コメディ・ライト小説(新)

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ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜
日時: 2024/09/24 01:29
名前: ねこ助 (ID: tOcod3bA)

★あらすじ★

見た目は完璧な王子様。
だけど、中身はちょっと変な残念イケメン。
そんな幼なじみに溺愛される美少女の物語——。


お隣りさん同士で、小さな頃から幼なじみの花音と響。
昔からちょっと変わっている響の思考は、長年の付き合いでも理解が不能!?
そんな響に溺愛される花音は、今日もやっぱり振り回される……!
嫌よ嫌よも好きのうち!?
基本甘くて、たまに笑える。そんな二人の恋模様。



◆目次◆

♡第一章♡
1)私の幼なじみはちょっと変>>01
2)私のお兄ちゃんは過保護なんです>>02
3)君はやっぱり変でした①>>03
4)君はやっぱり変でした②>>04
5)君はやっぱりヒーローでした>>05
6)そんな君が気になります①>>06
7)そんな君が気になります②>>07
8)君はやっぱり凄く変①>>08
9)君はやっぱり凄く変②>>09
10)君は私の彼氏でした!?①>>10
11)君は私の彼氏でした!?②>>11
12)そんな君が大好きです①>>12
13)そんな君が大好きです②>>13
14)そんな君が大好きです③>>14
15)そんな君が大好きです④>>15

♡第二章♡
16)君は変な王子様①>>16
17)君は変な王子様②>>17
18)君とハッピーバースディ>>18
19)君ととんでもナイト>>19
20)君と私とロバと……①>>20
21)君と私とロバと……②>>21
22)恋人はサンタクロース①>>22
23)恋人はサンタクロース②>>23
24)恋人はサンタクロース③>>24
25)煩悩はつまり子煩悩!?①>>25
26)煩悩はつまり子煩悩!?②>>26
27)煩悩はつまり子煩悩!?③>>27
28)君とハッピーバレンタイン①>>28

私の幼馴染みはちょっと変 ( No.1 )
日時: 2024/08/19 19:01
名前: ねこ助 (ID: gh05Z88y)





 電子的なアラーム音が鳴り響き、私はゆっくりと瞼を開けると携帯に手を伸ばした。


(お……重い……)


 やけに重たい腕を懸命に伸ばすと、やっとの思いで届いた携帯を掴んでアラームを止める。
 次第に覚醒されてきた頭をゆっくりと動かすと、私は後ろを振り返った。

 視界に入ってきたのは、長い睫毛が生えた瞼をきっちりと閉じる、彫刻の様に綺麗な顔。ミルクティー色に染められた髪が、私の頬に当たってくすぐったい。


「ひぃくん……」


 小さく溜息を吐くと、私の身体に乗せられた腕を退かそうと動かしてみる。


(重たい……)


 意識のない身体は思った以上に重たく、私はまた小さく溜息を吐いた。


「ひぃくん、起きて」


 腕を退かすのを諦めた私は、その腕の主を起こそうと身体を揺すってみる。
 目の前にある綺麗な顔は、相変わらず瞼を閉じたまま「んー」と小さく声を漏すと、私を抱き寄せてキツく抱きしめる。

 腕を退かしてもらいたかったのに、これでは益々動けない。苦しさに小さく声を漏らすと、抱きしめる力がふっと弱まった。
 緩められた腕の隙間からそっと顔を上げてみると、綺麗な二重まぶたから覗く少し茶色い瞳と視線がぶつかる。


「おはよー。花音かのん


 私を捉えた瞳は優しくその形を変えると、ふわりと微笑んだひぃくんは私の頬にキスをした。


「ひぃくん……。また勝手に入ってきたの?」


 溜息まじりにそう漏らすと、たった今キスをされた頬をゴシゴシと擦る。


「んー。花音と一緒じゃないと眠れなくて」


 フニャっと微笑んだひぃくんは、そう言って私を抱きしめると再び頬にキスをする。

 何度も……何度も……。


「やー! ひぃくん、やめて!」

「んー、可愛い。花音」


 私は本気で嫌がっているというのに、ニコニコと微笑むひぃくんはガッチリと掴んで離さない。

 ベッドの上でジタバタと暴れていると、廊下からバタバタと走ってくる音が聞こえた、次の瞬間——。私の部屋の扉が乱暴に開かれた。



 ———バンッ!



