想にふけっていると、容赦なく美兎ちゃんからバシャバシャと水を掛けられ、頭のてっぺんから全身ビショビショになる。


「…………」


(そんな、容赦ないうさぎちゃんも……愛してるよ♡)
 

 美兎ちゃんからの愛ある水攻めを甘んじて受け入れる俺は、その間髪入れない容赦ない攻撃に、もはや呼吸すらままならない。


(このままじゃ俺……。愛に、溺れちまうよ……っ♡)


 それもまた、至福かな——。そんなことを考えながらも、容赦なく続く水攻めに本気で溺れかけては、アプアプと必死で呼吸を繰り返す。
 すると突然、チョロチョロとやって来た山田に足元をすくわれ、俺は後ろへよろけるとそのままバシャリと尻餅をついた。


(……クソッ! また、お前かっ!!! 山田!!!)


 山田のお陰で、水攻めから救われた……なんていう事実はさておき。山田の存在は、邪魔で仕方がない。


(っ、……いつか、覚えてろよっ!)


 プリプリとケツを振りながら近付いてきた山田の頭に触れると、ポンポンと軽く叩いて宣戦布告する。


「瑛斗先生、大丈夫? ……勝負は、ミト達の勝ちだねっ」


(え……? いつの間に……俺、負けたの?)


 そんなことを考えながら頭上を見上げてみれば、そこにはキラキラと輝く満面の笑顔の美兎ちゃんがいる。
 山田に負けたことは悔しいが、この笑顔が見れるのなら、まぁ……”負け”でもいいか、なんて。そんな風に思ってだらしなく微笑んだ俺は、その視線を何気なく美兎ちゃんの胸元まで下げてみた。


(———!!?!!? グオォォオーーッッ!!♡!!♡!!♡)


 ブシューッと盛大に鼻血を吹き出すと、そのままゆっくりと倒れて仰向けにひっくり返った俺。


「……キャーーッッ!!!? 瑛斗先生が、死んじゃうっっ!!!!」


 心配そうに駆け寄る美兎ちゃんを他所に、俺の血走った瞳は美兎ちゃんの胸元を凝視したままギンギンにカッ開いた。


(これが……っ。試合に負けて、勝負に勝つ……ってやつなのか……!!!? なら……っ、いくらでも試合に負けたって、いい……ッッ!!!!)


 水面から薄っすらと顔を出したまま、ドクドクと流れてゆく俺の鼻血。まるで事件現場かのように赤く染まってゆく川の中で、俺は歓喜の涙を流しながらゴボゴボと泡を出して微笑んだ。

 
(おっぱい……バンザイ♡♡♡♡)


 スケスケの美兎ちゃんのブラジャーをガン見し続けながら……このまま死んでもいいと、本気で思えた。この日の思い出は俺の心に深く刻まれ、一生忘れることはないだろう。
 美兎ちゃんにもまた、この日の惨劇は恐怖体験として深く刻まれ、一生忘れることのない思い出となった。





 ——これが、後に語り継がれることとなる【給水・夏の陣2020】。

 鼻血もまた、後ろに倒れながら噴き出せば綺麗な放物線を描くのだと。そんな新たな発見をした。
 キラキラと輝く赤い飛沫を上げて、見事な虹を作った——2020年、夏の思い出。

悪魔、再び ( No.11 )
日時: 2024/08/06 18:56
名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)





(今日はっ、た〜のし〜いっ、デートッの日〜っ♡)

 
 今にも踊り出しそうな勢いで、ルンタッタ・ルンタッタと軽快にスキップをしながら、カテキョに向かうご機嫌な俺。
 言っておくが、別に熱中症でおかしくなった訳ではない。強いて言うなら——。


(うさぎちゃんに……っ、狂ってるだけさっ♡♡♡)


 1人、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。そのままルンタッタ・ルンタッタとスキップをしながら角を曲がると、その先に見えてきたカップルらしき一組の男女。


(っ……クゥ〜ッ! 夏だね〜♡ 恋の季節だね〜っ♡ どんどん恋しろよ〜っ、ガキどもっ!)


