ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ヒトノカオ、コエ、ココロ。
- 日時: 2010/02/25 19:33
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
何の変哲もない、ただの都会の方にある町。
そこで起きた、一つの殺人事件。
母と息子が口論になり、カッとなった息子が母親をナイフで刺し殺したのだという。
これはどこで起こってもおかしくない、ただの殺人事件。
——の、はずだったが。
『被告人——本田雷歌——は、何か新種の病気にかかっているらしい。しかも、「大人の」顔と声が「認識できない」らしい』
+ヒトノカオ、コエ、ココロ。+
それが分かってからは、警察・検察・裁判所は大騒ぎになった。
『どうやって判決を下せばいいんだ?』
『というか、どういう病気なんだ?』
誰もが疑問を持ち始め、パニックになりかけた時。
『「レインカスミ研究所兼診療所」に依頼するのはどうですか?』
誰かがそんな発言をした瞬間、周りの空気は凍りついた。
『確かに、いい案だが……』
『「あの」機関に頼るのはいかがなものかと……』
周りが再びざわついていく。すると。
「ウチはいつでも受け付けてますよー」
緊迫した空気に似合わない声が響いた。
続く
応援よろしくお願いします。
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.19 )
- 日時: 2010/06/24 18:38
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
光村は、自分がいる部屋とは別の部屋から漏れてくる歌声を聞いた。
「ああ、残念だ。本当に残念だよ、雫ちゃん」
そう呟いて、光村は戸棚から出したとある錠剤を白衣のポケットに押し込む。
「『霞』、僕は行くよ。安心して。すぐに戻ってくるから……」
誰も聞いたことがないと思われる程の優しい声を残して、光村は部屋を出た。
原田は、最初自分の身に何が起こったのか分からなかった。
患者がいる部屋に入って、歌を歌って、ドアが開く音がして、気が付けば。
視界には、床しか映っていなかった。
「本当に残念だよ、雫ちゃん」
うつぶせになっていた身を起こし、声のした方を見る。そこには、予想していた人物がいた。
「何が残念なんだ?」
哀れむような光村の視線を一蹴し、不敵な笑みを浮かべて素っ気なく返す。が、余裕は全くなく、冷や汗を知らず知らずのうちにかいていた。
「君の歌声は、すごく綺麗だ……」
「当たり前だ。オレは歌手だからな」
原田の返事を聞いて、光村は一層哀れむような視線を向ける。そして、白衣のポケットに先程押し込んだ錠剤を取り出す。
「そんな綺麗な君の声が、もう『聞けない』なんて」
光村は原田を押さえ込んで錠剤を口に押し込んだ。口を閉じさせて頭を叩くと、原田から錠剤を嚥下する音が聞こえた。
「……っ!? っ、! ————っ!!」
原田は喉を押さえて口を動かすが、声は聞こえない。
「痛い? 痛いよね、喉を焼いてるからねー」
光村は笑顔で原田を見下ろす。
「安心して? ちゃーんと機械を付けて発声できるようにするから。でも、それには当然『抗体』なんてないよねー」
よほど可笑しいのか、光村は声を上げて嗤い始めた。
そんな光村の嗤い声も、声なき原田の叫びも、本田と村上には届かなかった。
続く
放置してすみません!
こんな作者ですがこれからも応援して下さい!
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.20 )
- 日時: 2010/06/24 19:15
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
本田と村上は、自分の目を疑った。
「し、雫……ちゃん?」
「……原田?」
何日か前、原田は光村の邪魔をしに行き、それ以来姿を見せなかった。だから、原田の姿が見えた時、心の底から喜んだ。
——それなのに。
原田の喉は炭のように真っ黒になり、目は輝きを失いかけていた。
「光村っ、お前原田に何をした!」
本田が立ち上がり、原田の隣にまるで何事もなかったかのように立っている光村を睨み付けた。
「えー、簡単だよー? 単純に喉潰しただけだよー?」
——この男は、本当に原田や俺達を人間として見ているのか。
本田の頭に、そんな疑問が浮かんだ。
すると、今まで動揺していて動けなかった村上も動き出し、光村に向かって叫ぶ。
「雫ちゃんから離れて下さい! 雫ちゃんを返して下さい!!」
だが、そんな叫びは光村に通用しなかった。
「えー、嫌だよ。君達の目の前で殺すのが面白いのにー」
光村は子供のように拗ね、原田を離そうとしない。
が。
「重ねて申し上げます。あなたのしていることは間違っている!!」
ドッ!