 目の前の扉から現れたのは、スラリと背の高い黒髪の美しい人。
 その綺麗な顔は、私の横にひっついているひぃくんを捉えると、途端に鬼のような顔に変わる。


ひびき……」


 唸るような声を絞り出すと、ギロリとひぃくんを睨みつける。


「お兄ちゃん……。た、助けて……」


 私はその鬼……。ではなく、お兄ちゃんに向けて助けを求めた。
 ズンズンとベッドへと近付いて来ると、私の横にひっついているひぃくんの首根っこを掴み上げたお兄ちゃん。


「また来たのか……響」

「あ、かける。おはよー」


 鬼の様な形相のお兄ちゃんとは対照的に、相変わらずニコニコとしているひぃくん。


「花音。窓の鍵はちゃんと閉めとけって言ってるだろ」

「だって……」


 チラリと私を見てくるお兄ちゃんに、反論しようと一度口を開いては、すぐにまたその口を噤む。


(だって……。鍵を閉めてると、開けるまでひぃくんが窓を叩くから煩いんだもん……)


 お隣に住むひぃくんは小さな頃からの幼なじみで、昔からよく窓をつたって私のベッドへ潜り込んできた。
 流石にもう、高校生だし辞めて頂きたい。私だってそう思う。



 ——中学生の頃。
 思春期真っ只中だった私は、ひぃくんがベッドに忍び込んでくるのが嫌でたまらなかった。
 だから、窓に鍵を掛けた。

 いつものように夜中に窓の外に現れたひぃくんは、「花音あけてー」と言って窓を叩いた。私はひたすら無視を決め込み、コンコンと叩く煩い音に耳を塞いだ。
 それでも、暫くしても諦めようとせずにずっと窓を叩き続けるひぃくん。


(もう、いい加減諦めてよ……)


 頭から布団を被って聞こえないフリをすると、気付いたらそのまま熟睡してしまっていた私。翌朝目が覚めると、カーテンを開けて驚いた。
 ——なんと、窓の外にひぃくんがうずくまっているのだ。


(真冬だっていうのに、まさかずっと外にいたの……?)


 急いで窓を開けると、恐る恐るひぃくんに向けて口を開く。


「あっ、あの……。ひ……ひぃくん?」


 私の声にピクリと肩を揺らしたひぃくんは、俯いていた顔をゆっくりと上げた。


「花音……。おはよー」


 鼻水を垂らしながら、フニャっと笑ったひぃくん。
 その日、ひぃくんは40度の熱を出した。

 私よりニつ年上のひぃくん。正直、なんてバカなんだろうと思った。
 それ以来、私は窓の鍵を必ず開けるようにした——。




 お兄ちゃんに首根っこを掴まれたまま、ズルズルと引きづられてゆくひぃくん。


「花音。また後でねー」


 相変わらずニコニコと微笑んでいるひぃくんは、ヒラヒラと手を振ると私の部屋から姿を消した。
 私は大きく溜息を吐くと、閉じられた扉を見つめた。

 あんなんでも——実は、ひぃくんは凄くモテる。
 お兄ちゃんとは対照的な雰囲気だけど、同い年の二人はその人気を二分にして、昔からよく学校の女の子達から騒がれているのだ。


(私だって……)


 何を隠そう、実は初恋はひぃくんだったりする。
 まるで絵本の世界から出てきたかのように、王子様みたいにカッコイイひぃくん。性格だって優しいし、一見すると申し分ない。
 ——ただ、ひぃくんはちょっと変。


 私がそれに気付いたのは、小学四年生の頃だった——。


 休み時間に廊下でクラスの男の子と話していると、突然やってきたひぃくんが男の子を殴った。
 私の目の前で、豪快に吹き飛ぶ男の子。周りでは悲鳴が聞こえ、殴られた男の子は床に尻もちを着くと呆然とひぃくんを見上げる。

 あっという間に騒ぎになった廊下に、誰が呼んだのか気付けば先生が駆けつけていた。
 何で殴ったのかと問いただす先生に、ひぃくんは口を開くとこう言った。


「蚊が止まってました」


((……そんな訳あるはずない。今は二月だ))


