ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 月下の犠牲-サクリファイス-
- 日時: 2011/12/31 11:27
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: vjv6vqMW)
- 参照: http://m-pe.tv/u/?farfalla632
こんにちは。霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。名前は変わっておりますが前にここで書いていたことがあります。
今回は前に書いていて、挫折したしまったものを一から書き直してみようと思います。
誤字、脱字が多い思いますので、気づいた方は教えて下さい。
下手ですが自分なりに頑張っていこうと思いますので宜しくお願いします。また、一話一話の長さがバラバラですがお気にせずに
目次
序章:出会いは始まり>>1
第一話:サクリファイス>>2
第二話:謎のサクリファイス>>3
第三話:リミット>>4
第四話:バトル開始>>5
第五話:圧倒的な差>>6
第六話:特殊>>7
第七話:悪夢幕開け>>8
第八話:時を見る者>>9
第九話:穏やかな過去>>10
第十話:消せない過去>>11
第十一話:動き始める時、ジャッジメントの目覚め>>13
第十二話:崩れる絆>>14
第十三話:レジェンド>>15
第十四話:始まる物語、最初の判断>>16
第十五話:加速する運命>>17
第十六話:二人の傀儡使いの出会い>>18
第十七話:強さと意志と>>19
第十八話:無力とレジェンド>>20
第十九話:無力の最強>>21
第二十話:記憶と力と>>22
第二十一話:一人の少年の苦しみの歌>>24
第二十二話:白と黒>>25
第二十三話:お見舞い>>26
第二十四話:天使型サクリファイス>>27
第二十五話:天乃、紅蓮>>28
第二十六話:傀儡使いの力>>29
第二十七話:衝撃の事実>>30
第二十八話:犠牲と審判者>>31
第二十九話:見え始める終焉に>>32
第三十話:ディバイス>>33
第三十一話:判断者が見る行方>>34
キャラ絵>>12
参照のHPにもまったく同じものが載せてあります。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.25 )
- 日時: 2010/05/09 15:48
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: OHqLaWWa)
第二十二話〜白と黒〜
梨兎が準備を済ませ、玄関から出たころには入り口のところに車が止まっていた。普段は何にも無いかのように生活しているが、梨兎は目が見えないのだ。普段は桜梨が色々と助けてくれるが、今日はその桜梨がいない。困ったように頭を軽く掻く。
「やっぱり見えないとなると不便ですよねぇ……」
桜梨がいなくても音を聞くことで移動することもできる。ただそれはあくまで音が聞こえた方へと動くだけであり、音を発するものと自らの間に障害物があればぶつかったりもする。
梨兎がどうすれば良いのかと考えていると、どこからとも無くエリカが現れ梨兎の手を掴み車の方へと引っ張っていく。梨兎はあまりにも突然だったため一瞬転びそうになっていた。
「ほら梨兎様。車の前に着きましたにゃ。どうかお気をつけてくださいにゃのです」
丁寧に車のドアを開いてから言うエリカ。その声を聞けば薄い笑みを口元に浮かべ「エリカですね? 助かりました。有難う」と言ってエリカの頭を撫でる梨兎。若干頭を撫でるまでに時間がかかったが、それでも満足そうにエリカは笑っていた。
梨兎がゆっくりと車に乗り込み、エリカがドアを閉めればゆっくりと車が走り出す。エリカは静かに頭を下げ屋敷の中に入っていく。梨兎はその様子が見えないから黙って車の揺れに身を任せる。
運転手に頼み、音楽をかけてもらいボーっとする梨兎の姿は髪の色とは真逆の白に見えた。見た目がと言う意味ではなく、何事にも犠牲は望まないと言う真っ白なやさしい考えを持っているように見える。
そう見えるだけであって実際は、犠牲のことなど気にしない残酷な奴かもしれないのだが。
