ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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WINGS
日時: 2009/09/23 02:09
名前: SHAKUSYA ◆wHgW10l3Y2 (ID: jYd9GNP4)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.php?mode=view&no=10976

こんにちはー、前の話が完結して嬉しいSHAKUSYAですー。
上の参照が私の小説です。

今回は魔法などの便利物を一切廃止し、銃と人間の小説を書いていきたいと思います。つまり、ファンタジーではなくただのヒューマンノベルになるわけで。

ここで注意。 必読!!!!!!

この小説はグロになると思います。なるべくそんなことは無いようしていきたいですが、心して閲覧を。

銃がよく出てきます。分かりにくいので細かな銃種の説明はしませんが、このあたりの事も心して閲覧願います。

荒らし、宣伝のみコメント、中傷、ギャル文字の乱用、雑談、喧嘩、その他、他の方々や主に迷惑のかかる言動はお控え願います。

この小説は時間軸や場所軸が変わった時にしか改行や空行を行っておりませんが、コレは主、基私の「面倒くさい精神」と「勿体無い精神」の表れだと思ってください。勝手で申し訳ありません。
現在試行錯誤段階ゆえ、改行、空行等の指摘はなるべく詳しくしていただけると助かります。
ただし、「ケータイでの読みやすさ重視」を目的とした、ケータイ小説のような極端な改行、空行の類は受け付けておりません。(改行する度に一行行をあける、時間軸が変わるごとに五〜六行以上の行をあける、など)

感想やアドバイス、誤字脱字報告は受け付けております。ありましたらお願いいたします。

ここではタメ口OKです。
しかし、私に対して極端な馴れ合い(「友達になろう!」発言、「○○持ってる?」発言、「どこ住み?」発言など)を求めたり、別の読者様と雑談をする事はお止め下さい。非常に迷惑です。

質問のある場合は一つずつ聞くのを繰り返すのではなく、なるべく一つにまとめ、一度にお願いします。そちらも方が此方としても楽ですので。

以上のことをよく守り、尚且つネットでのマナーなどを守れる方は、この小説をどうぞお読み下さい。

九月二十三日 注意事項を若干改正。少し詳しくしました。
同日       改行、空行に関する注意を緩和。何か改行や空行事項について言いたいことがありましたらどうぞ。

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Re: WINGS ( No.18 )
日時: 2009/10/27 20:16
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十翔

牽制喧嘩、それが仇になる
 九月十五日。時刻は午後十一時四十七分。今日と言う日は後十二分四十一秒で終わってしまうという時に、近所から遠方まで自由に遊びに行っていた総員が帰ってきた。中には二百キロも先からエコノミーで飛んで来たものもいるらしく、若干眠そうにしているものも居る。普段なら少し位昼寝の時間をやれるものだが、今回ばかりはそうも行かない。
 何しろ、あのデルト民主主義人民共和国連邦、略してデルト連邦。デガイの傍受した情報が正しければ、今回は本軍やその他十以上の端軍もすべて合わせて、本国に総力戦を仕掛けるというのだ。気を引き締めなければならない。
 ……それに、今回の作戦は私達だけの作戦ではなく、本軍であるネイリバー共和国連軍との共同作戦。この軍と向こうの軍の提携が上手くなければそれこそ破滅街道一直線。
 総員気が落ち着かない中、私は声を上げた。

 「とりあえず落ち着け。まだ一週間前だぞ、そんなにピリピリしていてどうするんだ。総員各自の武器を念入りに調整し、一週間後に備えておけ。特に自分の愛器は整備を整えておくこと。それと、風邪なんか引くなよ」
 「なんやねん、どっかの部活のキャプテンみたいなことしかいわへんねんなぁ。威厳のない総司令官やな」
 わざとなのか本心なのか、朗らかな口調で汪都が言ってのけた。私は「こんな所で総司令官の威厳は発揮するべきものではない。お前たちが威厳に押しつぶされたら困るだろう?」と汪都の口調に合わせて返してやる。少しだけ雰囲気が和んだ。
 しかし、あまり和みすぎても油断の種。ホワイトボードをニ、三回鳴らし、静かにさせる。そしてもう一度声を放つ。
 「気を和ませるのも程ほどにな。作戦会議に参加する班長とその補佐官、及び軍事戦況報告者はこの場に残るように。あと、総員怪我と病には気をつけ、よく寝ておけ。……解散!」
 一斉に各部隊の班長と補佐官、軍事戦況報告者が私の立つ机の周りに集まり、その他の連中がドアから出て行く。その時、何故かセレイと目が合った。セレイが律儀に敬礼を返してきたため、私も敬礼を返しておく。

 すぐに作戦会議が始まった。
 「本当ならここまで堅苦しい作戦は取るべきものでは無いが、本軍の作戦にあわせないわけにもいかないからな。まず、本軍の大まかな作戦だけ述べていくことにしよう。一応纏めておいたから、コレに目を通してくれ」

 それは私でも嫌になるほど細々した作戦だったため、内容を要約する。それでも長い。
 九月二十三日の午前三時からが作戦の開始。そこから敵の上陸予定地点だと言う、紅埠頭ブロックA−096でまず本軍の海軍隊が迎撃。空からの爆撃に対しては本軍の空軍と私軍の空軍が迎撃。陸からの攻撃に対しては私軍がまず迎撃。とりあえず敵を釘付けにしておく。
 そこから敵が進軍してこようとした場合は前衛を担当していた私軍が一旦後退、本軍が前に出てきて、平行四辺形の陣形を取る。その時、必ず中央突破を図りやすい形に移動・及び展開を行う。後退しようとした場合はそのまま後退するに任せ、怪我人の救出や陣形を整える時間に費やす。そして、双方が陣形を整え終わったところで、一気に攻勢を図る。
 海軍や空軍、陸軍が五分の釘付けに成功した場合は、即座に本軍の特殊部隊と私軍の特殊部隊、及び本軍の空軍残留班と私軍の空軍が全面攻勢を仕掛ける。釘付けに失敗した場合は両軍全力で捨て身の逃走、敵を市街地までおびき出し、本軍の特殊部隊残留班の一部と私軍の特殊部隊、本軍の後衛隊とやらが一斉に毒ガスを放ち、毒ガスでの殲滅戦に入る。コレによって殲滅に成功した場合はそれでよし、失敗した場合は更に誘導。
 誘導した後、両軍の総司令官とその補佐官、副司令官の六人にのみで迎撃。これでも更に殲滅に失敗した場合は両軍本部の防衛システムで時間稼ぎをしつつ、留守番を任せたものに住民への避難を一斉に呼びかけ、出来うる限りの人命被害を最小限に食い止める。そして、防衛システムが破られたその瞬間——事前に仕掛けた爆弾のスイッチを起動させ、本部ごと敵及びその兵器を破壊する。

 「な、なんやぁ……これ、最後の方捨て身戦法や無いか」
 若干呆然とした空気の中で、汪都が小さく声を上げる。仕方ないので補足。
 「そうだ。だがな、ネイリバー軍事共和国連軍にだって私達以外にも二十ほどの端軍がある、敵が攻め込み、ここまでなるとなったら、その時には端軍が駆けつけるさ。捨て身の戦法はよほどの異常事態と考えても大丈夫だろう」
 それでようやく安堵したらしい、少しだけ溜息が聞こえた。しかし、ここで特殊部隊第三班班長のベアトリーチェの反論が。
 「待ってください。この毒ガス戦法ですが、下手をすれば味方を巻き込んでしまう可能性があります。いくらなんでも、広範囲に広がらず、且つ威力の高い毒物はすぐに用意できるものではありません。あるのはありますが」
 ベアトリーチェの言う事はいつも正論だから、付け入る隙がない。それでも声を返す。
 「そんなものはどの伝を辿ってもすぐに入手できるものではない、それは分かっている。だが、相手を殺す必要はどこにも無い。それこそ足を止めるだけで十分だ。ここまで言えば、ベアトリーチェ班長なら結論づくだろう?」
 「……低威力でも構わないから、とにかく敵の足を止められて入手が容易いもの、ですか。横暴ですね」
 「そういうことだ。それと、コレは私が考えたものでは無いぞ。本軍の総司令官が考えた作戦だ」
 ひとまず解決。ベアトリーチェも納得してくれたようだ。

 その後、私軍地下室にて細かい作戦の練り直しが行われた。あまり訂正したりするところは無かったので、これは随分早くに終了したと言うことだけ簡単に引き出せる記憶として記憶している。作戦の方は脳みそが情報だらけで辛いので思い出したくない。断片的には出てくるが。

 ……そういえば、なんと言うか、その、本軍の連中があまり危機感を持っていないのが気になった。
 真相はのらりくらりと弾かれて聞けずじまいだったことも簡単に引き出せるものとして良く覚えている。

 かすかに眠気を感じ、時計を見る。午前二時を回っていて驚いてしまった。なんだかんだで作戦会議に大分時間を使ったのだ。お蔭で脳みそが死にそうなほど情報で膨れあがっている。今日は寝るに限るなあ、何て思いながら、ふと窓を見た。
 月明かりの中に、海から遠い側の向かいにある第八ビルとかいう雑居ビルの窓の中で何かが光る。
 嫌な予感。