 ——その場にいた全員が思った。


 私が中学生になったある日も、廊下でクラスの男の子と話していると、突然どこからともなく現れたひぃくん。
 何だかデジャヴを感じた私は、またひぃくんが殴るのではないかとハラハラとした。


(ひぃくん……今は四月。まだ、蚊はいないよ)


 そう思いながら様子を伺っていると、突然、私の肩をガシッと掴んだひぃくん。
 驚いた私は、腰を屈めて私を覗き込むひぃくんの顔をジッと見つめた。


「っ、花音! ダメだよ、妊娠したらどうするの!?」


 大きな声でそう言い放ったひぃくん。


(意味がわからない……)


 思わず、ふらりとよろける。
 ひぃくんの放った言葉で、一気に周りからの視線が私に集中する。
 恥ずかしくて堪らなくなった私は、涙目になった目をギュッと瞑ると、その視線から逃れるかのようにして俯いたのだった——。


 ひぃくんの思考回路は、ちょっと変わっている。たぶん、そうなんだと思う。
 そんなひぃくんを知らない女の子達は、相変わらずひぃくんを王子様だと言ってキャーキャーと騒いでいる。

 ——確かに、見た目は王子様。
 でも、私からしたら残念なイケメン。ひぃくんはそんな感じ。

 私はベッドから立ち上がると、ハンガーにかかった制服を取り上げて学校へ行く支度を始めた。






◆◆◆






 制服に着替え終えた私は、一階へ降りるとリビングの扉を開いた。
 フワリと香る、朝食のいい匂い。ダイニングを見ると、既にそこに座っていたひぃくんがニコニコとしながら手招きをする。

 私は黙ったままダイニングへと近付くと、ひぃくんとは離れた席に腰を下ろした。それを見たひぃくんは、座っていた席から立ち上がると私の隣へと座り直す。
 チラリと隣を見ると、ニッコリと微笑むひぃくん。


「——おい」


 後ろを振り返ると、鬼の形相のお兄ちゃんがひぃくんを睨んでいる。


「なんで毎朝、お前がいるんだよ」


 そんな事を言いながらも、手に持った朝食を私とひぃくんの前に置く。
 何だかんだ言いつつも、毎朝ひぃくんの分も朝食を用意しているお兄ちゃん。


「ありがとー。翔は料理が上手だねっ」


 お兄ちゃんの質問とは全く関係のない返事をするひぃくん。

 私の家では今、お兄ちゃんが毎日食事を作ってくれている。
 お父さんの海外赴任に着いて行ってしまったお母さん。二人だけになってしまったこの家で、毎日ほぼ全般の家事をお兄ちゃんがこなしているのだ。

 テーブルに三人分の朝食を並べたお兄ちゃんは、私の目の前に座るとひぃくんを睨んだ。


「……響。お前、さっきこっちに座ってただろ」

「んー。……最初からこっちだったよ?」


 ニッコリと笑って小首を傾げるひぃくん。


(嘘つき……。さっき、そっちに座ってたじゃん)


 そう思いながらひぃくんを見ると、ニコリと笑ったひぃくんはサラダに盛り付けられたプチトマトを指で掴むと、私の口へと押し込んだ。
 その手を、ペロリと舐めるひぃくん。


「もう一個食べる?」


 呆然とする私に向けて、ニコニコとしながらプチトマトを差し出すひぃくん。
 私の目の前にある、プチトマトを持ったひぃくんの指。その指が、私の唇に触れようとした、まさにその時——。
 ひぃくんの腕をガシッと掴んだお兄ちゃんが、勢いよくプチトマトを食べた。


「痛いよ翔ぅー! 指噛んだー!」

「煩い。黙って食べろ」


 痛い痛いと文句を言いながらも朝食を食べ始めるひぃくんと、シレッとした顔で朝食を食べているお兄ちゃん。
 そんな二人の姿を眺めながら、私は口の中に入れられたプチトマトを噛んだのだった。


私のお兄ちゃんは過保護なんです ( No.2 )
日時: 2024/08/19 19:28
名前: ねこ助 (ID: gh05Z88y)





 高校へ入学して、早いこと一ヶ月。

 中学の頃から多少はあったものの、高校生ともなると明らかに増えてくるのが、彼氏彼女の恋バナ。
 キラキラと輝いた瞳で、彼氏や好きな人の話をするクラスメイト達。それを尻目に、私は盛大な溜息を吐いた。