車に揺られること約三十分。車が停車したのは廃工場の前だった。眠りかけていた自分に目的地についたことを教えてくれた運転手に礼を言い車から降りる梨兎。
黙って辺りを警戒する梨兎。辺りは静まり返っていて人の気配さえしなかった。不意に砂利を踏むような音が聞こえてくる。自らが乗ってきた車は完全に止まっているしエンジンの音がしないから、音を立てるとしたら自分か、ほかの人間しかありえない。
腰から隠してあった拳銃を引き抜き構える。自分の後ろから音がしていることに気づき、黙って振り返る梨兎。その手にはしっかりと拳銃が握られていて相手が敵ならば撃つことも躊躇わないだろう。まぁ安全装置を解除していないから、今は安全なのだが。
「わわ。そんな物騒なものしまってください。僕ですよ?」
現れたのは銀色の髪に全てを見通すかのような深い青の瞳の青年だ。梨兎はその声を聞けば黙って拳銃を元の位置にしまう。それを見た銀髪青目の青年は口元に笑みを浮かべる。
そんな青年は黒に見えた。残酷で自分の目的のためならいくら犠牲が出てもかまわないという残酷な考えの持ち主のように感じることができた。
「お仕事は進んでいますか? 梨兎君」
どこか他人を見下すような声。こみ上げてくる不快な感情と汚い言葉を押さえ込み「ええ。お蔭様で」と返す。くすくすと笑い「それなら結構です。で、あの言い伝えのことは分かりましたか?」と青年は問いかける。
黙って首を横に振る梨兎。途端に青年の表情は険しくなり「いつになったら分かるのでしょうか? 駒がいくら犠牲になってもかまわないのですよ。代わりはいくらでもいますからね」と静かに告げる。
ギリッと歯軋りをしきつく手を握り締める梨兎。青年は怪しげな笑みを浮かべ「それともあの天使型サクリファイスちゃんが惜しいですか?」と呟きとも、問いかけとも取れるような言い方で言う。
「五月蝿いですねぇ。貴方には関係ない話ですからねぇ……貴方みたいな悪魔に従うつもりも更々ありませんよ」
静かなのにどこか力強い声。少年がギリッと歯軋りをして梨兎を睨みつける。しかし目の見えない梨兎には何の効果もない。梨兎は静かな声で「僕の大切な子達を貴方の駒として使われては死んでも死にきれませんからねぇ……。仕方がなく従っていて、いつでも貴方を葬ることができることを忘れないでほしいですねぇ」と告げる。
それは白から黒に対する宣言。自らの大切な者達に手を出せばこの手をお前の血で染めることも躊躇わないぞという冷たい宣告。青年はそれを聞けば引きつった笑みを浮かべ銃を梨兎に向ける。
「やっぱり君は邪魔だ。知ってる? マテリアルは一人欠けると自動的に一人補充されるんだと。だから君が死んでも僕は困らない。だからここで死んでください」
何の躊躇もなしに引き金を引く青年。そんな様子は青年が人の死をなんとも思わない黒だということを示しているようにも見えた。
「銃弾は僕には当たらない。絶対にね」
青年が銃の引き金を引くのと同時に呟く梨兎。なんだか人の命を奪えるものとは思えないほどの間抜けな音と同時に、銃弾はありえるはずのない方向へと曲がり、そのまま壁にぶつかる。
「では。僕は貴方と違って忙しいのです。これで失礼しますよ」
それだけ告げて車に乗り込む梨兎。車から降りてほとんど動いていなかったため楽に乗り込むことができた。青年は静かに走り出す車をただただ、睨みつけていたのだった。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.26 )
- 日時: 2010/07/03 12:50
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: bGx.lWqW)
第二十三話〜お見舞い〜
紅零がさらわれてから早くも一週間が過ぎていた。流架は笑う気分になれないのを無理に笑っていた。そんな流架を見て違和感を感じるのは葵と來斗だけだ。普段なら一番最初に気づくはずの蒐は、ここ一週間学校を休んでいる。
「何だか空元気って感じですわね……」
小さな声で呟き心配そうな表情を浮かべる葵。そんな葵に向かって冷ややかな声で「どうせあのサクリファイスと喧嘩したという所でしょう。気にする必要はありませんよ」と來斗は言う。葵はあの日から來斗が冷たいのにも気づいているから、あの時にあんなこと言わなければよかったのになと後悔したりもしていた。
