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月下の犠牲-サクリファイス-
日時: 2011/12/31 11:27
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: vjv6vqMW)
参照: http://m-pe.tv/u/?farfalla632

こんにちは。霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。名前は変わっておりますが前にここで書いていたことがあります。
今回は前に書いていて、挫折したしまったものを一から書き直してみようと思います。
誤字、脱字が多い思いますので、気づいた方は教えて下さい。
下手ですが自分なりに頑張っていこうと思いますので宜しくお願いします。また、一話一話の長さがバラバラですがお気にせずに

目次

序章:出会いは始まり>>1
第一話:サクリファイス>>2
第二話:謎のサクリファイス>>3
第三話:リミット>>4
第四話:バトル開始>>5
第五話:圧倒的な差>>6
第六話:特殊>>7
第七話:悪夢幕開け>>8
第八話:時を見る者>>9
第九話:穏やかな過去>>10
第十話:消せない過去>>11
第十一話:動き始める時、ジャッジメントの目覚め>>13
第十二話:崩れる絆>>14
第十三話:レジェンド>>15
第十四話:始まる物語、最初の判断>>16
第十五話:加速する運命>>17
第十六話:二人の傀儡使いの出会い>>18
第十七話:強さと意志と>>19
第十八話:無力とレジェンド>>20
第十九話:無力の最強>>21
第二十話:記憶と力と>>22
第二十一話:一人の少年の苦しみの歌>>24
第二十二話:白と黒>>25
第二十三話:お見舞い>>26
第二十四話:天使型サクリファイス>>27
第二十五話:天乃、紅蓮>>28
第二十六話:傀儡使いの力>>29
第二十七話:衝撃の事実>>30
第二十八話:犠牲と審判者>>31
第二十九話:見え始める終焉に>>32
第三十話:ディバイス>>33
第三十一話:判断者が見る行方>>34

キャラ絵>>12

参照のHPにもまったく同じものが載せてあります。

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Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.15 )
日時: 2011/03/29 19:37
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十三話〜レジェンド〜

 「……良い感じに反発してますね。能力の覚醒も早そうだ」
 そういう流斗が持っているのは淡い水色の光を放つ水晶だ。杖についていた水色の玉がなくなっているから、おそらくこの水晶も杖の一部なのだろう。黒奈は「とりあえず、時渡りに証を与えに行こうよぉ。めんどくさいしぃ」と言って流斗の顔を覗き込む。
 「……駄目ですよ。まだ正式な審判は下していません」
 流斗の言葉を聞き、ため息をついて「流斗は真面目だねぇ」と言って黒奈は手をフワフワと動かす。流斗はそんな黒奈を見て呆れたような顔をして「黒奈が不真面目なだけです」と言い、水晶を杖に近づければ、まるで磁石のように杖に水晶がくっついた。
 「さてと……エージェントとやらも動き出したようです。僕たちもゆっくりとはしていられませんよ」
 黒奈はそう言って歩き出す流斗の後を慌てて追う。流斗は歩きながらパラパラと手帳をめくり、見つかった蒐の名前を指差して「……この子にレジェンドの資格があるか確かめにいきましょうか」と言う。
 トンッと地面を蹴って、垂直に飛び上がり黙って目を閉じる流斗。優しい風が流斗の髪を揺らし、辺りを包む。それを見れば流斗が普通の人間ではないことは明らかだった。しかしサクリファイスは目印として六芳星がデザインされたものを身につけなくてはならないが、流斗にはそれが無い。と言うことはサクリファイスではないということは確かだ。
 「……久しぶりだから力が安定しませんね」
 流斗はそう言いながら地上に降りてきて、蒐の居場所を黒奈に伝える。黒奈は苦笑いしながら「何十年ぶりでそこまで安定してれば凄いと思うけどねぇ」と言い、手で空を裂く。そうすれば黒い亀裂が黒奈の前に現れ、二人を誘うかのように亀裂の周りが歪み、揺れる。
 「……これ結構キツイですよね」
 そう言えば黒奈の手を引いて亀裂の中に進んでいく流斗。電撃が走るような音の後二人の姿が闇に溶けて、消えていった。