 夜中は流石に軍内部も静かだし、今は海に向かって強く風が吹きつけている。それに、第八ビルと本部との距離は僅かに十メートル、よく耳を済ませれば何か聞こえるかもしれない。
 行動開始。窓の傍の壁に身を寄せ、ほんの少しだけ窓をあける。九月の海風は寒い、と思いながら、耳を済ませる。
 微かに聞こえた。更に耳を済ませると、小さいが会話も聞こえてきた。私は少しだけ顔を覗かせ、出来るだけ姿を確認しようと向いを凝視。幸い月明かりが丁度よく当たっていた為、二つの人影が見えた。
 茶髪碧眼の三十台と思しき北欧系の男と、黒髪黒眼のやはり三十台と思しき東洋系の男。どちらも同じ型の狙撃銃を持ち、何か喚いている。その声はよく聞こえた。

 「おい、隠れたぞ! あの壁に潜まれたら、俺の銃の貫通力でも貫けないぜ! おいアダム、お前のはどうなんだ?」
 「お前のと同じ型でどうやって貫くんだよ! それとヤゴウラ、人の名前を軽々しく言うなよ! 聞かれてたらどうするんだ?」
 おいおい、自分も堂々と姓名を名乗っておいて、他人に責任転嫁するのか。だがまあ、確実にこれで敵が総司令官である私を潰そうと考えている事は分かった。この名前を元に、もしかしたら兵士の名前が搾り出せるかも知れない。私は静かにその場を後にする。向かうところはただ一つだ。

 彼方此方探し回り、五階の雑務室に姿を見つけた。用があるのはソファーで囂々とした鼾を掻いて寝ている茶髪碧眼の男。“紙一重の天才”と言う不思議な二つ名を持つ、海軍第四班軍事戦況報告者のノスラト・“サライ”・セファットだ。別名を情報捜索官とも言うが、これは勝手に私がつけた名前である。
 「サライ、起きろ」
 面倒なのであだ名で呼んでやった。このサライと言う言葉、どこの出典かは忘れたが「小悪魔」と言う中々不名誉な意味があるため、彼はこの名で呼ばれるのを嫌う。が、ここはたたき起こす為にあえて使った。案の定、すぐに飛び起きた。
 「そーしれーかぁーん! せっかくいい気分で寝てたところをどうしてたたき起こすんですかあー!」
 即飛び起き、不機嫌そうに言ってくるノスラト。いつも思うが、こいつは地声がとんでもなくでかい。私は一発頭を引っぱたき、出来るだけ感情を排した声で言ってやった。
 「少し黙れノスラト。夜叫ぶな。空気読め。と言うか、本題そこじゃない。今のうちに言っておきたいことがあってきたんだ」
 不承不承と言う感じで黙るノスラト。私が先程の一件とヤゴウラにアダムと言う名を告げると、途端に真顔になって机の上に放ってあったノートパソコンを開いた。そして、一言呟く。
 「さあて、やっかなー」
 私は正直なところ、その言葉に少々の怖気が射した。

 ノスラトが「やっかなー」といったら、それは全ての情報が面前に晒されることを意味している。
 簡単に言ってしまえば、彼がこの一言を放ったとき、データのハッキングが始まるのだ。
 様々なソフトが起動し、それにあわせて画面の中で文字が乱舞、同時にノスラトの指が躍るようにキーボードを叩く。どう頑張っても私には出来そうもないことだ。
 そんなことを考えていると、あっという間にノスラトはデータハッキングに成功、デルト連邦本軍の全兵士の名が記録された名簿まで後一歩のところで辿り着いてしまった。
 しかし、ここは流石にセキュリティが堅い。乱舞していた文字が止まり、同時にノスラトの手も止まる。
 「げぇー、セキュリティ堅いなあ。一体何十掛けられてるんだよセキュリティロック」
 ぶちぶちとノスラトが愚痴を叩く。しかし、ある瞬間何かに取り付かれたかのように手がまた踊りだした。こいつ、他の軍事戦況報告者のように知識的な所から答えを導きだすような事は一切せず、頭の閃きだけで活路を見出すある意味で天才的、そして変態的な頭脳を持つ。このあたりが、彼が紙一重の天才と呼ばれる所以なのかもしれない。

 凄まじい勢いでパスワードが打ち込まれていき、城壁の堅さを誇るセキュリティロックが嘘の様に崩れていく。ある瞬間にノスラトの手は五分ほど止まってしまうが、その後も素晴らしい閃きだけでパスワードは次々と解かれていく。いつ見ても感心するが、それと同時に強い恐怖も覚えてしまう技だ。何しろ、彼の手にかかれば私の持つ情報も面前に晒されてしまうのだから。やらないとは分かっているが。

 「うーん、ここはこうかなー」
 ぶつぶつと呟いて次々と打ち込んでいく。すでにセキュリティロックは二十以上が外れている。そしていま、ひとつのロックが外れた。それでもまだまだあるから気色悪い厳重さだ。

 そろそろ暇になって来たので、少し席をはずす。同時にノスラトの手が止まった。急になんだと振り向くと、普段はふにゃふにゃと笑顔を浮かべるノスラトが真剣に悩んだような顔をして画面を睨んでいる。気になって覗くと、それはこの名簿に掛かる最後のセキュリティロックらしい。かなり厳重なようで、ノスラトの神のような閃きでも思いつかないようだ。
 「今までどんな風に閃いていたんだ、お前」
 「いや、特に何かあるってワケじゃーないんですが。頭の中にある記憶を引っ張り出して、それでテキトーに打ってたんですけどねぇ。最終ロックは中々閃くもんじゃござんせんな」
 ソファーに凭れながらノスラトが呑気に言う。こいつのことだから、今までのパスワードは誰かの名前なんかだろう。私はそっとノートパソコンを取り上げると、ふと思いついた文字を打ち込んでみた。
 “sarai=goblin?”
 ここまで打ち込んだところでノスラトが気付き、パソコンに飛びつく。その拍子に、ノスラトの親指がエンターキーを押した。

 「あっ」
 私とノスラトの声が重なる。しまった、やってしまった。アレ適当に打っただけだったのに。
 そう思い、猛烈に後悔したその次の瞬間。私とノスラトの声が再び重なった。
 「へ?」
 “No, Sarai is oasis. But you Authorization”
 と言う文章が現れたのだ。つまり、コレはセキュリティロックが解けた、と言うことになる。私とノスラトは思わず顔を見合わせた。
 「すごいっすねー、そーしれぇかん! パスワードはいけ好かない感じだったけど……」
 思いっきり肩をつかまれ、思いっきり揺らされる。正直脳みそが頭蓋骨に当たりそうな勢いなんだが。ゆっさゆっさ揺らされるなかで、私は何とかキーボードを操作して名簿を開く。そこでやっとノスラトが手を放した。

 ずらずらと文字が並べられている。正直凄まじい量で探したくない。鬱な気分で溜息をつくと、ノスラトが不思議そうに聞いてきた。
 「おりょ? そーしれーかん、この自作イヤホンになんか目的のなんたらを探す機能みたいなもんつけてませんでした?」
 ぬう、そういえば忘れていた。若干この男に助けられたことに苛々を感じつつ、私はイヤホンの本体とパソコンに専用のケーブルを繋げ、特定情報探索機能を起動。探索情報記入欄に聞いた名を入れる。チチッと電子的な音が微かに響き、探索が開始された。コレだけ膨大な量からたった二つの情報を探すのは時間のかかりそうなものだが、大丈夫だろうか。

 探索に五分掛かった。通信傍受音によく似た音が響き、確認すると、該当情報は八六五七三件二六八件。大分量が多い。だが、此方には顔と言ういい情報がある。私は該当情報をパソコンのほうに送り、情報と記憶を照らし合わせた。
 東洋系の方はすぐに見つかった。一番上に一件だけあったのだ。ヤゴウラと言う苗字はどうやら珍しいらしく、三万人以上の人材を誇るデルト連邦本軍内にも一人しかいないらしい。顔を確認すると、まさに記憶どおりだった。
 御祓如龍屠(やごうらりゅうと)、狙撃部隊第二十五番隊の班長で、中々地位は高い。私はもう一度コイツを見たら問い詰めてやろう、などと若干物騒なことを考えながら、アダムと言う男の方を確認した。

 結局、記憶の中にある顔と名簿の中にある顔が一致したのは、探し始めてから十分後。最後にあった名前だった。
 アダム・ワンデル、狙撃部隊第八番隊の隊長。この肩書きから察するに、かなり高い地位に君臨している男だ。よほどの射撃の腕を持っているのだろう、と私は勝手に推測しておく。その割にはわりと簡単に察知されたが、まあいいだろう。命あってのモノダネだ。
 「しぇー、このアダムとか言うの、すっごい地位。給料高いんだろーなー」
 呑気に言い放ってくるので、私は殺意も若干込めてノスラトを睨みつける。流石に殺意を込めすぎたようで、ノスラトの顔から血の気が引く。暗闇でもよく分かるほどリアクションが大胆な奴だ。面白い。だが、給料について言うのは許さん。
 「そーしれーかんこえ〜。でもま、コレで二人の正体が割れたわけですな。そろそろ眠いんで、ええですか?」
 欠伸を噛み殺しながらのノスラトの声に、黙って頷いておく。御祓如龍屠にアダム・ワンデルと言う名さえ覚えておけば、後はどうでもいい。私はポケットの中に突っ込んだメモ帳とペンに二人の名前を書き留めると、イヤホンをポケットの中に戻してノートパソコンの電源をきる。既にノスラトは眠りについており、私は起こさないよう忍び足で部屋を出た。