ため息をついて來斗の手首に目を移す。少し捲くった袖から見えている細い手首には包帯が巻かれている。來斗は捻っただけだから気にしなくて良いと言ったが、葵はどうしてもその言葉を信じられずに居た。
何だか悲しくなり、なぜ自分の周りの人間は無理をしたり、嘘をついたりするのだろうかと考える葵。別に相手が無理をしたり嘘をついたりするのはしょうがないとも思うが、もう少しうまく誤魔化せないのかとも考えたりもしている。
そんなことを葵が考えている間に來斗は自らの鞄を持ち、教室を出て行こうとしている。それに気づいた流架はほかの友人との話を一度中断して「また明日な」と言ってひらひらと手を振っていた。
「あら? ライちゃん今日は何もない日ではなくて? 何でそんなに急いでるんですの?」
問いかける葵に振り返りもせずに「……アオちゃんには関係のないことです。……他人のプライベートに口出しするのはどうかと思いますよ」と答える。もはやそうですわねと言って笑みを作る気にもなれなかった。
それを見た流架は小首をかしげて葵の顔を見つめた後、自分の鞄を持ち、葵の手を引いて教室のドアに向かっていく。ポカンと流架の行動を見ていた友人の一人は、ハッとしたように「お、オイ! 流架、どこ行くんだよ!?」と叫ぶ。
「女の子を一人で帰らせるわけにはいかへんやろ? てなわけで、まった明日ー!!」
半ば叫ぶような元気な声で良い、ポカンとしている友人達に手を振る流架。葵は困惑顔で流架に引っ張られるがままに歩いている。転ばないのが凄いところである。
「ふぅ……勢いで出てきてまったなぁ……どないするん? 暇なら蒐ちゃんのお見舞いについてきて欲しいんやけど」
葵は苦笑いを浮かべ、勢いだったのかと思いながらも、制服の胸ポケットから手帳を取り出し予定を確認する。流架はそんな葵を小動物のような目でジッと見つめていた。
走り書きで手帳に何かを書いてゆく葵。しばらくして「大丈夫ですわよ。今日の予定はすべて後に回しても平気なものですし」と薄い笑みを浮かべながら言う。それを聞いて明るい笑みを浮かべた後、葵の持っている手帳を覗き込んで「何や豪い詰めこんどるな……気を付けんとその内、体壊すで?」と心配げに言う。
流架がまだ出会ってから一週間しか経っていないという自分のことを心配するのは少し不思議な気もするが、何故か不快ではないしまぁいいかと葵は考えるのだった。
歩くこと約四十分。たどり着いたのは一般的な一軒家。蒐の喋り方から考えて、日本古来の建物を想像していた葵は、少しキョトンとしてしまう。そんな葵を見て苦笑いを浮かべながらも、チャイムを鳴らす流架。
「はぁい、どなたかしら?」
インターフォンから聞こえてきたのは静かな女の人の声。おそらく蒐の母親なのであろう。流架がいつもより少し大人しめに「月城です。蒐君はいらっしゃいますか?」と言う。葵はああこの人、標準語も喋れるんだと考え、クスリと笑う。
「あら、流架君ね? 蒐は今病院に行っているわよ。一人で行くって聞かなくてね。どうする? 中で待ってく?」
インターホンから聞こえる声を聞いて、首を振り「いや、じゃあどこの病院か、教えてもらってもいいですか? 流石に病人が一人で出歩いているのは心配なので」と答える。その後は蒐の母親に、蒐が行った病院を聞き、そこへと向かうのだった。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.27 )
- 日時: 2011/03/29 19:47
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第二十四話〜天使型サクリファイス〜
病院に着いた流架は黙って蒐の姿を探す。そんなに大きな病院ではなかったものの、やはり大勢の患者の中から蒐を探し出すのは相当の時間が掛かるようだった。しかもここはあくまで病院なため、蒐を探して走り回ることは出来ない。
突然辺りが騒がしくなる。どうやら誰かが倒れたようだ。もしかすると蒐かも知れないと騒ぎの中心へと近づく流架。倒れていたのは蒐。絶え絶えに呼吸をしていて相当苦しそうだ。