 中学生らしき若いカップルを眺めて、そんなことを思ったご機嫌な俺。そのまま軽快にスキップをしようとした、その時——。
 ピタリと歩みを止めた俺は、左足を宙に浮かせた体制のまま硬直した。


 ———!!?



 その見覚えある女の子の姿に驚き、近くにあった電柱にシュバッと素早く身を隠す。
 

(……あ、あれは……っ! いつぞやの……、悪魔っ!!!)


 ピンぼけのように、薄っすらとしかその姿の記憶は残ってはいなかったが、あれは……間違いなく——。天使(美兎ちゃん)に初めて遭遇した時に、その傍らに居た少女だ。
 俺のことをキモいと罵り……。挙げ句の果てに、俺の顔面目掛けて雑にパンを投げつけてきた——。

 あの、悪魔のような女の子。


(っ……な、何で、こんなとこにいるんだ……っっ!!?)


 あの日の出来事に若干のトラウマを抱えていた俺は、プチパニックを起こして思わず身を隠してしまったが。冷静になって考えてみれば、あの子は美兎ちゃんの同級生。つまりは同じ学区なわけで……。
 近所で見かけたとしても、なんらおかしくはないのだ。現に、初めて2人に出会ったのもこの先にある公園だ。
 むしろ、あれから今まで遭遇しなかったことの方が、奇跡だったのかもしれない。

 電柱からコソッと顔を覗かせると、恐る恐ると悪魔——もとい、中学生カップルの動向を伺う。


(…………。たかだか中学生相手に、俺は何をこんなにビビッてんだ……?)


 だが——相手はあの、悪魔のような女の子。万が一にでも正体がバレようものなら、また何を言われるかわかったもんじゃない。
 例えバレなくとも、通りすがりに”キモダサ眼鏡”とか馬鹿にしてきそうだ。……あの悪魔なら、その可能性は充分にあり得る。


(……仕方ない。遠回りだけど、迂回するしか——)


 そう思ってきびすを返した——その時。


「——もうっ! だから、しつこいってばっ!!」



 ———!?



 突然聞こえてきた荒々しい声に、ピタリと足を止めると声のした方へと視線を向けてみる。するとそこには、何やら男と揉めている悪魔がいる。


(ん……? 痴話喧嘩か?)


 先程までは仲良さげに見えていたカップルだったが、どうやら喧嘩でも始めたらしい。


(フッ……。これも、青春だな……。頑張れよ、ガキども)


 今の内にこの場からずらかってしまおうと、再び2人に背を向けて歩き始める。


「なんでだよ! ……いいじゃんか、少しくらい!」

「……っだから! 嫌だって言ってるでしょ!?」


 ただならぬ気配に、思わずピタリと足を止めた俺。チラリと後ろを振り返って様子を見てみれば、嫌がる悪魔の腕を無理矢理掴んで、必死に引き止めようとしている少年の姿が目に入る。


(おいおい……。そんなんじゃ、モテねぇぞ、少年……)


 いくら相手は、あの悪魔とはいえ……。あれでは、女の子の扱いがまるでなっていない。『ロリコン変態野郎』の俺ですら、女の子に対してあんな粗暴な態度は絶対にとらない。
 そこは、あれだ。最低限のモラルってやつだ。変態には、変態なりのモラルがあるのだ。


(…………。いや、待て。俺は別に、変態なんかじゃねぇし……)
 

 1人、そんなことを考えていると、益々ヒートアップしてゆく痴話喧嘩。


「……やっ! ちょっ、痛いから! 離してってば!!」

「いいじゃんかよ、キスくらい! 減るもんじゃないし!」

「……っ、はぁぁあ!? 何言ってんの!? あんた、バカじゃないの!!?」

「……っ! なんでだよ! いいだろ!? ……な? ——って、あんた誰だよ!!?」

「…………。……あっ」


 突然俺へと向けられたその視線に驚き、ピクリと口元を痙攣らせると小さく声を漏らす。


(ヤベッ……。思わず、飛び出しちまった。どーすんだ、これ……)


 気付けば、少年の腕を掴んで悪魔から引き離してしまっていた俺。なんとも気不味い、今のこの状況。ハッキリ言って、かなりピンチな予感しかしない。
 そう思ってゆっくりと視線を下へと向けてみると、そこには敵意剥き出しで俺を睨みつけている少年と……。その隣りには、唖然と俺を見つめている悪魔がいる。


(ゲッ……!!? ヤ、ヤベェ!!! ヤベェぞ、これ……!!? 何やってんだ……っ、俺のバカ野郎……ッ!!!)