 やけに大きく長靴の音が響く。コレで何かドッキリでもあったら、私は仕掛け人を恐らく思う存分殴りつけているはずだ。私も暗いところとドッキリは若干苦手な口、あとの嵐は恐らく凄まじい。嵐は一過性だがな。
 何事もなく総司令官室に着き、私は扉を閉めてソファーに倒れこんだ。
 とりあえずかなり疲労している。今は寝たい。
 目を閉じて暫くじっとしていると、すぐに眠りについた。気がする。
続く

Re: WINGS ( No.19 )
日時: 2009/11/03 15:48
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十一翔

海が紅く染まるとき
 九月二十三日、午前二時四十五分。後十五分で作戦の開始時刻となる。
 本部の中は若干騒然としており、誰も彼もがどこか慌しい。家族に慌てて連絡を取るものが居れば、今更の様に武器を整備する奴も居るし、平常を装ってやたらと笑う奴もいる。かと思えば、やたら忙しいと連呼しながらキーボードを打つ奴も。人の慌て方は十人十色だが、私だって一応人間。これでも心の中ではかなり不安だ。何しろあのデルト連邦の全面攻勢に、たった二つの軍と端軍だけで対抗しなければならないのだ。とてもではないが勝てる大博打ではない。

 「珍しいですね、総司令官が不安がっているというのは。顔が真っ青ですよ」
 いたって平常そうな声と顔で、ミオが入ってくる。どうやらいつの間にか血の気が引いていたらしい。一回深呼吸をし、何とか気を落ち着ける。ミオは随分と余裕そうな表情で笑うと、そのまま出て行った。いったい何がしたかったんだ、あいつは。
 取りあえず窓から外を見てみる。この高さからでは外の風景など窓くらいしか見えないものだが、幸い本部は高い丘の上にあるため、外の風景はよく見える。まだ午前二時と言うだけあって、外はまだ星が光るほどに暗い。悪いお子様ならまだ起きてる時間帯だろう。いや、悪いお子様ってなんなんだ。いかん、思考が無茶苦茶だ。
 もう一度息をつく。途端、何か言い知れない感情が襲ってきた。私は壁にもたれかかり、頭を抱えて溜息をつく。暫く待っていると、閉めていたドアをノックする音。
 「いいぞ、入ってきて」
 一応声を上げると、申し訳無さそうにセレイが顔を出した。そして、またも申し訳無さそうに「もうそろそろ、作戦開始時刻ですが」と言って時計を指差す。午前二時五十二分、確かに間近だ。私は気を入れなおし、やっとの思いで腰を上げた。

 二人の足音が廊下に響く。ここでドッキリがあったら、多分私は銃を乱射すると思う。部下の前で醜態を見せて堪るか。等と無茶苦茶なことを考えながら、それでも無言で廊下を歩く。

 「総司令官も人並みに感情があるんだなーって、今思いました」
 ふとセレイが声を漏らした。何となく突き刺さる一言だ、と思いながら、私は溜息混じりで声を上げ返す。
 「それは心外な一言だな。私はいつもお前が愚痴を零しているような無謀人だとか堅いやつだとか若輩者だとか言う者じゃないんだが。一応感情があって、馬鹿もやるし苦労もするし不安にもなる人間だ。勿論、戦場では甘ったるい考えも出来ないから、鬼になるしかないがね」
 「うっ……そんなものなんですか? 前居た軍って、銃を持つことしか考えてない鬼畜みたいなのばっかりだったんですけど」
 それは本当に鬼畜な軍隊だけだ、と私は言いかけて口を閉じた。私のところが甘すぎるのだ。私軍基準で考えたら全てが鬼畜になってしまうではないか。
 それに、コイツは完全なる間違いを犯している。かの鬼畜と呼ばれた……うん、名前忘れたけどアレだって、人の見ていないところでは何人もの人を見てみぬフリをしてきたと聞く。そう、誰も見ていないところでは人は人間なのだ。
 私が黙り込んでしまった為か、セレイが若干怪訝そうな顔をする。だが、私は返す言葉が見つからず尚も黙り込む。
 「考え込んじゃ駄目ですよ、総司令官」
 ニコニコ顔で正論を言われた。私は物事を深く突き詰めすぎる生来からの癖があるため、よくこんな事を言われる。だがまあ、これで切り替えは出来た。後はやるだけだ。

 そんなこんなしているうちに会議室へ到着。時間は五十五分、早めに済ませたほうが良さそうだ。
 ドアを開け、前に立つ。少しだけ辺りを見回し、いつ見てもここは広いなどと奇妙なことを考えながら、声を上げた。
 「過度な期待は要求しない。とりあえず、全員生きて帰って来い」
 「おーけいですぜ、そーしれーかん」
 ニヤニヤと笑みを零しながら言ってきたのはノスラト。いつでも仄々した口調に、雰囲気も若干緩む。私もコイツの仄々感に若干救われた。タイマンだと腹立つが、こう言う場では重宝されるムードメーカーだといえよう。
 おっと、あまり物事にのめりすぎてもいけないか。時刻は五十六分だからあと四分。私は向き直り、一言大声を放った。
 「解散!」
 多分、本日一番威厳のある大声を出したと思う。弾かれたように連中が席を立ち、急いで作戦開始位置まで走り出した。実を言うとこの作戦、私も参加したかったのだが、本軍の豪快に笑ううるさい総司令官に「お前が参加して死んだらどうする!」と笑いながら凄まじい大声で突っぱねられた。正直がっかりだよ、全く。
 それにしても、本部に残留するのはなんとも暇で仕方がない。何かないか、と聞いても、あるわけあるかああああ! 今更になってヴィルカの言ったことが突き刺さるとは、なんとも皮肉じゃないかッ、くそう!

 「何してるんだ、そこで。総司令官は随分呑気だな。かく言う俺も呑気なもんだが……」
 声に気付いて顔を上げると……って、いつの間にか項垂れていた。首が痛いが、まあいいか。
 顔を上げると、呆れ顔でフィオルがドアの枠に寄りかかっていた。そういえば、コイツには何も任務を与えていなかった気がする。コイツはどうやって使えばいいんだかよく分からんのだ。
 「仕方ないだろうが。本軍の豪快総司令官にあの素晴らしき大声で「お前が参加して死んだらどうする!」と笑いながら言われたら、参加する気持ちが失せるぞ」
 淡々と言い放ってやると、フィオルが溜息をついた。若干癪に障る顔で溜息をつかれたが、無視して机に突っ伏す。こいつと話すだけで疲れる。いっそのことメタクソに殴って再起不能に……いや待て私の思考回路。物騒なことを考えるな。
 頭の中で物騒な思考回路を抹殺していたその時、フィオスが事も無げに呟いた。

 「お、午前三時か。作戦の開始時刻だな」
 ああ、そうか。今この瞬間から、あの紅埠頭は文字通り血で紅に染まるわけだな。そう頭の中で考え、首をニ、三回横に振って情けない思考を頭の中から追い出す。案外頭の中はすっきりした。私は帽子を被りなおすと、イヤホンを残留組以外の全員に繋げた。そして声を上げてやる。
 「いいか、私はお前等に勝利を求めてはいない。危機に陥ったら、プライドも何もかもかなぐり捨てて逃げろ。求めるのはお前等の生還唯一つ、勝利など、本軍にでもくれてやれ。でもまあ、ついでに勝利ももぎとってもらいたいがな」
 向こうは殆どが受信機能しか持って居ない為、向こうの声は聞こえない。しかし、私の繋いだ通信に失笑する声が、私には聞こえたような気がした。
 
 「さあ、作戦の開始だ。思う存分プライド捨てて闘ってこいよ」
 その声を放ったと同時、全員のイヤホンが受信機能を絶った。もうそろそろ戦いに集中させてやらねばなるまい、そう思って私が切ったのだ。私は軍事戦況報告者の通信だけを待つ。
 「大丈夫なのか?」フィオルの静かな声。私が振り向くと、更に声を続けてくる。「軍の連中さ。あんなふうに突っ返しても大丈夫なものなのか?」
 「ふん、心配するな。ああでも言ったほうがあの連中にはよく響く。それに、そもそも私が背中を押してやらずとも高みに飛翔できる奴等だ。私のように、過去に引き摺られて高みを目指せない者達ではあるまいよ」
 私は奇妙なことを口走っていた。フィオルは不思議そうに私を一瞥すると、そのまま去っていく。自分でもなんでこんな事を言い放ってしまったのかよく分からない。……ははあ、まだ引き摺っているらしい、アレを。もう決別したと思ったのに。
 だが、それよりも今は目の前のことに集中したほうが良さそうだ。過去に引き摺られる暇などない。