倒れているのが蒐だと分かれば、流架はあわてて駆け寄り、蒐の額に触れ、どれくらいの熱なのかを確かめる。顔をしかめ「凄い熱やな……通りで学校休んでるわけや」と呟く流架。
「なぜ一人で来ているのでしょうね。相当きついでしょうに」
そう言うのは葵の肩に座っているリーフィルである。流架は「わからへん。とりあえず俺飲み物買ってくるから、葵は蒐ちゃん見ててな」と言って蒐をそっと椅子に寝かせて走ってゆく。
少々戸惑いながらも蒐の横に立つ葵。蒐はギュッと胸元を握り、苦しそうに呼吸をしている。それでも意識はあるようで、薄く目を開き、葵を見つければ少々驚いたような表情を浮かべ、体を起こそうとする。それを見た葵は「ん? 大丈夫ですの? 病院に着たのに倒れてどうするんですのよ」と言って、やわらかい笑みを浮かべる。さりげなく、起きようとする蒐を制止させたりもしていた。
蒐の方は葵の言葉を聞けば搾り出すような微かな声で「さぁ……どうじゃろうなぁ……」と答える。一人で病院に来た蒐自身も、何故自分が一人で病院に来たのかは全く分からないようで、不思議そうなそんな表情をしている。
「すまんかったなぁ。蒐ちゃん、平気か? とりあえず一度起きて、これ飲みい」
しばらくして戻ってきた流架がゆっくりと体を起こす蒐に、スポーツドリンクを開けてから渡しニコッと笑う。相当全力で走ったのだろう、肩で息をしている。そんな流架を見た蒐は薄い笑みを浮かべ「あの時はすまなかったのう……」と呟くように言う。
流架はへらへらと笑い「気にせんでいいよ。悪いのは俺やからね」と言い、グッと親指を立てる。蒐はそれを見て、黙って苦笑いを浮かべスポーツドリンクを喉に流し込む……これ以上自分が悪いだの何だのと繰り返すつもりは無い。一時の感情に流されて、流架の気持ちを考えずにものを言ってしまった自分も悪いし、自分の過去を知っていながらも配慮してくれなかった流架も悪い……それで良いのではないか。それが蒐の考えだった。
流架と葵が蒐を見つけてから約一時間、処方箋を受け取り、薬局へと向かっていた。あまりの薬の多さに眩暈がした様子の蒐を流架が支えている。葵は薄い笑みを浮かべ「あんな土砂降りの中、傘も持たずに飛び出す方が悪いのですわよ。次から気をつけなさいまし」と言う。それを言われてしまえば、流架との一件のせいがあったからとはいえ、結局自己責任なので何も言えなくなってしまう蒐。
どこからか現れたフーガは葵の発言を聞けばむぅっと頬を膨らませる。まるで傘を持ってこなかったそっちも悪いじゃないかと言っているようにも見えた。リーフィルは涼しい顔をして葵の肩に座って「私の主様は傘を持って蒐を探しましたよ?」と言う。蒐は少々驚いたような顔をし、葵は「まぁ、結局見つけられなくて、諦めたのですけどね」と言って苦笑いを浮かべる。
突然ふわりと真っ白な羽根が落ちてきた。黙って羽根が落ちてきたほうを見る流架。その目の前にゆっくりと降り立つのは桜梨だ。降り立った直後に背中の翼が霧のように消え失せる。桜梨は真っ直ぐ蒐を見た後、流架に視線を移し「……こんにちは失敗作の人間様」と言う。その言い回しはどこか流架……いやそれだけではなく“人間全体”を馬鹿にしているかのようだ。流石にその言い方には腹が立ったのか、キッと桜梨を睨みつける葵。流架の方は大して気にしていないらしく、涼しい顔で「邪魔やで、異質な人間型サクリファイス様?」とまで言っている。
桜梨はギリッと歯軋りをした後「……残念、僕は人間型なんて失敗作じゃない」と言って、鋭く流架を睨みつける。なにやら険悪なムードを察したのか、妖精方サクリファイスのリーフィルとフーガは警戒態勢に入っていた。流架は挑戦的な表情で「ほう? じゃあ何型なんや? 製造日は?」と問いかけ、鼻で笑う。流架の挑戦的な表情に苛立ちながらも、全く表情を崩さずに「……天使型サクリファイス。製造日は去年の十二月二十四日。その後、進化実験を受け、今に至る」と答え、フッと笑い「まぁ、そんなことはどうでもいい」と言って、ゆっくりと蒐に近づいていく。
ただ、蒐の横には流架が居るのだ。流架は黙って蒐を自らの方へと引き寄せ「なんや? 紅零の次は蒐ちゃんか?」と言葉を投げかけ、真っ直ぐ桜梨を見つける。葵はいざと言うときに、すぐリーフィルに指示を出せるように黙って、桜梨の様子を観察している。桜梨は不快そうな顔すらせずに、黙って流架を突き飛ばし、支えの無くなったことで少々フラフラとする蒐を静かな動作で抱き上げ、一旦地面に寝かせる。