 そんな頃、蒐は家への道を急いでいた。雨は酷くなり雷まで落ちる始末。唯一の救いは雨で涙が隠せると言うことだけだった。小さく力の無い声で「あいつなら分かってくれていると思った我が馬鹿じゃったな……」と呟き、きつく自分の胸元を握り締める。
 フーガはどう声をかければ良いか分からずに蒐の周りを飛ぶことしか出来ない。そんなフーガを見て蒐は止まらない涙を無視して、疲れたような、全てを諦めたような笑みを浮かべ「心配掛けてすまぬな。もう……平気じゃよ」と言う。
 それでも心の中では、もう疲れたとか、ここで消えてしまえたらどれだけ楽なのだろうとか、そんな言葉ばかりが浮かぶ。そんな蒐を凄い勢いで光が包み込む。
 「何じゃ……。この光……」
 蒐はそう言って反射的に目を覆う。まるで流斗と黒奈が現れる前に石が放った光のようだった。光が徐々に収まっていけば二人の人影が見えてくる。黒奈と流斗だった。
 「……おや? 先ほどの……」
 蒐を見れば、流斗は驚いたように言い、蒐の顔を黙って見つめる。そしてしばらくの沈黙の後に「さて、貴方にレジェンドの資格があるか、確かめるために今から三つの質問をします。思ったことをそのまま答えてください」と言う。
 不思議そうに「レジェンドとは何じゃ?」と問いかける蒐に、流斗は驚いたような顔をしながら「まずそこから説明しなければなりませんか……」と呟く。黒奈はその横で「あっははー。今回の時渡りは無知だぁ」と笑う。

 ゆっくりとレジェンドについて話してゆく流斗。蒐は黙って流斗の話をメモしてゆく。流斗の話をまとめれば、レジェンドとはその能力のトップに立つ者たちの事を言うらしい。
 レジェンドはマテリアルと言う、おおよその能力の基盤となる力を持った、十二人の中から選ばれ、レジェンドストーンと言う力を制御するための石をあたえられるとのことだった。
 蒐は手帳を閉じ「なるほど……で我は、時渡りのマテリアルであり、二人のレジェンド候補の一人なのじゃな」と呟くのだった。

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.16 )
日時: 2011/03/29 19:38
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十四話〜始まる物語、最初の判断〜

 流斗は納得した様子の蒐を見て、安心したように頷き「それでは三つ質問をします。嘘偽りなく答えてくださいね」と言い一度目を閉じる。蒐は黙って流斗を見つめ、どんな質問が来るかを考える。
 「……一つ目。たとえば貴方にそっくりで貴方がいると生きられない存在がいるとする。貴方はどうしますか?」
 ゆっくりと目を開き静かな声で言う流斗。蒐は少し顔をしかめ「何もしない。何をしたって必ずどちらかは消える。それに変わりはないのじゃからな」と答え、流斗を見る。
 蒐の答えを聞いても流斗は表情をまったく変えずに「なるほど……二つ目、貴方が行った時で起こったことに一度だけ関与する権利が与えられたとします、さぁどうしますか?」と二つ目の質問をする。困ったような顔をして「場合による。あまりにも酷ければ関与するし、そこまで出なければ何もせぬ」と答える。
 流斗は黙って頷き、メモ帳に何かを書き、声のトーンをまったく変えずに「……最後の質問です。貴方の友達、もしくは味方が危ない目に遭っています。貴方はやろうと思えば助けられる所にいます。助けますか?」と問いかける。
 蒐は黙って目を見開き、困ったような顔をする。そんな蒐を黙って見つめていた黒奈はクスリと笑うが、流斗に睨まれてすぐに無表情になる。
 「この答えについても場合によると答えさせてもらう。勝算があれば助けるし、なければ助けない。時の流れに身を任せる」
 最後の蒐の答えを聞いてメモを取れば薄い笑みを浮かべ「……合格です」と言って杖を取り出す流斗。蒐は不思議そうに流斗の杖を見つめる。
 「我、負のジャッジメント流斗なり。我が名の元に天魔 蒐にレジェンドの資格が有ると判断をし、最終決定を正のジャッジメントに求める」
 流斗がそういえば黒奈は、流斗のメモを覗き込み「我、正のジャッジメント黒菜。負のジャッジメントの求めに答え、最終判断を下す。我が名の元に天魔 蒐にレジェンドの資格があると認め、証を授ける」と言う。
 いつもより真面目な黒奈の口調に戸惑いながらも、そっと蒐の手に明るい茶色の石を落とす流斗。蒐が不思議そうにその石を見つめている間に流斗と、黒奈は姿を消すのだった。