 今更ながらに、その場で1人あたふたとする。
 

(……あ、あああっ、悪魔に気付かれる前にっ……!! さっさとこの場からずらからなきゃ、ヤベェ……ッッ!!!)
 

「だからっ! 誰だって聞いてんだろ!? ……シカトすんなよ、クソダサ眼鏡っ!!」


(——!!? クソダサ……眼鏡……だ、と……? こん、の……っ、クソガキがぁぁああ!!!)


 ピキリと額に血管を浮き立たせると、目の前のクソガキを見て口元をヒクつかせる。

 確かに、今の俺はクソダサ眼鏡だ。わざとそうしているのだから、それは仕方のない事実。だが——。
 こんな中坊のクソガキに、言われたかない!


(っ……この俺を、誰だと思ってやがる!! ナメやがって……っ、このクソガキがぁぁあ!!!)


「女の子には優しくしなきゃダメだよ、クソ……、少年。嫌がってるの……わかるよね?」


 青筋を立てながらもニッコリと不敵に微笑めば、そんな俺を見て瞬時に青ざめるクソガキ。所詮は中坊のガキ。チョロいもんだ。
 

「……じょっ、冗談に決まってるだろっ! ——じゃあ俺、もう帰るから! ま……っまたな、衣知佳いちか!」


 掴んでいた俺の手を振り払うと、この場から逃げるようにして走り去ってゆく少年。そんな後ろ姿を眺めながら、悪魔のような笑い声を脳内で響かせる。


(……グハハハハッ!!! ブァカめっ!!! 俺に勝とうなんざ、1億年はぇーんだよっっ!!!)
 

「…………。あのぉ……」

「——ファッ……!!? ゥグッ!!」


 いきなり目の前にドアップで現れた悪魔の顔に驚き、瞬時に後ろに身体をけ反らせた俺。思いのほか仰け反ってしまったせいか、激痛の走った腰を抑えて悶絶する。


(ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェ……ッッ!!!! 絶対、ヤベェ……ッッ!!!!)


 俺の顔を覗き込むようにして、ジーッと静かに俺を見つめている悪魔。その沈黙が、やけに恐ろしい。
 俺は悶絶しながらも仰け反った腰に手を当てると、もう片方の手で顔を覆って天を見上げた。その体制で、悪魔の視線から逃れようと必死に顔を逸らす。


「…………」


 とてもじゃないが、到底モデルをしているとは思えない、無様なポーズだ。だが——今は、そんな事を気にしてはいられない。
 なんとか、この場を切り抜けなければならないのだ。


「助けてくれて……、ありがとうございます」

「…………ふぇ?」


 予想外な言葉にチラリと指の隙間から様子を伺うと、ほんのりと赤く頬を染めた悪魔が俺を見て小さく微笑んだ。モジモジとした仕草が、いささか気にはなるところだが……。どうやら、この様子を見る限りでは、俺の正体には気付いていないらしい。
 ホッと胸を撫で下ろすと、ズレた眼鏡を直しながら姿勢を整える。


「いやいや、礼なんていいよ。たまたま通りがかっただけだから。……それじゃ、気を付けてね」
 

 今はバレていないとはいえ、いつ正体が見破られるとも限らない。長居は無用だ。
 そう思うと、俺はそれだけ告げるとそそくさとその場を後にしたのだった。


闘う男、スーパーマン ( No.12 )
日時: 2024/08/07 17:57
名前: ねこ助 (ID: TDPFE706)




(ハァ……。なんとかバレずに済んで良かったわ〜。……いやぁ、マジで焦った)


 万が一悪魔に正体がバレようものなら、危うく家庭教師の職を失う事になっていたかもしれない。腰の負傷だけで済んだのなら、安いものだ。
 未だビキビキと痛む腰を抑えつつ、可愛い美兎ちゃんの笑顔を思い浮かべる。


(あぁ……っ! 俺の可愛いマイ・ワイフ♡♡♡ 今行くから、待っててね♡♡♡ ——!!?)