「っ、痛ったぁい! え、何? 何なの?」
光村の背中に蹴りが入り、そのまま光村は床に倒れた。
光村を蹴り飛ばしたのは、『荒木雲乃』だった。
「光村室長、私を生かしておいたことを後悔して下さい」
いつ奪ったのか、荒木の腕の中には原田がいた。
「はっ、こんなことになるんだったら、本当に、あの時殺しておけばよかった……っ」
蹴られた衝撃の残る背中に手を当てながら、光村は部屋を出た。
それから、荒木は本田と村上の方を向いて、にっこりと笑った。
「この子、大切なお友達でしょう?」
本田はボーッとしているが、村上はこくこくと頷いている。
無事檻の中に原田を戻し、荒木が息を吐く。その頃を見計らって、本田は疑問をぶつけた。
「それにしても、お前、死んだはずじゃ……」
助からないと思っていたのに、再会した荒木は健康そのもの。
「ああ、そこはまあ色々と」
また荒木は微笑んで、三人のいる方を見た。
「まあ、とりあえず『あなた達に全てを話すために、地獄の底から這い上がってきた』とでも言っておきます。どうぞ、これからよろしくお願いします」
続く
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.21 )
- 日時: 2010/07/26 16:36
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
「それより、原田さん。いくら何でもこのままにしておく訳にはいけませんよね」
「し、雫ちゃんはどうなるんですか!?」
荒木だって、ここにいるのなら医療関係には詳しいはずだ。原田を治す方法を知っているかもしれない。
そんな思いから、村上は荒木に疑問を直球でぶつけた。
「実際に診てみないと何とも言えません。しかし、命に別状はないことだけははっきり言えます」
荒木は、正面から受け止めた。村上は光村とのあまりの違いに驚いていた。光村は、こんなに真正面から受け止めてはくれなかった。
「おい、荒木」
今度は、本田が声をかけた。荒木は嫌がる顔一つ見せずに本田がいる方向へと体ごと向いた。
「何ですか?」
笑顔で対応していても、原田を診察する手は一瞬たりとも止まらない。その鮮やかさに、本田も少し驚いた。
「お前、全て教える、って言っただろ」
「言いましたね」
「じゃあ、俺の質問に答えろ」
「診察しながらでいいなら。何でも聞いて下さい、答えられる範囲で答えますから」
ふと、荒木は手を止める。原田は声が出せなくなっていて、その事に対するショックで上の空状態。それを、見抜いたのだ。
つまり、声を出せるようになれば、全てが改善される。必要かも、と人工声帯をくすねといてよかった。
そう思いながら黒い鞄を開けた時、荒木は本田に肩を叩かれた。
「……おい、質問一発目から無視するな」
「ああ、すみません。集中すると、周りが見えなくなるタイプの人間なもので」
荒木は苦笑して、鞄を漁る。
「それと、やっぱり質問は明日にしてくれませんか? 原田さんをさっさと治したいので」
「雫ちゃんの治療を最優先にして下さい!」
村上が荒木と本田の間に割り込み、荒木に訴える。荒木が本田に目線をやれば、『そいつの言う通りにしとけ』と目が言ってきた。
「分かりました。そうしましょう」
「ありがとうございます!!」
それから数時間後、原田の治療は無事終わり、部屋の中には久々に笑顔が見られたそうだ。
続く
放置&短くてすみません。
これからは頑張って更新できたらいいなー、と思っています。
応援ヨロシクです!!