(羨ましい……)


「私も彼氏欲しいなぁ……」


 ポツリと小さな声で呟く。


「花音には響さんがいるじゃん」


 私の肩にポンッと手を置いてニッコリと微笑む彩奈あやな
 サラサラの綺麗な黒髪を耳に掛けて小首を傾げる姿は……美少女すぎて眩しい。


「眩しいです、彩奈さん」

「……は?」


 シラけた顔して私を見てくる彩奈。そんなクールなところも、大好きだよ。


「ひぃくんは嫌だよ。ちょっと……変だもん」

「まぁ……確かに、ちょっとねぇ」


 小学生の頃から大親友の彩奈は、ひぃくんの正体を知っている数少ない人間。
 小学四年の時も、中学の時も、私の近くで一部始終を見ていた目撃者でもある。


「見た目だけなら、かなりのハイスペックなのにね」


 そう言って私の隣で残念そうに笑う。


「響さんと翔さんに見慣れてる花音には、中々彼氏ができないかもね」

「えっ!? なんでっ!?」


 思わず声が大きくなってしまい、慌てて口元を抑える。


(そんなの嫌だ……っ。私だって、恋をして……彼氏を作りたい)


「あんなイケメン、他にいないからね〜」

「私、別にイケメンがいいわけじゃないよ?」


 クスクスと笑う彩奈に、プクッと頬を膨らませて反論する。


「じゃあ、なんで彼氏作らないの? 入学してから、もう何人にも告白されてるくせに」

「それは……」


 一度開いた口をすぐにつぐむと、窓の外を眺めて小さく溜息を吐く。


(今日は溜息ばかり吐いてるなぁ……。私の幸せが逃げちゃうよ……)


 そんな事を思いながら、また小さく溜息を吐くのだった。






◆◆◆






 ──お昼休み。
 見知らぬ男の子に呼び出された私。


(……どこまで行くんだろう?)


 そう思いながら、目の前の背中に黙って付いて行く。


(お腹空いたなぁ……。今日のおかずは何かな?)


 そんな事を考えていると、目の前を歩いていた男の子が突然立ち止まって振り返った。



 ────!?



 すぐ後ろを歩いていた私は、そのまま男の子に突進してしまった。


「……ぅっ。……痛い」


 ぶつけた鼻をさすっていると、突然ガシッと肩を掴まれる。


「……わっ! ごめんね、大丈夫!?」


 心配そうに私の顔を覗き込む男の子。よく見てみると、とても可愛らしい顔をしている。
 先程までちゃんと顔を見ていなかったので、全く気付かなかったけど……。たぶん、もの凄く女の子に人気がありそうな顔立ちだ。

 申し訳なさそうに私を見つめる男の子は、きっととても優しくて性格も良い。そんな気がする。


「はい……。大丈夫です」


 そう答えながら顔を上げると、ホッとしたのか「良かった」と言って微笑んだ男の子。


(こんな所に連れてきて、一体私に何の話しなんだろう……?)


『花音ちゃん。ちょっと話しがあるので、付いて来て下さい』


 数分前、教室で言われた言葉。


(……なんで私の名前、知ってるの?)


 私は目の前の男の子に全く面識がなかった。


「──あのっ!」


 突然、妙に真剣な表情を見せる男の子に緊張が走り、私は思わずその場で身を固めた。


「俺、花音ちゃんの事が──」

「断る!!」



 ────!?



 目の前の男の子の言葉を遮って放たれた声に驚き、ビクリと小さく肩を揺らした私。そのままゆっくりと後ろを振り返ってみると──。
 いつの間に来たのか、そこにはお兄ちゃんが立っている。


「えっ!? お、お兄ちゃん……?」


(断るって……。もしかして、これって告白だったの? えっ……? お兄ちゃんが断っちゃったの?)