 ルンタッタ・ルンタッタとスキップを始めようとした——その時。
 俺は瞬時に顔を青ざめさせると、そのままゆっくりと視線を横に向けた。


(……エッッ!!!? な、ななななっ……、なんでいるんだ!!!?)


 俺のすぐ隣りをシレッと歩く悪魔の姿を見て、俺の心臓はズンドコズンドコと急激に鼓動を早める。


(エッ……!!!? 何っ!!? も、もももっ、もしや……っ!!! バレたとかっっ!!!?)


 緊張で血走った瞳をガッと開かせると、悪魔に向けてゆっくりと口を開く。


「あの……。何か、俺に用……かな?」

「あ、私もこっちなんです」

「あぁ、そうなんだね……」


(……って、いやいや!! それにしたって、俺の隣りを歩く必要なくねっ!!?)


 なんてことを思いつつも、バレるリスクを恐れて沈黙する。
 いつもなら軽快にスキップしている通い慣れたこの道のりも、悪魔が隣りにいるせいでちっとも楽しめないばかりか、まるで地獄のように感じる。


(一体、どこまで一緒なんだ……?)


 チラリと隣の様子を見てみるも、ニコニコと嬉しそうな顔を見せる悪魔は一向にこの場からいなくなる気配がない。
 このままでは、もうすぐ美兎ちゃんの家へと辿り着いてしまう。


(っ……くそぉー!! 俺のハッピーロードを、返してくれ……っ!!!)


 その悔しさをグッと堪えると、涙を飲んで平静を装う。
 残念ながら、俺のハッピーロードは奪われてしまったが、正体がバレていない事に一先ひとまずは良しとするしかないのだ。
 
 幸いなことに——俺にはまだ、美兎ちゃんとの2人きりでのカテキョの時間という、究極の癒しが残っている。そこで挽回ができるのなら、おんの字だ。
 そんな事を考えながら、白塗りの可愛らしい家の前でピタリと足を止める。


(……お待たせ♡♡♡ マイ・ワイフ♡♡♡ )


 死人のような顔から瞬時に破顔させると、目の前にあるインターホンに向けて右手を伸ばした俺。そのままボタンに触れてインターホンを押そうとした——その時。
 左隣りから感じる嫌な気配に気が付き、俺はピタリと動きを止めると恐る恐る左隣りを見た。


「…………へ?」


(なんで……、いるの……?)


 間抜けな声を小さく漏らすと、視界に映る悪魔の姿を呆然と見つめる。
 そんな俺を見てニッコリと微笑んだ悪魔は、俺の人差し指の上に自分の指を重ねると、そのままインターホンを押し鳴らした。


『——はい』

「……あっ。美兎、着いたよ〜」

『あっ! 衣知佳ちゃん! ……あれ? 瑛斗先生も一緒だぁ〜! 待ってて、今開けるねっ!』


 インターホン越しのそんなやり取りを、ただ、呆然と突っ立ったまま眺める。



 ———ガチャッ



「いらっしゃ〜いっ!」


 程なくして開かれた扉から、笑顔の美兎ちゃんが元気よく姿を現した。


「遅くなって、ごめ〜ん」

「ううん、大丈夫っ! 入って、入って〜! ……瑛斗先生も、早く早く〜!」


 キャッキャと無邪気な笑顔をみせる美兎ちゃんを眺めながら、俺は先週交わした美兎ちゃんとのやり取りを思い出していた。


(そういえば……。夏休みの宿題を一緒にやる為に、友達が来てもいいかって聞かれたっけ……)


 すっかりと忘れていたが、確かそんな事を言っていた気がする。
 美兎ちゃんに夢中になりすぎるがあまり、そんな大事な事を聞き流していたとは——。

 脳裏に浮かぶのは、美兎ちゃんの前でデレデレとした笑顔を浮かべる、先週の間抜けな自分の姿。「いいよ、いいよ」なんて、たいして考える事もせずにヘラヘラと答えていた、そんな姿を思い返す。

 何故、軽はずみに受けた。先週の馬鹿な俺。今更後悔したって、もう遅いのだ。
 こうなってしまえば、正体がバレないよう徹底的に演じるしかない。

 ここから先は、戦場だ——。


(うさぎちゃんとの、甘ぁ〜い新婚ライフ♡ という、輝かしい未来は……っ!! なんとしてもっ……、守ってみせるっっ!!!!)