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.22 )
- 日時: 2010/08/01 16:26
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
翌日。
「今度こそ、質問に答えてくれるんだろうな」
「当たり前ですよ。原田さんの治療はもう終わりましたから」
部屋の隅の方で、本田と荒木が話している。村上は、色々あって寝不足状態になっている原田を寝かしていた。
「じゃ、早速。お前はどうして生きている?」
本田の赤い目が、荒木の青い目をまっすぐ射抜く。荒木はひるみもせず、一つ大きな伸びをしてから口を開いた。
「んー、光村室長に情けをかけられた、って感じですかね。爆発で吹っ飛んだ部分は機械を取り付けてくれましたよ」
「情け? あいつがお前に情けをかけるとは思えねーな」
失礼な話かもしれねーけど、と言って、本田も一つ伸びをした。その言葉を聞いて、荒木はクスリと笑った。
「光村室長が人間を生かすのには訳があるんですよ。だから私が生き延びているにはあの人なりの理由があります。もちろん、あなた達にも」
「俺達にも?」
本田は片方の眉を吊り上げた。会話が聞こえていた村上も、怪訝な顔をした。
「あなた達が生かされている理由はあまりよく分かりませんが。私が生かされている理由なら、とてもよく知ってますよ」
「で、その理由ってのは?」
本田は偏光グラスをかけ直し、荒木に続きを促した。荒木は更に笑みを深め、口を開く。
「そんなの簡単ですよ。私が『室長補佐』という役職に就いているからです」
「……は?」
『だから何だ』、と思い切り本田の顔に書いてあった。それを感じ取って荒木は一笑した。そして、説明するべく話し始める。
「『室長補佐』って、少なくともここでは結構重要な役職なんですよ。それに、室長の次に実力のある人が採用されますし、そんな人を殺そうとはあまり思いませんよ」
納得したように本田は頷く。そこまで実力のある人間を失いたくはない。光村はそう考えて荒木を生かしたのだろう。
——だが、それは間違いだった。
光村は今頃悔しがっている事だろう。そう思うと、ほんの少し笑えてくる。
「じゃ、次の質問。光村の『復讐』って何の事だ?」
「……ああ。それは、ですね……」
今までの明瞭さが一変、途端に荒木は口ごもり始めた。心なしか、笑顔も曇っているように思える。
「どうした?」
誰がどう見ても明らかな変わり様に、本田が眉間に皺を寄せた。
「いやあ……、私がここに来た理由と通じるものがあるんで……。ちょっと微妙なんですよねえ……」
頬を掻きながら、しどろもどろになりながらも言葉を紡いだ。
そして荒木はおもむろに口を開き、ぽつぽつと語り始めたのだった。
続く
まさかの村上&原田が空気。出番少なすぎた^^;
次回は光村の過去から入りますよー!
- Re: ヒトノカオ、コエ、ココロ。 ( No.23 )
- 日時: 2010/08/08 16:22
- 名前: 転がるえんぴつ (ID: hKAKjiZ3)
高校生の光村は、とある病院の個室に来ていた。
『やっほー、また来たよー』
『……雪路くんって、毎日ここに来るよね。飽きないの?』
ベッドから身を起こした少女は、少し呆れ気味に言った。それに答える前、光村はえへへ、と少し照れたように笑った。
『いやー、だって自分の「彼女」だもん。それを抜きにしても君は大切な「幼なじみ」だしねぇ』
それを聞くと、少女の頬がわずかに赤くなった。
『雪路くんって、本っ当に優しいよね。頭いいし、顔もいいし——まあ、運動はちょっとアレだけど——ほとんど完璧だよね。何で私なんかの彼氏になってくれたの?』
少女の言葉を聞いていた途中まではニコニコしていた光村だったが、最後の方になって途端に顔を曇らせた。
そして、真剣な顔で少女の手を握る。
『「なんか」って言っちゃダメだよ、「霞」。僕は霞が好きだから霞と一緒にいるんだよ』
『でも、私治らない病気にかかっているし、いつ死んじゃうかも分からないんだよ? それでもいいの?』
霞と呼ばれた少女は、悲痛な顔をして光村の手を強く握った。目には、涙がにじんでいる。
『ねえ、霞』
それまで喋らなかった光村が口を開いた。霞こと「雨宮霞」は涙に濡れた瞳を光村に向けた。
『僕さ、高校卒業したら医大に行って医者になろうかな、って思ってるんだよ。それで医者になって、君の病気を治したい』
雨宮が、大きな目を更に大きく見開いた。光村は極上の笑みを浮かべ、雨宮を抱き締めた。
『雪路くん……ありがとう……』
『いやいや、君と僕のためだもん。これくらい、どうって事はないから』
それから数年後、光村は無事医大に合格した。更に、医大でも圧倒的な成績を叩き出し、これならすぐに医者になれるだろうと思われていた。
——だが、それは間違いだったのだ。
続く
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