 一人、パニックになる私の腕を掴んだお兄ちゃんは、そのまま私を連れて無言で歩き始める。
 チラリと後ろを振り返ってみれば、そこには呆然と立ち尽くしている男の子がいる。


(え……? 何、これ……)


 告白だったのか、そうじゃなかったのか……。それすらわからないまま、私はその場を後にしたのだった。






◆◆◆






 教室へと戻ってきた私は、待っていてくれた彩奈と一緒にお弁当を広げた。

 今日は、彩奈と一緒にお弁当を食べる曜日。
 月水金がお兄ちゃんで、火木が彩奈と。何故か、お兄ちゃんに勝手に決められてしまったルール……。

 お弁当の蓋を開けた私は、途端に瞳を輝かせた。


「わぁ……! 美味しそぉ〜っ!」


 お兄ちゃんが作ってくれたお弁当には、私の大好物のハンバーグが入っていた。
 早速お箸で一口大に切ると、ハンバーグを口の中へと入れる。


(美味しい……っ。幸せだなぁ)


「で、さっきのどうだったの?」

「……ん? さっきのって、何?」


 お弁当を頬張りながらもそう尋ねると、目の前にいる彩奈は呆れ顔で口を開いた。


「さっきの、告白」

「…………。よくわかんない」


 そもそも、告白だったのかすら怪しい。


「さっきの人、人気あるんだよ? 確か……山崎やまざき斗真とうまって名前、だったかな」

「そうなんだ……」

「あのねぇ……、もっと関心持ちなさいよ。本当に彼氏作る気あるの?」

「だって……」


(本当に、何だかよくわからなかったんだもん……)


 昔からそう──。

 男の子に呼び出されると、必ず何処から聞きつけたのかお兄ちゃんがやって来た。
 そして結局、よくわからない内に終わっているのだ。


「……っ、絶対に彼氏作るもん!」


 ヤケクソ気味にそう宣言をすると、止まっていた手を動かして再びお弁当を食べ始める。
 そんな私を見た彩奈は、「はいはい。できるといいね」と呆れた顔をして溜息を吐いたのだった。






◆◆◆






「ねぇ、お兄ちゃん」


 目の前でお弁当を食べているお兄ちゃんは、私の声に反応してゆっくりと顔を上げた。


「昨日のって……。告白、だったのかなぁ?」


 昨日の出来事をふと思い返した私は、唐突にそう質問をしてみる。

 答えを求めて、お兄ちゃんを見つめていると──。隣からカシャンと、何かが落ちる音が聞こえてきた。
 その音に反応して視線を向けてみると、右手を宙に浮かせたままプルプルと震えているひぃくんがいる。その足元には、お箸が転がっている。


(あぁ、ひぃくんがお箸を落とした音だったんだ)


 呑気にそんな事を思った、次の瞬間──。
 急に私の方へと顔を向けたひぃくんが、焦ったようにして口を開いた。


「花音っ! ……っ、お嫁に行くなんて言わないでっ!」


 ガシッと私の肩を掴むと、泣きそうな顔をして私の身体を揺らすひぃくん。


(相変わらず、ひぃくんの思考がわからない……)


 私はお嫁に行くとは一言も言っていないのだ。


(何をどう聞き間違えたらそうなるの……? もう、放っとこう)


 私にまとわりつくひぃくんをそのままに、もう一度お兄ちゃんの方へと視線を向けてみる。


「告白じゃないよ」


 ニコリと微笑むお兄ちゃん。


(なんだ……。やっぱり、告白じゃなかったんだ……)


 ちょっぴり残念に思う。


「何、告白が良かったの?」

「えっ!? いや……、んー……。別に、そういう訳ではないけど……」


 お箸を止めたお兄ちゃんが、妙に真剣な顔をして聞いてくるから……。何だか恥ずかしくなって、少し顔を俯かせる。
 すると、私の腰あたりにまとわりついていたひぃくんとバチッと瞳がぶつかる。


「……っ、花音。お嫁になんて、行かないで……っ」

「…………」


 ウルウルとした瞳で、上目遣いで私を見つめるひぃくん。
 まだ、訳のわからない事を言っている。


「花音。また昨日みたいに男に呼び出されたら、俺にちゃんと言えよ」


 その声に顔を上げてみると、真剣な眼差しのお兄ちゃんが私を見ている。
 そしてギロリとひぃくんへと視線を移すと、ひぃくんの首根っこを掴んで私から引き離したお兄ちゃん。


「……なんで?」


 私の声に、再び視線を私に向けたお兄ちゃんは、ひぃくんの首根っこを掴んだまま口を開いた。


「一人じゃ危ないから」


(危ない……? 私は昨日、危なかったの? 危なそうな人には見えなかったけど……。でも、お兄ちゃんがそう言うなら、私は危なかったのかもしれない)


