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幻想しぃちゃんと儚い僕ら。
日時: 2009/10/18 14:48
名前: テト (ID: VZEtILIi)

これは「人形しぃちゃんとガラクタな僕。」の続編です。重たいし、シリアスです。ガラクタが沢山出てきます。


=登場人物=

耀山成瀬あかるやまなるせ
23歳。マヤマと結婚し、子供も生まれた。滅多に外に出ず、近所付き合いもない。物語が好きで、年の割りには幼い性格をしている。自殺未遂の経験がある。

耀山マヤマ(あかるやままやま)
23歳。ファッション業界の仕事をしている。音はと椎乃の住んでいた田舎で暮らしている。昔と変わらず軽い性格。

耀山ルトナ(あかるやまるとな)
6歳。成瀬を「成瀬ちゃん」マヤマを「マヤマくん」と呼ぶ。年の割りには賢く理解力があり、椎乃に一度会ってみたいと思い始める。

梅宮亜樹里うめみやあじゅり
24歳。高校時から美人で、梨螺と同棲している。精神科に通院中。少年院から出てきたときは18歳だった。

榊原梨螺さかきばらなしら
24歳。亜樹里の恋人。近所の居酒屋で働いている。亜樹里に刺された傷が残っている。

三加和奇跡みかわきせき
24歳。三加和帝都ホテル社長の令嬢の娘で椎乃の従妹。現在は父親が当主となっている。その美貌から、近寄る男性が多い。

桜坂日羅李さくらざかひらり
23歳。感情がなく、それで一時期精神が不安定だった。今でも元気で無邪気な「日羅李」と、無表情な「桜坂日羅李」を交互に使い分けている。

早峰修吾はやみねしゅうご
21歳。椎乃から与えられていた名前は「ナトリ」。今では本名を使うようになった。中性的な整った美人な顔立ちの為、女子から人気がある。大学生。

彩並紫苑あやなみしおん
42歳。刑事として働いている。オトハと椎乃の事件を担当していた。

音色オトハ(おとねおとは)
24歳。高校も中退し、現在行方不明。両親から虐待を受け、椎乃に目の前で彼らを殺害される。数々のトラウマがある。別名:木霊。

舞曲椎乃わるつしいの
享年17歳。オトハから「しぃちゃん」と呼ばれていた。動物を惨殺するという性癖があり、12歳の時にオトハの両親を殺害した。最後はオトハに殺される。


主題歌 http://www.youtube.com/watch?v=-2zv8eRwXwo

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Re: 人形しぃちゃんとガラクタな僕。グロあり ( No.49 )
日時: 2009/09/20 17:04
名前: テト (ID: VZEtILIi)

        第五章
   片割れの少女は憎しみで生まれた
     


仮面を剥がすと、とても弱々しい女の子の一面だった。僕は目を大きく見開いたまま、桜坂さんを見る。
今、殺したって────。
「どうして?」
マヤマくんが聞いた。

桜坂さんは別に何も思ってないように、
「憎かったから。それだけだよ。他に理由なんてないです。カナカが、憎かった」
「何で?」
僕が尋ねると、桜坂さんは遠くを見つめて、
「カナカは、私の理想だったから」

 
         ♪


冗談だろうか。最初はそう思った。
人を殺すなんてそんな事、簡単にできるわけない。
約一名を除いては。
桜坂さんの裏の顔は、とても冷たくて、まるで深淵の悪魔のようだった。

あの後、包帯を巻いてもらって、僕達もそれ以上追及せずにいた。
「ありがとうございました♪」
いつもの、あの笑顔でそう言って、桜坂さんは行ってしまった。
「さっきの授業、何ででなかったの?」
しぃちゃんが、真っ直ぐに僕を見ていた。

「……気分が、悪くなって」
「そう。大丈夫?さっきはごめんね。意地悪言って」
「いや、いいよ。もう、気にしてないから」
嘘の笑顔でそう言うと、しぃちゃんは無言で微笑んだ。
きっと、気づかれている。嘘だって。
本当は、心がモヤモヤしてるんだって。

「今日は一緒に帰れるから。帰ろうね、オトハ」
「うん」

 
          ♪


しぃちゃんの家にお邪魔させてもらった。
ナトリくんが、計算のドリルを必死で睨んでいる。
「ナトリ、あまり勉強してると馬鹿になるよ」
「しー姉は黙ってて」
「し、しぃねぇ??」

僕は驚いて思わず大きな声を上げた。
「しぃちゃん、ナトリくんに本名教えたの?」
「教えるわけないでしょ。“しぃ”ってオトハが呼んでるの聞いて、そう呼んでるんだよ」
吃驚した……。
しぃちゃんが、名前を教えたのかと。