まったく桜梨の行動の意味が分からずにキョトンとする流架と蒐。連れ去るのが目的なら、気絶させてでも蒐を連れて行くはずだ。それなのに桜梨はそれをせずに地面に寝かせるだけ……全く桜梨の意図が分からない。
ため息をついた後に、そっと蒐の額に手を立てる桜梨。やばいと思って走り出した流架よりも先に、桜梨の手から紅零を気絶させたときとはまた違う、優しい光が走る。蒐と流架は光が完全に消えた後、黙って立ち上がる桜梨を見てポカンとすることしかできなかった。
「体調不良……治しておいた。勘違いするなよ、後々こっちが困るんだ」
少々言葉は乱暴だが、薄い微笑を浮かべるその姿は“本物の天使”のように見えた。流架もとりあえず「有難うな」と言い明るい笑顔を桜梨に向けてやる。そんな流架の礼の言葉を聞いた後、フイッと顔をそらす桜梨の姿は少し照れているようにも見えて面白かった。そんな桜梨を見た流架はクスリと静かに笑い、冷たくて、最低なやつかと思っていたがそれは違うだろうなと考える。
「そや、紅零はいつになったら返してくれるんかな? 酷い扱いはしとらんやろうな?」
はっと紅零のことを思い出し桜梨に問いかける流架。桜梨は静かな声で「その件については答えられない。でも安心して良い」とだけ答える。不思議なことにさっきまで信じられないと思っていた桜梨の言葉を信じて安心している自分に流架は驚く。蒐はゆっくりと体を起こし「まぁ、有難う。こんなことを頼むのは可笑しいかも知れぬが、紅零のこと守ってくれぬかの?」と桜梨に向かって言う。
桜梨は静かに頷いて「……あくまで今回のは保護だ。安全が確認されたら返すし、変なことはしない……そんなこと梨兎様が許さない」と答えた後、真っ白な翼を出して、思い出したような顔をする。
「……次の満月……つまり明日だが、外出しないように。……自分の未来を消されたくなかったらな」
それだけを言い残して、静かに桜梨は飛び立つ。ボーっとそんな桜梨の様子を眺めた後「天使型サクリファイス、か」と流架はポツリと呟くのだった。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.28 )
- 日時: 2011/03/29 19:48
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第二十五話 〜天乃、紅蓮〜
いくらかの羽根が宙を舞ってフワフワと落ちてくる。そんな様子を眺め、嗚呼、桜梨は天使と呼ぶのに相応しいのかも知れないなと考えた蒐はクスリと笑う。桜梨の言葉を聞くと不思議と紅零は無事なんだなぁと思うことが出来て、流架は桜梨が嘘をついている可能性なんか頭の中から追い出していた。確かに桜梨は紅零をさらった敵と呼べるであろう存在でもあるが“保護”という言葉と、チラッと見せた薄い微笑み、そのほかの“人間らしさ”を見てあいつは“完全な悪”ではないと思ってしまう彼らは甘いのだろうか?
しばらくの無言の時間を打ち破ったのは葵だった。申し訳なさそうな、遠慮がちな声で「あの私、ちょっと気になることがありまして……ライちゃん、來斗の家に行きますわ。お二人は先にお帰りになってくださいまし」と言って、無理やり作った不器用な笑みを浮かべてその場を走り去ろうとした。そんな葵の腕を、流架は黙って掴み「なんや、俺に付き合ってももらったんや、俺も付き合うで」と優しげな笑みを投げかける。蒐はやれやれといった様な表情で「流架だけを行かせるのは少々不安じゃからな。我も行こう」と言う。
「別にいいですわよ。蒐さんは治してもらったとはいえ病人ですわ、流架さんも私についてくる義務などありませんもの。どうぞお先にお帰りくださいませ」
流架と蒐の言葉を聞けばゆっくりと首を振って葵は言う。遠慮気味なその声を聞けば流架と蒐は黙って首をかしげる。もしかすると自分達が嫌々ついてくるとでも思っているのだろうか? そんなふうに一人で考えて納得したように流架は頷く。蒐の方は無言で葵と流架を交互に見つめていた。まるで、流架が何かを言うのを待っているかのようにも感じた。