 早々に本日の”美兎ちゃんとの至福の時間‘’を諦めた俺は、そう覚悟を決めるとカッと見開いた瞳で目の前を見つめる。

 そこに見えるのは、マイ・ワイフ♡ の隣りで上機嫌な笑顔をみせる少女の姿。俺の視線に気が付くと、ほんのりと赤らめた頬でクスリと小さく微笑む。
 やはりあれは——少女の姿をした、悪魔の化身に違いない。

 ならば、倒すしかないだろう。

 スーパーマンだったら、ここで逃げ出すなんて事はしないはず。悪と向き合い、必ずや勝利を収めるのだ。
 最近見た、リバイバルされた【スーパーマン】の映画を思い浮かべて、そんなことを思う。
 

(覚悟しろっ! ……悪魔めっ!! 俺の大切な‘’至福の時間’’を奪ったこと……っ、後悔させてやるっっ!!! グハハハハッ……!!!)


 どちらが悪魔か、もはやわからない。そんな笑い声を脳内で響かせながら、嬉しそうに微笑む悪魔の横顔を見つめる。
 メラメラと闘志に燃える瞳で悪魔に向けて目に見えないビームを発射しながら、俺はぬぐいきれない悔しさと悲しさから、一筋の涙を零すのだった。
 
 

それは綺麗な、花でした♡ ( No.13 )
日時: 2024/08/08 01:13
名前: ねこ助 (ID: 0L0ONGC.)





「——ねぇねぇ、瑛斗先生。ここってどうやるの?」


 目の前に座っている悪魔の姿を見つめ、タラリと冷や汗を垂らす。


「あく……っ、衣知佳ちゃん。何度も言うけど、俺の担当教科は英語なんだよね。……だからさ、英語の宿題やらない?」

「うん、知ってる。でも、わからないの数学なんだもん」


(…………。俺だって、数学なんてわかんねぇよっ!!)
 

 そんな事を思いながらも、目の前に差し出された数学のプリントを見て、無い脳ミソを懸命にフル回転させる。
 さっきから、やたらと俺に向けて数学の質問ばかりをしてくる悪魔には、ほとほと困り果てている。

 帰国子女が故、英語だけは人並み以上にできると自負している俺だが……。自慢じゃないが、それ以外の教科に関してはてんでダメ。
 もっと真面目に授業を受けとくべきだったと後悔しても、今更遅い。
 
 これはもしや、新手の拷問攻撃だろうか……? 流石は悪魔だ。
 チラリと悪魔の隣りに視線を移すと、1人黙々と英語の宿題をこなしている美兎ちゃんがいる。


(っ……、クソォォオ!!! 俺の、至福の時間が……っ!!!)


 悔しさにグッとシャーペンを握りしめると、目の前の悪魔に向けて目に見えないビームを発射する。その熱線でボッと焼け消えた悪魔を妄想しては、1人、脳内で高笑いをする。
 
 
(グハハハッ!! 思い知ったか!! 悪魔め……っ!!!)


「…………」


 ……なんだか、凄く虚しい。どんなに愉快な妄想をしようとも、現実では、俺の目の前で悪魔はピンピンとしているのだ。
 これは、認めざるを得ない事実。俺の乾杯……いや、完敗だ。

 悔しさに薄っすらと滲み出た涙をグッと堪えると、滲んだ瞳で手元のプリントを見つめる。


「…………」


 意味不明な数字の羅列に、益々涙が溢れてくる。惨敗だ。誰か助けてくれ……。
 どうやら俺は、スーパーマンにはなれなかったらしい。
 
 素直にわからないと言ってしまいたいところだが、美兎ちゃんの前ではカッコつけていたいという……そんなクソみたいなプライドから、どうにも言い出せない。


(……っ。俺の……、馬鹿野郎ッ!!!)