 とりあえず、報告者からの報告を待つことにする。また暇な時間がやってきた。
 すると、早速報告が来た。私は回線を繋げ、声を拾う。
続く

テスト中だが更新。

Re: WINGS ( No.20 )
日時: 2009/11/03 15:54
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十二翔

飛翔と墜落と
 「陸軍第一班のロイ・ベルガラントです。……やられました」
 「は?」
 いきなりの宣告に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。やられました、とはどう言うことなのか。そのことを追求すると、ロイは恐らく苦い顔をしながらだろう、苦しげな声を返してくる。
 「私が撃たれたんです。足を。今は後衛のところにまで下がっていますが、このままじゃ時間の問題なんです。でも、心配しないで下さい。今のところ本軍と私軍の方が圧倒的有利を保っていますから……」
 なんだって!? と思わず叫びかけ、私は口をふさぐ。これでは第一班からの報告が入らず、的確な指示を出しにくい。とりあえず私は声を上げた。「もう報告は結構だ。今の位置でじっとしておけ」

 「了解です。ああ、私一人のために救急部隊は送らないでくださいね? もう既に失血死寸前ですから。出来るなら、他の人のために送ってくださ……」
 声が、突如途切れた。途轍もなく嫌な予感が駆け巡り、私はコレでもかと言うほど大きな声を張り上げた。
 「前言撤回だ! ロイ軍事戦況報告者、状況をもう一度報告せよ!」
 声が聞こえない。聞こえるのは、戦場となった紅埠頭での銃撃戦の音と、風の音。それだけ。もう一度同じことを叫ぶと、かすかな声が返ってきた。
 「すいません、一瞬意識が飛んでました……。今は、はい、先ほどと状況は変りません。そ、ろそろ、喋るのがつらくなってきたんです、がね……」
 「死ぬのは許さんぞ! お前、家族がいるんだろうが。生きてもどれ、家族の元に」
 思わず大声で口走る。いつの間にか、拳を強く握り締めていた。再び声が返ってくる。

 「知っていますよ。でも、テがないんです……どうすりゃ、いいんです、か?」
 その問に、私は答えることが出来なかった。今も刻一刻と死に近づく人間に、いったいどんな答えを返せばいいのか。そんな言葉は、私の中にひとつもなかった。しかし、何故か口は声を発していた。到底答えとは言えない、言葉を。
 「闘え、何もかも全てかなぐり捨てて闘え。自分の使命を全うしろ。死ぬのはそれからだ」
 「そっ……そりゃないでしょう、総司令官……」
 気弱な返事に、私は大声を発した。今までに出したことのないくらい大きな声を。
 「気弱なことを抜かすな、ベルガラントッ!……」
 自分でも吃驚してしまった。今までこれほどの大声を出したことがなかったため、その後の言葉が全く出てこない。すると、ロイの声が再び返ってきた。かすかな声に、かすかな希望を込めた声だった。
 「了解です。やって、見せましょう、報告者の、意地をかけて……」
 「ああ、闘え。……そうだな、三分だ、三分。三分闘って、それでも生きていた時は大人しく救急班に運ばれろ」
 なんと言うか、自分でも吃驚するほど言葉がおかしい。思考回路が狂ってしまったのだろうか。とか何とか考えながら言葉を言い放つと、ロイの「了解です」と言う声と共に通信が途切れた。私は急いで救急部隊に連絡を回し、ブロックA-096に至急救急部隊を回させる。

 一段落付いたところで今度は海軍第四班から通信が来た。ノスラトからだ。
 「ちゃーす、ちゃっちゃーす。ノスラト・セファットでぃーす。こちらの旗艦リベリオは敵国の海軍八番隊と交戦中、ドレイド班長が肩に流れ弾を受け、軽傷。それと新米のディラン君が頭に銃弾を受けて軽傷、それ以外の数十名は船の揺れ等で転倒し、アホらしく捻挫や打撲でっし。あっしは異常なしー。全員治療は完了済みでございやーす。で、只今旗艦は舳先に砲弾が掠り、軽度の損傷でーす。現在修復中ですが、戦いに支障ありませーん。現在戦況は此方が有利を保っております、どうぞー」
 何とも仄々して長々した解説だと少し呆れてしまうが、安心した。私は「了解、続けろ」とだけ言っておく。
 ノスラトも「りょーぉかい、それでは、また報告しますんでーではー」といつまでも仄々した口調で言い、通信が途切れた。

 少しだけ安堵したところに、今度は空軍第四班からの通信。
 「おいっす、軍事戦況報告者のイヤホンかりて通信してる汪都班長や。第四班はヴィーダ001が連絡途絶、恐らく墜落したもんとわいは見とる。後で詳しいことが分かりしだいヴィーダ001の報告はしまっさ。わいの旗艦ヴィーダ000は今現在敵機撃墜の真っ最中、若干右翼部に損傷しとるが、戦いに支障はあらへん。今現在修復中や。それ以外のヴァル、ギャヴィ、イージェ小隊は全隊無傷、オリファー小隊は002がエンジン部損傷で交戦地帯から約五キロ離れたブロックB−003地点に不時着、全員無事やで。戦況的にはこっちがちょっと押してる感じや。報告以上、なんかいうことありまっか?」
 凄まじい喋り方——関西弁と言う方言らしい——をする汪都の声に、私は真っ先に質問の声を上げる。
 「お前の班の軍事戦況報告者はどうした? 寝ているのか?」
 「ああ、ルイのことか? うーんとな、この飛行機に砲撃を受けた際鞭打ちを起こして気絶したんや。今はちょいと横にさせとるンやけど、元戻んのに時間がかかりそうや。そんで今、わいが代わりにやっとる。元に戻ったらちゃんと仕事させるけ、まあ見逃してやっといてや。別に異常はなさそうやし、じき元戻るって」
 それならば仕方あるまい。「分かった」とだけ言って通信を終わらせる。

 何故か三班と連絡を取るだけで随分疲れた。どれもこれも第一斑の報告者がわっちゃかわっちゃかしているのが悪いのだが、責任を押し付けても仕方あるまい。
 溜息をついていると、肩を叩かれる。振り向くとニアが居た。「どうした?」と聞いてくるため、聞き返してやった。
 「何だ? 今更私に復讐でもしようとしたのか?」
 笑顔で言ってやる。すると、ニアはいつもの無表情にいつものかすれ声で言い返した。
 「違う。通りかかったら思いつめているような顔をしていたから、何となく声をかけただけだ」
 「ふぅん。で、来た目的は何だ?」
 尚も言葉を掛ける。ニアは「別に」と一言吐き捨てると、若干遠い目で紅埠頭の方角を見つめ、そのまま何もせずに去っていった。若干発見、こいつにも感情はあるらしい。

 意外な発見に若干和んでいると、不意に通信。
 ヴィルカからだった。
 「こちらヴィルカ・オルドネスク、ロイ報告官を救出しました。別の奴等が応急処置を一応施してくれてるようですが、大動脈層にぶち当たったとなると失血が怖いです。最寄りの病院に運びますが、それでもよろしいでしょうか。どーぞ」
 若干の安堵。とりあえず、ロイは生きているようだ。だが、まだまだ完全に安心できる状況でも無いらしい。ここの辺りはよく分からないが、ヴィルカの判断であれば大丈夫なはず。
 「よし、わかった。なるべく急げ」
 そう返すと、ヴィルカは「うい、わっかりましたー」と若干仄々した口調で返し、通信を切った。私のほうから言うと切られた、になるのだが、そこは突っ込むべきところでもなかろう。
 それにしても、随分凄まじい状況の中でも仄々しているやつが多い。これはまだ私達のほうが戦況的にいい状況に立たされているからであるだけで、戦況が変わってしまえばこの余裕は消えてなくなることだろう。そうなったとき、人はどこまで変われるのか見ものだ。いや、見ものにする気はないのだが、何となく。

 そんなこんなで五分経った。まだ特殊部隊からの報告が無いのが少々気になる。此方から連絡をよこしてもいいが、それで気を逸らしてしまえばどんなことになるか見当もつかない。だが、やはり気になって仕方がない。どうするべきか、うーん……。
 色々と考えながら歩いていると、向こう脛を思いっきり机にぶつけてしまった……! い、たい……!
 思わず呻きながら飛び跳ねてしまう。こんな醜態を見られたら恥ずかしくて死にたくなる。誰もこなくてよかった。

 その時、奇跡的なタイミングで通信が入った。痛みもぶっ飛び慌てて繋げると、掠れた声が響いた。
 「特殊部隊第一班、軍事戦況報告者のデガイ・レイモスです……。きちん、と任務は、遂行しま、した。が、敵の陸軍部隊は意外にやる奴らでした……。結果、敵の陸上部隊は、粗方殲滅できまし、たが、イザリ班長が、右肺を潰す大怪我を負い、私も……数十箇所に、銃弾を、受けています……。その他の小隊、は、重傷を負った者は、いません、が、負傷者が何十人か出ています……。出来れば救急部隊を求めたいのです、が……」
 声が途切れる。私が名を叫ぼうとした、その数瞬前に、銃声とデガイのものらしき「ぐっ」と言うくぐもった悲鳴が同時に聞こえた。そして、私は何も出来ないまま、イヤホンから聞こえる、何かが地に崩れ落ちる音を聞いた。
 それ以降、誰かの声が聞こえる事はなかった。