「遠慮せえへんでもいいよ? 俺も暇やから行くんやし」
流架がそう言って先ほどの優しい笑みとは違った、いつもの親しみやすい笑顔を浮かべる。蒐も流架のすぐ後に「我も一週間も寝込んでおって、少々動きたいのじゃよ」と言ってクスリと笑う。それでも葵は申し訳なさそうに俯いたり、断ろうとしたりを繰り返していた。
ため息を吐いて、葵の手を引いて走り出す流架。流石にそれには蒐も驚いたようで目を見開いてポカンとしていた。葵は引きずられないように、必死に走っている。正気に戻った蒐は「おい!! 流架、來斗の家分かるのか?」と叫んだ後、流架の後を追って走りだす。蒐が追いついたところで立ち止まり「んで? 來斗の家ってどっちなんや?」と分かれ道の左右を指差している。それを見た蒐は呆れ顔で「そんな事だろうと思ったわ」と自分の眉間に手を当てて言う。
そんな二人を見た葵はクスリと笑って「こっちですわよ」と左の道を進んでいく。
どれぐらい歩いただろうか? 気づけば大きなお屋敷の前に来ていた。表札には天乃の文字。それを見た蒐は「來斗の苗字は紅蓮ではなかったかのう?」と問いかける。葵は蒐の問いに対して黙って頷いて「ええ、苗字はそうですわ。ただ……両親が亡くなられて、でちょうど養子を探していたこの家に引き取られたのですわよ。ですから苗字が変わっていなくてもライちゃ、……來斗はこの家の人間なのですの」と答える。
流架は小さく頷いて「へぇ……辛い思いしたんやなぁ……あいつ」と呟く。しばらく屋敷を見つめた後、葵がチャイムを押す。しばらくの間の後に「はい。どなたでしょうか」と言う暗い、來斗の声。葵はキュッと手を握って「竜宮ですわ。他に月城さん天魔さんも居ますわよ」と言う。妙な間の間に酷く抑揚の無い声で「今門を開けます。どうぞ入って来て下さい」と來斗が答えた。
門が自動で開くのを流架と蒐はポヤーっと見つめている。まぁ流架と蒐は一般庶民なのだから仕方が無いのだ。だって馬鹿でかい屋敷に自動で開く門となれば、大抵の人は無言で固まってしまうだろうし。そういう人から見れば普通に歩いていく葵のほうが異常なのだと言えるのではないか。
玄関にたどり着くまでに十分。流架のテンションが妙に上がっている。それとは対照的に蒐のテンションがた落ち。白いTシャツに、黒い上着を着ていて下はジーパンを穿いて、ネクタイをつけた來斗はドアに寄りかかるような形で葵、流架、蒐のことを待っていた。少々暑いのか袖をまくっている。
蒐が何気なく目を向けた來斗の手には、一部赤に染まった包帯が巻かれていた。小さくため息を吐く蒐。小さな声で「用があったのでしょう? 外で話すのもなんですし、どうぞ……」と言って、來斗はドアを開ける。
案内されたのは、來斗の部屋だった。とても一人で使っているとは思えない広さで、ズラッと本の並んだ本棚、綺麗に整えられたベッドに爽やかな薄緑のカーテン。机には何冊かの参考書とまとめられた楽譜。なんとも“優等生”と言った感じの部屋だ。來斗を中心に座ると、召使らしき人物が、紅茶とケーキを持って入ってきた。
「ん……有難う」
召使らしき人物から紅茶とケーキの乗ったお盆を受け取り、部屋から追い出す。その後、一人一人の前にケーキと紅茶を置いていく。流架は驚いたように「使用人なんておるんやなぁ」と呟いている。來斗はふふっと笑って「居ても鬱陶しいだけですよ」と流架の呟きに対して答えるかのように言う。來斗の言葉に「身近に居るからそんなこと言えるんやで」と流架はため息をつきながら答えた。
「……で、何の御用で?」
紅茶を少し喉に流し込んで來斗が問いかける。葵が決心したような顔をし「確か、天乃の人間には梨兎という方がいましたわね? 後、桜梨って方も」と來斗に問いかける。來斗は少々目を見開いた後、小さく頷いて「ええ。“紅蓮”であった僕が“天乃”に引き取られたとき、本当の家族のように接してくれた優しい人でした。桜梨は僕のことを“兄様”とまで呼んでくれた」と答え、再び紅茶を喉に流し込む。
「その梨兎の名前が、あのサクリファイスの桜梨の口から出たとしたら?」
葵の言葉を聞いて來斗は「ありえませんよ。梨兎兄様が音信不通、行方不明になって何年になると思っているのですか?」と言い放つのだった。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.29 )