しぃちゃんは、人間が嫌いで、人に名前を教える時は必ず偽名を使っている。
ある時は「田中」だったり、「中島」だったり。
昔からだそうだ。

「それにしても、よく生活成り立ってるよね。ガス代とか、どうしてるの?」
「奇跡が、やってくれてる」
キセキ……??人の、名前だろうか。
「ナトリ、あまりあいつの事は言わないで」
「……」

しぃちゃんの刺々しい言い方からして、アレかな。
親戚……とか?
「オトハ、ナトリはあなたの事、何て呼んだらいいんだよ。オトハ?木霊??」
「木霊……で、よろしくね」

僕はまだ、怖い。
あの時の恐怖が蘇ってきそうで。
恐ろしい。

Re: 人形しぃちゃんとガラクタな僕。グロあり ( No.50 )
日時: 2009/09/20 23:32
名前: 冬宮準 (ID: uB4no500)

あー。そうそう。
私がまだうpしていない
小説の主人公の一人で、
「奏歌(カナカ)」(通称カナ)というブーメラン使いがいますねー。いつかうpするときは、
パクリとか思わないでくださいね!

Re: 人形しぃちゃんとガラクタな僕。グロあり ( No.51 )
日時: 2009/09/21 08:28
名前: テト (ID: VZEtILIi)

了解ざんす!
ございます!!

Re: 人形しぃちゃんとガラクタな僕。グロあり ( No.52 )
日時: 2009/09/21 10:30
名前: テト (ID: VZEtILIi)

桜坂さんの事を、気になっていたけれど。
僕は、そんなに優しい人間じゃないから。
これ以上は、深入りはやめよう。

「榊原くん、おはよう」
「……お、木霊。おっはよ」
何だか、落ち込んでいるような気もしたけど、気がつかないフリをした。
どうせ、知ったところで助けられないから。
「……なぁ、木霊」
「何?」

少し震える声でそう言う榊原くんの様子は、やっぱりおかしかった。
「お前に俺は、どういう風に見える?」
僕にとって、榊原くん……?

まぁ、軽くて、女の子と沢山付き合ってて、格好よくてスポーツもできて、頭はあまりよくないけれど、優しくて。
「頭以外完璧な人」
「……そうじゃなくて、」

榊原くんが少し苦笑したが、悲しそうな目で、
「俺は、ちゃんと楽しそうな顔をして、笑っているか?」
どうしたんだろう。
そんな事、自分がよくわかっているはずなのに。
他人である僕にそんな事を聞いて。

「……今は、悲しそうだよ」
「いつも、俺はちゃんと笑ってるか?」
真剣だ。
どうしてだろう。
クラスには、他の人達もいて、楽しそうにおしゃべりをしているのに、僕達だけ違う世界にいるみたいだ。

「笑ってるよ。榊原くんは……笑えてる」
「そっか」
真剣な重い空気がなくなり、いつもの榊原くんがそこにいた。
ニカッと笑い、
「サンキュッ、木霊」
子供のような無邪気な笑顔で、そう言ったのだ。

人の心に足を踏み入れて、土足で歩かれたらどんな気持ちだろう。
僕は、そんなの耐えられない。
寒気がして、足が震える。
しぃちゃんは、別だけど。いつまでも僕も特別な女の子のまま。
人形だから、年をとらない。

「オトハ」
しぃちゃんが僕を呼んだ。
何?と訊ねると、甘い笑顔で澄んだ声で囁く。
「桜坂さんっていう子が、呼んでる」
「桜坂さんが……っ?どこ?」
「あそこ」

しぃちゃんが廊下を指差す。
笑顔で、桜坂さんが手を振っていた。
「ありがと、しぃちゃん」
「待て、木霊」
榊原くんが、僕を手を掴んだ。
「お前、ひ……、桜坂を知ってんのか?」
「え、うん……桜坂さんの事、知ってるの?」
「いや……何でもない」

桜坂さんは、二年団でも有名なのだろうか。
“死にたがり屋”の、女の子。
そりゃ、びっくりするよな。そんな子と知り合いって言ったら。
悲しいことだけど。
「どうしたの?桜坂さん」
「あの、昨日私が言った事、忘れてください♪」
「……今は、カナカちゃんの仮面を被っているの?」

恐る恐るそう言うと、桜坂さんの表情が一変した。
僕の腕を掴み、人気の少ないトイレの前まで移動して、
「だから、その話を忘れてください」
今度は、本当の桜坂日羅李の人格で言った。
低い声と、暗い目。
「忘れるけど……ッ、キミは苦しんでいるの?」
「そんな事、木霊先輩に関係ないです」
「そうだけどッ」
「木霊先輩も、事なかれ主義なんでしょう?私の事、放っておいてかまいません。カナカは、私を捨てたりしないから」