「うんっ。わかった」


(お兄ちゃん……、ありがとう)


 感謝の気持ちを込めて、満面の笑顔で返事を返す。
 昔からいつだって私を助けてくれるし、とっても頼りになるお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんは、昔から私の自慢なのだ。


(お兄ちゃんが私のお兄ちゃんで、本当に良かった)


 そう思うと、自然と顔がほころぶ。
 私は食べかけだったお弁当を頬張りながら、ひぃくんとお兄ちゃんがじゃれている姿を見て微笑んだ。




 ──この時の私は、知らなかった。


結城ゆうき花音に告白しようとすると、その兄が必ずやってくる』


 そんな噂が、学校中に広まっていたなんて──。



君はやっぱり変でした① ( No.3 )
日時: 2024/08/19 19:52
名前: ねこ助 (ID: gh05Z88y)






「花音ちゃん!」


 突然呼ばれた声に振り返ると、いつぞやの何とか君。


(えっと……。確か名前は……山崎くん、だったかな? 確か、お兄ちゃんが危ないって言ってた気がする……)


 それを思い出した私は、何が起こるのかと身構える。
 ポケットに手を入れた山崎くん。その行動を、ビクビクとしながら見守る。


「……これ。良かったら一緒に行かない?」


 突然差し出された何かに思わず目をつぶってしまった私は、ゆっくりと瞼を開くと恐る恐る目の前を見た。
 ニッコリと微笑む山崎くんの手元には、ヒラヒラと揺れる細長い紙切れが……。


「……あっ! これ、行きたかったスパ!」


 差し出された手をガシッと掴むと、その手に握られたチケットを覗き込む。

 ここは今話題の、最近出来たばかりの巨大スパ──。中には色んな施設が揃っていて、岩盤浴や温泉やプールがあって、施設内は全て水着で移動ができる。
 勿論、中には飲食店も色々とあって、一日中いても楽しめる。夢のような施設だ。


「あっ、あの。花音ちゃん……」


 頭上からの声に視線を上げてみると、山崎くんの顔が何だか少し赤い。


(熱でもあるのかな……?)


「二人きりじゃあれだから……お互い、友達でも誘って行かない?」

「うんっ! 行きたい!」


 笑顔でそう答えると、一度ホッとした様な顔を見せると笑顔になった山崎くん。
 その後、お互いの連絡先を交換した私達は、そのまま廊下で立ち話しを始めた。

 お兄ちゃんは危ないと言っていたけれど、今、目の前で話している山崎くんは全然危なそうな人には見えない。


「花音ちゃん。俺の事は斗真って呼んでくれると嬉しいな」

「うん、わかった。斗真くん」


 私がそう答えれば、嬉しそうに微笑む斗真くん。


(お兄ちゃん……。斗真くん、凄くいい人だよ)


 そんな事を考えていると──。
 突然後ろから肩を掴まれて、私の身体が反転させられた。



 ────!?



 何事かと驚いていると、目の前にはいつの間に来たのかひぃくんの姿が。


(あぁ……。なんだか、またデジャヴが……)


 不安が頭をよぎった、その時。目の前のひぃくんが口を開いた。


「花音……! 初めては……っ、花音の初めては、俺に捧げてくれたのに……っ!」


 大きな声でそう言い放ったひぃくんは、瞳を潤ませるとメソメソと泣き始める。


(泣きたいのは私だよ、ひぃくん……)


 ひぃくんの放った言葉で騒然とする廊下。


(あぁ……。今すぐ、この場から消えたい……)


 私の腰あたりに抱きついて、メソメソと涙を流し続けるひぃくん。
 そのつむじを見つめながら、私は呆然と立ち尽くしのだった。






◆◆◆






 私の隣で、ニコニコと嬉しそうにお弁当を食べているひぃくん。私はそんなひぃくんに向けて、ため息混じりの声を上げた。


「ひぃくん。さっきのあれ……、何?」


 メソメソと涙を流すひぃくんに連れられて、屋上へとやってきた私。

 すっかりとご機嫌になったひぃくんに反して、私は未だにさっきの出来事を引きずっていた。怨めしい気持ちでひぃくんを見つめる。


(あの時、私がどんなに恥ずかしかったか……)