 私は猛烈な絶望感と脱力感に襲われ、回線を繋ぎっぱなしにしたまま椅子に崩れる。しかし、ここで脱力していてもどうにもならないと気を取り直し、私は繋いだままのイヤホンを救急部隊につなげようとした。そして、聞こえた音に手を止める。
 「総司令官、聞こえてます? 特殊部隊第一斑の新米で、今だけ報告官代理します、ベレイド・レディウェイです」
 あまり聞きなじみのない声に、彼が本物なのか若干疑ってしまう。よく聞き返すと、それは確かに特殊部隊第一班の新米であるベレイド・レディウェイの声だった。特殊部隊だというのに射撃成績は凄まじく悪かったはずのベレイドだが、一体何があったのだろうか……。

 頭の中でごちゃごちゃ思考していると、ベレイドの声が現実に私を引き戻した。
 「えー、えーと、聞こえてないかもしれないけど、取りあえず現状報告しておきます。今現在の戦場は紅埠頭ブロックA−096。特殊部隊第一班の負傷者はイザリ班長とデガイ報告官などの重傷者から軽傷者も含めて二十五人、その内此方で治療のすむ軽傷者は十人、此方では手に負えそうもない重傷者は五人、既に治療の完了しているものは十人です。あ、今現在の戦況は、こっちが押してます。敵が中央突破を図ってきたので、本軍が今一斉攻撃を始めたところです。僕の出来る範囲はコレくらいです。何かありますか?」
 新米の癖に詳しい説明をよこしてきた。若干腹立つが、これでかなり現状がつかめる。私も一応答えを返しておく。
 「現状はよく分かった。今から救急部隊を三分で送るから、少し待っていろ。作戦成功したなら、今から暫くは治療の時間に費やしていい。何か動きがあったらまた頼む」
 「了解です」
 通信が途切れる。
 救急部隊に連絡をまわした後、溜息をついてみる。どことなく不安な気持ちに駆られ、私は紅埠頭の方角を見つめた。
 音は聞こえない。しかし、激しさは理解できる。ずっと、修羅場を潜り抜けてきた私なら、何を見ずとも分かる。
 更に戦場は激しさを増しているはずだ。


 「主要砲塔及び第一エンジン部、司令官塔の一部に砲弾直撃、損害度八十三コンマ〇二パーセント。こーりゃあ危険でっせ、ドレイド班長。今全力で自動攻撃プログラムを起動、及び発動してますが、それでもあと一時間持ちません。はやく無事なもんと負傷者を連れて脱出及び別の艦に乗り移るか、さもなきゃ別の案を講じてくださいな。あっしは色々残業がございますもんでしてね、ここに残りますが」
 ノスラトの声が静かに響く。その声はいつもと全く変わらぬ調子ではあったが、どこか諦念が滲んでいる。ドレイド、基私は思わず溜息をつきかけ、口を塞いだ。一縷の望みをかけて、ノスラトに言ってみる。
 「残りの十三パーセントで攻撃は出来ないのか?」
 「……できんこともありませんが、出る犠牲が大きすぎまっせー。この状態じゃ主要砲塔の殆どが使えんので副砲塔を使うことになりますけどね、副砲塔で与えられるダメージなんてタカ知れてますぜ。そんな状態で闘ってみてくだせーな、何人犠牲者出すおつもりでっか、班長は?」
 痛いところを突かれた。確かに、主要な砲塔はほぼ全て使い物にならず、副砲塔も与えられるダメージは微塵も無い。しかし、犠牲者の事で厭うのは若干おかしい気もする。私は更に言い返してみる。
 「しかし、このままで居ても何も変わらない。賭けてみないか」
 瞬間、ノスラトの溜息と共に右拳が飛んできた。避けられず、私はモロにくらって吹っ飛び、壁に叩きつけられる。凄まじく痛い。何だコイツ、こんなに腕力があったのか……などと頭の中で思考していると、いつもと変わらぬ表情と口調でノスラトが激しい声をたたきつけた。その声は確かに何も変わってはいないが、凄まじい威圧を伴っていた。
 「馬鹿とちゃいまっか、班長。そーしれーかんの命令をよー思い出してください。「勝利は期待していない、生きて帰って来い」っちゅーのがそーしれーかんの命令ですよ。班長、あんたさまぁ、そーしれーかんの命令を無にするおつもりで? それでもいーならいーでしょう、無駄なアガキをやってみせましょ、何人犠牲を出してでも」
 半分投げやりな、しかし凄まじい力を持った普段と何も変わらぬ調子の声に、私は言葉を失う。何を言って、何を返したらいいのかさっぱり分からない。普段なら口げんかなどあっという間に丸め込んでしまえるものなのだが……。
 黙り込んでいると、ノスラトは最後に「班長なら班長らしく威厳をみしてください、あっしらに」とだけ吐き捨て、片手でキーボードを操作しながらもう片方の手でマイクを取り、そして宣告した。
 それは、私にも予想しえない事態だった。

 「えー、今まで黙っとりましたけど、この艦はあと一時間持つことができませんので、今から自爆作戦を開始いたしますー。既に自動プログラムを作動させておりますんで、この艦はあと五分以内に第一、第二、第三、第四エンジン及び重要機械部に着火、暴走を起こしつつ敵に突っ込み、半径百メートル以内はもれなく爆発の嵐に巻き込まれると予想中ー。そーしれーかんの命令を無にしたくない方、家族や兄妹などがいる方、死ぬのが怖い方、まだ生きたい方、生きていることに誇りをもつ方、軍内部で残業のある方は皆様五分以内に海へ逃げるか別の艦に避難願いまーす」
 突然の宣告に、兵士がざわつき始める。当たり前だ、いきなり五分以内にこの艦が爆発を起こすと宣告されれば騒然となる。私もかなり驚いているのだ、コレでも。
 ノスラトがいきなり顔を向けてくる。驚いて私は思わず一歩後ずさってしまった。ノスラトは隙のない動作で私に歩み寄ると、再び手を飛ばしてくる。今度は避けたが、次は頭突きが飛んできた。コレも避けると、今度は振り切った手ともう一方の開いた手が顔に飛んできた。コレも避けようと顔を下に下げると、膝が飛んできてぶち当たる。何とか急所より少し上の額に当てたが、顎が抜けそうな衝撃だ。それでも何とか姿勢を立て直し、頬に一発ぶち込もうと手を振り上げたところで、私は凄まじい力で胸倉を掴み上げられた。
 奴は身長百七十センチの私よりも二十センチは背が高いため、掴み上げられれば私など軽がると持ち上げられてしまう。逃れようにも凄まじい力で逃れられない。そんなこんなして悶着しているうちに、ノスラトが声を上げた。
 「いいでっか、班長。班長と言う人一人が意味を成すのは玉砕してからじゃありませんよー、生きて国に帰った後からが、班長と言う人が意味を成す瞬間ですぜぇー。よって、班長はどこでもここでも避難していただきたいもんでね、突き落とします」
 は? と声を上げる間も無く、ノスラトが私の胸倉を掴みあげたまま司令官塔の窓を蹴り破る。若干割れたガラスが刺さったのか微かに呻き声を上げるが、そのままノスラトは窓から私を投げ落とした。
 こうなったらもう何でもありだぁああー! と半ばヤケクソに叫び、私は迫る海に向かって勢いよく飛び込んだ。


 通信傍受音が突っ込まれ、私は通信を繋げる。ノスラトからの通信だったが、その声はいつもと違っていた。
 なんと言うか、諦めのような悲しみのような、そんな言いようのない鬱的感情が声に滲んでいる。私がそのことに関して声を上げて見ると、ノスラトは溜息ひとつと声を返してきた。
 「すいません、今から命令を守れんくなりました。今から第五班の旗艦リベリオは、敵陣に向かって突っ込んで自爆します」
続く

Re: WINGS ( No.21 )
日時: 2009/11/03 16:01
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十三翔

堕ちる
 ノスラトの放った言葉に、関して問い質す間も無く、ノスラトは声を上げる。その言葉はいつもの軽い口調ではなく、とても静かな、諦めの声だった。
 「すいません、本当にすいません。もうあっしがどんなに頑張って残る十三パーセントをフル稼働させても、結局それは足手まといにしかならないんですよ。悲しきかな、旗艦リベリオに残された手は玉砕、つまり自爆しかないんです。許してください」
 言葉が出てこない。既に自爆作戦は動き出しているらしく、奥のほうではけたたましい警報音や何かが爆発する音、砲撃音、ガラスの割れる音等が散乱している。ノスラトはそんな中でも、静かに声を上げた。
 「あと五秒、これでさよならですよ、総司令官」
 その瞬間、鼓膜を劈く凄まじい爆音が響き、一瞬後に通信は切れた。頭には爆音の余韻と強烈な脱力感だけが残り、私は頭を抱える。そして、どうしようもない脱力感に溜息を二回吐いた。
 一人、海の藻屑と消えた。