「……ん〜っ! 疲れたね〜。……ちょっと、休憩しよう?」


 突然、小さく伸びをした美兎ちゃんは、俺達に向けてニッコリと微笑むとナイスな提案を告げた。


(あぁ……っ! 君はやっぱり、俺の女神さまだ……っ♡♡♡)


 神々しく光り輝く美兎ちゃんに向けて尊敬とよこしまな眼差しを向けると、とろけた顔でだらしなく微笑みながら鼻の下を伸ばす。


「……あっ。そういえば、衣知佳ちゃんどうして瑛斗先生と一緒に来たの?」

「んー……。たまたまね、助けてもらったの」

「助けてもらった……?」

「うん。悠真ゆうまがさぁ〜、しつこくて」

「あぁ……、元カレ君?」

「そう」

「助けてもらって良かったね。……瑛斗先生、ありがとう」


 俺に向けてニッコリと微笑む美兎ちゃんの姿を見つめながら、俺は鼓動をバクバクと跳ねさせた。
 通常の俺なら、間違いなく鼻の下を伸ばしていただろう。そんなシチュエーションにも関わらず、俺は顔面を蒼白にさせるとその場で固まった。


(元……カレ……だ、と……っ?)


 俺としたことが……今まで一度も考えもしなかったとは、なんということだ……!
 美兎ちゃんにも、元カレ——いや、彼氏がいる可能性は充分にあるのだ。

 ——否。これだけ可愛いのだから、間違いなくいるはず。


(フグゥ……ッッ!!?!!?)


 突然襲ってきた胸の痛みにハァハァと喘ぎながら、胸元を抑えると悶絶する。
 この、言葉にならない程のショックさは、今年で1番……いや、今まで生きてきた中で、1番の攻撃力を以って俺のガラスのハートを粉砕する。

 今にも絶命してしまいそうだ。辛すぎて、もはや涙すら出てこない。


「ジュースとお菓子、持ってくるね」


 そう告げると、部屋を後にした美兎ちゃん。
 その場に1人(と、ついでに悪魔も)残された俺は、瀕死の形相で美兎ちゃんが出て行った扉を見つめた。


(お……、俺の……可愛い、うさぎちゃん……っ。俺を置いて……何処に、行くの……っ?)


 一階にある、キッチンだろう。ジュースとお菓子を持ってくると告げて出て行ったのだから、そんなことは頭の片隅ではわかっている。
 
 ——だが。
 立ち去る美兎ちゃんの背中が、まるで彼氏の元へと旅立ってゆくかのように見えて——それが、酷く切なかった。


「瑛斗先生。さっきは本当にありがとう」


 その声にゆっくりと振り返ってみれば、俺と視線を合わせた悪魔がほんのりと赤く染めた頬でニッコリと微笑んだ。


「あ゛……っ。い、い゛よ、い゛……、い゛よ」


 引き攣った顔で懸命に笑顔を取り繕いながらも、声にならない声で必死に言葉を紡ぐ。
 ……まるで、壊れかけのレディオ。何処かで聞き覚えのあるフレーズだ。


「中学、生……っ、なの、に……がれ、じ……なん、て……、い゛るんだ……ね゛」

「え〜? 結構普通にいるよ、皆んな」

「っ……ぞ、うな……っん、だ」


 言われてみれば——。
 確かに、俺も中学生の時には既に彼女がいた。それなのに……今まで全く考えもしなかったとは、なんたる不覚。
 万年お花畑脳内が故の、大失態だ。

 そんな壊れかけのレディオに向けて、悪魔がニッコリと微笑む。


「友達の半分は、彼氏がいるかな〜」


(……っ。その半分には、うさぎちゃんも……、入っているんですか……っ?)