 そんな頃、流架は謝ろうと蒐の家までの道を走っていた。もちろんその横には紅零もいる。蒐が嘘を付くわけが無いとは思いながらも嘘はいけないと言った自分に腹が立っていた。もし嘘だとしても蒐が嫌なことを思い出してしまって言いたくないだけなのかもしれないと冷静に考えれば考えるほど、何て自分は無神経なのだろうと自分を責める流架。
 蒐が嫌な過去を忘れようと必死なのは知ってるし、弱音を吐いたりしないことも知っている。それに蒐の過去については流架も色々と関係しているのである。流架は「俺馬鹿だよなぁ……あのときのこと一番理解して無いとあかんのに」と呟いて空を見上げる。
 蒐が言った言葉に驚いた流架だったがそれも自分のせいなので仕方が無いと考える。それに少し嬉しかったのも事実だったりする。普段は自分の心の内を明かしてくれない蒐が流架にたいして怒りの感情を見せたのだ。確かに蹴られた所も痛いが蒐の本音の部分が聞けて流架は安心していた。
 「みぃつけた……」
 一度立ち止まった流架の首に冷たい刃物が当てられる。相手の顔を確かめようとしながら「何のつもりや」と言う流架。流架の首にナイフを当てているのは桜梨であった。桜梨は静かな声で「お前には用が無い……だが邪魔だから眠ってもらう」と言ってグッとナイフを流架の首に押し付ける。
 流架は苦笑いを浮かべ「おいおい……殺す気満々やないか」と呟くが、首にナイフを押し当てられているため下手に動けずに居た。桜梨は口元に笑みを浮かべ「安心しろ。これから始まる物語にお前は必要不可欠だ。殺しはしない」と言う。
 「でも今回用があるのは紅零やろ……紅零!! 逃げるんや」

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.17 )
日時: 2011/03/29 19:39
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十五話〜加速する運命〜

 紅零は流架に言われても絶対に逃げようとしない。桜梨が不敵に笑い「失敗作のサクリファイスはトリプルS……。主人の身の安全を最優先にするように出来てるから逃げないよ」と言う。それを聞いた流架はグッと唇を噛み、そのまま桜梨の脚を払うように自分の足を動かす。
 「おっと。危ないな」
 桜梨は脚を払われ一度は倒れそうになるが、とっさに手をついてバク転のような感じで体勢を立て直す。とっさに体勢を立て直した桜梨をみて思わず拍手をしてしまう紅零。
 「無駄なことを」
 そう言って鼻で笑う桜梨。紅零が素早く流架を庇うように前に出てくる。流架はまるで計画通りと言うかのような桜梨の笑みを見て背筋に悪寒が走るのを感じ、とっさに紅零の手を引いて走り出す。こいつには勝てないと感じての行動だった。
 「おや。失敗作でも僕に勝てないことは分かるようだ」
 必死に走る流架を見れば「でも無駄。時はもう回り始めている。異常な速さでな」と言って、桜梨は流架の前に瞬間移動する。目を見開き後ろに引き下がる流架。紅零は黙って流架の手を振り払い、桜梨の前に立つ。
 「主人……僕を信じて。信じてくれるなら僕は絶対に勝つ」
 その瞳は真っ直ぐ桜梨を捉えていて、強い意志が感じて取れた。桜梨はそんな紅零を見て不愉快そうな顔をして「無理だ。僕には勝てないよ」と言う。
 気づけば紅零の手の上には淡い青の光。桜梨は呆れたような顔をして「だから、勝てないって言ってるのに」と笑う。それでも紅零は「やってみないと分からない。やる前に諦めたりはしない」と言って光を宙に投げ、それを手で叩く。
 光が鋭い矢のように姿を変え、桜梨に向かって飛ぶ。それでも桜梨は焦りもせずに、ただただ光の矢を見つめている。紅零は不思議そうな顔をしながらも気は緩めないでいた。桜梨が避けようともせずに何をしようとしているのかが分からなかったからである。
 「羽の守り(フェザー・ガード)」
 桜梨が静かな声で呟けば、どこからか羽のようなものが集まってきて光の刃を全て弾く。全てを防いだ所で「羽の守りは戦闘プログラムを作動しなくても使える弱小防御だ。そんなのも破れずにどうやって僕に勝つんだろうな?」と言って、馬鹿にするような、哀れむような目で紅零を見る。