 「えいくそ、つながりゃせーへん。レイ総司令官は何をしとるんやい」
 しきりに呟きながら、汪都班長はまだ気絶中のルイ報告官のイヤホンで総司令官に繋げようと試みていた。さっきから一時間くらい粘っているみたいだけど、繋がる気配が全くないらしい。と言うか、片手で敵機を撃ち落としながらイヤホンを捜査するって、班長はどこまで化物なんだろう。
 「おーいオリバー! こっちゃ来い!」
 僕が呼ばれた。何の気なしに行って見ると、班長に「座れ」と促される。本来報告者の座るべき位置なんだけど、命令だし仕方ない。座ると、イヤホンを投げられた。
 「え? え? え?」思わず狼狽。機械系全然駄目な僕に一体何をしろと……。と思っていると、班長の声。
 「ルミ報告官が起きへんから、今からお前が報告官代理や。今んところ通信接続待機状態にまでなってるから、いつか総司令官に繋がったら即座に今までの損傷状況とどっちが有利かとかを全部伝えろ。ええな」
 一瞬意味が分からなかったけど、何とか理解。戸惑いつつも返事はOKで返す。班長は顔に満面の笑みを浮かべて見せ、「任せたで」と言って僕の頭を軽く小突いた。
 と思った瞬間、班長が「わーっちゃい!」と叫び、操縦幹を操る。爆撃機は凄まじい勢いで上昇しながら急旋回、ベルトを付け忘れていた僕は危うく投げ出されかけた。何とか窓にしがみ付いて耐えたけど、頭をぶつける。痛い、と思いながら体勢を元に戻し、今度は投げ出されないようベルトを付けておいた。
 「大丈夫か!?」
 班長の声に、僕は「大丈夫です」と返しておく。班長は安堵の溜息を大きく吐いて、さっきの急旋回の原因を作った敵機に向かって発射、見事に全弾命中。敵機はあっという間に炎上し、海の上に墜ちていった。
 その時、通信が繋がった。

 
 凄まじいノイズが耳の中に入ってくる。どうやら戦闘真っ最中らしい、通信が雑だ。受信音量を上げて耳を澄ますと、ノイズの中に声が聞こえた。確かこの声は、空軍第四班の旗艦ヴィーダ000に同乗していたオリバー・レノック。
 「空軍第四班、ルミ報告官の代理のオリバー・レノックです……現在、戦況は……此方が押している状況……ヴィーダ001は……ブロックD−233地点……負傷者が一人……です。……告は以上、何かありますか?」
 恐らく、この報告を話すオリバーもノイズに苛まれているはず。だが、私は普通どおりの声を上げた。
 「他の小隊の事は?」
 暫くの静寂の後、声が再び返ってくる。
 「……ヴァル小隊が現在多数の敵と遭遇……ギャヴィ、イージェ、オリファー小隊が……です。オリファー002は現在……オリファー003が救出に……模様。以上です」
 若干の戦慄を感じつつ、私はまた声を上げる。
 「分かった。それでは、撃ち落されないように」
 再びの静寂。そして、静かに「了解です」と言う声が残り、通信は途切れた。


 ノイズは凄かったけど、何とか会話は成功。にしても、ノイズのせいで耳がキンキンする。少し耳辺りを叩いてノイズを消そうと頑張っていたその時、けたたましい音と共に通信が入ってきた。慌てて繋ぐと、それはヴァル小隊005のケイレス・ディライマー。イヤホンから突っ込んでくる声は、喧騒と絶望に満ちていた。
 「ヴァル小隊が……、オレ達ヴァル004を除いてほぼ全滅だ。オレ達、デルト連邦の本軍とかちあっちまったんだよ」
 「はぁああああ!?」
 今まで上げた事もなかった大声に、班長の気が一瞬こっちに逸れる。僕は素早くイヤホンを班長に渡すと、そのまま敵の動向を慎重に探る。敵はヴァル小隊達の方に気をとられ、僕達旗艦に気付いていない。会話するなら今がチャンス。
 「何やて、ヴァル小隊が全滅やとう!? よし、分かった。一分待っとれや」
 は? もしかして、今から敵の中に突っ込むの? 若干思考混乱中の僕に、班長は笑いながら続ける。この最悪の状況下で笑えるなんて、班長はやっぱり化物だ。僕にこの底力は到底理解出来ない。
 「オリバー、よう聞け。今からわい等はヴァル小隊のいる紅埠頭ブロックA−06上空に向かう。けどな、別に絶望せえへんでええ、わいにどーんと任しちゃれ」
 心強い一言。僕は思わず頷いていた。汪都班長は最後に笑い声を上げ、スピードを上げる。一気に重力がかかり、旗艦ヴィーダ000はブロックA−006上空に向かった。

 たった一機だけで、百倍近くの数を揃えている本軍が翻弄されている。
 第五班の旗艦、僕の乗るヴィーダ000の闘争能力は異常だった。あっという間に敵が掃討され、勇気あるものも逃げ出していく。一部は勇敢に闘ったが、結局はほぼ全機墜落した。
 僕は隣で見ていながらも、正直鳥肌が止まらない。班長は流石に真面目な顔をしていたが、班長はどこに何があるのかを見もせずに操作し、敵を倒しているのだ。いかに長くこの爆撃機と付き合ってきたかがよく分かる操作だ。
 「いかに仲間を救う為とはいえ、人を大量に殺すのは気持ちの良いもんじゃあらへんなあ。それでも、殺さなきゃころされる。兼ね合いが難しいところや」
 静かに班長が独り言を呟く。僕は何も言えず、ただただ静寂だけがそこにある。ふと班長の方に視線を向けると、班長は寂しそうな目で正面を見据え、手だけが自動的に旗艦を操作していた。
 何も言えず、言わず、ただ静寂と時間と音だけが虚しく通り過ぎていく。

 気付けば朝になっていた。爆撃機の中に内蔵されている時計は、正確に午前七時半の文字を示している。班長は真面目な顔を解くと、また笑いながら話しかけてきた。その声は朗らかだけど、どこか寂しい。
 「戦いっちゅーのはこんなもんや。それにしても、早う機械の扱い方に慣れてもらわにゃ、わいも困るで」
 うう、凄いプレッシャー。僕は生来の機械音痴で、何をやってもすぐに壊してしまう。お蔭で僕は携帯も持っていなければパソコンも持っていない。イヤホンだけは何とか覚えたけど、それでも通信機能以外の機能を殆ど使えない。
 イヤホンを眺めながらずっとそんな事を考えていると、いきなり班長がただならない声を上げた。
 「うわわわわ! ヤバイ、敵の残党や! オリバー、手伝ってもらうで!」
 「え!? 僕がですか!?」
 「そやねんがなー! お前しかおらんやろが、馬鹿っ!」
 いきなり怒られてしまった。ああ、僕って……。何てちょっと落ち込んでしまってまた怒られる。改めて気を入れなおし、班長の言う事に耳を済ませた。
 「ええかいな、今から敵の残党を全部撃ち落とす。お前にも補助してもらいたいんや。ええな。わいが声かけたら、目の前のモニターに映される敵をロックオンして、弾を放てな。銃の引き金的なもんはどれか分かるやろ?」
 流石に軍人だし、その位は分かる。僕は声と一緒に頷いた。班長はまた笑顔を浮かべて「よっしゃ、じゃいこか」と陽気に声を上げると、一気に速度を上げた。僕は座席に押し付けられながら、それでも前を見据える。
 班長はいつでも飄々とした、それでも真面目な顔で爆撃機を躍らせた。
 
 「敵多っ!」それが僕の最初の一言だった。
 なんと言うか、コレは残党とか言うレベルじゃない。完全に小隊とぶち当たってるよ。うん。
 だからと言って援軍を呼ぼうにもまだ敵の掃討で他の小隊は忙しいし、旗艦一機で何とかこれを退けなければならない。何と言うか、班長は厄介ごとに首を突っ込むのが好きな性格なんだなあと思ってしまう。
 「おら、いくで、オリバー!」班長の声に、僕もつられて——若干戸惑ったけど——「はい!」と思いっきり返しておく。すると班長はいきなりスピードを上げ、小隊の中に突っ込んだ! ちょっと、マジでー!?