カナカ……。
桜坂さんの双子の妹。そして、桜坂さんが殺したという、妹。
比喩なのか、表現なのか、妄想なのか、それとも本当に殺してしまったのか。
それはわからないけど。

「それだけでっす♪」
カナカの仮面を被り、桜坂さんが微笑んだ。
そして、軽い足取りで戻っていく。
呆然とそれを見送って、教室に戻ると、榊原くんがじっと僕を見て、
「さっき、何話してたんだ?桜坂と」
「えっと……何にも」
「嘘だろ」

さっきとは違う、冷めた口調。
しぃちゃんが心配そうに見ている。
「榊原くん、今日変だよ」
そう言うと、八としたような表情になり、榊原くんが悲しそうに視線を落とし、
「俺は、いつも変なんだよ」
そう呟いた。


           ♪


彼女は、彼女を殺してしまった。
もう一人の彼女であったのに。一生なかよしだねと言ったのに。
彼女は、羨ましかった。
彼女の片割れである彼女が、お日様のように眩しく、美しく、可憐である事が。

彼女は夜の支配者だった。
日なたに出る事もなく、暗闇の中で、一人ぼっち。
そんな彼女を救ったのは、彼だった。

彼は、彼女を明るい所に連れて行った。
彼女は幸せだった。

ただ、もう一人の彼女が死に、偶然にも彼の心の闇を知るまでは───。

Re: 人形しぃちゃんとガラクタな僕。グロあり ( No.53 )
日時: 2009/09/21 11:15
名前: テト (ID: VZEtILIi)

最後の授業は、体育だった。
転がるボールを眺めながら、榊原くんが退屈そうに、
「俺のチーム負けてんじゃんよ」
「榊原くん、何で出ないの?」
「ん?あぁ、ちょっとな」

僕は、体育があまり好きじゃない。
汗かくし。
女子か!って突っ込まれたりするけど。
「危なッ!!」
「ッ??」

榊原くんが僕を押し倒す。一瞬、襲われるのかと思ったけど、その頭上をボールを通過したのを見て、庇ってくれたんだ〜と呑気に思ってると、後頭部を思い切り体育館の床にぶつけた。

「いったっ」
「だ、大丈夫か?木霊ッ!いや、マジでごめん」
「だ、大丈夫だよ……ッ」
実は大丈夫じゃなかった。目の前に星が見える。
結構痛い。
「ほ、保健室に行こーぜッ、コブできるかも!」
「…うん」

保健の先生が、またいない。
あの人は忙しい人だから。マヤマくんも来てなかった。学校をサボッているのだろう。
そして、代わりに、

「桜坂……ッ」
「……」
桜坂さんがいた。
パイプ椅子に腰掛けて、呆然と絵を描いている。
「木霊先輩じゃないですか。あと……榊原くんも。どうしたんですか?」
桜坂さんが、カナカの口調で聞いてくる。

「……木霊が頭ぶつけたんだ。氷ねぇか?」
「ありますよ♪」
明るい笑顔でそう言って、冷蔵庫を開けて氷を取り出してくれた。
「ありがとう……」
「いえいえ♪それにしても、頭ぶつけるなんて、ドジですねぇ〜♪」
「そうかも」

桜坂さんがチラッと榊原くんを見る。
見る、というより睨む。
「……行こう、木霊」
「う、うん」
やっぱり、何かあるんだろうか。桜坂さんと、榊原くんは。
「……カナカになったのに」
桜坂さんがそう呟くのが聞こえた。
榊原くんにも聞こえたのか、体を硬直させて苦しそうな顔で振り向く。

そこにいたのは、日羅李だった。
冷たい表情で、榊原くんをじっと見ている。目の奥に吸い込まれそうな錯覚。
その目は、「死にたがり屋」の目だった。

「……ッ」
榊原くんが僕の手を引っ張る。早く、桜坂さんから離れたいのだろうか、その手の力が強い。
「……榊原く、」
「なぁ、木霊。お前はもう、桜坂に近寄っちゃダメだ」
何を言っているんだろう。

「どうして……?」
「どうしてもだッッ!!」
榊原くんの怒鳴り声が廊下に響く。僕の心にも山彦のように響いて、鼓膜が痛い。
「お願いだから……ッ」
そう言って、弱々しく懇願する榊原くんを、僕はただ、見つめるしかなかった。

 
         ♪


彼女はいつも無愛想で、彼を鬱陶しく思っていたのだけど、いつのまにか、彼の心が、憎しみが、見えるようになっていた。

本当は、彼は自分ではなく、もう一人の彼女を愛しているのだと知ったときには、もう遅かった。
彼女は、死んでしまったのだから。

彼女は彼女を殺すつもりはなかった。
ただ、彼女の仮面を被れるだけでよかったのだ。
なのに、彼が彼女を好いていると知り、彼女を殺してしまおうと誓った。

「×××、私に光を返して」


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