 「さて……遊びもここまでだ。黙ってついてきてもらう」
 桜梨は無表情で桜梨はそう言って紅零に近づく。紅零が張ったシールドや技は全て片手で消していた。紅零は少しずつ追い詰められてゆく。流架が自分の方へと走って来たのに気づきながらも大して害は無いと判断し、桜梨は流架を完全に無視する。
 流架の手にはナイフが握られていて、それを桜梨の背中に突き刺して抜く。桜梨は体に走った激痛に耐えられず、地面に膝をついて流架を睨みつける。その背中からはドロドロとした赤い液体が流れ落ちている。
 そんな桜梨を見て、流架は少し辛そうな顔をした後に、紅零の手を掴み走り出す。痛みに顔を歪めながら「逃がすかよ!! 梨兎様に頼まれた仕事なんだから……。高速……再生!!」と桜梨は叫ぶ。
 ありえないスピードで流れていた赤い液体は消え、桜梨が立ち上がる。それを見て流架は「絶対チートやろ。あいつ」と呟く。
 傷が塞がったことを確認し、凄いスピードで紅零を捕まえ、流架を吹き飛ばす桜梨。抵抗する紅零を見て、不愉快だと言うような顔をしてそっと、紅零の額に手を当てる。
 微弱な光が走ったかと思えば紅零の体の力が完全に抜ける。流架はそんな紅零を見て「お前……紅零に何をした!?」と叫ぶ。そんな流架に、低く呪うような声で「五月蝿いなぁ? お前には関係ないだろう?」と桜梨は言う。
 「関係なくなんかないやろ!? 紅零は……」
 流架が言い終わらない内に桜梨は鬱陶しそうな顔をし「はいはい。僕は忙しいから帰りますよ。せいぜい加速する時に引きずられないようにな」とだけ言い残し紅零と共に姿を消すのだった。

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.18 )
日時: 2011/03/29 19:39
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十六話〜二人の傀儡使いの出会い〜

 すたすたと歩きながらメモをめくる流斗。本来はここまで急がなくてもよいのだが、この世界で何が起こったかは把握しているために焦りがあった。紅零がさらわれた事も既に把握していて、更に言えばエージェントの一人、エリカに狙われていると言うことも分かっている。
 「ああ……。このタイミングで傀儡使い(クグツツカイ)が出会ってしまわないように願いたい……」
 そう呟いた流斗を見て黒奈は「でも、そっちの方が審判下すの楽だよぉ?」と言う。流斗は疲れたような表情を浮かべ、黒奈の言葉に「……その場合一番最悪な方法で、レジェンドの資格があるかを調べなくてはなりません」と返す。
 黒奈は納得したように頷いて流斗をつつく。歩きながらメモをめくっていた流斗の手が止まる。そこに書かれていた流架とエリカの二つの名が淡い水色の光を放っている。
 「嘘……手遅れ……?」
 流斗はそう呟いて驚いたような、悲しそうな表情を浮べる。黒奈は小さな声で「こりゃぁ、最悪な方法での確かめだねぇ」と言い、かすかに震える流斗の肩に手を置く。その数秒後に鋭い光が二人を飲み込んだ。