 「オラオラ、最初の敵や! 早よせい!」
 班長の怒号に弾かれた僕は、慌ててモニターの中の敵を凝視。慎重にロックオンし、ボタンを押す。耳を劈く鋭い音と共に銃弾が飛び出し、命中! 一機撃墜。喜ぶ間も無く班長の声が響き、僕はすぐさま次の標的に目標を合わせる。
 その時、ロックオンしていた敵がいきなり銃弾を放ってくる。班長は即座に対応して操縦幹を引き、一気に機体は上昇。華麗に銃弾をかわす。と、いきなり爆撃機が急旋回。なんだと思えばそれは銃弾をかわすためで、ヴィーダ000は全弾かわして見せた。班長凄い。
 僕も負けじと標的をロックオン、即座に発射。若干外したけど、運よく前を飛んでいた別の敵にも当たった! ちょっと嬉しい。けど、喜ぶのは後回し。今は目の前の敵に集中。
 すぐさま班長の声が響き、僕は敵に照準を合わせる。


 市街地戦は本軍の連中と私軍の特殊部隊が引っ張ってくれたから、俺たち私軍の陸軍は戦場に残った怪我人の治療や後始末に当たっていた。俺は怪我人の一人で、足と腕を怪我してしまって今は他の奴等と一緒に座り込んでいる状態。こうやって見ると、戦場でない所は本当にのどかなんだと痛感する。
 俺は疲労と安堵で大きく溜息を吐いた。途端、過去に受けた傷が鈍く響き出し、俺は痛みだした腕に無事な手を添える。すると、隣で座り込んでいた敵軍の兵士が静かに話し掛けてきた。
 「こうやってみると、ネイリバー共和国も随分静かなところじゃないか……」
 「おいおい、隣に座ってるのは敵国の兵士だぜ? いくら怪我をしてるっつったって、俺はまだ銃を扱える身だ。用心もへったくれもないな、お前等」
 わざと棘のある口調で言葉を突きつけてみる。が、敵軍の兵士は俺の言葉に笑みをこぼすと、言い返してきた。
 「大丈夫さ。ネイリバー共和国の軍がオレ達デルト連邦の兵を攻撃するのは自衛目的以外ではできない。だから、そっちが手を出せばこっちの勝ちだ。これでも、オレは弁護士を目指していた口なんでね、その辺りの事は詳しいぜ。どうだ?」
 「けっ、弁護士と口舌で闘う気は無いな。……?」
 隣の奴が妙な動きをしていたのに気付いたと思った。その瞬間、奴は懐からナイフを出すと、俺の眉間につきたてようと思い切り腕を振りかぶる。俺は反射的に痛む右腕を庇いつつも腰のホルスターから自動小拳銃をとりだすと、しっかりと構えて銃弾を放つ。

 勝負は一瞬だった。
 乾いた銃声と共に、ナイフを構えた兵士の動きが止まる。俺の放った銃弾は見事すぎるほどに心臓を貫いており、兵士の命はもうない。奴は苦痛の色を見せ、俺の目の前で信じられない、と言う表情のまま地面に崩れ落ちた。
 生気を失った空色の瞳は真っ直ぐ俺を見ていた。その視線に耐え切れず、地面に崩れた兵士の目を閉じさせる。その顔はあまりに辛そうで、見ているこっちが辛くなって来た。居た堪れなくなり、俺は痛む足を庇いながらその場を離れる。

 改めて見回すと、戦場は悲惨な有様をさらけ出している。
 道と言う道に怪我人や死人の姿、下を見れば朱の色、踏みつけるのはガラスの破片もあれば体の破片もある。彼方此方に助けを求める人々の呻き声が漏れ聞こえ、遠くには爆撃の音も聞こえてくる。そして、苦しくなるほどの血臭と火薬の臭い。一言で言うなら、酸鼻を極めた光景が俺の前にある。
 のどかだと言った俺を反省しなきゃならないようだ。戦場よりも戦場のあとの光景の方が遥かに悲惨を極めた、むごたらしい光景だった。俺は一気に気分が沈んでしまい、憂鬱な気分で路上を歩く。何も考えたくなくなって来た。
 「あててっ……」聞こえた小さな声と異様な感触に、俺の思考は現実に引き戻された。声の方を反射的に振り向くと、慌てて口を押さえるセレイの姿が。下を見ると、思いきりセレイの足を踏んづけている。慌ててどかし、謝ると、セレイは笑顔で「大丈夫です」と言う声をかけてくれた。その一言がやけに心を落ち着かせ、俺は礼を軽く言ってからまた歩き出す。

 いつの間にか、俺は紅埠頭の防波堤まで来ていた。まだ海軍は悶着しているらしく、艦隊線が激しく続いている。俺は少しだけ近づいたら帰ろうと、埠頭のブロックA−006の方向に向かって足をすすめた。とたん、爆風が俺の脚を強制的に止める。こんなに離れていても爆風はかなり伝わってくるのだから、艦隊と言うものは怖いものだ。俺は路上戦闘が主だから、銃や車以外の大掛かりな機構を持つ機械は殆ど扱ったことがない。いつみても、あの艦隊を自由に操れる奴等は凄いと思う。
 帰ろうと身を翻す。そこで、俺は足を止めた。近くに、強い気配があることに気付いたのだ。その気配は後ろから発せられていた。
 俺はもう一度身を翻し、静かに気配の元を辿っていく。十メートル進んだところで、また足を止めた。
 「あんた、誰だ……?」
 俺は思わず声を上げる。それもそのはず、デルト連邦軍の制服を来た見知らぬ北欧系の男が、俺に向かって銃を突きつけているのだ。聞きたくなっても別に不思議じゃ無い。
 「私はデルト連邦国連軍の陸軍隊第十五番隊隊長、ロルフ・アウラー。以後お見知りおき願いたい。だが、こっちは命令を受けている身だ。死んでもらう」
 自己紹介といきなりの死刑宣告。俺も銃を取り出し、眉間に突きつける。こっちだって命令には従わなきゃならない身、こんな所で死んで堪るか。俺は時間稼ぎ代わりに自分の名を名乗ろうと口を開く。
 「俺はネイリバー軍事共和国軍の端軍、ウィングスの陸軍第一班班長、アジガヤ・クレイロ。一応以前にもデルト連邦の全面攻勢防衛作戦に加わった身だぜ。コレ以降お見知りおき願いたいね」
 俺のいい方はどうやら癪に障ってしまったらしい。ロルフと言うその男は引き金に指を掛ける。俺はまだだ。こっちから先に手を出すわけには行かない。さっきの弁護士軍人が教えた話だ。

 一瞬の硬直した静寂のその後、ロルフは叫んだ。
 「死ね!」
 来た。そう思って俺は反射的に身を逸らせ、余った左手で地面に手をつく。そして、今度こそ引き金に指を掛け、発砲した。その一瞬後、ロルフと言う男も発砲した。確実に、俺の眉間に向かって。
 また、勝負は一瞬だった。ロルフの手は少しだけぶれており、その弾は俺の側頭部擦れ擦れを通って地面にのめりこんだが、俺の銃弾は確実に彼の眉間を貫いていた。

続く

Re: WINGS ( No.22 )
日時: 2009/11/03 16:08
名前: SHAKUSYA ◆4u6r4NXrpE (ID: XiewDVUp)
参照: 第十四翔

残る傷痕
 しかし、眉間に銃弾を浴びながら、ロルフは生きていた。だが、もう数秒で死ぬ運命だ。それでも軍人なら、この数秒で確実に俺を殺す事だって出来る。時々そう言う猛者が存在するのだ。例をあげるとすれば、イザリや汪都なんかがそんな辺り。

 反撃を恐れた俺はその場を離れようとして、足が止まった。ロルフは反撃できる数秒より、俺に話す数瞬を優先したのだ。
 「いい腕だ、が、心が、痛む、なら、軍、人、など、やめて、しま、え」
 その言葉を最後、ロルフは少しの笑みを浮かべて倒れた。その言葉と顔に俺は凄まじい恐怖を覚え、その場を走って逃げ出す。途中で何度も転びそうになりながら、俺はひたすらに走った。
 必死で逃げ回り、やっとの思いで紅埠頭からはなれる事が出来た。もうあんなところには居られそうもない。今更の様に痛みを発してくる右腕を左手で押さえながら、俺はもといた場所まで行こうと走る。

 突如、全身を貫く激痛。脚が縺れ、俺は地面に思い切り倒れる。色んな所をしたたかに打ち付けるが、そんな痛さよりも更に痛いのがさっきの激痛。痛い感覚を通り越し、熱さまで感じる。
 痛みの元を辿ると、首だった。俺は頚動脈に銃弾を受けたのだ。いくら手で押さえても、傷口からは止め処なく血が溢れてくる。あっと言う間に血が足りなくなり、視界が霞んできた。
 ……待て、いったい誰がこの銃弾を放ったんだ? 敵? それにしたって、どこに敵がいた?
 混乱する意識まで薄れてくるが、ふと気配を感じた。恐る恐る俺は後ろを向く。霞む視界の中に、デルト連邦軍の制服を来た気弱そうな男が、銃を構えて立っている。あんな奴に、俺は……殺されるのか。
 「クソ、ヤロウ……」
 俺は捨て台詞代わりの言葉をそいつに向かって投げつけた。だがもう、意識を維持できない……。