 今更ながらに、薄っすらと涙が滲み出てくる。
 辛すぎるが、確認せずにはいられない。


「へ……、へぇ〜。ず、凄いね゛〜。……みっ、みみみ……美兎、ちゃんにも……っ、い゛る゛の、かなぁ〜? な゛んて……っ」


 自分で言っといてなんだが、想像すると泣けてくる。
 一縷いちるの望みを懸けて、血走った瞳で目の前の悪魔を凝視する。


「ううん。美兎はいないよ」

「——!!!? ……えっ!? そ、そそそっ、そうなの!? ……へぇ〜、それは意外だねっ!」


 わかりやすく、途端に満悦な表情へと切り替わった俺の顔。


「そうなんだよね〜。意外なんだけど、今まで彼氏が出来たことないんだよね。なんでだろ……」


 なんでだろうが、そんなことはどうだっていい。


(美兎ちゃんは……っ! やっぱり、俺の天使なんだ♡♡♡)


「市橋くんとか、絶対に美兎のこと好きだと思うんだけどなぁ……。あの2人、付き合ったりしないのかな〜」


(——!!!? っ……なんて不吉なことを言うんだっ!!! ……この、悪魔めっっ!!!!)


 ブツブツと1人呟いている悪魔に向けて視線を送ると、血走った瞳をカッと見開きプルプルと震える。



 ———カチャッ



「お待たせ〜」


 そんな軽快な声を響かせながら、部屋へと戻って来た美兎ちゃん。
 バッと素早くそちらに視線を移すと、愛らしい天使を眺めて瞬時に破顔させる。


「手伝うよ、美兎ちゃん」

「ありがとう」


 そう言いながらペットボトルを受け取ると、俺を見上げてニッコリと微笑んだ天使。
 

(……グフゥッッ!!! なんてっ、破壊力だ……っ!!! マイ・スウィート・エンジェル♡♡♡)


 危うく吐血しそうになりながらも、ふらりとよろけた足元をグッと堪える。
 一時はショックのあまり、この世の終わりを垣間見てしまったが……。それでも、奇跡を信じて耐え抜いて良かった!


(美兎ちゃんは、やっぱり俺の……! っ……、いや! 俺だけの、エンジェルなんだっ♡♡♡♡)


「今ね〜。ちょうど、美兎の話ししてたんだよね〜」

「……え? 何の話し?」

「美兎って、何で彼氏作らないのかな〜って」

「え〜っ」


 キャッキャと楽しそうに話しながら、元の席へと戻ってゆく美兎ちゃんの姿を眺める。
 悪魔による、若干の話の脚色が気にはなるところだが……今回ばかりは、俺にとって朗報をもたらした良き情報提供者として、寛大な心で許してやろう。

 目の前で、楽しそうにガールズトークに花を咲かせている2人の姿を眺めながら、手元のペットボトルをトポトポとグラスに注いでゆく。


「こんなに可愛いんだから、勿体ないよ〜」

「あっ。……もう、やだぁ〜」


 美兎ちゃんの頬をツンッとつつくと、ニヤニヤと楽しそうに微笑む悪魔。
 

「……ぁふんっ。やぁ〜! くすぐったいってばぁ〜! もぅ……、お返し〜!」

「きゃ……っ! やだぁっ、美兎やめて〜!」


 いつの間にやら開始されたくすぐり大会を前に、俺は鼻の下を目一杯伸ばすとその光景をガン見した。
 徐々に荒くなる呼吸と共に、俺の血走った瞳はギンギンに輝きを増してゆく——。

 どうやら、俺は今までとんでもない勘違いをしていたらしい。
 悪魔のように思えた、その少女の真の姿は——天使の傍に添えられた、綺麗な花だったのだ。

 ならば、俺の脳内に植えて後生大切に育ててやろうじゃないか。これはまさに、そう——!


(っ……、百合ですね!!?♡♡♡♡)


 ドボドボとグラスから溢れ出るジュースを余所に、目の前でイチャつく2人の姿を眺めながらニヤリと不気味に微笑む。

 今日は散々な1日だと思っていたが、まさか、こんなサプライズが待ち受けていたとは……。埋もれる木に花咲くとは、まさにこのことだ。苦痛に耐え抜いたあの時間も、これでようやく報われたといえよう。
 お陰様で——。


(無事に……っ、綺麗な花が、咲きました……っ♡♡♡♡)


 歓喜に震える瞳から一筋の涙を流すと、グラスから溢れ出たジュースでビシャビシャと股間部分を湿らせる。
 俺は抑えきれない喜びに「ぐふっ♡」と小さな声を漏らすと、それはそれはとんでもなく鼻の下を伸ばしながら、膨らむ妄想に1人酔いしれては愉悦した微笑みを浮かべたのだった。
 




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