「え? だって……。花音がスパに行こうとしてたから……」


 スパに行くのと、さっきの発言に何の関係があるのか……。私にはサッパリ意味がわからない。
 ひぃくんの思考を読み取るのは、一生無理なのかもしれない。


「……それと、あの発言に何の関係があるの?」


 小さく溜息を吐くと、呆れながらひぃくんを見る。


「忘れちゃったの!? 花音!! 俺に初めてを捧げてくれたのに……っ!」


 ひぃくんの言葉に、ピクリと眉を動かして反応を見せたお兄ちゃん。
 そのままゆっくりと視線を動かすと、その瞳に私を捉える。


(えっ……。お、お兄ちゃん……私を見ないで。私だって、意味がわからないんだから……)


 思わず顔が引きつる。


「花音! ……っ花音の公園デビューは、俺に捧げてくれたでしょ!? 忘れちゃったの!?」


 私の肩をガッチリと掴んで、ユサユサと揺らし始めたひぃくん。


(あぁ……もう、嫌だ……。何て紛らわしい言い方をするんだろう、この人は。初めからそう言ってくれればいいのに……)


 私の身体を揺らしているひぃくんを見てみると、泣きそうな顔をして私を見つめている。


(だから、泣きたいのは私だよ……ひぃくん)


 ひぃくんの言葉で、あらぬ誤解を受けたであろう私。
 何で普通に話せないんだろう。やっぱりひぃくんは、ちょっと変。

 ガクガクと揺れる頭で、そんな事を考える。


「──スパって、何?」


 私達の会話を黙って聞いていたお兄ちゃんは、ひぃくんの腕を引っ張るとそう尋ねた。


「さっき廊下で話してたんだよ……男の子と。……ねぇ、花音の初めては俺に捧げてくれるでしょ?」


 お兄ちゃんの方をチラリと見たひぃくんは、再び私に視線を向けるとそう告げる。
 さっきの発言からすると、初めてスパに行くのはひぃくんと一緒に。って意味なんだろうけど……。


(何でそんな変な言い回しをするの? ……わざとなの?)


 目の前で瞳を潤ませているひぃくんを見て、思わず溜息が出る。


「それは無理だよ、ひぃくん。もう約束しちゃったもん」


 そう答えれば、瞳を大きく見開いて固まってしまったひぃくん。


「花音。男と一緒に行くのか?」

「えっ? あ……、うん。何人かで行くんだよ」


 お兄ちゃんからの質問に、チラリと横目でひぃくんを確認しながらもそう答える。


(ひぃくん、大丈夫かな……?)


 ピクリとも動かなくなってしまったひぃくん。
 そんなひぃくんのことを少し心配しながらも、お兄ちゃんの方へと顔を向ける。


「ダメ」

「へっ……?」

「危ないから、行ったらダメ」


 素っ頓狂な声を出した私に、再度ダメだと告げたお兄ちゃん。驚いた私は、一瞬固まってお兄ちゃんを見つめる。
 すると突然、固まったまま動かなかったひぃくんが大声を出した。


「花音っ!!」



 ────!?



 ひぃくんに抱きつかれて、ゆっくりと後ろへ向かって倒れてゆく私の身体──。
 気が付くと、私はひぃくんに押し倒されていた。


「花音……っ。花音……っ」


 私を抱きしめたまま、胸元でスリスリと顔を動かしながら涙を流すひぃくん。
 突然の出来事に、そのまま呆然とする私。

 ゆっくりと視線を下げてみると、そこに見えてきたのはひぃくんのつむじ。その更に下の方へと視線を向けると、私の胸元で泣いているひぃくんがいる。


(私の胸元で……。胸……、元……)


「っ……いやぁーーっっ!!!」


 突然の叫び声で、呆然と固まっていたお兄ちゃんが慌てて動き始める。
 お兄ちゃんが離そうとしても、中々離れてくれないひぃくん。

 胸元でシクシクと涙を流し続けるひぃくんを見つめながら──私は思った。


(そんな事で泣かないでよ……。ひぃくん、鼻水が垂れてるよ。あぁ……っ、私の制服にひぃくんの鼻水が……)


 何だか急に阿呆らしく思えてきた私は、その場をお兄ちゃんに任せて身体から力を抜くと、ただジッと、目の前の光景を眺め続けたのだった。



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