 「ようやったやないか、オリバー」
 班長の声と一緒に、僕は安堵の溜息を吐く。
 あれからこっち、僕は敵を倒すために神経を削りまくったのだ。機械を触ったら一瞬で壊してしまう僕にとって、敵を全機倒すまでの三十分は永遠よりも長かった。班長にとっても長かったようで、解放的な顔で爆撃機を操縦している。
 「それにしても、随分な量の敵を撃ち落したけど、味方も撃ち落とされてしもたな。ヴァル小隊にオリファー小隊が全滅は辛いなぁ……ミロンとかは無事やろうか」
 静かに呟いた班長の一言に、僕は現実と向き会わされる事になった。そうだ、僕達は確かに多くの敵を撃ち落とし、敵を退けた。でも、その影では多くの仲間が打ち落とされ、一部からは死んでしまったと言う報告も入っている。
 栄光の裏には夥しい犠牲がある——班長はその事をよくわきまえていた。
 その時、イヤホンからいきなり通信傍受音が響いてきた。僕のだけじゃなく、皆のイヤホンに繋がれている。流れてくる声は、特殊部隊のベレイドだった。
 「ロイ報告官の代理をしてます、ベレイド・レディウェイです。……アジガヤ班長が、デルト連邦国連軍のアドルフ・ベッテンドルフと言う軍人に射殺されました。頚動脈を打ち抜かれていた為、ほぼ即死に近いです」
 絶句。
 それは衝撃的な一言で、僕も班長も顔を見合わせて固まった。何も言えずに、緊張した静寂だけが流れていく。信じられない、あのアジガヤ班長さんが? 射殺? しかも即死だって? ありえない。あの人が殺されるなんてことは。
 「これは真実なんです。僕の目の前で、班長が撃たれました。僕だって信じられませんよ。でも、本当なんです」
 追い討ちをかけるようなベレイドの声を最後、通信が虚しく途切れる。僕たちは打ちのめされた。目の前で起きたことなら信じるしかない。僕は顔を正面に向ける。すると、班長の声が隣から漏れ聞こえた。
 「人の死を無視できるようにならな、軍人としちゃ失格や。けどな……人の死を無視できるようになったら人間失格なんやで、オリバー。覚えとけや……」
 泣きたいのを我慢するようなその声に、もう一度僕が視線を隣に向けると、班長は泣いていた。泣いている班長なんて見るのは初めてだ。
 だって、いつもなら人の死を目の前にしても泣いた事なんて一度もなかったから。いつだって、僕達に見せていたのは笑った顔だけだった。いつだって笑みばかり浮かべていて、それ以外の表情を見た事がないくらいに。
 僕は黙って目を閉じた。現実から逃げたい気持ちを込めて、追悼の意はもっと込めて。


 毒ガス戦の真っ只中、俺はアジガヤ班長の死を聞いて一時呆然としていた。今は何とか立ちなおし、目の前の戦争に集中している。しかし、アジガヤ班長と良い仲だったと言うベアトリーチェ班長はショックが大きいだろう。
 「アジガヤが、殺された……」
 虚ろに響いた声に、銃声の中ですこし声の方を見ると、班長が悲しそうにしていた。俺の視線に気付いてすぐに振り払ったが、それでも悲しそうな表情は拭いきれない。当たり前だ。
 「そんなに見ないで。私だって人間、悲しい事もあるし悲しい所を見られたくない感情もある。今は戦いの真っ最中出し、集中しなきゃならない事もよく分かるけど、仲間の死を無視したくは無い」
 班長は沈んだ声で言いきった。慌てて視線を逸らし、憎しみを込めて銃を構える。俺達特殊第三班は毒を扱う専門だが、敵を足止めした今は他の部隊と共に銃撃戦を展開する事になる。一応そう言う手筈なのだ。
 俺はベアトリーチェ班長をかばうような位置に立って、銃の引き金を引いた。一人の兵士が打ちぬかれ、倒れる。更に引き金を引く。今度は足に当たったらしく、蹲った所にもう一発。今度は頭に命中し、そいつは倒れた。

 その一瞬後、俺は手に焼け付くような痛みを覚えて銃を手放してしまった。コンクリートの地面に銃がおち、鈍い音を立てる。痛みの発信源は左手、完全に撃ち抜かれてしまっている。畜生、陸軍隊の奴も大分腕が良い。まさかたった一発の銃弾で左手が機能不能になるとは思いもしなかった。
 「アンドレア、もういい。私がやる」
 手を見ながら色々考えていると、班長が俺を押しのけ言ってきた。顔にはまだ悲しさが残っていたが、さっきの憔悴した顔に比べればまだ良い。手も怪我しているし、俺は素直に退いておく。
 班長は大きく深呼吸を一回すると、俺がさっき地面にとり落とした狙撃銃を手にとる。そういえば、班長の銃はさっき引き金の部分がおかしくなったとかでほうり捨ててるんだったっけ……。

 それからの手並は至極鮮やかだった。あっという間に下の兵士達は打ち倒され、道に山をつくっていく。それは傍から見ると物凄く残酷な光景だが、こんな光景は何度も見てきた。
 その時、嫌な予感に戦慄した。俺の感じた嫌な予感は大抵当たる。俺は失礼と知りながらも班長を突き飛ばし、転がった銃を奪い取って、左手の痛みを無視しながら下に向かって放った。……同時に聞こえる銃声と、悲鳴。そして頭に激痛。
 「ぐわっ!」思わず俺は叫んでいた。さっきの手より痛いし、何か出血が激しい気がする。頭だから仕方ないか……。
 「ちょっと!」班長の怒声混じりな声。俺は笑いかけようとしたが、痛くて無理だった。それでも無理に声だけは上げる。「だ、大丈夫ですよ……」
 本当は大丈夫じゃないんだけどな。

 しかし、班長の眼は誤魔化すことができない。
 「そんなわけないでしょ。頭の重要部には当たっていないしほうっておいても大丈夫だけど、十分痛い。貴方はさっきから無理をしすぎよ、ちょっとならいいけど、これ以上はやめて」
 言い切られてしまった。痛いし返す言葉もなく、俺は銃を引き渡して引き下がる。今更の様に痛みが激しくなりだし、俺は立って居られずに座りこんだ。班長は俺の方を一顧だにせず、銃撃戦の方に集中している。
 「役に立てなくてすいません、班長」一応謝罪の言葉を言っておく。班長は振り向き、笑みを零すと「いいの、班員を庇うのも班長の仕事だから」と少しだけ穏やかな口調で言い返してきた。
 戦況は、俺達が有利を保っている。それなのに何故、奴等はこんなにも闘うのだろうか。
 

 午後三時半。作戦開始から十二時間三十分が経った。この十二時間半の間に、一体何人が死んだと報告されてきただろうか。この喧嘩は被害が大きすぎる。特に、アジガヤやノスラトが抜けた事は凄まじく大きな被害だ。それにイザリやデガイも怪我を負ったというし、暫くの間、軍は開店休業状態になりそうだと予想してみる。
 「随分と深刻そうな顔だな、総司令官」
 思考の最中、フィオルの声が会議室の入り口から響く。私は「五月蝿い」の一言で適当にあしらい、苛々と机を指で叩く。フィオルは尚も声を上げてきた。えいくそ、イラつく野郎だ。
 「同志の死は確かに辛い。だが、それは戦場の真っ只中で噛み締めるものじゃない。仲間を弔うのは後、戦争が終わってからにしてくれないか。ここも激しい戦場であると言う事をわきまえて欲しいね」
 正論だが、いい方がムカつく。ここで言い争っても仕方ない事はもうわかりきっているので、私は何とか苛立ちを腹の中に納めた。フィオルは静かに私の方まで歩み寄り、机に座った。一応止めてもらいたいので背中を押して降りさせる。フィオルは鼻で少し笑うと、「じゃあな」と言って去っていった。やっぱりイラつくので、足を引っ掛けて転ばせる。頭から転倒、いい気味だ。
 「ちくしょー! こら、何しやがる!」
 凄まじい剣幕で怒ってきた。如何せんさっきの無様な有様を見ているから迫力は全くない。私は笑声混じりの声を上げかえしてやった。
 「ん? 勝手に引っ掛かったお前が悪いんじゃないのかな?」
 「ぐぎゃー、ムカつく野郎だー!」
 フィオルの悔しそうな叫び声。私は立ち上がったフィオルに「ほら、行くなら早く行け」と茶化すように言い、手で背中を押す。フィオルは踏鞴を踏みつつも歩みでると、振り向いて殴ろうと拳を振り上げる。私はどうせ殴れないとタカを括り、悠々椅子に構える。案の定、出来ずに諦めて去った。
 奇妙な寸劇を演じてしまったが、フィオルの言う通りここも戦場だ。気を抜いてはいけない。気を取り直して何の気なしに通信を繋げると、凄まじい声が耳に飛び込んできた。

 凄まじい喜びに満ちた歓声。それは聞いているだけでも鼓膜が張り裂けそうな音量で、私は慌ててイヤホンの受信出力を下げる。小さくした所でじっくりと声を聞いてみると、聞きなれた声が幾つもあった。
 ベアトリーチェの班の連中だ、そう直感する。それにしても凄い歓声だ。一体何があったのだろうか。等と思考していると、不意に声が飛び込んできた。
 「あ、繋がってる……」最初がそれかと言いかけて、私は口を塞ぐ。私が勝手に繋いだのだ、向こうに非は無い。そこまで考えたところで、もう一度声が飛び込んでくる。声は第三班軍事戦況報告者のアンドレア・アゴスティのものだ。
 「敵側の隊長の降伏に成功しました。他の部隊でも降伏しました。……勝ったんです」
 その報告に、思わず安堵の溜息。よかった、勝ったのか。私は何か言ってやろうと思ったが、出てきた言葉は一つ。
 「よかった、安心したぞ」ただ一言。だが、アンドレアの方は嬉しそうな声で「いいえ」と言ってくる。そして、通信が途切れた。

 今回の大喧嘩に勝てたのは幸いだ。しかし、あまりにもこの喧嘩での傷痕は大きすぎる。何人もの人が犠牲になり、夫や妻を喪ったものもいるかもしれない。いや絶対に居る。
 そう思うと、素直には喜べない気持ちが大きかった。
続く


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