- 日時: 2011/03/29 19:50
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第二十六話 〜傀儡使いの力〜
重い沈黙が部屋を支配する。來斗も誰かが何かを言わない限りは言葉を発するつもりはないらしく、黙って紅茶を喉に流し込んでいた。何を言って言いか分からずにケーキを少し口の中に放り込む蒐。葵はまぁ予想通りの反応だというように涼しい顔で紅茶を啜る。
「まぁ、そう言うと思っていましたわ。でもこれは本当。嘘を付いても私が得するようなことはないですもの」
クスリと笑って葵は言う。來斗の方は少しむっとしたような表情で「重々承知ですよ。それに、そのサクリファイスが嘘を付いている可能性だってあります」と呟くように答えた。フーガがジッと來斗の顔を見つめ「主様……あの者、心が……」と言うのを蒐は手で制す。
普段ならここで、流架がこの重い雰囲気をぶち壊すところだ。しかし今の流架は少しずつ口にケーキを放り込み、何も言わずのんびりと葵と來斗の話を聞いている。その様子は、言うことが思いつかないと言うようにも、言葉は思いついているが、あえて何も言わないようにも感じられた。
スッと來斗が立ち上がり、窓際で思い出すかのような目をして外を眺める。スルリと來斗の手からティーカップが落ちる。勢い良く降り始めた雨と雷の音が響き始めていた。小刻みに揺れる唇は謝罪の言葉を繰り返しているようにも見えて、なんだか妙な感じだった。葵と蒐は唖然と來斗を見つめていた。
來斗は逃げるように向きを変えようとする。その足元には砕け散らばったガラスの破片……。今動けば間違いなく踏んで足に怪我を負ってしまうだろう。葵が來斗を静止するのよりも早く流架は右手を引き「傀儡……我が人形に」と呟いた。刹那に縛られたかのように來斗の動きが止まる。來斗は窓から目を逸らそうとした。だが全く動けない。息が詰まったような錯覚に襲われる。
「ああ、すまんなぁ。瞬きと呼吸は許可せんとな」
流架の声が聞こえたしばらく後に、來斗を襲っていた息が詰まったような感じはすっかり無くなり、閉じることが出来なくなっていた瞳をきつく閉じることが出来た。來斗は問う。震えた声で「何をした」と。その問いに対し、流架はいたって涼しい表情で紅茶を啜り「少々お前の体の自由を奪わせていただいた。別に、嫌味でこんなことやってるとちゃうで」と答える。
重苦しい空気が漂う。蒐が軽く流架の肩を叩き、その耳元で何かを囁く。それを聞いた流架は重々承知というような感じで頷き、逆に蒐に何かを問いかけていた。その様子を不審そうに葵は見つめる。來斗はきつく目を閉じたまま、何も言わなかった。まず、意識があるのかも怪しい状態だ。
半ばため息を付くような形で息を吐き、クイッと右手を引く流架。するとどういうことだろうか? 來斗の体が滑るように流架達の目の前へ移動する。驚いたような顔で流架を見つめる葵と蒐。そんな葵と葵の表情に気付けば、いつものような笑みを浮かべ「なんや、この力に驚いてるんか?」と問いかけた。葵は素直に頷き蒐は少々遠慮するかのように小さく頷く。
「これが俺の能力、傀儡使いや。主にものに自らの命の欠片を入れて操ることが出来る。物も人間も関係なくや。ちなみに他の能力に一切鑑賞されない唯一の能力やな」
すらすらと流架は答える。普段の彼からは想像出来ない全く抑揚の無い声で。小さな声で「なるほど。さっきから貴方から感じていた妙な感じはその力のせいなのですね。蒐さんの力はなんとなく感じることが出来たのですけど」と言う。それを聞いて思い出したような顔をし、流架は「そう言えば葵は無効化のレジェンドやもんなぁ。相手の能力を察知できるんやっけ? まぁ俺の能力は特殊やから微かな反応しかないやろうけど」と言う。
蒐は呆れたような顔でため息をつき「そろそろ來斗のこと開放してやってはどうかのう?」と言う。流架はその言葉を聞いてシュッと空を裂くように手を動かす。そうすれば來斗の体が糸の切れた操り人形のようにその場に倒れこむのだった。
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