 そんな頃、流架は一人呆然と紅零が立っていた場所を見つめていた。その背後から忍び寄るはエリカだ。口元には怪しい笑みを浮べていて、そっとアリサを地面に置く。
 「さぁアリサ。エリカがレジェンドになるためにあいつを倒すのにゃ」
 アリサ……長い金髪をツインテールにしている緑の瞳の少女の人形がゆっくりと立ち上がり、不思議な光が中に消えれば一瞬にしてエリカと同じくらいの大きさになる。
 それとほぼ同時に流斗と黒奈が流架とエリカの間に現れる。突然現れた流斗と黒奈を見つめ「その杖……ジャッジメントだにゃ?」と問いかけるエリカ。
 「その通り……。負のジャッジメント、流斗で御座います」
 流斗はわざとらしく頭を下げて言い、黒奈は腕組みをして「正のジャッジメント、黒奈で御座いまーす」と面倒だと言うような顔で言う。エリカはどこか不気味な笑みを浮かべ「アリサ、標的変更だにゃ。標的は負のジャッジメント」と流斗を指差して言う。
 何処かから剣が現れアリサの手に握られる。鈍く光るその剣を見た瞬間、流斗が黙って手を振り上げる。アリサの手に剣が握られて数秒してから、まぶしい光が走り、剣がぐにゃりと曲がった。流架は慌てて振り返り、そしてエリカ、流斗、黒奈の三人を見つめる。
 無言で流架の顔を見た後ため息をつき「我、負のジャッジメント流斗。今我が名の元に、エリカ、流架のレジェンドの資格を確認する」と呟く。その瞬間辺りが暗くなり、ぼんやりと流架たちの姿が浮かび上がる。
 「俺がレジェンド候補かぁ……もう力は使わんって決めてたんやけど……しゃーないなぁ」
 流架がそう言えば黒奈が「時渡りとは違って自分の立場を理解してるみたいだねぇ」と言ってケラケラと笑う。流架は無言で黒奈のほうを見た後不敵な笑みを浮かべる。
 「はん! 人形も無いくせしてエリカに勝てるわけが無いのにゃ」
 そう言って勝ち誇った様な笑みを浮かべるエリカに哀れむような表情を向け「操る人形が無いのなら、代わりを用意すればええだけや」と言ってポケットから小さな猫のキーホルダーを取り出す。
 「人間の形には劣るが……それでも俺には勝てんよ」
 パチンと指を鳴らしキーホルダーを投げる流架。一瞬のうちにキーホルダーが本物の猫に姿を変える。ありえないというような顔をするエリカと、ただただ無表情で二人を見つめる流斗。
 「ルールは簡単だよぉ。どちらかの操っているものを壊す、もしくは戦えない状態にするだけぇ」
 黒奈がケラケラと笑いながら言えば、流架は不快そうな顔をし、一度目を閉じるのだった。

Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.19 )
日時: 2011/03/29 19:41
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第十七話〜強さと意志と〜

 誰も動かないまま時が過ぎていく。流架は相手の動きを探っているようだったし、エリカは自分から攻撃するのを躊躇っていた。黒奈はそんな二人を見つめて興ざめだと言う様な顔をするだけだったし、流斗は手帳をしまった後、二人を見ることさえしなかった。
 「ああ、そうや。他のレジェンドとレジェンド候補ってどんなんがいるん?」
 思い出したように流斗に問いかける流架。それを見ればエリカがニヤリと笑いアリサに指示を出す。流斗は面倒だと言うような顔をして、メモをめくり十二の名前が書かれたページを開く。そこには流架とエリカの名前もあった。
 「絶対のレジェンド、天乃 桜梨(アマノ オウリ)。時渡りのレジェンド、天魔 蒐。無効化のレジェンド候補、竜宮 葵、リーシャ。創作のレジェンド候補、紅蓮 來斗……」
 静かにメモに書かれている名前を読み上げていく流斗。流架は驚いたような顔をし「ストップストップ。もうええよ。なんや、聞いたことのある名前が三つも出てきたで」と言って薄い笑みを浮かべる。エリカの「油断大敵だにゃ」と言う声と同時に、アリサが流架を剣で切り裂こうとするが、流架の出した猫によって防がれる。
 「甘いでぇ? 餓鬼が粋がってんじゃねーよ!」
 一瞬にして流架の顔から笑みが消え去り、強い意志の宿った瞳がエリカを捉える。
 「俺の知り合いがレジェンドになってるんや。負けられんよ。蒐ちゃんもそうや……だけどもしかするとあいつらがレジェンドになるかもしれん」
 静かに言う流架には普段のふざけた雰囲気はなく、殺気とも言えるような強い意志を感じることが出来た。エリカが馬鹿にするように「はん。だからどうしたと言うのにゃ!? 所詮力など自分のために使うものだにゃ!! 人に気に入られるため、人に捨てられないため」と笑いながら言う。
 流架は狂ったように笑い、右目を隠していた前髪を上げる。現れたのは輝きを失った血のように紅い瞳。その目を見て思わず息を呑むエリカと流斗。その後、流斗はどこか悲しそうな顔で流架の表情を見て、そのまま遠くを見るようなそんな目をする。
 「今はもう使いもんにならん。力が完全に覚醒したときやから十年ほど前やな。お前に分かるんか? 力があるが故に気味悪がられ、捨てられる気持ちが。まるで汚物を見るような目で見られる気持ちが!!」
 叫ぶように言った後深く息を吸い込み、再び右目を隠す流架。エリカはすっかり怯えてしまって声も出せないようだった。そんなエリカを見てフッと笑い「だから俺はそんな思いをあいつらにはして欲しくない。せやからレジェンドになってあいつらを守るんや」と言う。

 長い沈黙の後、流架が猫に指示を出す。流斗は遠くを見るような目をしたまま動かないし、黒奈もどこか暗い表情をしている。エリカは猫が走り出したのを見てからハッとしたようにアリサに指示を出す。
 アリサが動き出すより早く猫がアリサに飛び掛り剣を弾き飛ばす。流架は「相変わらず猫とは思えん力やねぇ」とケラケラ笑いながら言い、そのままアリサに近づいて額の辺りに手を当てる。エリカが慌てて「アリサ! そいつから離れるのにゃ!」と叫ぶ。
 「もう遅いで」
 中から光が抜けて、元の人形へと戻るアリサ。エリカは「迂闊だったにゃ。普段へらへらしてるからそんなことできるわけ無いと思ってたのににゃ」と呟く。それを聞き流架は少々引きつった笑みを浮かべ「普段って……ストーカーかいな」と言う。
 「んだとー! 誰が好き好んでお前なんかストーカーするか!! 桜梨ちゃんがそうしておいた方が後々らくだと言ったからしょうがなくだにゃ」
 そんな二人の会話を聞いて面白そうに笑う黒奈と、苦笑いを浮かべ「……決着がつきましたね」と言う流斗。エリカは諦めたようにため息をついて「まぁいいにゃ。今回は大人しく負けを認めるにゃ」と言って姿を消す。
 「我、負のジャッジメント流斗なり。我が名の元に月城 流架にレジェンドの資格が有ると判断をし、最終決定を正のジャッジメントに求める」
 静かで凛とした声で言う流斗。黒奈はいつものような笑顔で「我、正のジャッジメント黒菜ぁ。負のジャッジメントの求めに答え、最終判断を下すぅ。我が名の元に月城 流架にレジェンドの資格があると認め、証を授けるぅ」と言う。
 ああ、やっぱり黒奈は黒奈だと考えながら、流架の手の上に黒い石を落とし「君は本当に強いよ……その強さの元を知りたいね……」と言ってそっと流架の頭を撫でる。
 少し驚いたような顔をし「意志だと言っとくで」と言う流架。それを聞いた流斗はクスリと笑い「……そうですか。僕にもあなたのような強さが有ったら……間違いは起さなかったのでしょうね」と言う。
 流架が言葉を紡ぎ出そうとした瞬間に流斗と黒奈を光が包み込み、跡形もなく姿を消していった。


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